第84話 カグツチの火の館<序章>
シズクは想いに老けていた……。
「鍛冶士なのに……めっちゃ水属性だよ!」
アローナの工房にあるソファにふんぞり返りながらファバーダの書物を読みあさっていた。
ふと想う事があった。
ナキはナキサワメの孫。アルハンブラの浄水釜と深く関係をしている『神様見習い』だ。
そして……。
「いやまさか……カーハ・ツヴァイの一件で……」 シズクはソファの上にある窓から外を見る。レンガが敷き詰められた美しい道とシズクとナキの功績で建てた外灯を挟んで向こう側には『協会』が立っている。協会にはフィーナが在籍していて街を管理するとても重要な施設だ。孤児院と図書館が併設している。
……の、隣に……。
――『名水探偵事務所』
の看板を掲げた探偵事務所が新たに建っていた。
この異変に気づいたのは、七海宅から帰宅した翌日、いつものように学校の『図書室兼文芸部部室』からファバーダ・ストーリーで転移してきた時にできあがっていた。
「……私がヤッチャッタノカナ?」
心当たりとてもとてもあるが、まさかカーハ・ツヴァイにあった探偵事務所がアローナに移転していた?のか?
それならまだ納得できたのだが、実際ややっこしいことになっていて、探偵事務所の扉から向こう側は『シズク達のセカイ』へ繋がっている。扉からこちら側はアローナになっていた。
さらに厄介なのは、シズクはアローナ側へしか出入りできないが、花梨だけは『アローナ、カーハ・ツヴァイとシズクたちのセカイ』を転移できるらしい。
因みに、転移できるのは『水槽楽部の部員』のうち『花梨と七海』だけらしい。
――花梨曰く……。
「……最悪の時を乗り越えたらあと何故か繋がってしまった……判らん」
――っと言ってた。
どうやらシズクたちの知らぬ所で『問題が解決していた』らしい。
「……あえて言うなら……潮岬灯台から『東高校ロケット部の初打ち上げ』が成功した?……とにかくそのセカイで我々の水槽楽部は想いに辿り着けた」
……らしい。
何回目の輪廻転生かは既に判らなかったが、『シズクと出会った』あと『幸村』で乗り越えた。
――結果、探偵事務所がアローナに出来上がった。らしいが、『最悪の時』を乗り越えた時に精神を使いすぎ為、スフィアを『御柱』に奉納する必要が出た。
スフィアを手に入れるためにアローナに探偵事務所を構えることになった。
――その経緯はこの際保留にしておく。
問題は……。
「何で!カーハ・ツヴァイの探偵事務所なのに!水属性なの!!」
そりゃそうだ!『水槽楽部の名水花梨』さんなんだぞ!火属性であるはずがない!100歩譲ったとしても風属性だ……!
ナキ<水属性>、花梨と七海<水属性>だ。ちなみにシルフィードダンスを華麗に舞うエルチェは当然<風属性>だ!
「……由々しき問題だわ……次こそは……火属性のメンバーを!」
鍛冶士でありながら何故か火属性とは縁が薄い工房だが……。
シズクはふと思い出した。
――カグツチの事を。
何より、火の精霊『カグツチ』は超未来的な程のテクノロジーを持っていた。
転生モノのストーリではよく『中世ヨーロッパ風』のちょっと古めかしい場所でかつ『魔法』があるセカイが多いが……。シズクはギュッと握り拳を作り……!
「……よし!この水属性がとてもたくさんあふれ出る今なら!カグツチを倒せるはず!」
「エルチェ!私たちのセカイへ帰るよ!」
シズクは『ファヴァーダ・ストーリ』を取り出した!
「ちょっと!待って!シズク!その唐突なのは……まあ良くないけど……!とりあえず、『花梨』ちゃんに共闘を頼んでからになしない?」
「前回……もうホントにうちのポンコツエース3人衆と行ってほんと大変な目に会ったんだから!」
前回、火のレリクスに『街燈用の火のスフィア』を大量に回収に行った時の事だ……!
バニラ・ミッキー・クリスとエルチェの5人で行った時の散々な目に会った。
暗黒騎士バニラ姉さん<女子?>を筆頭に白魔術士のミッキー<漢>、そして両手剣持ちのナイトであるクリス<ゴリラ>だ!
問題なのは全員脳筋前衛だ……!
あと付け加えるが、3名とも伝説の戦士級だ……!
ちなみに、ミッキーは回復系はリジェネしか使えないらしい。
「その事だけど、花梨ちゃんも前衛でないの?」
――シズクが錬成した?か怪しい所だが、『名刀:幸村』を振り回す系女子だ。
カーハ・ツヴァイの時もそうだったが、花梨は回復系精神を使用した覚えがなかった。当然、七海も二刀流の前衛だろう。回復系精神を持ち合わせた仲間に心当たりがシズクには無かった。
「その事だけど、回復系精神はナキちゃんに任せるのもアリ?かなと思うけど……不本意ではあるけど、カーハ・ツヴァイにいる宿坊会の僧侶を仲間にスカウトしたらどう?」
※宿坊会とは高野山に席を置く僧侶達の総元締めの事
「それってさ?アローナ……というより、高野山側の人が私達と関係を持って良いのかなって?花梨さんって『輪廻転生』側じゃない?なのに関わって……」
――チリンチリン!
シズクの工房のドアの鈴が鳴る。
移動要塞が停泊していない今は、アローナの鍛冶士への来客は大抵『フライパン』だ……!
「……ふむ、回復系精神魔法が使える仲間がいないと?」
金髪のロングヘアをなびかせながらシズクより遙かに異世界っぽい英国人の花梨が入店した。
花梨の脇には『名刀:幸村』は装備されていないようだ……!
「って!ドア開ける前からの話していた内容判るの!」
シズクは花梨にツッコミを入れたが、花梨は『心を読み取る精神』が使える為、大体の事は筒抜けだ!但し、ゼロ・ディバイドである『七海』には読心術は通じないらしい。
「……ちなみにだ……回復系精神魔法なら私が使える。ハイパー水属性だからな!」
ハイパー凄い名刀を持つ武将花梨でありながらヒーラーも出来るらしい!
「……というより、私は刀を持ってはいるが、得意なのはサポートと戦術だからな。戦闘はあまり得意ではない」
「……戦闘だけで言うなら、『七海』や『日花梨』の方が遙かに優秀だ」
「……ただ、スフィア回収の件に関しては彼女たちの力は借りられん。私と違って七海は全てにおいて影響力が無いからな。あと、日花梨は知っての通り、『西洋の死神』だから、そもそも我々とは合いまみれる事すら禁忌になる」
シズクは熱く語り始めた花梨の姿をよく観察しながら話を聞いているとある事に気づいて話に急に割り込む。
「あ!そういえば、制服着るのやめたの?」
「……ふむ……ホントに唐突だな……回復系精神魔法が使えるが七海達の協力は得られない。……まあ、『最悪の時』を解決したからな」
「もう東高校の制服を着る必要も無いだろう。輪廻転生する度に制服を再度着るのもなんか嫌だったから卒業後も制服を着ていた」
「……想えば永い時だった……」
花梨と七海は数回『最悪の時』を越えるために、輪廻転生を繰り返してきた。
シズクとエルチェが心桜に会いに行くというズルをしたせいで、若干ズレが生じた。その際にウッカリ、『命刀:幸村』と『絶対に折れない刃こぼれしない諦めない|想い・・』を付与してしまった結果解決したという。
花梨の話によれば、『命刀:幸村』は想いにたどり着いたため、今や『迷刀:パン切り刀<8枚切り>』となってしまったらしい。ただ、人や手強い神さま程度ならバッサリ切れる耐久性は残っているらしい。切れ味は変わらないとの事だ!
花梨に以前行った『ガグツチの社』の事を相談してみた所、花梨は攻略の協力を約束した。
カグツチのいる社を攻略する方法は意外と簡単だと言い放った。
「……要は、一度ファヴァーダ側からアタックした時に既にレリクス攻略は完了して、正規ルートで『ガグツチの社』に行ったと」
「……社は超科学のミライのセカイで、パッペットドールである……要約するとオートマターとスーパーなロボットアニメ展開になってたと」
オートマターと対峙したあと、カグツチとバトルになり、敗走となった。
ナキと共闘するなら『ファヴァーダ側』からの再挑戦になる。なぜから、ナキはファヴァーダから帰れないからだ!
「……ふむ、とりあえず、『今回も』我々のセカイから火のレリクスに行ってみてはどうだ?」
そうなるとシズク達のセカイの住人を連れて行く必要が出てくる。
シズク達のセカイで仲間として連れて行けるのは……。
――名探偵の花梨
――熊野プーさん<ニート神>の天野 ミカ
の2人だけだ!
エルチェとはDDのエルチェを連れていけば、ユニゾン出来る為、シズクもシルフィードダンスが使えるようになる。
七海と日花梨を連れて行ければ、かなり優位に立てるらしいが……そうなると花梨が参戦出来ないらしい。精霊と相見えるならば、『アンチノミー』の関係者で構成しないと大変な事になるらしい?と花梨の話だ。
シズクは……もう少し考えることにした……。





