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本の世界の鍛冶士 柊シズクの物語  作者: 川崎タイチ
風の移動要塞・カーハツヴァイ エルチェの物語編
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第75話 心桜とシズクのドールへの想い。



 ――アローナ鍛冶・ドール工房?


「……ここって……鍛冶工房のはずだよね?」


 アローナの鍛冶工房が、ドールのアトリエへと変貌している。

 シズクも『ドールへの愛』は誰にも負けないと自負しているが……他の領域を占領してまで想いを叶えるような無法行為はしない。


「シ、シズクさん……!これは……てっきり私は『自宅警備をする心桜こころさん』をどうにか引き取って欲しい!っとばかり想ってましたが……、現状……ドールハウス化しちゃってますよね?」


 そもそもだが……確か、心桜こころはカーハ・ツヴァイの鍛冶士兼人形士だったはずだ?

 アローナの工房で居座って居ること自体、違和感しかなかった。


 心桜こころが製作したであろうドール達が陳列・・されているが……。


「うん……でも、これは商品っぽね……」

 シズクはドール達を『商品』と言った。

 訓練されたドールのオーナであれば、『子供達』とか『娘・息子』と表現しそうだが……シズクはあえて『商品』と表現した。


 ――彼女達からは……精神を感じられなかった……。

 人形なのだから当たり前……。


 ではない……!

 ――ここはアローナであり、ファバーダだ!

 全てに『精神』が僅かでも宿るセカイ――。


 なのにドール達からは精神が全く感じられなかった?


 万物に宿る精神が微塵も感じ取れない。

 いち街の住人であれば感じないことはありえるが……。


「お前達……!商品って……どういう意味だ!!」



 ――彼女からも……精神が微塵も感じられない――!

 まるで……無のような……温度を感じることはできな!


 ――だが、彼女はそこに存在する。


「いきなり私のアトリエに来ていくらなんでも失礼でしょ!」

 彼女は奮起している!……だが、無だ……。


「あの、心桜こころさん……ですよね?」

 まるで人形のような彼女、心桜こころがいた。


「いかにも、私は人形士の志那都しなつ 心桜こころだ!君たちとは、初対面のはず……だけど……?」

「……また……私の輪廻の記憶であった住人か……」


「……帰れ……」


 ――心桜こころの表情は氷のように冷たい。

 だが、彼女からはその冷たさすら感じられない。

 存在していないかのように。


「帰れ!!!!!もう沢山だよ!!」

「セカイは私を知っている!!でも……私はセカイを知らないんだ!」

 怒る……嘆く……涙する彼女からは何も感じとれない。


 精神を失った彼女がそこに存在しているのか?

 彼女を認識出来るが……存在が無だ……。


 ――シズクはそっと瞳を閉じる……。

 心桜こころとの出会い・関係・記憶を紡ぐ――!


 ――シズクはファバーダ・ストーリーを取り出した!

 ペラペラとページに想いを乗せ、探す……紡ぐ……!


 ――彼女との初めての出会い……。

 七海ななみの家に訪ねた時の記憶。

 ――彼女と対峙したときの記憶……。

 スカイラインで戦ったときに彼女の想い。

 ――星空の間で……あれは七海ななみと戦った……。

 花梨カリン七海ななみへの想い。


 シズクは……心桜こころの想いを紡ぐはずなのに……七海ななみ花梨カリンの想いへと変化する。


「……そっか……」


 シズクは災悪の時を超えることの出来なかったこの輪廻のセカイの終末の場所である可能性を導き出す……。


「ここも、花梨カリンちゃんのセカイなんだね……」


 ――シズクは、大きく深呼吸する――。

 自分の役割を果たす為に、考える……どう行動すべきか?

 ……どう対処するべきか?


「あの、シズクさん!」

 想いふけるシズクに横やりを入れるかのようにナキがシズクの思考を遮った……!

「確かに、このセカイは誰かの想いの欠片に存在するセカイかもしれませんが、ここでの『軌跡』は私たちのセカイへ戻った時に影響出ますので、安易な事は避けて下さい」



「――私たちは、同一直線上の存在なのですから」

「ファバーダでは時という概念がありますけど……私とシズクさんには『時』という概念が若干ややこしいので……」

「あと、ちょっとややこいことに……本来、私たちのセカイには死という概念がないのですけど……」

「どうも、シズクさんが無茶やり過ぎたお陰か?心桜こころさんの娘である七海ななみさんとの関係が壊れちゃってるんじゃないですか?」


「まあ、私が言うのも『変』なんですけど、おばぁ死んじゃって私が『神』になっちゃいましたので」


「新世界の神様やノートに名前書いたら色々出来ちゃう神様、ユンチューブで踊っただけで神になっちゃいましたけど……」

「このセカイは花梨カリンさんの想いのセカイ線の可能性があるので、ここで心桜こころさんの想いをあらぬ方向へと紡いじゃうと大変なことになっちゃいますよ?」

「私の時もだったけど、『相手は神様』ですから」


「無機質な人形と無機質な心桜こころさんに影響与えちゃいますよ!」


 ナキの忠告を要約すると、ここで心桜こころをあらぬ方向へと導くと、自分たちのセカイへ帰ったときに『大変』な事になるから、慎重に行動しろ!っということだ!


「それって、4文字熟語でいうところの『過去改変!!』ってやつ?」

 ――シズクはナキの長々説明した事を4文字+ビックリマーク付きで解決した!


「……いや……だからシズクさん!!神道的にそれ言えないから、ながーーーーい説明したのに!!そもそも、過去改変は四文字熟語ではありません!」

「まあ、そのファバーダ・ストーリーが存在しちゃってるから時間軸が誕生しちゃった……とは言えないけど……!」

「神が死ぬっというのもどうかと思うし……」


 

「そもそも、ここは『過去のセカイ』でも、『未来のセカイ』でもないし」


 ……ナキは、何か確信を秘めている表情を見せる……。


「で……貴方らは……私の工房で訳の解らないことを病的に発狂しに来たのか!」


 ナキと話している間に、心桜こころの存在を忘れかけていた……!

 そもそも、存在が精神が全く感じ取れない心桜こころがそこに存在しているかも怪しく感じ取れ……ないほどだ!

 意識的に心桜こころの存在を考えていないとスッと消えてしまう……。

 だが、不思議なことに『ラフィー・アローナ』はしっかりと彼女をよろしく頼むと言っていた。もしかすれば、異物に近いシズクたち特有の事例だろうか?


「あの……無視するとか、そういう意図は無いことだけ先に言わせて欲しいです。ですが、存在……してないような感覚なんです」


 シズクは失礼を承知で『心桜こころを認識できない』と伝えた。正確には、見えてはいるが、存在を感じられないと伝える。シズクはデリケートな内容をストレートに心桜こころにぶつける。


「ここのドールもですけど……もしかして、無の神?……いや、私の知っている心桜こころさんは、『風のレリクス・カーハツヴァイ』を治める心桜こころさんだと」

「私は……川崎心桜こころさんも、志那都心桜こころさんも……そしてここに居る心桜こころさんも同じ心桜こころさんだと想うんです……」

「でも、どの心桜こころさんと話しても全然違う人……」


 心桜こころは静かに瞳を閉じ一呼吸置く……。

 そして……。


「ごめんね……私の事、よく知っている方だったのね……」

 心桜こころは瞳を開き語る。


「そうね、多分、全部私……だと想う。でも、全員過去の私……だと想うわ」

「私は自分の事も、大切だった……想い出せない……絶対に忘れてはいけない子なはずなのに……私がセカイで一番大切な子なのに……私は……忘れてしまう……忘れてしまった」


 シズクは心桜こころ七海ななみの事を必死で想い出そうとしていることに気づく。ナキも当然気づいているだろう。

 腹を痛めて産んだ大切な我が子を忘れたことだけを覚えている、これ以上無い心の苦痛だろう。

 シズクたちは彼女にかける言葉を紡ぐことは出来なかった。


 沢山のドール達……無なドール達を眺めて、シズクは悲しみの想いに押しつぶされそうになる……。


 ――この沢山の心<精神>が存在しないドール達は、七海ななみを忘れた気持ちの穴埋めの末路だと。


 我が子の代わりなんて創れない。それは例え神だったとしても。超科学で創ったクローンであってもそれは同じ物であって七海ななみではない。


 ドールを愛するシズクだからこそ、ここに居るドール達の想いの重圧に苦しむ。想いが無いのだから。紡ぐ事が出来ない無――。


 ……。

 いや……!!!

 少し……少し……少し……!

 ほんの少しずつだけど……。

 パーツ1つずつ……パーツ一つずつに、蜘蛛の糸より細く脆い……!


「……感じ取れる……ドールの想い……!」


心桜こころさん……心桜こころさんの想い、このドール達に届いてる!」

「ほんの僅か……ほんの繊細な糸のような想いだけど、彼女たちに宿ってる!!」


 ……そして、シズクは涙を心の底から流して心桜こころに頭を下げた。


「……ゴメン……商品なんて言って……彼女たちは……」

「立派な、心桜こころさんの……子供達です!」



 ――心桜こころは声出さす静かに……。

 ……一筋の涙を頬から零した。


 流した涙は、エメラルド色の爽やかな春の風のような……。

 ……暖かい想いだった。


 頬から零し手のひらにこぼれ落ちた涙は、とても小さな風のスフィアになった。

 心桜こころはギュッと風のスフィアを握りしめ、自分の胸で抱きしめた。

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