第56話 花梨と名刀『幸村』と食パン
シズクは花梨の案内で名水探偵事務へ招き入れられた。
探偵事務には『まるで異世界の部屋』でアンティーク調の調度品や家具があった。
家具により目にいく異世界の芸術作品が……!
「キレイ……!」
――シズクはあまりの綺麗さに絶句する……!
「これって……アクアリウム!?」
――花梨はシズクの問いに満面のドヤ顔で答える!
「……うむ!私と七海が作り上げた水景なのだ!」
――自然と七海と協力してと語った。
「あの、花梨さんは……心桜さんや七海ちゃんの事覚えているのですね?」
「……あと、エルチェの事も……」
――シズクは本題を切り出したが……。
「……うむ。シズクの早る気持ちはよく判るが……まあ、まて……」
「……ちなみに言うと、シズクとも初対面では無いのだ?」
「……正確に言えば……初めて会ったのは1年前……高野龍神スカイラインでぶち抜かれたときだが……」
「……丁度、七海が二輪免許を取得した次の日のツーリングで、『七海』に紹介された」
「え……多分だけど……私……会ったことない!初めて会ったのは昨日……なはず……」
――シズクと花梨と会ったのは『大門前でバトル』になりかけた時だ。
「……ふむ、そうだったのか……多分、その私は『未来』の私だ」
――未来!?……シズクは過去に来ているのか?
「それだと……私は……過去に来ていることになりませんか?」
「……たしかに、我々……我々とは『私のセカイ』での概念で言えばそうなる」
「……まあ、『解』を焦るな……焦っても良いことなど一つも無い」
「……既に31回目の11月だからな……あと2,3回11月来ても気にならん程11月繰り返しているから」
焦る気持ちのシズクとは裏腹に花梨は落ち着いていた。
――まるで長い時を生きてきたような雰囲気で――。
「……お腹空いただろう?……少し遅い朝食にするとする!」
花梨は朝食の準備を始めようとする……?
「……ふむ、今日もいい香りがする見事な立方体だ!」
どこからともなく、花梨は食パンを出してきた……!
「……名刀『幸村』……」
花梨の手から水泡と精神の光らしき揺らぎが現る――!
花梨はギュッと揺らぎをつかみ取り振り下ろし……。
――花梨は刀を抜刀した!
――食欲をそそる立方体を宙に投げた!
「……秘技!!食パン斬り!!!」
――シュイーーーン!!
鮮やかな刀裁きで食パンを見事に4つ切りにした!!
「……ふむ、今日もいい出来だ!」
シズクはジト目を決め尋ねる。
「何故……食パンを刀で……」
花梨はドヤ顔をキメ答える!
「……うむ!日々の鍛錬の極みなのだ!」
「……やはり不動 龍の焼き上げた食パンは素晴らしい……!」
「……黒龍会の食パンは『近代アーティファクト』で斬る価値のある食パンよ……」
近代武器なのか?古代武器なのか?
「すごい切れ味の……日本刀ですね……柔らかい食パンを鮮やかに……」
シズクの褒め言葉に花梨は目を輝かせ食いついてきた!
「……うむ!さすが鍛冶士だ!『幸村』の切れ味の素晴らしさが解るとは!」
「……『幸村』の特殊能力である『切れ味が劣化しない』のお陰で、何を斬っても切れ味が落ちないのだよ!」
「……さらに付け加えると、私の『能力』で『超振動ウォーターカッター』になっておるのだよ!」
「……異能の者や、悪しき魂をもバッサリ行けるのだ!」
要約すると『耐久度が全く下がらないうえに、とんでもなく何でも斬れる刀』ということだ。
その、とんでもなく斬れる刀で『食パン』を斬ったのだ。
「それで、その『真田丸』でしたっけ?」
「……『幸村』だ!……七海と同じ事を言うな……お前」
花梨の鋭いツッコミが入った!
「で、幸村なのですが、この刀って……」
「……ふむ、この『幸村』は『シズクとエルチェ』が錬成した」
「……『近代アーティファクト』だ!」
「え……!?」
――花梨は、確かに『シズクとエルチェ』と言った。
「……お前達二人の最高傑作で、最初に作った『アーティファクト級』武器だ」
シズクは花梨の言っている事が理解出来なかった。
シズクは『幸村』を錬成した覚えもない。
それどころか、『エルチェ』がどこにいるか不明になっている状態だからだ。
そもそも、桁外れなスペックの『刀』を製造する技術すら当然ないわけだが……。
「……まあ、想う所は沢山あるとして……」
「……まず、このセカイの理を自覚するといい」
さすがの『本』脳なシズクでも全く理解できなかった。
「そう!そもそもなんだけど、心桜さんに……会いに来た」
「エルチェの事で……」
「でも、エルチェはまだ誕生してないって、さっき言ってたような……」
「……うむ!その通りだ。エルチェは存在していない」
花梨は食パンを薪ストーブを使いロースターで焼きながら語る。
「……シズク、お前は『神』のセカイ側から来た。間違いないな?」
龍神側からカーハツヴァイへアプローチをした。
「うん……」
「たしかに龍神側からカーハツヴァイへ行くようにと『心桜』さんに助言された」
「……ふむ、紀美野町側からだと『輪廻街道』側になる」
「……そもそもだが、『神の世界』に時間という概念があるのか?」
「……セカイは『過去・現在・未来』が同時進行している」
「……だが、『輪廻』のセカイには『時』と言う概念があるのだ」
「……この『高野山』は輪廻のセカイなのだ」
「……故に、『神のセカイ』とは交わる事自体が不明となるのだ」
「……しかし、本来であれば『神』と『輪廻』が合いまみれる事などない」
「……ところがだ……ここ『高野山』は別だ」
「……『どちらも存在する』いや『どちらも存在していない』かもだ」
「……そして、時間と言う概念で考えるなら『アインシュタイン』の相対性理論で、光の速度に近づけば『時間の流れ』が遅くなるという」
「……ならば、神のセカイなら『光』を超えることなど『日常的』に可能だろう?」
シズクは頭がパンクしそうだ!
そろそろ『右手に秘めし漆黒の闇』的なダーク・マターが出てきそうだ!
「あのう……中二病こじらせてます?」
「……!?私は既に高校卒業しているのだ!」
花梨はドヤ顔をキメた!
「うーん……なんか、街の様子見た方が解りやすいかな……」
「実際、神様と仏様、人間と亜人が普通に生活出来てますよね?」
「しかも、自然に……」
「この、カーハツヴァイ……高野山の『包容力』が実現してるのかな?」
花梨は驚いた表情をし答える。
「……ふむ、カーハツヴァイの特異的な存在が可能にしている」
「……それもこれも、『風のスフィア』……『双翼のガーディアン』のお陰だ」
その、双翼のガーディアン……志那都 心桜だ!
「よく来たね『シズク』、先程の戦い見事だったよ」
――出来すぎたタイミングで心桜が2階から降りてきた。
「……ふむ。心桜さん帰ってきてたのだな」
「……丁度食パンが焼き上がったぞ!」
「おお!『筋肉麺麭 暗黒龍』の食パン!」
双翼のガーディアンが『 暗黒龍』の食パン』に目を輝かせている!
――パン屋まで中二病全開である!
探偵事務所の前のパン屋がその『筋肉麺麭 暗黒龍』
そして、目の前の志那都 心桜もドラゴンだ!
その中二病パンを頬張りながら心桜は語り出す――!
「うごごうごんんごごごんご……と言うことだけど」
――食パンが美味しいと言うことは判った!
「あのう……口に食べ物を入れたまま喋らないでください」
「マナー違反です!……仮に『神様』としても、ちゃんとしてください!」
っと、七海なら心桜を正しただろうとツッコミを入れながらふと思った。
「あ!ごめんごめん!」
「でね、龍神側から来たって事だけど、エルチェ?って子の事で来たんだよね?」
「ええ……エルチェと心桜さんに会わせたくて……」
「でも!エルチェは……いない……」
「いなくなっちゃった……エルチェの想いが……」
――シズクは感じられなくなったエルチェの想いを取り戻したかった。
「そっか……心当たり……実はあるんだよね……でも……」
――シズクには心桜の表情が曇ってみえた。
「……ふむ、まあ落ち込むな。きっとシズクにとって悪い方向へは向かないと思うぞ!」
花梨はシズクの肩にそっと手を置いた。





