第27話 因果応報
シズクは目の前に現れたナキサワメを観て『不思議』と安堵した。
「――シズク!何でそんなに落ち着いていられるの!!」
普段はマシュマロみたいなシズクが、まるで冷たい炎のように心が燃え上がっている。
「エルチェ、私が無駄に何千冊も本を愛していると思っているの?」
光があるなら闇もある。
シズクは『ナキサワメ』から受け取った本について完全に考察していた。
異世界の構成に『数千冊の本から』シズクが今後起きる展開を導き出した。
「シズク……まさかの本が大好き統計学?」
「今後起きる展開を予測しただけ」
「でも、私とシズクがユニゾン出来るって……私教えてないと思うけど?」
シズクはエルチェとユニゾン出来ること、方法を知っている。
どうやって知り得たのか?
「説明書を読んだのよ!」
――デデーン!
シズクは最高のドヤ顔を決めて答えた!
ファバーダ・ストーリーの続きを読んだだけである。
半分程熟読した辺りから『具体的』な戦闘方法が記載されていた。
『ある程度』ではあるが、『魔法と剣術』は理解した。
そして、『ドールオーナーはユニゾンによる能力強化』が出来る事も読み終えていた。
ドールの持つスキル・能力を活用できるようになった。
シズクがドールを貰えるようになった事に『とても喜んでいた』のは、この能力の事もあったからだ。
但しリスクもある。2人体制から、1人になる。多くの人数がいれば問題ないが、ソロで行動だと不利になる。
数の力がつかえないからだ。
「……エルチェ……体感させて貰いましょうか。100年の鍛錬の成果を!」
シズクは俊敏な動きと剣捌きをを見せた!
……しかし、最大の問題が……。
「それで、エルチェ。この後どうしたらいいの!?」
浄化方法などは無策だった!
シズクと一緒に来ていた七海がヒントをくれた。
「汚水を浄化するには、『物理濾過』『バクテリア』『活性炭』を行うと水は綺麗になるわ」
「アクアリウムの話だけど、でも水道局の設備も似たような構造で水を浄水しているよ」
アクアリウムと水道局の浄水システムのレクチャーを受けたが……。
一旦引き返して浄水器を作って持ってくる?
しかし、現実的ではない。
……やはりここは討伐が正解だとシズクは確信をした!
「あの!シズク!無茶苦茶やる気満々に剣を構えてるけど、『神様』だからね!」
「……ただ、ナキ様の浄化能力が著しく低下しているの」
「今、ナキ様は『契約者』がいない状態が長い間続いている」
……そしてナキは語り出す……。
「……答えよ……主は……我を救うものか……」
「……我の汚れを救うものか……」
シズクは答える。
「ええ!私は貴方を救いに……浄化に来ました!」
シズクはナキの問いに答える。
「我も……もう……老いた……」
「我は願う……我を引き継ぐ神を支えよ……」
「……あの子はまだ若い……我の闇を告ぐには……まだ若い……」
「故に導く供が必要……我の願い……紡いで……」
アルハンブラで出会ったナキとは別の神様のように思えた。
シズクはナキから試練を受けると思っていた。
しかし、ナキにその力は既に無く、浄化能力が枯れ、今まさに尽き果てる時だった。
こんなに孤独なのか?
これでいいのか?
シズクは今出来うる事がないか考える。
考える。考える。
山のようにシズクは本を読んだ。
しかし、シズクは『神の最後を看取る本』など読んだ事がない。
「シズクちゃん、神の死とは信仰が無くなったとき、人々に忘れられた時に存在が消えるの」
「だけど、彼女はちがう……大往生され若き神に継承の時が来た」
「人も神も等しく、最後の時が来る」
「長い時を護り続けた神にも休息が必要かもね」
シズクは『本』能的に思い出した。
アルハンブラのナキも元々こちらの世界で『神』だったと。
引退をし、過ごしているのだと語っていた。
鋭気を養うために『ファバーダの精霊』となり、穏やかな日々を過ごしていた。
――大きな矛盾。
「ナキが2人いる?」
――浄水釜から戻る際に言っていた事も思い出す。
――「そちらの世界の……『私』……仲良く……」
っと語っていた。
色褪せた世界、静まり殺伐とした空間に『ドアの開く音』が響く。
タバコ屋から住人であろう人物が出てきた。
タバコ屋の彼女も『この異空間』へ巻き添えを食ったのだろうか?
彼女と言っても……年齢は初等部高学年くらいだ。
「……!」
彼女は今の現状を見て戸惑う!
「って?オバア?」
「オバァ!どう……どうしちゃったの!?寝てなきゃダメ!!」
「なによ!この……黒いの……!!」
「お前らか!オバァを苦しめる厄介共は!!!」
「病で伏せてるオバァを苦しめる亡霊共は!」
彼女は目に涙を溜めて今にも泣きそうな表情だ!
彼女の目から涙が一筋流れ地に落ちるる……!
『一筋の涙の軌跡』が剣となり、彼女の足元へ落ち突き刺さった!
流れ出る『汚泥』が剣に触れると、触れた水は浄化したように見えた……。
彼女は剣を取り、『汚泥』の上に……ナキサワメの前に仁王立ちになり剣をシズク達に向ける!
「オバァを連れて行くな!!!」
彼女は、シズク達に弁明の間すら与えずシズクに斬りかかる!!
「――シズク!避けて!!」
エルチェは心の中でシズクに叫ぶ!!
シズクはエルチェの想いにシンクロするかのように剣を捌き彼女の一撃を受け流し、素早く交わした。
受け流した瞬間、彼女の涙の軌跡から生まれた剣は、ガラスのように音を立て割れ地に落ちる。
落ちた剣の破片は汚泥に触れると『みるみる浄化』した!
そして、何度も何度も何度も彼女は涙を流し、剣を出しシズク達へ斬りかかる!!
まるでシズク達を受け入れたくない『駄々っ子』のようにシズク達へ斬りかかる!
シズクとエルチェが彼女と剣を交えるうちに、『彼女の心』が伝わってくる。
シズク達が『彼女の祖母を殺す』存在だと。
シズクはエルチェのシンクロのお陰で、『子供相手』には十分な技能を獲得できたいた。
だが、彼女を打ちのめす事が出来なかった。
それは、彼女の祖母と彼女の別れを意味する感じがした。
彼女の気持ちを受け止めるように、涙の軌跡を受け止める。
受け流し続けた涙の軌跡が、この世界に広がり、色褪せていた世界に色が戻る。
そして、井戸から噴き出ていた汚泥も彼女の涙の軌跡で浄化されていく。
彼女の涙の力で、『ナキに纏わり付いていた闇』は消え、浄化される。
闇が晴れたナキは泣き崩れる彼女を抱きしめ語り出す。
「ありがとう、『ナキ』ちゃん、私はもう旅立つ……」
「オバァダメだよ!!私が……私が……」
泣き尽くした彼女の目から最後の一筋の涙が落ちようとしていた。
ナキサワメはシズクに話す。
「彼女……私の孫の『沢村ナキ』と仲良くしてくれますか?」
シズクは答える、アルハンブラで約束した。
「はい、約束ですもの。ありがとう……カフェオレ美味しかった……」
「今度はナキちゃんと一緒にワッフルと一緒に……」
そして……ナキサワメは最後の言葉を紡ぐ……。
「……」
ナキサワメは言葉を紡げなかった……。
「おばあちゃんとして、『ナキ』の幸せを願いたい……神なんて重荷を背負わせたくない……」
「本心は……神なんてなって欲しくない……」
ナキサワメは涙を流す。
「神は長く人々の信仰を受け人々に寄り添い生き続ける……」
「ナキには、人の子として限られた時間を命イッパイ生きて欲しい……」
「神は我が子達が死んでいくのを長き時を見続けていく……」
「……シズク……。ナキを神にしたくない……」
ナキサワメはシズクに嘆願する。
「……私は幸せだ……孫のナキに看取って貰える……」
「オバァ!死んじゃ嫌だ!おばぁが助かるなら……一緒に居られるなら……私……神になるよ……!」
シズクは……ナキの想い、ナキサワメの想い……どちらも紡ぎたい。
ナキサワメは安らぎを求める。
……が、それはナキを神にする事になる。
ナキはナキサワメと共に過ごしたいと願う。
ナキは沢山の涙を溜めていた。
――シズクは……。
シズクは……『鍛冶士の証』をファバーダから召喚した!
そしてシズクは、ナキの涙を指で拭った。
拭った涙を振り払うと、涙の軌跡が剣となり、剣が宙に舞う!
宙に舞う剣を手に取り、シズクは『ナキとナキサワメ』の軌跡を紡ぎ出す……。
「涙の軌跡、『軌跡の剣』と名付ける!!」
「軌跡の剣よ、ナキサワメの想いを引き継ぎ、契約者『沢村ナキ』と共に生き、支え……」
「ナキサワメ……剣を宿り木とし、永遠の眠りにつけ」
「ナキと共に終わり来る日まで共に歩み続けよ!!」
散らばったナキの涙の破片が剣に集まる。
そしてナキサワメは『軌跡の剣』との融合を望む。
沢村ナキとナキサワメの想いが叶う。
同時にナキには短い人生で辛く悲しい時が訪れる。
「う……うわぁぁぁあ!」
人生で初めての一番の悲しみがナキを『成長』させる。
それは、小さな彼女にはとてもとても悲しい永遠の別れ。
だが、彼女も理解している。
ナキサワメ……おばあちゃんにとって「安らかな時」へ誘われる事も。
やがて穏やかに安らぎを求めるように異世界から元の世界へと収束していく……。
ナキが手に入れた軌跡の剣は、姿を変貌させブローチに形を変えた。
――ナキと共に歩むために。
元の世界に戻ると泣き崩れるナキとシンクロを解除したシズク、七海の三人は古墳の前に戻った。
――ナキサワメが眠る墓の前に。
ブローチを手にしたナキはタバコ屋へ走りだす……。
「おばぁ!!」
ナキはタバコ屋の中へ……自分の家へと戻った。
傍観していた七海がシズクに話しかける。
「ナキちゃんのおばあちゃんが危篤だったのね」
「……そう……なるよね……展開的に」
「でも、こんな偶然あるかな?ナキちゃんは……神、ナキサワメの血族になるのかな?」
「シズクちゃん、ナキちゃんの家行ってみる?」
シズクは少し考える……。
今はそっとしてあげた方が良いのか?
お土産に持って来た『ワッフル』と『ナキサワメの本』を手にして少し考える……。
「……私、この本とワッフルを彼女に渡したいと……思った」
シズクは『ナキサワメの本』の表紙を開き1ページを開いてみる。
――本は白紙になっていた。
それどころか、真っ白の『日記帳』に表紙は『水色の可愛い絵柄』に変貌していた。
丁度、小学生が持つにふさわしい日記帳に。
シズク達が彼女の家の前に行くと、中からナキが出てきた。
「……おばぁ……死んじゃった……」
「……一緒に看取ってくれて……」
「……ありがとう……」
ナキはシズク達に祖母の旅立ちに立ち会ってくれたことに感謝の心を伝えに来た。
シズクは彼女の気持ちに応える。
「これ……貰ってくれるかな?」
シズクは日記帳とワッフルを彼女に渡す。
『沢村 ナキ』は『軌跡の剣』と『可愛い日記帳』を手に入れた。
「貴方たちと初めて会うのに……私がワッフル好きなの……」
ナキはまた大きな涙を流し出した。
ナキにとってワッフルには祖母との思い出があるのだろう。
シズクと七海は今日は帰ることにした。





