リュシウォンの告白 上
読みに来て下さり、ありがとうございます。
「リュシウォン、面会だって。」
着替えたキャロラインが、鍛錬場に戻ってきて言った。
「え、…誰?」
今日は、休日。
大学校にいる人は疎らで、勿論リュシウォンにそんな約束は無かった。
「ドラメント伯爵令嬢よ。」
「えぇ!?何処!?」
リュシウォンは、キャロラインに食い気味に迫る。
「えっと…、管理塔の休日窓口から。」
「ありがと!」
リュシウォンは、急いでシャワールームへと走り去った。
「何なの、あれ…?」
目を丸くしているキャロラインが、残った男子二人に聞く。心得ているイヴァン、何となく察したハロルは健闘を祈ってリュシウォンを見送った。
◇◇◇◇◇
「リタさん!」
次に会えるのは、舞踏会もある休暇に入ってからだと思っていた。
リュシウォンは、喜びのあまりヘンリエッタに抱き着きそうになる。
何とか、踏みとどまった。
ぎこちない笑顔を向けてくるヘンリエッタに、リュシウォンは、内心(あれ?)と思う。
「…元気そうね。」
「うん、元気!リタさんは?」
「元気…。」
それきり、ヘンリエッタは俯いてしまった。
(らしくない…。)
「どうしたの?何かあったの?」
覗き込んでくるリュシウォンに、ヘンリエッタは首を振った。高速で。
「ううん。だ、大丈夫よ。」
「…、外に行く?ここじゃ、落ち着いて話せないね。」
チラリと、リュシウォンが休日窓口の方に目をやると、ヘンリエッタを覗き見ていた事務員がサッと隠れた。
(普段のリタさんって、結構隙だらけなんだよな…。護衛には、もっと気を付けて貰わなくちゃ。)
「ありがとう。」
ほっとしているヘンリエッタに、リュシウォンの不思議は益々膨らむ。
(どうしたんだろ?でも、…可愛い。)
一ヶ月ぶりに会ったヘンリエッタは、すごく可愛い。とにかく、かおが見られて嬉しかった。でれっとしそうになる自分を律しながら、リュシウォンはヘンリエッタを南の中庭へ案内した。
「今日は、休日で人が少ないから良かった。ここなら大丈夫。」
リュシウォンは木陰のベンチの汚れを軽く払って、持っていた未使用のタオルを敷いた。残念ながら、今はハンカチーフを持っていなかったのだ。
「それは、貴方が使うんじゃ…?髪が濡れている。」
「あ…。」
鍛錬場のシャワールームで急いで着替えてきたので、髪をきちんと乾かす時間が惜しくて少し湿りが残ったままで来てしまった。
「大丈夫だよ、これ位。…どうぞ。」
ヘンリエッタは軽く微笑むと、リュシウォンの勧めに応じた。リュシウォンは、一人分空けて隣に座る。
「それで、急にどうしたの?次に会うのは、もう少し先だと思ってた。」
「ええ、そうね。ごめんなさい、貴方だって忙しいのに。」
「ううん、リタさんから会いに来てくれてすごく嬉しい。ありがとう。」
リュシウォンがへらっと笑うのに、ヘンリエッタは俯いてしまう。
「リタさん?何か…。」
「貴方と私が、婚約していると、聞いたわ。」
ヘンリエッタの言葉に、リュシウォンは「あぁ!」と納得した様に言って、話し出した。
「伯爵に聞いたのか。…、リタさんの様子からすると困った事があったから、伯爵が話したんだね。」
「え…?」
リュシウォンの方を見たヘンリエッタに、彼は笑顔を向ける。
「伯爵とは、そうゆう約束だったから。『リタさんが、困った事になった時リタさんに話して、必要なら公にして下さい。』って。」
「困った事…。」
「そう。例えば、帰国してきたカイエン様との政略結婚とか?」
「どうして、知っているの!?」
驚いているヘンリエッタに、リュシウォンにこりと笑う。
「だって、カイエン様しか結婚適齢期の王族はいない。それに、今は海外で同盟を結ばなければならないほどの国は無い。ドラメント家の功績で、メルトンが豊かになった分、軍事面を強化出来たから脅威となる国が無くなった。」
リュシウォンはすらすらと話して、ヘンリエッタを見た。
「まぁ、軍事面に力を入れたのはイリウス様の事がきっかけでもあるよね。」
ハドソン家の誰もが、イリウスの婿入りを心配し悔やんでいるのだ。
「外の脅威が無ければ、リタさんを王族に引き込む方が国は安泰だ。」
「そんな事、無いのに…。」
ヘンリエッタの呟きに、リュシウォンは苦笑いする。
「だから、リタさんがカイエン様に会いに行くのが心配だった。」
「そう、ありがとう…。」
「リタさんは、もっと自分の存在が価値有るものだと気が付いた方が良いよ。」
ヘンリエッタは、困ったように笑う。
「カイエン様にも、同じ様な事を言われたわ。」
見詰めてくるリュシウォンの瞳に絡め取られたように、ヘンリエッタの顔は赤くなって固まってしまった。
「それで、リタさんは何を話に来たの?」
「私は、…貴方が心配で。」
「心配?」
リュシウォンは首を捻る。
「このまま婚約をしていれば、いずれ公になるわ。私達が望まなくても。」
「公になっても、構わないよ?寧ろ、なって欲しい。」
「そんな事になれば、社交界で貴方まで悪く言われてしまう。貴方の将来が台無しよ。」
「どうして?今は俺がドラメント伯爵令嬢の〝愛玩〟だから?婚約者なら、格上げだよ?」
「婚約者なら…、け、結婚が先にあるのよ!?」
「それに、何か問題が有る?」
リュシウォンに真っ直ぐ見詰められて、ヘンリエッタは呻く。
彼の曇り無き眼、それは幼い頃から社交界での世渡りに苦労してきた彼女には持ち合わせていない。
(私とリュシウォンは、全く違う…。)
「貴方は、分かっていないわ。」
「何を?リタさんの事?」
「一貴族として社交界で、自分をどう位置付けるか、を。」
ヘンリエッタの強い意思を持った言葉に、リュシウォンは頷く。
「まぁ…、確かに分かっていない所はあるよね。その必要も、感じないけれどさ。」
「リュシウォン、貴方…。」
(何て事を言うの…。)
「だって分かった顔して好き勝手言う奴は、居なくならないから。そういう奴に限って、何も分かってない癖にさ。」
「リュシウォン。」
リュシウォンを止めようとするが、彼は構わず話し続ける。
「でも、そんな人を見下す奴を気にして何になる?そんな本質を知らずにいる奴を、相手にする必要が有る?そんな人の足を引っ張る様な奴を、相手にしなきゃいけない?。」
リュシウォンは、ヘンリエッタを見据えた。
「俺が必要なのは、リタさんだけ。貴女が二度と、政治的な道具として傷付けられない事だけ。だから、婚約したいと伯爵に言ったんだ。」
ヘンリエッタは思わず周りを見回し、人がいないことを確認した。
「カイエン様と、結婚したい?」
ヘンリエッタは首を振る。
「なら、この婚約を利用して断れば良い。」
「でも、貴女を利用するなんて…。」
「こんなの、利用する何て値しない。それに、リタさんを守るために利用されるなら構わない。」
ヘンリエッタのエメラルドグリーンの瞳から、一筋の涙が流れた。彼のただヘンリエッタを想う純粋な気持ちに溢れる涙は止められなかった。
「勝手に婚約をして、ごめんなさい。しかも黙っていて、ごめんなさい。」
リュシウォンは、手を伸ばしてヘンリエッタの頬に流れた涙を拭った。
「でも、言ったらリタさんは絶対に反対すると思ったからさ。」
「それは、そうよ。」
顔を上げたヘンリエッタに、リュシウォンは微笑んで言った。
「ならやっぱり、黙っていて良かった。」
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次回投稿は明日20時です。




