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襲撃と国

 ライカに締め落とされたリーンは、ゆっくりと覚醒する。部屋はもう暗闇に包まれていた。


(私は……そうだ……あのライカってやつに……)


首に少し痛みが走る。リーンは起き上がろうとした時、自分に何か抱き付いている、と気づいた。暗闇に目が慣れ、その抱き付いてる物を見ると


(チェーザレ……?!)


 リーンに抱き付きながらチェーザレは静かな寝息を立てていた。リーンはワケが分からん、と抱き付かれている手を振りほどこうとしたが


「どうか、そのままで……とても心地よさそうに寝ていらっしゃるので……」


 男の声がした。声の主を見ると、そこには隻眼の銀髪の男、ガインが佇んでいた。ライカの姿は無い。


「王子が起きてしまいますので……どうか貴方も御休みください、貴方の命の保証は私がします」


 リーンは子供好きだった為か、チェーザレを起こすのを躊躇うかのように小声でガインに尋ねた。


「どういうことだ、私の正体に気が付いたのなら……」


ガインは小さくため息を吐きながら……


「ライカの気まぐれだと思ってください。どちらにせよ……貴方に選択権はありません」


リーンは自分の体から武器が消えている事に気が付く。そして通信魔術の触媒すらも無くなっている事にも。武器も無い状態でガインから逃げるのは不可能だ、とリーンは判断した。しかしこのまま黙って眠るわけにも行かない。ガインがいくら命の保証をしたとしても、それを守る理由など無いと。


「私をどうする気だ、人質にでもする気か? 悪いが私にそんな価値は……」


「シア・ヴェディヴィア……」


ガインは、リーンが語った名を口にした。それを聞いてリーンは一瞬震える。


「ヴェディヴィア家と言えば……コルネスでも有数の貴族でしょう。しかもその貴族の娘が……コルネスの王家へと迎えられたと聞きます……」


リーンは頭を掻きむしりながら、ガインを睨みつける。


「ヴェディヴィアの名は偽名として語るには……いささか不自然です。ならば……咄嗟にご自分の本名を口にしてしまったと言うほうが納得が行きます」


 バレている。リーンは観念するように、チェーザレに布団を掛けなおした。


「王家に迎えられたのは妹だ……私は逃げたがな……」


リーンは自分に抱き付くチェーザレの頭を撫でる。そしてガインを見つめながら、尋ねた。


「お前は何処まで知ってるんだ……」


ガインは答えない。




その時、部屋のドアが静かに開いた。冷たい空気が流れ込んでくる。部屋に入ってきたのはライカだった。


「ガイン、貴方も休んだほうがいい、見張りは私が変わる」


ライカはそういいながら、ガインと交代し椅子に座り、ガインはリーンに会釈した後、部屋から出て行く。


そしてライカはリーンに抱き付いてる王子を見ながら、つぶやいた。


「可愛い……いいなぁ……私も抱き枕にされたい……」


リーンは思わず、王子を庇うように布団で隠す。それほどライカの顔がニヤついていた。






 


 シェルスはガインに、リーンを処刑すると脅され情報を全て話した。だが自分の体に埋め込んだ触媒の事は話さなかった。リーンが接触してきたのは最初、直に会った時だけだとガインには言った。


「リーン……殺されてないよね……」


 触媒からは一切通信は来ない。シェルスはベットの上で腰掛けながら、窓の外を見る。月とマシル大聖堂が見える。


 これからどうなるのか、とシェルスは考えていた。この騒ぎの終着点はコルネスの王子と姫がスコルアに到着するまでだ、とシェルスは思っていたが、先日グリスに言われた言葉が頭から離れなかった。


『チェーザレ様を殺します、貴方さえいれば問題ない』


(グリス隊長は本気だった、私が逃げようとすればチェーザレを殺すつもりだったんだ……でも、チェーザレを殺せば……下手をすればコルネスを敵に回すことにもなる……レインセルの王子が居なければ、誰がコルネスの姫と……)


 リーンからコルネスの姫は貴族から迎えられたと聞いていた。その貴族出の王族とチェーザレを結婚させ子供をつくらせるとも。


(そして私は……コルネスの王子と……)


 そうなればシェルスはコルネスへ行くことになる。


「王権の復活……まさか……」


グリスは言っていた。目的は王権の復活だと。それならば何故チェーザレを殺すと言ったのか、ただのハッタリとは思えなかった。


(もしかして……グリス隊長には別の目的があるんじゃ……)


シェルスは考える。王権の復活以外の目的を。グリスが求める結果とは何なのかと。


(わからない……情報が少ない……)




コンコン……



 その時またも夜中にノックされる。しかしリーンであるはずも無く……シェルスは警戒しながら返事をする。


「はい……どうぞ……」


ゆっくりとドアが開かれる。そして入ってきたのは


「シェルス様……」


一人の聖女だった、シェルスはホっとしながら月夜に照らされる聖女を見る。しかし……


「シェルス様……逃げ……」


ドサ、と……聖女は倒れる。聖女の背中には直剣が刺さっていた。


「な……だ、大丈夫?!」


シェルスは倒れた聖女の傍に駆け寄るが、聖女はすでにこと切れていた。


シェルスは、こと切れた聖女に謝りながら背中から伸びる剣を握り、抜く。


そして部屋の外の様子を伺う。静かな物だった。いや、静かすぎるとシェルスは思う。


(まさか……結界……)


あの時と似ている、とシェルスは思いだした。かつて伝説の魔人によってジュール大聖堂に閉じ込められた時の事を。瀕死のレコスが自分を助けてくれた事を思い出しながら、部屋から出た。


 物音ひとつしない王宮を歩く。自分の足音ですら静けさに掻き消されているような気すらした。聖女の背中に突き刺さっていた直剣を両手で持ち、周りの気配を探りながら進む。


(おかしい……なんで見張りの騎士すら……)


「キャアァー!」


 悲鳴、恐らく聖女の物と思われる悲鳴がした。上の階から。シェルスは走り、階段を駆け上る。そこにはチェーザレが監禁されている部屋がある。長い廊下を走り抜き、チェーザレの部屋まであと少し……と言うところで、背筋に寒気が走った。


「っくっ!」


咄嗟に背後へ剣を振った、ギィン! と、謎の襲撃者からの攻撃を凌ぎ、大きく後退しつつ前を見据える。


(誰……誰なの……)


シェルスは、月明かりで確認しようと、ゆっくり後退するように移動する。襲撃者が月明かりに晒されるように……注意深く後退する。


襲撃者の顔が月明かりに照らされる。


その顔に、思わずシェルスは震える。


「腕を上げたな。今の不意打ちを躱されるとは思っていなかった」


そう告げる襲撃者、シェルスは心の中で、なぜと繰り返した。


「思えば……騎士になんぞすべきでは無かった。心から……私は後悔している」


淡々と語る襲撃者。その鋭い眼光が、シェルスへと浴びせられる。





「ウォーレン……元騎士団長……一体……何を……」




ウォーレンは右手に剣、左手には聖女の首と思われる物がぶら下がっていた。


「終わらせるのだ。この国をな。もう一度、我々は大戦からやり直すのだ。その為にも……シェルス姫君、貴方には死んでもらう。殺したのは……コルネスからの刺客だ……」


ウォーレンは聖女の首を転がす。そして剣を両手持ちに構え……




「シェルス姫、貴方はあの一年間で……この国の神と言っても過言ではない存在になったのだ」




ウォーレンは、シェルスに向かって間合いを詰める。月明かりの中、立ち尽くすシェルスに向かって……


そして、今まさにシェルスの心臓を一突きにする……その寸前でウォーレンの剣は止められた。


「貴様……っ、一体なんのつもりだ……」


シェルスの目の前には黒髪長髪の女騎士、シェルスに襲い掛かるウォーレンの前に立ちはだかる


「ライカ……隊長……」


シェルスは嘆くようにその名を呼ぶ、ライカはウォーレンの剣を力で押し返す、そしてシェルスの手を掴み、チェーザレが眠る部屋へと放り込んだ。


「ウォーレン……貴様……何を考えている……」


ライカはウォーレンと対峙しながら、ドアを閉め、外から自前の魔術で結界を張る。冒険者上がりのライカは魔術も習得していた。


「もう止められんぞ、ライカ。そこをどけ」


「何を考えているのかと聞いているんだ! 貴様、王権の復活はどうした?!」




レインセル歴戦の怪物、ウォーレン。


彼の目的は大戦。


月明かりが差し込む廊下で、ライカとウォーレンは対峙する。



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