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ゾンビシティサバイバル  作者: ディア
第2章 - 関東脱出編
51/57

051. サバイバルゲーム (1)

 マンションの屋上、そこには二人の人間がうつ伏せになって静かに留まっていた。

 通気性の悪そうな戦闘服を着込み、口元はガスマスクに覆われていて素顔はよく見えない。一人は双眼鏡を覗き、もう一人はアサルトライフルのスコープを覗き込んでじっと留まっている。


 しばらくして、遠くにある広場にサラリーマン風のゾンビがよたよたと歩いてくる姿が見えてくると、スコープを覗いていた一人は銃を構え直してそのゾンビに標準を合わせた。

 ゆっくりと息を吐きながらトリガーに指をかける。そして、スッと息を短く吸って呼吸を止めると、静かにトリガーを引いた。


『パシュンッ!』


 サイレンサーによって軽減された発砲音が鳴り渡り、銃から弾丸が放たれたことを知らせた。

 だが、その銃口の先にいるゾンビは撃つ前と変わらない様子で立ったままでいる。

 

「MISS。……いま、ヘッドショットを狙おうとしたね?」


 双眼鏡を覗いていた方がもう一人に話しかけた。ガスマスクによって声は少しくぐもっていたが若い男性の声であった。


「……だって、そっちの方が当たると気持ちいいし」


 銃を構えていた方が少しバツの悪そうに答えた。こちらは若い女性の声。その回答を聞いた男性は、女性に聞こえない程度にため息を吐いて会話を続けた。


「いいかい、彩葉(いろは)? あんな遠くで動いているゾンビの頭なんて簡単に当てられるもんじゃないよ。狙うなら当てやすい胴体か脚を狙って。でないと射撃練習にならないよ」

「それはわかってるって。まったく、(じゅん)はずっと真面目なんだから……」


 そう言って彩葉と呼ばれた女性は再び銃を構えて狙い定めた。ターゲットとなるゾンビは先ほどから足を止めて移動していない。

 彩葉は再び呼吸を止めてトリガーに指を置き、そして素早く引いた。


『パシュンッ!』


 発砲音と共に再び銃から弾丸が放たれた。弾丸は狙い通りまっすぐ飛んでいき、その狙いの先にあったゾンビの体に命中すると、ゾンビは撃たれた衝撃でバランスを崩して倒れ込んでいった。


「HIT」

「よし! どう、これなら良いんでしょ?」

「うん、上出来だ」


 声から伝わるくらい得意顔になっている彩葉に、純も少し嬉しそうな声で応えた。そして、純は双眼鏡を覗き直すとすぐに次のターゲットを見つけた。


「ほら、次が来たよ。今度は……」


 サラリーマン風ゾンビの後を追うように別のゾンビが現れていた。服装から察するにゾンビは女子高生の成れの果てのようで、自分達よりも若く幼いように見えたが、ゾンビであることに変わりはない。

 相手が生前どんな人物だったとしても、ゾンビなら躊躇することなく殺せるようになる必要があると考えていた純は彩葉に射撃を促した。


「女の子を撃つのには少し抵抗があるかもしれないけど、これも練習だよ。相手が誰であってもゾンビ相手なら迷う間もなく撃てるようになるた──『パシュンッ!』


 純が言葉を言い終わらないうちに彩葉は撃ち始めていた。弾丸は女子高生ゾンビ目掛けて飛んでいって脚に命中すると、その女子高生ゾンビの倒れていく姿が遠くに見えた。


「……HIT」

「フフン、相手が女の子だからって躊躇すると思った?」

「そりゃあ、まぁね……」

「生憎だけど、あたしはそんなに甘くないですよ! いつまでも守られてばかりいるお姫様じゃないんだから!」

「……まぁ、その意気込みは頼りになるよ。それにしても、短期間でよくここまで射撃の腕が上達したね。もう僕より上手かもしれない」

「あたしの隠れた才能だったのかも? あ~あ、あたしにこんな才能があるんだったら純と一緒にサバゲーしておけばよかったなぁ」

「平和になればまたできるようになるさ。そのためにも、まずは生き残らないとね」

「うんそうだね。じゃあその時になったら、あたしが純を守ってあげる!」

「ははは……、それは期待しておくよ」


 純と彩葉の二人は雑談を続けていたが、それを(さえぎ)るかのように屋上出入口のドアが開く音が聞こえた。

 その音に気づいた二人が背後を振り返ると、そこには二つの人影が見えていた。純や彩葉と同じく戦闘服にガスマスクで身を包んでおり、やや細身の方はアサルトライフルの銃口を下げて構え、もう一人の恰幅(かっぷく)の良い方は銃を背中に担いで両手にビニール袋を下げながら立っていた。

 その二人を見て、純は少し安堵した様子で言葉をかけた。


「おかえり。周辺はどうだった?」

「この辺り一帯は住宅街だな。ゾンビはそこまで多くないが店も全く期待できないぞ」

「ゾンビが多くないと分かっただけでも十分だよ。とにかく、偵察に行ってきてくれてありがとう。弘人(ひろと)森田(もりた)さんなら大丈夫だと思っていたけど、無事に戻ってきて良かった」

「当ったり前だろ。オレがゾンビにやられるわけねぇよ」

「それもそうだ。それに、なんだかんだで収穫もあったようだしね」

「おぉそうだった。森田さん、袋を」

「あ、はい。コンビニがあって、そこに食べ物がけっこう残ってましたよ」


 森田と呼ばれた恰幅の良い方が持っていたビニール袋の中身を純に見せると、袋の中にはカップ麺や缶ジュース、それに少ないながらも菓子類が詰まっているのが見て取れた。


「うん、いいね。これだけあれば今日明日は食料品に困らなくて済みそうだ」

「あっ! これあたしが好きなやつだ! 持ってきてくれてありがとう、森田さん!」

「いえいえ、適当に持ってきただけですから、気に入るものがあってよかったです」

「オレにもお礼を言ってくれよ彩葉ちゃん。一応、命懸けだったんだぜ?」

「福井さんにも感謝してますよー、ありがとございまーす!」


 そう言いながら彩葉は袋の中身を物色し始め、その暢気(のんき)な様子に三人は少し気を緩めたが、純はすぐに気を取り直して次の行動に取り掛かろうとしていた。


「とりあえず四人集まったし、そろそろ移動しようか。今日の寝床も探さないといけないし」

「ん? このマンションには留まらないのか?」

「どこの部屋にゾンビが居るかもしれないからね。全部の部屋を調べ回るわけにもいかないし。それに、まだ余裕があるうちにセーフハウスとなりそうな家の候補を見つけておきたいんだ」

「純くんの意見に私は賛成ですよ。まだ日も高いし食料の心配がないなら探索を続けた方が良いかと」

「あたしも判断は純に任せるよ。あたしじゃどうすればいいかわかんないし」

「みんながそう言うならオレも反対しないけどよ、銃弾はまだ大丈夫なのか?」

「それは心配ないよ。少なくなってきたら、また基地まで取りに戻れるしさ」


 そう言って純は近くに置いてあったリュックを指差すと、そこには銃弾の入った箱と弾倉がいくつも顔を覗かせていた。

 総数はわからなくともすぐに銃弾が尽きないことがわかると、弘人も納得した様子を見せた。


「じゃあ、食料品は各自手分けして持って出発準備を」

「あたしが少し多めに持つね。これくらいなら余裕だし」

「では、私は前と同じく弾丸運びを担当しますね」

「それでお願いするよ。僕と弘人は進路の安全確保と二人のフォローに」

「オーケー。ゾンビを見かけたら全部撃ち殺すからな」


 純と弘人が前衛に立って戦い、彩葉と森田が荷物運びと後方警戒を行う。それがこの四人の基本的なフォーメーションであった。

 それぞれが役割を担い、行動する。それがチームで動くものだと理解している純はメンバーに合った作業を割り振って指示を出していた。この四人が生き延びられてこれたのは、全員がこのチーム行動を是としたためであり、素人集団だとしても今のところこのチーム行動は効果的に機能していたのであった。


「みんな準備できたね。それじゃ、このマンションから出よう」

「おー! ……って、向かう場所も決めてるの?」

「一軒家の多いエリアを見て回りたいから、とりあえず広場を抜けて住宅街の方だね」

「あたしが仕留めたゾンビの近くを通って、てことだね。わかった」

「おぉ、彩葉ちゃんもゾンビを仕留めたんだ」

「さっきそこから狙撃したんだよ! しかも2体も!」

「へぇ~、だいぶ射撃が上手くなったんですね」

「うん、これからはあたしも戦えるから期待してね。純の代わりにあたしが前衛になってもいいよ」

「それは……、まだちょっと任せられないかな」

「え~~、さっき純より射撃が上手くなったって褒めてくれたじゃん」

「ハハハッ、純は純なりに彩葉ちゃんのことを気遣ってるんだよ。それに、彼女に守られる彼氏じゃ格好つかないしな」

「うん、まぁその理由だけじゃないけど、それで納得して欲しいね」

「ん~……仕方ないなぁ」

「ありがとう。それじゃ気を引き締めて出発だ」


 そうして四人はマンション屋上を後にして、外へと繋がる階段を下り始めていくのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゾンビ狩りを楽しんでるのではなく射撃練習してたんですね。でも、近くを通るときにとどめを刺されそうですから一刻も早く逃げないとだめですね。 今回の敵となる人達中々連帯感あって強そうですね。これ…
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