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騎士の形

 農村で朝を迎えたイリーナ達は、朝食を済ませた後、再び宿屋のラスティナ達が泊まっている部屋で会議を開いていた。議題は勿論、シェルスと王子の救出だが……


『以上が私が調べた状況だ。シェルスも至って普通だったぞ。飯を完食するほどにな』


机の中央には、通信魔術の触媒が置かれていた。淡く光るそれはリーンと繋がっている。


報告を聞いたガリスが怪訝な顔をして呟く。


「また厄介な奴が警備についてるな……ライカにガインだと……」


ラスティナとステア、クラリスは首を傾げるが……


「どちらも連隊の隊長だ。特に……ライカは厄介だ。元々冒険者だった奴をウォーレンが引っ張ってきたんだが……恐らくシェバに次ぐ実力者だ」


イリーナが嘆くように言う。こいつを黙らせる事が出来るのはシェバしかいない……と。

しかしレインセル最強の騎士と唄われるシェバも大人しく監禁されている。


「騎士団長は動かんだろう。立場もあるが……自分の娘が人質なんだからな」


モールスは立ち聞きをしつつ、イリーナを見ながら言い放つ。


騎士達は同意見だったが、クラウスは何やら珍しく腕を組んで静かに考え込んでいる。


「おい、クラウス……なんだ、なんか悩み事か?」


そんなクラウスを見てガリスが質問するが……


「いや……おかしいとは思わんか。この布陣に……」


その言葉にイリーナはクラウスを見ながら、黙って話を聞く。


「おかしいって……何がだ」


ガリスはクラウスに続きを話せと請求する。


「ガインはともかく……なぜライカまで……やつは元々冒険者だぞ。なぜあちら側にいる。王権が復活しようがしまいが……奴には関係ないはずだ。ライカとは幾度も共に魔人の討伐に赴いているが……奴は騎士道なんぞ大層な物は持っていない、あるのは自分の腕を磨いて試すという欲求のみだ」


クラウスの言う事は分かる……と、モールスは顔をしかめつつ


「クラウス隊長……貴方の知らない所で……ライカ隊長も騎士道に目覚めたのかもしれんし……我々の知らない所で王家と何かあったのかもしれませんぞ、特に奴は元騎士団長直々に引っ張ってきたんでしょう」


モールスのいう事も最もだったが……イリーナは突破口の無いこの状況では、クラウスの言ってる事が希望に思えてくる。


「なあ、リーン。ライカ隊長と接触出来ないか? 他愛のない話でいい。少しでも会話してみてくれ。そのうえでお前の印象を聞きたい」


『分かった、善処する……が、トイレに行くときくらいだな……奴が部屋を出るのは……本当に女か?』


リーンのいう事に思わず吹き出すイリーナとクラウス……ガリスとモールスは顔を見合わせる。


「気を付けろよ。さっきも言ったがライカ隊長は相当の手練れだ」


『了解、やばくなったらトンズラするさ。それと礼のコルネスの王子と姫の件だが……コルネスから船で来ているとしたら相当かかる。時間はあると思いたいが……いざとなったらどうする。戦争を起こしてでも……チェーザレを連れ戻すのか?』


イリーナは、シェルスもコルネスへ連れていかれるという事は聞いていた。だが……


「それを決めるのは私達じゃない。私達が動く前に……レインセルで一番危険な魔術師が暴れるかもしれんしな……」


そこに居る人間がゾっとする……確かにヤツならやりかねないと……


『まあ、とりあえず私はライカとやらと接触してみるが……印象か……これでも人を見る目はあると思いたいな。じゃあな』


リーンが通信を切り、媒介の淡い光が消える。今はリーンに頼るしかない状況が歯がゆいと、そこに居る誰もが思っていた。


「イリーナ、どうする。俺達はこのままここで待ちぼうけか?」


モールスが腕を組みながらイリーナへと話しかけるが……


「おいおい……なんで私に言うんだ、そこに隊長が二人も居るんだぞ」


と、イリーナはクラウスとガリスを指さすが……ガリスはソッポを向き、クラウスは頭をポリポリ掻きつつ。


「人質はお前の娘だ。例えば私が見捨てろと言ったらお前は従うのか?」


その言葉にイリーナは観念したように、手をプラプラ振りつつ……


「わかった……とりあえず……作戦は私が建てる……と言っても何も思いつかんが……ラスティナ、何かアイデアないか……」


いきなり振られたラスティナはおどおどしながら……


「え、えっと……ナハト様も……リエナ様も大人しく捕まってるだけとは思えません……できればお二人とも連絡を取りたい所ですが……恐らく魔封じを掛けられてると思われますし……」


「あー、そういえば……手錠の魔封じは高度だったなー。思わず見惚れてしまった」


クラリスが机に突っ伏しながら言い放つ……その言葉に、暗唱の宝石の魔人が反応する


『シンシアの腹違いの妹の貴様が言うのだ、よほどの者なのだな。心当たりはないのか、ラスティナ』


「私も……あの魔封じは見たけど……ハナト様も押さえつけれるような魔封じとなると……ゼシル様……」


ラスティナは一人の老人を思い出す。今はレインセルの政を収める老人を


「意地悪じいさんか……確かにな……王子を人質に取られて脅されたか……」


「でも、もし本当にゼシル様があの魔封じを組んだのなら……何か突破口となるものが……」


あの老人なら何か仕掛けているだろうと、ラスティナは推測するが……



と、クラリスがポケットからラスティナに焼き切られた手錠の断片を取り出す。


「これで調べれるなー?」


一同は思わずクラリスに向けて拍手した。







 リーンは聖女のフリをしながら王宮に潜りこんでいる。その間はひたすら雑務や炊飯の支度を手伝わされていたが……事情を知る聖女に仕事を変わってもらい、今はさりげなく王子が監禁されている部屋の前に来ていた。


コンコン……とノックする。すると、ガインが対応した。


「ああ、貴方は先程の……どうしました? 何か……」


「いえ……その……」


リーンは照れながら、ガインから目を外しライカを見る。もちろん照れているのは演技だが……


目があったライカは、察したようにリーンに近寄り


「ガイン隊長、ここは私が……」


ライカは部屋の外に出て、ドアを閉めリーンと対面する。


「どうしました? 私に用ですか?」


ライカは首を傾げながらリーンに話しかける。その態度は先程王子に食事を与えていた様子とは違い、しっかりとした風格の持ち主のように見えた。


「いえ……その……」


リーンはわざとモジモジしながら……


「私は先月聖女になったばかりでして……今のこの状況が……正直分からないのです……周りの聖女達に聞いても何も答えてくれません……ですが、騎士の中で唯一の……その……失礼ですが……女性の方に……」


ライカは、ああ……と、どこか納得したように


「正直……私も良く分かってないんです。グリス隊長は知っていますよね、彼には借りがありましてね……それを返しているに過ぎません。まあ、そうですね……クーデターと言えば……大体分かってもらえるでしょうか……」


ライカは顎に手を置き考えながら……


「しかし……イリーナ……彼女と敵対しているこの状況は……いささか不満ですね……あぁ、すみません、これは個人的な事です、忘れてください……」


リーンは心の中でガッツポーズを取る。少なくともこの騎士は味方に付く可能性があると。


「ぁの……イリーナ様というのは……もしかして、シェルス姫様のお母様の……」


「ん? 随分詳しいのですね、新人なのに……」


リーンは慎重に話を進める


「いえ、実は……イリーナ様は私の……命の恩人なのです……ライカ様、私は……イリーナ様の敵なのでしょうか……」


ライカは困った顔をする。目の前で今にも泣きそうな聖女を見ながら、オドオドしつつ……


「敵……といえば聞こえは悪いですが……」


「ライカ様……こんな事を言ってはいけないのでしょうが……私達のしている事は……」




「そこまでにしておけ、聖女」




後ろから声がかかる。その声の主はグリス・ノリスカート。


リーンは心の中で舌打ちする、もう少しでライカが落とせる所だったのにと。


「ライカ隊長殿、持ち場に戻れ」


グリスにそういわれ、ライカは部屋の中に戻っていく。


「聖女よ。悪いが途中から聞かせてもらった。お前の気持ちは分かるが……」


リーンは背筋に寒気が走る。そして咄嗟に隠していた短刀を出し、自分を一閃する剣を受け止めつつ後退する。


「やはり……鼠か……」


金属音を聞いて、ライカが部屋から再び出てくる


「何事ですか?! グリス隊長……?」


「鼠だ、ライカ隊長殿、始末しろ」


リーンは舌打ちしながら、逃走を試みる……が、


「待ってください、グリス隊長……この者は……イリーナの手の者ではないのですか?」


グリスは怪訝な顔をしながら、ライカを睨みつける。


「そうだ、だから始末しろと言っている」


ライカは何か決心したように片手剣を抜く。そしてリーンに向かい合った。


リーンは窓を破って逃げようとしたが……それよりも早く、ライカがリーンに一気に間合いを詰め、首を鷲掴みにする。


「がっ……」


リーンは宙づりにされ、意識が遠のく……そのままライカによって締め落とされた。


「始末しろと言ったはずだが……」


グリスは不満そうな声で、締め落としたリーンを抱きかかえるライカに言うが……


「別に……貴方に従う義理は無い……私が仕えるのはシェルス様とチェーザレ様のみ……今は貴方への借りを返しているだけだ。この女性をどう扱おうが……私の勝手でしょう」


グリスは怪訝な顔をし、剣を構えるが……


そこにガインが二人の間に割って入る


「お二人とも、落ち着いてください……チェーザレ様が……」


ライカとグリスはにらみ合っている……


「ガイン隊長……私のしている事が不満なら今すぐ切り捨ててください。出来ないのなら……この女性は私が預かります」


ガインは、なんとなく状況を飲みこむが……ライカがこんな真剣な顔をするのは久しぶりだと思いつつ……


「わかりました……グリス隊長……剣を下げてください……」


ガインは自分の直剣に手を掛ける。グリスが斬りかかってくるものなら切り捨てると言わんばかりに


「貴様ら……裏切るつもりか……」


「裏切るものなにも……我々は貴方の部下ではない。共に王権の復活を望む騎士同士です。我々の行動は己が必要と感じた事柄です。連隊騎士なら……お判りでしょう」


ガインが完全にライカの側に着いた事で、グリスは分が悪いと剣を引き、去って行った。


ガリスはライカを見つつ……


「あまり心配させないでください……」


「ああ……」


それだけ言うとライカは部屋へと戻り、チェーザレの隣にリーンを寝かせる


「チェーザレ様……申し訳ありません……抱き枕と思ってください」


ライカはリーンの体を調べ、武器を全て没収し……通信魔術の触媒を見つけると、懐にしまう。


「少し狭いですが……元々広いベットですし……大丈夫ですよね」


ライカはチェーザレの顔をニヤついた顔を浮かべながら言い放つ……



チェーザレは頷きながら、承諾した。



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