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本の世界の鍛冶士 柊シズクの物語  作者: 川崎タイチ
風の移動要塞・カーハツヴァイ エルチェの物語編
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第59話 想いの結晶

 シズク達は刃を収め、現状について把握することになった。

 名水探偵事務所に精霊神2人と鍛冶士シズク、花梨カリンの4名が混在してる空間だ。


「……して、心桜こころ殿、想いの欠片……とやらは『風のレリクス』で回収したスフィアの事か?」

 花梨カリンは本題を切り出した。焼き上がった食パンをほおばりながら心桜こころは答える。

「そうそう、この前……というより昨日だけどな。私が『レリクスの見回り』をしていたら、この『カーハツヴァイの心臓』である『天空の祭壇』の台座に落ちていたんだよ」

「ただ……回収を試みたんだが……『主人』を待つかのように頑なに動かせなかったんだ」

「っといっても、石ころほどの大きさなんだが……」

「だから、スフィア以外のパーツ?らしき物だけは回収してきたんだけど……一応、『人形士の工房』に置いているよ」


 シズクもスフィアを手に取った事は何度かあるが、動かせないほどの重さはない。

「スフィアってそんなに重かったです?」

 シズクが持つ『デザートイーグル』のカートリッジにも『スフィア』を使っているが、重量を感じる事はない。


「……ふむ、重さというのは『物理的』なものだ。『スフィア』とは精神の結晶だ」

「だから、想いが重ければ重いほど、スフィアとは所有すること自体難しいのだ」

 花梨カリンの説明を要約すれば、『物理的重さ』ではなく、『精神の想さ』であって、屈強な肉体であったとしても移動させる事は困難であるということになる。

「……それで心桜こころ殿、風のレリクスに行って回収してくれば良いのだな?」


 花梨カリンは『想いの欠片』をレリクス最深部へ行き回収することを提案する。だが、花梨カリンの言っていることは疑問と矛盾が沸く。花梨カリンは『エルチェの生みの親』は心桜こころであり、『シズク』であると言ったからだ。

 さらに矛盾が生じるのが、『エルチェとシズク』が創った『名刀・幸村』が花梨カリンが持っている。


「あの!花梨カリンさんが持っている剣……『刀』は、私とエルチェが創ったんですよね?」

「……うむ!間違いなく、エルチェとお前が創った刀だ。ただ、この時間軸のシズクとエルチェではない」

 やっぱりおかしい?創造主が存在していないのにその刀を持ち、創造主の想いの欠片を回収することになる。

「シズク、この『名刀・幸村』を創ったのはお前が高校1年の時だ」

七海ななみと私が出会う前だからな。一昨年になるな」


 ――七海ななみとシズクは『同学年』……で、二年前だと中学3年?

「私が……入院していた『時』に……なるのかな?」


 ◇

 ……シズクは一年留年してる。

 二年前に大病で『長期間昏睡状態』だった。

 シズクが二年前、結構有名な話……『文学大賞』を現役の女子高生が受賞した。

 高校生が文学大賞を受賞したこと自体が過去になかった賞だった。

 ただ受賞するだけでも珍しいのに、『ICUで生死を彷徨っている状態』で『警告音』が鳴り響く状態を全国中継されたからだ。

 当時『ICU』から名作を生み出した天才として話題になった。


 当事者ではるシズクだが、騒ぎの全容は目覚めた時には3ヶ月以上経過していて既に沈静化されていた。

 シズクが唯一の不満があるとするなら、1年の終業式に全生徒の前で『表彰』された。

 そのこと自体は『学校ではよくある事』だが、同時に出席日数不足で学年末テスト一位のシズクが『留年』したという展開だった。


 ◇


「色々と理不尽な一年だったわ……いだしただけでも納得できなかったわ!」

 シズクは留年したことを根に持っていた。「学年一位で文学大賞とって留年!」アメリカなら飛び級だ!

 学校辞めて「高等学校卒業程度認定試験」取得をシズクは本気で思った。


「……ふむ、愛芽アンナも言っていたな……さっき来た日花梨ヒカリもカチン!っときていた事案だった」

「生徒会としてシズクの力になれなかった事を今でも生徒会役員は悔いている」


 しかし、シズクはパっと笑顔を見せ留年の事について語りだす。

「でもね……『七海ななみ』ちゃんと同じクラスになれた事が良かったかな?」

「元々、友達を作るのが下手だったし……いつも本を読んでいるだけの根暗イメージが払拭できなかった」


 実際のシズクはバイクに跨がり、いろんな所へ旅に出る活発な所があった。

 今や異世界を往き来出来るようにまでなってしまった……。


「私より『水槽楽部』も凄い功績上げたよね!」

「去年のアクアリウムコンテスト……?だっけ?全世界一位だったよね!」

「今年も七海ななみちゃん達出場するのかな?」


 シズクは探偵事務所入り口にある「ネイチャーアクアリウム」を眺めながら去年のコンテストの話題を切り出した。 


 ※ネイチャーアクアリウムとは、水槽内に、水草・岩・流木などを組み合わせ、自然の景観を再現させる水槽レイアウトだ。ADA、故・天野 尚氏によって提唱された技法だ。


「……うむ!ネイチャーアクアリウムは、私の人生と言ってもいいぞ!この水槽も全てADAの機材を使用している!」

 ドヤ顔で語った花梨カリンだが……。

「そうか……シズクのセカイでは『私たち水槽楽部は……助かったのだな……』」

「私の……」

 花梨カリンは言葉を詰まらせ、瞳に涙を溜めた。

 だが、花梨カリンは瞳に溜めた涙をこぼれ落とさない。

「シズク、すまない……ちょっと萎らしくなった」

 花梨カリンは瞳に溜めた涙を拭った。


 花梨カリンは朝食を食べ終わり、ソファーに座って花梨カリンとシズクのやりとりを傍観していた心桜こころに『想いの結晶』について尋ね提案する。

心桜こころ殿、そのレリクスに落ちた想いの結晶スフィアを回収に行くとしよう!」

「きっと、シズクが同行すれば、その想い紡ぐ事が出来るのではないか?」


 シズクは『想いの結晶スフィア』が『エルチェの想い』ならと……願っていた・・・・・


「スフィアを回収するのは大賛成!……なんだけど、あれだけの想いの結晶スフィアって事は……」

 心桜こころは神妙な面持ちをみせる。

「……まあ、そうなるな……」

 同様に花梨カリンの表情も重くなる。


「でも!行きたい!絶対に今度は……もうエルチェを離したくないから!」

 シズクは察している。

 想いや力が大きいスフィアには、多くの人やモンスターが引き寄せられることを。

 シズクは覚悟をしていた。

 リスクを伴う事を……。


 シズクの覚悟を後押しするように『とても存在が薄いニート神』のミカが口火を切った!

「よし!風のレリクスだっけ?さっさと回収に行こう!」


 ニート神がやる気を見せた事に対し、シズクはジト目をキメ……。

「ミカさん……風のレリクスのモンスターはお金落としませんよ……てか、戦えるのですか?365日くちゃね生活ですよね?」

 シズクは金策に困っているミカの『腹のぜい肉』を指で摘まみ釘を刺した!


「な、何を言うかシズク!我の暗黒を封印し右手で全てを薙ぎ払ってみせるわ!」

 自称、太陽神なのか、闇の手先なのかハッキリしてもらいたい!


 スフィアの回収に前置きな二人を見て花梨カリンは想いにふける……。

「なあ……シズク」

 花梨カリンはシズクにどうしても訪ねたい事があった。

七海ななみ日花梨ヒカリはお前のセカイには居るんだな……」

 花梨カリンは聞かなかった……。

「……あの……災悪を……超えた……セカイ……犠牲になった……七海ななみ

 花梨カリンは独り言を言った――。

 花梨カリンはギュッと両手を握りしめシズクに風のレリクスを話を進める。


「……よし、風のレリクスに行こう!」

「もちろん、心桜こころ殿にも案内役として同行してもらう。いいか?」

 花梨カリン心桜こころの方を向き同行を願う。


 花梨カリンの想いに心桜こころがマグカップに残っている珈琲を飲み干し答える。

 飲み干したカップをテーブルの上に置いた瞬間……。


 ――一気にセカイが色褪せた!!! 


「断る!風のレリクスは、私の統治する領域だよ?」

想いの結晶スフィアの回収は大賛成。でも協力はしない……というより出来ないよね?」

「あと、先に忠告しておくけど、祭壇では『双翼のガーディアン』が守護している」

「っと言っても、双翼のガーディアンは私なんだけどね」

「一応、ルールだから。シズクちゃん、花梨カリンちゃん。高野龍神スカイラインで戦った私なんて、龍の鱗一枚程度の力だから」


 心桜こころは胸元の心臓付近に手を突っ込み『龍の鱗』を取り出してシズク達に見せた。

「ここにいる私は所詮、人とコミュニケーションを取る為の『パペットドール』だから」


 心桜こころは、自分の龍の鱗をヒラヒラと扇ぎシズク達を挑発する。

「久々に楽しいダンスを踊れそうだね!」

「チートの三人さん。このカーハツヴァイを乱した代償をキチンと払って貰うわ!」


 左手で扇いでいた鱗を宙に投げ……右手で掴み取り、握りつぶした!!

 粉々に砕けた鱗が探偵事務所一面に散らばり光と変化し、ゆっくりと消えた……。

 ――残光が消えるスピードでセカイに色が戻った。


 そして……目の前にいたはずの心桜こころの姿も消え去っていた。

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