052. サバイバルゲーム (2)
『登場人物』
純:
20代半ばの若者で、四人のリーダー的存在となっている人物。
チームで相手と戦うということが好きで高校生の頃からサバイバルゲームを趣味としており、大人になってからもサバゲーサークルを立ち上げて、そのリーダーも務めていた。
銃の腕はそこそこだが、頭の回転が速く洞察力にも優れており、的確な指示を出すことでリーダーシップを発揮して皆を率いている。
柔和な物腰で優しい雰囲気を常に醸し出しているが、割とリアリストな性格。
好きな銃はコルトM1911。
彩葉
純の彼女で、商学系の大学に通っていた学生。
少しお調子者な性格で、深く考えるよりも直観に従うタイプ。様々な点で純とは真逆な存在だが、その二人がどうして知り合って付き合うことになったのかは誰にもわからない。
純の所属するサバゲーサークルには参加しておらず、今までモデルガンすら触ったことがなかったが、『あの日』以降に手に入れたアサルトライフルで日々射撃練習を繰り返しており、最近は射撃の腕前をどんどんと上げている。
好きな銃は無し。(そもそも銃の名前を知らない)
弘人
純のサバゲーサークルに所属していたメンバーの一人。本名は福井 弘人。
向こう見ずな性分から四人の中ではアタッカーを担っており、サバゲーの時から『最も早く殺し、そして殺されること』をモットーに突撃戦法を好むという猪突猛進的な部分もあるが、純の指示にはきっちりと従って活躍するところから皆の信頼は厚い。
射撃の腕は四人の中で最も長けていて、これまで倒したゾンビの数もメンバー内で一番多いのが秘かな自慢。
好きな銃はフォステックOrigin-12。
森田
サバゲーサークルのメンバーであり四人の中で最年長。本名は森田 隆一だが、皆からは森田さんと呼ばれている。
子供の頃から大きな体格の割に引っ込み思案な性格だったが、ふと見た映画の中で自分と同じように体格の大きな人がスナイパーで活躍している姿に感銘を受け、スナイパーに憧れるようになる。
今でもスナイパー好きは変わらず、サバゲーでも常にスナイパーライフルを愛用していた。
好きな銃はマクミランTAC-338。
悠気
銃なんて興味無かったが、つい先ほど大嫌いになった。
阿依
てっちりよりてっさの方が好き。
ハァ……ハァ……、呼吸が、荒い…………。
痛みや息苦しさは感じないが、だからこそ余計に大丈夫なのか不安に感じる……。ふと、ゾンビに呼吸は必要なんだろうかと考えがよぎるが、そんなくだらない事を考えている場合じゃない。
……たった今、俺達は銃で撃たれた。
俺に当たった銃弾は胴に穴を開けて肺にまで達し、さっきから息をする度に『ヒュー、ヒュー……』と空気が漏れ出る音が聞こえてくる。
肋骨に当たったせいで銃弾は背中まで貫通しなかったようだが、当然のように銃弾が当たった部分の骨は砕け折れているようだ。これが頭に当たっていれば即死だったかもしれないな……。
……そして、俺と同じく阿依ちゃんまで撃たれてしまった。
右脚を撃ち抜かれただけで命に別状が無いことはわかっているが、その彼女は先ほどから焦燥と絶望が入り混じった表情を浮かべながら何か言いたげに俺の方を見ていた……。
言葉で言わなくても言いたいことはよく伝わってくる……。あれだけ偉そうに安全確保の蘊蓄を語っておいてこの体たらくなんだ、あとで好きなだけ俺を責めてくれてもいい……だが、今はとにかくこの窮地から脱出しないと……!
どこから撃たれたかはわからない。せいぜい右の方から撃たれたことくらいだ。そして、恐る恐る右の方を見ても、そこに人影は見当たらない。銃声らしき音も聞こえなかったし、遠くから狙撃されたということなんだろうか。
相手はこっちの居場所がわかっているのに、こっちは相手の姿すら見つけられてないだなんて最悪な状況だな……。
ただ、俺の手足は何事もなかったかのようにちゃんと動くし、撃たれた箇所の出血もだんだん勢いが収まってきていて、このまま動けなくなって死ぬようなことはなさそうだ。
問題は阿依ちゃんの方だが……彼女の方に視線を戻すと、今はスマートフォンを取り出して何かを必死に入力していた。
そして、その入力する手が止まるのと同時に俺のタブレットPCにメッセージが届いた。
<<なんなんですくこれ!? 私、撃たれたんてすか!?>>
画面に表示された打ち間違いの文面からも阿依ちゃんの焦りようが伝わってくる。銃で撃たれたこと自体はわかっているようだが、既にパニック寸前の様子だ……。
俺だって余裕があるわけじゃないが、ここで同じように焦っているところを阿依ちゃんに見せるわけにもいかず、ぎりぎりで冷静さを装いながらタブレットPCでメッセージを返した。
<<残念だがそうみたいだ。おそらく遠くから人間に狙撃されたらしい>>
<<いきなり? そんなん私達なんもしてへんのに!>>
<<ゾンビというだけで襲う理由は十分なんだろう。ゴメン、まさかこんな所で銃を持った人間が居るなんて思いもしなかった俺が悪かった>>
そう送信しながら俺は阿依ちゃんに向かって頭を下げた。申し訳ないという気持ちも確かにあったが、今は少しでも阿依ちゃんの気持ちを落ち着かせるようためにも大人しく謝ると、その思いが伝わったのか阿依ちゃんのいっぱいいっぱいな表情も少し落ち着いてきたように見えた。
<<とにかく、今はこの場所から離れるのが良さそうだ。撃たれた右脚は大丈夫? 移動できそう?>>
<<えと、よくわかりません。ただ、脚を動かそうとしても動かなくて……>>
<<わかった、俺が代わりに診てみよう>>
どうやら阿依ちゃんはまともに動けないらしい。それが怪我のせいなのか、撃たれた恐怖で足がすくんでなのかわからないが、せめて立てそうかどうかだけでも知りたかった……。
まぁ撃たれた自分の傷口を見るのは勇気のいる行為だとはわかるし、ここは俺が頑張るしかない。
俺は再び狙撃されないことを祈りつつ、頭をなるべく低くして地面に這いつくばりながら阿依ちゃんの元へと近寄っていった。
筋力はあっても匍匐前進で進むのは大変で、たった数メートルの距離を移動するのにも思った以上に時間がかかったが、なんとか阿依ちゃんの近くまでたどり着くと、俺は阿依ちゃんの右脚を診ようと覗き込んだ。
地面に這いつくばりながら女子高生の脚を凝視するなんて変質者以外の何物でもないように思いながらだったが、目の前の惨状を見ればそんな雑念もあっけなく吹き飛んでいった。
そこには、内側に大きく抉れて不自然なまでに細くなっていた阿依ちゃんの太ももがあった。当たり所が悪かったのか肉を根こそぎ持っていかれたようで、傷口の出血は止まらず辺りには既に血溜まりができていた。
これが人間なら間違いなく失血死していただろう……。幸いながら阿依ちゃんはゾンビなので死ぬことは無いにしても、とてもすぐに立って歩けるようには見えなかった。
<<あの、私の脚どうなってました?>>
<<素人診断だが、これは歩けそうにないな……>>
<<そんな……>>
阿依ちゃんが歩けないことは誤魔化しようがない事実だった。もちろん、俺に治療なんてできるわけがないし、仮に治療できたとしてもこの傷じゃすぐになんとかできるものでもない。
このまま阿依ちゃんを置いていく訳にもいかないし、こうなった以上、俺が阿依ちゃんを運ぶしかないだろう。
……だが、そうするのには一つ問題があった。
<<阿依ちゃん、俺の背中に乗ってしがみついて。匍匐前進して少し離れたら、そのままおんぶして運ぶから>>
<<でも、悠気さんはリュックが……>>
<<それはわかってる>>
阿依ちゃんを背中に乗せて運ぶためにはリュックが邪魔になる……。それはつまり、阿依ちゃんの代わりにリュックをここに置いていくしかないということだ。あれだけ頑張って準備した荷物を一度も使わずに置いていくだなんて心苦しいばかりだが、それを惜しんでいる余裕すらない。
うつ伏せになりながらリュックを腕から外し、せめて護身用に斧だけは持っておこうと取り外してからリュックを近くの雑草の中へと放り入れると、これで準備ができたと阿依ちゃんにアイコンタクトを送った。
阿依ちゃんは微妙な表情になりつつも右脚を引きずりながら俺の背中へと乗って肩につかまり、俺は阿依ちゃんを背に乗せながら匍匐前進で元来た道を戻り始めた。
────
悠気と阿依が広場から離れた数分後のこと──。
「あれ、居ない……?」
広場にたどり着いた彩葉は思わずそうつぶやいた。そこには、先ほど撃ち抜いたはずのゾンビの姿は無く、閑散とした景色だけが広がっている。
「彩葉さんが撃ったっていうゾンビですか?」
「うん、この辺りに倒れているはずなんですけど……」
森田の質問にそう答えながら彩葉は周辺を見渡すが、付近にゾンビの姿は影も形もなかった。
「彩葉ちゃん、木陰か何かをゾンビと見間違えて撃ったとかってオチはない?」
「そんなことないですよー! 純だって撃って当たったところを確認してたんだし! ねっ、純!」
「うん、彩葉がゾンビを撃ったことは間違いないよ。それにほら、あれを見て」
そう言って純が指差した先には大きな血溜まりと点々と続く血の跡があった。
「あれって……血?」
「おそらくゾンビのね。どうやらまだ動くくらいには元気だったらしい」
「あの血の跡の先にはゾンビが居るということですか」
「なら早く追いかけて仕留めてあげないと! 死にかけのまま長時間放置なんて可哀そうなことさせたくないよ!」
「早く殺してあげるのは大切だけど、そればかりに気を取られるのが一番危険だよ。慎重な行動を大事にね」
「そうそう、それに血の跡は住宅街の方に続いてるようだから、今から探索するついでに倒せば良いって」
「むぅ~、わかりました~」
そうして、四人もまた悠気達の後を追って広場から足早に出ていくのであった。




