奴隷の大恩
ローレンスの宿屋に部屋を取り、今後の方針を決める3人。とりあえずは装備を揃え西の辺境へと向かう為の情報を仕入れる事と決まった。
「ラスティナ、ステアをお願い、私はちょっと調べたい事があるから……」
シェルスは気になっていた。この街に店を構えるアルベイン家の事が。
「わかりました、とりあえず最低限の事を叩きこんでおきますね、ステアに……」
ステアは頭を抱えながら、ラスティナの書いたレインセルの構図を見て唸っている。
「お願い、日没前には戻るわ」
それを見て思わず口元を緩ませながら、シェルスはまず、この街の騎士団の詰め所へと向かった。情報を仕入れるのであれば、まずは聞きやすい所からだろうと思いつつ。
ローレンスの衛兵達は皆、重装備な鎧を装備していた。様々な人間が集まる街だ、何があっても不思議ではない為だった。
専属騎士の詰め所に行き、アルベイン家についての情報を仕入れる
「すみません、私はスコルアの騎士ですが……アルベイン家の事について少しお伺いしたいのですが……」
シェルスが話かけたのは40代そこそこの騎士だった。髭を蓄え、鋭い目つきの騎士だった。
「アルベイン家? 何をご所望ですか、聞かずとも、この街を取り仕切る商家の一つですが……」
シェルスが気になっている事、それはアルベインという貴族がマーケルにも存在している事だった。
「アルベイン……という家名に少し……えっと……」
なんと聞けばいい、マーケルにも同じ家名の貴族があるなどと、この街専属の騎士に言ってもいいのだろうかと悩んでいると
「あぁ、もしや貴方様は……なるほど、イリーナの……」
「え……ぁ、あの……母をご存知で……」
専属騎士は笑いながら、シェルスの顔を見ながら
「私は既に知っているから良い物の……あまり、その事は言わぬ方がよろしいですぞ。特にこの街では……少し人の居ない場所に移りますか、こちらへ」
専属騎士は詰め所の奥、ある一室に入りシェルスを招き入れる。紅茶を入れシェルスの前に差し出しながら正面に座ると
「私とイリーナは、とある任務で同行しまして……確か、奴も名乗っていましたな。イリーナ・アルベインと。それに対して違和感をお持ちですか、シェルス姫君、いや、今は騎士でしたな、失礼しました」
シェルスは首を振りながら、
「何かご存知なのですか……? 母と、この街のアルベイン家は何か……」
「まあ、率直に言いますと、貴方が心配しているような物ではありません、マーケルの貴族であるアルベインと、この街のアルベイン家は無関係です」
そ、そうなのか、とどこかホっとするシェルスを見て、騎士は
「それにしても、若い頃のイリーナにそっくりですな。そうして騎士の格好をしているとますます似ている。」
「ま、まあ……娘ですから……」
言いながらシェルスは、紅茶を一口飲みつつ
「あの、さきほど無関係と申されましたが……なら、偶然なのでしょうか、アルベインと言う家名は……」
専属騎士は一瞬考えるが
「偶然ではありません、この街のアルベインという名前は、イリーナが助けた奴隷へ与えた家名です」
奴隷……? とシェルスは首をかしげる
「10年ほど前イリーナが連隊騎士として、この街へと訪れた際、例によって奴隷商を見つけましてな、見つかる相手が悪かった。イリーナは容赦なく奴隷商を切り伏せましてな。」
自分もだ……とシェルスは思いながら、騎士の話を聞きつづける
「その時助けた奴隷の中に、当時のイリーナと同じくらいの女性がいましてな、名前すら与えられていない奴隷でした。イリーナは何かその奴隷に感じるものがあったんでしょう、他の子供の奴隷の世話をする代金として、今まで自分に与えられた財を全てその奴隷に与えたのです」
イリーナっぽい……と思いつつ、シェルスは頷きながら
「その時、名前の無いその奴隷に、アルベインの名前を与えました。その奴隷の女性はアルベイン家を今では、この街を取り仕切るほどの商家へと成長させました。アルベインがジュールお抱えの商家だとはご存知ですかな」
「連れから先程……聞きました」
「あれはイリーナが助言した物です、商人としてやっていくなら、まずは自分が与えた財を全て使い切る勢いでジュールへ売り込めと。イリーナらしいむちゃくちゃな助言ですが……結果だけ見れば大成功でしたな」
それを聞いて苦笑いするシェルス……
(そうか……イリーナは……そういう人だった……)
「ところで……シェルス殿は、この街にどのようなご用向きで?」
「ぁ、はい……実は、同じ隊の騎士を西の辺境まで助けに……」
それを聞いた専属騎士は、目を見開き……
「西の辺境ですと……今、あそこに近づくのは辞めなさい、悪い事は言いません。よからぬ物が出入りしています、連隊の一個隊ならともかく……」
それでも、とシェルスは騎士に告げる。騎士は何か考えながら
「ならばせめてスコルアと連絡を取るべきです、この詰め所の媒介を使用すればスコルアまで通信魔術が使えます。ジュールの騎士団へ繋ぎますか?」
シェルスはそれを聞き、ぜひお願いしますと、通信魔術のある一室へと向かう。手の平程の真珠が宙に浮きあがり、発光していた。
「スコルア、ジュール大聖堂へ」
専属騎士が告げると、淡く真珠は発光する光を変え、大聖堂へとつなげる
『は、はぃ……こちら、ジュ、ジュール大聖堂……連隊騎士詰め所で、です……』
(この声……サリス隊長……)
「サリス隊長、連隊騎士隊、ガリス隊のシェルス・ロイスハートです、今ローレンスで媒介をお借りして……実は……」
と、シェルスはサリスに状況の説明をする。港町でナハトと共に魔人から聞かされ西の辺境へガリスとモールスで赴いたこと、そしてレコスも西の辺境で探索に掛かった事、その探索を行ったラスティナが自分達と行動を共にしている事を
『ら、ラスティナ様?! な、な、あの、姫様?! あ、いや……シェルス殿……じ、じつはですね……マシルで今大騒ぎになってまして……ラスティナ様が居ないと……それが姫様と一緒に行動を共にしてるなんて……ぁ、それと、ナハト様とガリス隊長とモールス殿はスコルアへ帰還しています』
それを聞いてひとまず安心する……が、ということは西の辺境にはレコス一人が……と考えるとそうも言ってられない
『ナハト様に相談したい所ですが……何分……ピリピリしてまして……。で、でも姫さ……シェルス殿と一緒に居ると言うのなら心配は無さそうですね……レコス殿につきましては、こちらからも救援を向かわせるよう指示します……、シェルス殿は……ローレンスで待機……』
「なっ……待ってください! レコスは私の隊の人間です! 私だけ安全な所で待機とは……」
『で、ですよね?! でも無茶だけは辞めてくださいよ?! イリーナ様に何されるか……ぁ、いえ……あの、それとリュネリア様もご無事です、まだ意識は戻っておられませんが……ディアボロスについてはまだマシルは何も掴めていないようです、こちらまで情報が来てないだけかもしれませんが……』
シェルスはその場で通信を聞いていた騎士と顔を見合わせ……
「わかりました……、では準備が整い次第、私達もレコスの救援へ向かいます、ナハト様が……落ち着いたら私とラスティナはローレンスに居るとお伝えください」
『は、はぃ……ラスティナ様の事は今すぐにでも……お伝えしたいところですが……うぅ……』
気持ちは凄い分かる……とシェルスは思うが、そのまま通信を終える。
「まさかディアボロスの復活とは……西の辺境に出入りしていた連中の狙いはそれですか」
話を聞いていた騎士がシェルスに確認を取るように話しかける。
「はい、しかしまだ何も掴めていないようですね……私が聞いた話では復活は確実に失敗するという事ですが……媒介に使われる聖女も無事に助けられたみたいですし、復活はもう心配ないとは思いますが……」
「用心に越したことはありませんが……あと、もう一つ……クランベール家のラスティナ様が……この街に居ると言うのは……」
ギクっとシェルスは目を泳がせてしまうが……
「ぁ、いえ……成り行きといいますか……」
「いや、聞かなかったことにします。しかし何かあれば私にすぐに連絡を。力になります」
シェルスは専属騎士にお礼言い、その場を後にする……随分長話をしていたせいか、辺りは夕暮れ時になっていた。宿に戻ろうと道を戻ろうとした時
「イリーナ様……?」
と、後ろから声を掛けられる、振り向くとそこには、30台前後の女性が……
「ぁ、すみません……人違いでした……」
シェルスの顔を確認するなり去る女性をシェルスは思わず引き留め……
「あ、あの……もしかして……アルベイン家の……」
「ぁ、はい……レイル・アルベインと申します……騎士様」
お辞儀をする女性、そしてシェルスは自分がイリーナの実の娘であることを話した。
「な、なんてこと……イリーナ様に……そんな過去が……」
女性は驚きを隠せずにいた。イリーナが10歳で妊娠していた事自体驚きだったが、産み落とした娘が、今目の前に居ると。
「シェルス様……私はイリーナ様に、一生返せないと思う程の恩を頂いております、この恩を……ぜひ少しでも返させてください、明日……ぜひアルベイン家の本店へいらしてください……」
女性はシェルスに深々とお辞儀をして去って行った。
恩なんて……イリーナはそんな事……下手したら忘れている……と思いながら、宿へと戻る
「ぁ、お帰りなさいませ、こちらはなんとか……詰め込み終わりましたわ」
ぐったりと机に突っ伏すステア……ラスティナが満足そうに笑っていた。




