第77話 心桜の雫とシズクの想い
心桜はナキとシズクの二人に警戒心100%の疑いの目で見ていた。
ナキと心桜は同い年くらいに想えるが……。
「ナキちゃんは……12歳だったよね?」
「はい、私は一応、12歳ですね。おばぁの信仰を継承しましたので、人間の12歳とはちょっと違いますが……」
「これもちょっと問題あって、人として生活しづらいんですよ」
「……私の問題はちょっと脱線しちゃいますので、心桜さんの事を今は優先しましょう!シズクさん」
……シズクはまた脱線しかけた。
「うん……」
シズクは心桜の問題に……。
意欲が観られない……わけではなく。
……シズクは少し察していた。
……エルチェの事を。
シズク達が生活するセカイの『DDのエルチェ』は、当然シズクがフルカスタムのシズクオリジナルドールだ。
――だが、アローナの街で大活躍する鍛治士の『パペットドールのエルチェ』はシズクが創ったわけではない。
ファバーダーに転移してきた時から彼女は存在した。正確には100年前に産まれた……?
「うそ……そうなの……」
「このバラバラのドール達の想いを100年前に紡いで……」
「でもでも!ナキちゃんこれじゃあ変だよ?エルチェの産みの親って私?ってならない?」
ーーそう、ここは多分だが、100年前のアローナである。
「そうなるかもですね?だから何度も言ってると想いますが、『私達に時間の概念』が無いというかいい加減なんですよ?」
「生死もなんかややっこいですし」
「輪廻のセカイとは私たち違うんですから」
「過去も現在も未来も『同一線』にあるんです」
「……まあ、ここは過去って事にしておきましょう!」
シズクは納得は出来ないが、とりあえずバラバラの想いを宿したドール達を何とかしようと想った。
……というのも……。
「心桜ちゃん……いきなりだけど、心桜ちゃんの悩みって、この陳列されているドール達だよね?」
いきなり要件を持ち出した!
「……うん……悩んでいるけど……!いきなり来たアンタ達に相談できるわけ無い!」
――そりゃそうだ!
いきなり工房に、そもそもここは鍛冶工房なはずだが、1階部分は心桜が占領してどうやらパペットドールの製作実験工場化していた。
2階部分は鍛冶工房になっているが、協会でラフィー達が言ってた『工房にいる心桜を何とかして欲しい!』のはこの状態だからだろう。
「心桜ちゃん……私もドールのオーナーなの」
「だから、一目で気づいたことがあった」
「協力したい!って入ってすぐ想ったのは事実だよ?」
シズクは工房に入ってドールへの想いがバラバラに欠けていることに気付いた。
……というより、1体のドールの関節1つに想いの欠片が宿っている。
ここにいるドール達全部の想いを一つにすれば、ドール1体分の想いが完成すると。
「うんなもの!!私のドールたちをいきなり来たあんたたちに任せられるわけないでしょ!」
……引っ込み思案かと想ったが、ドールの事となると一気に激高した!
シズク同様、ドールへの想いは相当強いようだ。
シズクも心桜と同じように、自分のドール……具体的には『エルチェ』の事だが、他人に弄られるのは耐え難い苦痛だ。
――なおさら、ドールは服を着替えさせたり、下着を付けたりしてる。
わが子同然の対応をする。一般人からすれば『危ない人』に想われるが、ドールオーナーからすれば子供と同じだ。
――故に、ドールを購入は『お迎え』という表現をする。
人や愛玩動物のような対応をすれば、オーナーには良い。
だから、心桜が怒るのもシズクは深く理解できた。
……まあ、シズクがちょっとエルチェの事で『やきもち』を焼いてしまった結果、色々とややこしいことになってしまった。焼くなら『神谷鋪のやきもち』にしておけばよかったと……。
「あ、なるほど……やきもち……か……神谷鋪のお餅って、一晩しか持たないのよね……直ぐ固くなちゃうから。でも美味しい」
「高野山にツーリング行ったら、買って帰るんだよね。お番茶によく合う!」
「シズクさん……神の声が聞こえるようになったら……精神病院行きですよ?そもそも、私たちは神様側の立ち位置です!」
「!!……『神谷鋪のやきもち』美味しいけど!ドールたちにヤキモチ焼いてないから!創造者として……苦悩だから……」
「……どうして……こうなっちゃったのかな……」
丁度、ドールの関節・部位の数だけドールたちが一階のフロアーに座っていた。
さすがに、等身大ドールたちがズラッと並んでいたら『どうにかしてください!』って頼まれるのも判る気がした。
――何処かの太陽神<最強の自称闇使いのニート>と一緒にしては、心桜の純粋な想いには申し訳ない。
シズクはギュッと手を握り締め、この件が収束したら中二病の闇の神を討伐することを誓った!
心桜が『神谷鋪のやきもち』の事を知っていた。
『やきもち』を知っているということは、『高野山』の事を知っていることになる。
――何故なら、『神谷鋪のやきもち』の立地条件だ。
『神谷鋪のやきもち』の建つ場所が『高野山』からほんのわずか外周にあるからだ。 カーハ・ツヴァイからアクセスできなポイントにお店を開いているからだ。
高野山へ続く長い坂道の下にあるからだ。坂道の一番下にあるお土産屋より下だ。丁度、坂道の一番下にある『押しボタン信号機』がキーになってる。
◇
シズクは龍神側から毎回高野山へ行くため、『押しボタン』を押すことはない。
――七海たちは、早朝レーシングする際に毎回『押しボタン』を押すらしい。
シズクは龍神側・高野山側〈紀美野町側の坂道〉から両方からアクセスできるが、七海や花梨……特に日花梨は高野山側からアプローチしないと入れない。日花梨の家は、丁度……神谷鋪のある集落で居住している。
花梨の家である探偵事務所は、奥の院を過ぎた先にある集落、食パン屋の前にある。
西洋の死神である日花梨にとって、高野山<輪廻>で生活するには、若干宗教色が濃いためである。
その逆で花梨は『高野山とカーハ・ツヴァイの加護』を受けている。
花梨は高野山の精神の調律士でもある為に、今回の大けがを負ったのだ。
シズクが知っている『龍神の主』であるカワサキH2でハイパーな走行を繰り広げている張本人が『川崎 心桜』だ!
……で、娘である七海はホンダのCBR250RR<心桜スペシャルチューン>に乗っている。
――そして、シズクはこの騒動前にCBR1000を納車したばかりだ!
高校2年ではあるが、シズクは闘病生活で出席日数不足で留年してしまった。
この事では『水槽楽部兼生徒会』が学校とバトルしたことがあった。
その一件以来、シズクと水槽楽部との付き合いがあった。
本人であるシズクは『七海と友達』になれたことが留年のお陰であるから、意外と留年した事に関しては後悔より感謝の方が気持ち的に大きかった。
◇
「心桜ちゃん、とても重要な事なんで怒らずに聞いてほしいんだけど……私たちと一緒のセカイから来たよね……?」
「神谷鋪は、カーハ・ツヴァイから行けない場所だと思うから……」
シズクが『神谷鋪』の事を尋ねた事で、表情を一変し……!
「……!?」
「な、なんで!?『やきもち屋』の事知ってるの!?」
「このセカイ……なんで!?知ってるの!私、帰ること出来なくて……」
「家族とおばあちゃんのお墓参りに行った帰りに……」
――異世界へ転移したようだ……!
「……寂しいの……悲しいの……だから、ここのドール工房でお世話になりながら、ドール創ってるの……」
「私は……叶うことが出来なかった想いと、救う事が出来なかった想い……双翼の想いを紡ぎたいんだ……!」
――彼女が紡ぎたい想い……。
それは、きっと……双葉と七海の想いが散ったこのセカイ……。
親友を想う花梨の想いのが、このアローナ、そして鍛冶工房に満ちあふれる事になる。
追記:一時期ですが、第76話が本分に二重投稿されていました。
現在は修正されています。





