第六話
もうちょいで終わります。
それと平行して、新作も執筆中なり。
《よう! 傭兵のお二人さん!! どうやら【デビルクラーケン】の体の一部を確保したようだな! だったら、さっさとこっちに戻って来い!!》
「相変わらずうるさい声ですねぇ。拡声器なんて使わなくてもふつーに聞こえるはずなんですがね」
このまま逃げても島に到着すれば、海賊を攻めてくるだろうと。
自分達のせいで罪なき島の住民達を危険に晒すわけにはいかないと海の真ん中で立ち止まっている。そこへ、追いついてきた黒船の船長ジルドンがどこからか拡声器を使ってアルヴィス達に呼びかけていた。
「ジルドンってどんな奴なんですか?」
「そうだねぇ、海賊旗のように額に十字傷がある髭面の男ってところかな。見ればすぐわかると思うよ。さて……」
船から拡声器を取り出し、アルヴィスはジルドンへと返答する。
《これはこれはジルドン船長! このような場所までどうなされたのですか?》
《しらばっくれるんじゃねぇぞ、猫野郎! どうぜ、気づいているんだろ? だが、俺は寛大だ。さっさと戻って来い。ついでにそこのガキどもも一緒にな!》
「やっぱりそうなりますよね。どうします? 隊長」
もはやこれ以上の会話は無理のようだ。アルヴィスもそれを察したようで、拡声器を下げる。
「では、抵抗してみせようか。正直、彼から本当に報酬をもらえるのか疑問なところだからね」
戦うべきデビルクラーケンもいない。そして、相手が極悪非道で有名な海賊ということもあり報酬をもらえるとは思えない。素直にデビルクラーケンの一部を渡したとしても、何をされるか。
そもそも、別働隊がデビルクラーケンの死骸のところへ向かっている可能性が高い。
「あっちはやる気満々みたいですよ?」
気づかれないように黒船から何かを出そうとしている素振りがある。更に、黒船の甲板には大勢の海賊達が勢ぞろい。数分前とは違い、黒船の大きさがわかるほどの距離だ。甲板に居る海賊達の表情がここからでもはっきり見える。
「どうするかな? 海兎くん。私達は抵抗する」
「実を言うと、ジルドン海賊団を内から崩壊させようとしていたんですよ。彼らにかけられている懸賞金は結構なものですからね」
「なるほど。最初からジルドン達の懸賞金目当てだったということですか……」
ちらりと一度センリを見る。
おそらく、彼女の力のことに気づいた場合ジルドンもそれを利用するはずだ。今、海兎にできることは彼女を護ること。
このまま見捨てるのは人としてやってはならないことだ。
「やりますとも。今の俺なら戦える。捕まったら死ぬまでこき使われるっていうなら、この力で抵抗して自由を掴み取りますよ」
「ありがとう。そして、巻き込んでしまいすまない。……では、これが終わったら懸賞金でぱーっと騒ごうではないか! 行くぞ、海兎くん!」
「はい! ……あれ? エスティーネさんは?」
アルヴィスの言いぶりでは、海兎だけが海賊船へと突っ込むことになる。
しかし、すぐにエスティーネがいかない理由を理解する。
センリだ。
このまま三人だけで突っ込んでいけば、センリが一人になってしまう。そうなれば、戦っている間にもし別働隊が船に残っているセンリを狙ってしまっては、護る者がいない。
「ここは私にお任せください! 大丈夫ですよ! 遠距離も私得意ですから!!」
「頑張りなさいよ、海兎! あんたには色々と責任を取ってもらわないといけないんだから!」
「了解了解。じゃあ、今度こそ!」
「ああ、行くとしよう」
と、再び拡声器を口元に近づけアルヴィスは口を開く。
《申し訳ない、ジルドン船長! 色々と考えた結果。私達は、抵抗することにした!!》
《そうか、そいつは残念だ。じゃあ遠慮なく……やっちまえ! 野郎ども!!》
「おおおお!!!」
「やったるぜ!!!」
「猫狩りだぁ!!」
黒船の横にある船に海賊達が乗り込もうとロープで下りていく。
「では、行くぞ海兎くん。こちらに近づいてくる前に突き進むぞ」
軽く跳ねて海兎の肩に乗るアルヴィス。普通の猫よりも大きめだが、そこまでの重量ではない。
「なるほど、つまりこのまま海面を走れと」
そういうことならば、先制攻撃だとばかりアルヴィスを肩に乗せたまま海兎は海面に降り立ち。
「いくぜ!!」
全速力で海面を駆ける。その姿は、水面を走る忍者のようだ。この世界に忍者が居るのかはわからないが……相手にはどう見えているのだろうか?
「な、なんだあいつ!? 海面を走ってやがるぞ!?」
「嘘だろ! なんだあのガキ!!」
「おー、驚いてる驚いてる。では、下の敵は君がちゃちゃっとやってくれ」
「ちゃちゃっとって……それじゃ、アルヴィスさんは?」
もちろんと甲板のほうを見上げる。
「あそこへ投げてくれたまえ」
「いいんですか?」
「大丈夫だ。私は、猫だからね。くるっと華麗に着地してみせるとも」
確かに猫だが。
考えている暇はなさそうだ。この余裕の態度を信じよう。海兎は、アルヴィスの首下を掴み海面にて緊急停止し、振りかぶる。
「いってらっしゃい!!」
「君も、早々に片付けこちらに集合してくれよ。では!!」
甲板目掛け投げ捨てる。まだ力の加減ができないため心配であったが、どうやらいい感じに甲板へと飛んでいってくれたようだ。
「さて、一人になっちゃったけど」
海賊達は、普通に海面に立っている海兎に驚きつつも海の男として怯むことなく武器を持ち囲んでいた。普通ならば、これだけの大勢で、しかも刃物を持った強面の男たちに囲まれては足がすくんでしまうだろう。だが、すでに異世界にやってきてからこの状況よりもやばい場面に出くわしてしまった。
全てが、デビルクラーケンとの一戦で海兎を変えてしまったのだ。
「びびるんじゃねぇ! てめぇら!! さっさとこのガキをぶっ殺して猫野郎を追いかけるぞ!!」
「……どうやって倒そうかな」
デビルクラーケンと戦った時は的が大きかったため一撃必殺とばかりに片付いたが、今回は十数人の人間達だ。化け物戦と対人戦はわけが違うだろう。
(俺も戦いのプロってわけじゃないし、効率のいい戦い方なんて思いつかないな……あっ)
今の海兎は身体能力が大幅に上がっている。そこから放たれる打撃は相当なものだ。それを海面に叩きつけた場合どうなるのか? そんなことを想像しつつ、拳を握り締める。
「くるぞ!! やられる前にやっちまえ!!」
「うおっしゃぁ!!!」
「死ねぇ!!」
考えている暇はない。
行動あるのみだ。
「だっしゃぁ!!!」
相手から斬られる前に、思いっきり海面に拳を打ち付ける。
刹那。
「ぶはあ!?」
「なんじゃこりゃあ!?」
「み、水が……!」
その衝撃波により海面が弾け斬りかかってきた海賊達を吹き飛ばす。更にそこから連鎖するように、海兎を囲んでいた船も吹き飛んでしまった。
衝撃に耐えられなかった船はひっくり返り、海賊達のほとんどは意識を失ったようだ。
「よし、これで」
早々に片付いたため甲板で戦っているアルヴィスのところへ合流せんと両足に力を入れる。
「せーの!!」
「こ、この野郎……ふざけ、おぶっ!?」
まだ意識があった海賊がなんとか攻撃をしようとしてきたが、それよりも早く海兎は飛び上がる。その衝撃波で、また海賊は吹き飛ばされ船に激突する。
《後は任せてくださいねー!!》
《頑張りなさいよー!!》
二人の応援を背に海兎はにっと微笑み、甲板へと着地する。
そこで見たのは。
「おや? 早いね。もう終わったのかな?」
「あ、あなたも相当ですよ。この数を……」
大量の海賊達が甲板に倒れている中、余裕の笑みを浮かべているアルヴィスの姿だった。




