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充実した生活 下 

読みに来て下さり、ありがとうございます。


 先に切り上げて着替えに行ったキャロラインが居なくなった鍛練場に、男子三人が残った。


 馬術でイヴァンの右に出る者はいない。

 けれど、剣術、体術ではイヴァンとハロルが拮抗し、その後にリュシウォンが続くといったところだ。

 ニードルが護衛に付かない校内の生活では、彼等がリュシウォンの良い鍛練相手になってくれていた。


「やっぱりリュシウォンは、足捌きと体の動きが独特だよ。やっぱり()かな。」


 イヴァンの言葉に、ハロルが無言で頷く。

 以前、ニードルにも同じ様な事を言われたなと思った。


「そう?けれど、十歳以降はメルトン(こっち)で育ったんだけど。」

「うん、でも他の奴には無い動きだし、予測が難しいんだ。」


 そういうものかな?と思うが、周りから口々にそう言われると、サバナの生まれは事実である為に否定もし難い。

 

「リュシウォンは、卒業したら祖国に帰るのか?」


 珍しくハロルが口を開いた。

 辺境の出身らしく寡黙な彼とは大学校からの付き合いだが、寮の同室で裏表が無い為に直ぐに連むようになった。


「そんな事は、考えて無いよ。」

「ええ!?いや、まぁ、そっか…。」


 ハロルとは違って、付き合いの長いイヴァンは何となく理解出来た様だ。


「帰っても、自分の居場所は無いと思う。家族の安否も、知れないからね…。」


 最後の母の記憶は、ある。

 しかし自分が帰る場所が、あるとは思えなかった。


「すまない。知らなかったとはいえ。」


 謝るハロルに、リュシウォンは首を振った。


 三年前に勃発したハローティとサバナの戦闘は、数ヶ月前に幕を閉じた。世界中の予想を裏切り、サバナの勝利だった。


 だが、サバナは新たに土地を得たわけでも、十分な賠償金を得た勝利では無い。

 ただ、元々の土地を守り抜き、ハローティの脅威を国外に退けただけ。ズタズタに傷付いたであろう大地や人々を、癒すことは長く懸かるだろう。

 

 ただ一つ、新たにサバナを束ね勝利へと導いた若き統治者チャツネル・ヤードンの名は世界に知れ渡ることになった。彼の舵取り次第で、サバナの未来は大きく変わる。


(チャツネル…。)


 その名を、呼んだ記憶はあった。だが、この先、彼と会うことがあるかは分からない。


 リュシウォンの思うに、サバナではずっと小競り合いがあったはずだ。先の戦闘は、世間に表面化するほどに激化し悪化していったというだけ…。


「俺は、メルトンに残る将来を取るよ。もちろん、サバナの事は忘れない。何か出来たら良いなと思うよ。それよりは二人の将来は、決まっているんだろ?」


 イヴァンもハロルも、自身の土地を持つ領主の後継者だ。

 大学校に入る後継者(彼等)が、婚約を結ぶ事も大事な役目の一つ。


「キャロラインが、受けてくれたら良いんだけどな…。」


 イヴァンが、溜め息混じりにぼやいた。リュシウォンは、そんな彼を勇気づける。


「イヴァンなら、大丈夫だよ。お前しか、彼女を止められる奴はいないじゃないか。」

「けどさぁ、俺は嫌われてる。キャロラインの親だって、お前と婚約して欲しいみたいだし。…ドラメント伯爵家(お前の家)に、陛下の舞踏会の誘いが来たんだろう?」


 ドラメント伯爵家は、自分の家ではない、()()…。


「彼女は、イヴァンに甘えている事に気が付いていないんだよ。二人の領地は近いだろう?土地無しの俺より、領主になる事がきまっている堅実なイヴァンの方が良いと思うよ。イヴァンがキャロラインの両親に挨拶に行けば、話は纏まると思うんだけど?」

「でも、キャロラインに頷いて貰わないとなぁ…。」

「本気なら、覚悟決めて彼女をモノにしろよ。法改正もあるし、本人同士が良ければ結婚は出来る。」


 三年前、遂に子を成せなかった国王から王弟の息子に代替わりして貴族の結婚に関する法律が変わった。


 イヴァンとキャロラインの領地は王都から遠くに位置している。その為、二人は中等部から親元を離れて王都で寮生活をしている者同士だった。

 イヴァンにも、キャロラインにも婚約者はいない。彼等の両親も、当人達が決めれば拒否はしない様にも思える。


 ハロルには、幼い頃から決まった婚約者がいるがそれに対して異はないという。それは、彼らしい選択だなと思った。


『王侯貴族は、縛られた生活と責任を負うから生きていける。〝自由〟を取れるのは、平民だからだ。』と言った彼は、悲しげに笑っていたが…。

 

(〝自由〟か…。)


 今の自分は、メルトンで自由に選べる立場だ。

 本気で望めば、サバナ(故郷)へも帰る事が出来るだろう。


 ヘンリエッタはあの時、泣くリュシウォンを前に祖国に帰すと約束した。

 そして、彼女は自分に教育を未来を授けてくれた。


(だけど…。)


 リュシウォンにとって、ヘンリエッタ以上に魅力的な女性(ひと)はいないのだと、十歳になる前に気が付いてしまった。

 その事が、ヘンリエッタにとっては一番の誤算だったかもしれない。











最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

次回投稿は明日20時です。

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