第61話 カーハツヴァイの僧侶
シズク達は風のレリクスを攻略するために『後方支援:僧侶≪ヒーラー≫』の助けを求めることになった。
ここ、カーハツヴァイ≪高野山≫で僧侶と言えばお坊さんがゾロゾロと出てきそうだ……!
「本当に僧侶さんがおられるのですか?」
シズクは若干疑いの念を抱いていた……!
ファバーダと関わって以来、『まともな後援』がフィーナ一人としか出会った事がないからだ。
名水探偵事務所を出たミカとシズクは花梨の案内で探偵事務所前の食パン専門店へ向かう。
「……ふむ、不動 龍の焼き上げる食パンは日本一だ!そして、異世界でも龍のパンを求める者達で賑わうのだ!」
シズクは食パンの話をしたのではなく、『僧侶≪ヒーラー≫』の事を尋ねたはず……。
不動 龍……シズクは名前から出るモンク臭に冷や汗をかく……。
白魔術士である『ギルド長のミッキー』を彷彿する筋肉質な名前に不信感だけがつのる。
問題の食パン専門店の外観だが……。
『筋肉麺麭 暗黒龍』
完全にアウトっぽい看板のパン屋にシズクはジト目になり冷や汗をかく……。
気のせいなら良かったが、入り口は……パン屋さんではあるが、チラッっと奥に見える建物に……間違いなく『桜の代紋』の相反するマークが付いている……。
――カラン!カラン!
花梨はドアを開け店内に入った。
花梨を追従するようにミカが入っていく……。
「敵襲か!?どこの組のもんじゃわれぇ!」
――何処からどう見ても893だ!?十四年式拳銃でシズク達を狙っている!?
ネーミングセンス的に無茶苦茶ヤバい感じはしていたが、やっぱり危ない!?
「斜め前の名水組の天野じゃぁぁ!カチコミじゃー!!さっさとvTunesカードを出せ!」
とんでもない事を言い出したミカにシズク驚く!?
「てめー!!勝手に名水組」を名乗りやがって!花梨姉さん名汚しめ!!ここで始末してやろうか!……よく観たらべっぴんやないか!異世界の奴隷商人へでも売り飛ばしてやろうか!」
シズクの予想は見事に的中し、筋骨隆々の反社会的な漢が出迎えた!
「……大将、おはよう。客を脅すのはまあ……いいが、本物の銃をチラ付かせるのはヤメロ!食パン屋が『カーハツヴァイの警備隊』と戦争になって営業停止になる!!」
花梨は客を脅す事を否定しなかったが、警備隊とのいざこざは控えろと釘を刺した。
「って!姉さん!おはようございます!ま、まさか!?あ、あ、あ、朝お渡しした食パンにGの死骸でも入っていたのでしょうか!?」
素手で10人くらいはヤッそうな風貌のオッサンが、異世界のモンスターに蹂躙された村人のように震え上がっている!?
「……心配するな大将……もし混入していたら、今頃この店は火の海にしているぞ!」
「それよりもだ、今日は大将に頼み事があってきた」
花梨は今まで経緯を一通り説明をする。
ここでも花梨はスラスラと状況を簡潔に説明をし、龍を納得させる。
「ほほぅ……状況は判ったが、『我々、輪廻側の者』が神のセカイである『アンチノミー』に関わっていいんですか?姐さん?」
「……ふむ、今回はシズクを助ける形をとるから問題ないと私はみた」
「このまま彼女たちの問題を放置する事は我々側にも悪影響が出ると宿坊会と警備隊も判断した」
「あとは、黒龍会の意向だけだ。龍、お前はどう考える」
「私はシズク達を助けたいと考えている。だが、ここ高野山の代表団≪三本の矢≫の『矢の一手』である黒龍会の意向も尊重したい」
花梨はシズク達に協力するようにと強制はしなかった。
シズクはカーハツヴァイ≪高野山≫の組織の大きさを感じ取る。
シズクが住むアローナや巨大要塞だと思っていたアルハンブラから比べると桁違いの大きさの街だ。
「姐さん、我々黒龍会は姐さんの意思に一片の揺らぎなく付いていく……」
「聞くまでもねぇ……もちろん協力だ!」
龍は花梨の意向を全面的に肯定した。
「で、我々黒龍会はどう動く?」
龍は花梨に今後の協力について尋ねる。
高野山・カーハツヴァイの一本の矢をどう射るか……龍は判断を仰いだ。場合によっては人員集めなど下準備を万全にする必要が出てくるだろう。
「……うむ!毎度の事ながら黒龍会……龍の忠義には感謝する」
「しかし、必要なのは『龍』お前だけだ」
「シズク、ミカと私だけでは後方支援者……具体的には補助役がいないのだ」
「あと、今回は『ただの人間』を連れてはいけない。無論お前の所の舎弟も含めてだ」
「これから、風のレリクス最深部』を経由して『星空の間』へ行き、『カーハツヴァイ・双翼のガーディアン』と対峙し、『人形士の工房』へ行く」
花梨の話を聞いて、力強い表情をしていた龍だったが一気に凍りつく。
「姐さん……神の領域に挑戦するって事か……『カーハツヴァイ』の動力源に突っ込む事態か……」
「確かに……『人』では触れることすら出来ない事案だな……」
「雑魚が10万の束になっても無駄なセカイ」
「……解った。死をもって『星空の間』の調整に関わろう」
「ただ……姐さん……『七海姉さん』との約束だ。姐さんだけは例え『カーハツヴァイ』が犠牲になっても助ける。その事だけは配慮して行動してくれ」
「黒龍会代表としてではなく、一人のつまらん人間の意見だがな……」
七海は存在しないと強く言った花梨の意思。
七海と漢の約束として花梨を護ると告げる龍。
そして、七海の母親とソックリな志那都比古神……心桜。
エルチェを取り巻く人々の想いがグチャグチャに交わっていた。
『矛盾だらけの物語』……シズクはエルチェの想いを取り戻したいだけなのに……。
「シズク、なーんか大変な事……みたいな雰囲気……フフフッ」
「混沌とするセカイに君臨し闇の支配者であるミカ様が!!……」
――場の雰囲気を汲み取らず中二病全快でポーズをキメ、ミカは場の雰囲気をぶち壊す!
「私が協力してあげようじゃない!楽勝!楽勝!」
ミカは両手を前に出しVサインをキメた!
そして、神妙な面持ちをする花梨の肩に手を添え……
「……まあ、『本が大好きな神さま』がちょっと嫉妬しちゃただけなんだけどね……」
……シズクに聞こえない様に花梨にコソッと話しかけた。
「ミカさん!あんまり悪ふざけしないで下さい!ホント……中二病こじらせた神様なんて聞いたことないよ……」
シズクは『ほとほと困り果てた』表情を見せた。
そして、花梨と龍にレリクス攻略の協力をシズクからも願う。
「花梨さん、龍さんお願いします!」
「……で、本当に龍さんは後方支援が出来るのですか?……花梨さん」
花梨の紹介ではあるが、いささか心配だ。
「……うむ!心配するな龍はクスリ等を扱わせたら西日本一の腕だ!」
「あと、裏アニマルビデオの撮影、家庭用常備薬の配達、金融業、各種武器まで幅広くやってるのだ!」
「心配はするな、こう見えても龍のサーチ能力と治癒スキルは折り紙付きだ」
「……ただ……戦闘スタイルだがな……」
龍は食パン屋のカウンターの引き出しからナックルダスターを取り出した!
「よし!姐さん一発カチコミかけやすか!」
シズク達パーティーはどう観ても『反社会的勢力モンクっぽい僧侶』を加えてレリクス攻略へ向かう事になった。





