ローレンスへ
レコスを救う為、ローレンスへと向かうシェルス一行。途中の村々で休憩を取りながら馬車でローレンスを目指す。馬車の荷台の上で、ステアはラスティナと手をつなぎながら正面に佇む騎士を見つめていた。最初の村で奴隷商の馬車を見つけた時、シェルスは何の躊躇いも無く奴隷商を殺した。
(私も……殺そうと思ってた……でも……あんなアッサリ殺すなんて……確かに奴隷商は許せねえけど……)
ステアは以前、港町で騎士達を前にして言い放った。マーケルなど潰してしまえと。しかし今の自分の心境は真逆だった。シェルスが奴隷商を殺した時、自分も殺したいと思っていたのにも関わらず、シェルスに対して嫌悪感が生まれた。
(シェルスは……別に悪くねえじゃねえか……私が自分で言ったじゃねえか……マーケルなんて……マーケルから奴隷を買う国を全部潰しちまえって……自分で言ったのに……なんでこんな気分になるんだ……)
自分が腹立たしい、目の前の騎士が自分の意志を実行してくれたのに、と……ステアは複雑な気分だった。
そんなステアの気持ちを知ってか知らないでか……ラスティナは手を握り続けていた。自然とステアもラスティナの手を以前より強く握っていた。まるで自分のほうが年下で、姉に甘えるように……
「もう少しでローレンスですわね、シェルス様、ステアを着替えさせるのなら……この辺りが宜しいかと……」
シェルスはラスティナの言葉に頷き、馬車を止めてもらう。
「ステア、その格好じゃ盗賊そのものだわ、以前港街で来ていた服でいいから着替えましょ?」
シェルスの提案にステアは黙って頷き……そのまま服を脱ぎ始める。ラスティナとシェルスはステアを庇うように壁を作るが……
(ステア……あれから元気がない……私が奴隷商を殺したと時から……)
シェルスは決してステアの変わりに殺したとは思っていなかった。むしろ自分の私情が強かった。両親共に奴隷としてレインセルへ売られたという話を聞いていた為、いざ売られていく子供の声を聞くと抑えが効かなくなっていた。
(ちゃんと謝らないと……でも、なんて……)
そのままステアの着替えが終わり、ラスティナは再びステアと手をつないで座り、シェルスも座りなおし、馬車をローレンスへと走らせる。
段々と、周りに馬車や人が増えてくる。そしてローレンスの入り口、大正門が見えてくる。ローレンスへと訪れる人間は誰もが、まずは大正門での検問を受けなければならない。それでも奴隷商などは、あの手この手で奴隷を中に持ち込む。あの時のように荷物に紛れ込ませたり、あらかじめ脅しておき、自分の子供だと言い張る者もいた。奴隷の子供への脅しは簡単だった。殺す、という言葉は普通の人間には効かないハッタリだが、売られていく子供にとっては十分すぎる脅迫だった。
検問の順番待ちをし、しばらく経つと、シェルス達も大正門の内部に馬車を進ませ検問を受ける。
シェルスは荷台から下り、ローレンス専属騎士の前で敬礼しつつ
「私はスコルア、騎士団長直属の連隊長、ガリス・マーカス隊のシェルス・ロイスハートです。」
記章を見せ身分を証明する。
ローレンス専属騎士は、ロイスハートと聞き、一瞬驚くが……目の前の女性が、レインセルの元姫君だと分かっても今は騎士として生きている事を気遣うように動揺を隠しながら荷台の二人に目を向ける。
「そ、そちらのお二方は?」
二人は荷台の上で立ち上がり、ラスティナはスカートを摘まんでお辞儀しながら
「私は、ユミル・サラミトス、マシルの魔術師の一人でございます」
えっ、とシェルスとステアは思わず声を上げそうになるがなんとか堪え……
「え、えっと、私は……ステア……ステア……クランベールです……」
家名が思い浮かばず、思わずラスティナの家名を名乗ってしまうステア、それを聞いた専属騎士は
「クンラベール家の……それはそれは、ようこそ、ローレンスへ……記章をご拝見しても宜しいですか?」
ギクっ……とステアは固まるが、後ろ手にラスティナからステアの手へと記章が渡され……ステアは、ぎこちない動きで騎士に記章を見せる。
「確かに。どうぞ、お通りください、連隊騎士殿、魔術師殿、クランベール家ご令嬢の護衛、よろしくお願いします」
敬礼する騎士に、ラスティナとシェルスは敬礼を返す……が、大正門を越えた時、二人の心臓は破裂しそうだった。
「だ、大胆ですね、ステア……まさか私の家名を名乗るなんて……」
「お、お前だって……っ、びっくりしたわ! 誰だよ、ユミルって!」
ラスティナは先程貸した記章をステアから受け取ろうとするが……
「私のお世話係りみたいな人……記章は持っていて、もしかしたら必要になるかもしれないし……」
シェルスはラスティナの様子を見ながら……
「どうして偽名を……? 堂々とクランベール家で入れば……」
「それはクランベール家のラスティナとマリス……この姉妹の悪名高さは騎士様もご存知でしょう? 導火線に火がついた爆弾を街にいれる騎士は居ません、偽名を使ったほうが穏便に済ませれますし、マシル在籍の魔術師と名乗れば騎士は大抵通してくれますしね」
シェルスは地下で眠っていると聞いていた娘がよくそんな頭が回ると思っていたが……
「世の中の事は先程のユミルから教えられていますので……睡眠学習という物ですね、眠りながらユミルの魔術で色々と勉強しているのですよ」
心の中を見透かされたように回答が来る。シェルスは呆気にとられ頷きながら……
そのまま馬車はローレンスの馬車市に預け、3人は街を歩きながら会話する。
「んで……守護霊だっけ、それ手に入れるんだろ?」
ステアが当初の目的を口にする。ラスティナは頷きながら
「それも大事ですが……ここなら色々と装備も整います。ステアもあんな盗賊風の格好では無く、ちゃんとした武具を仕入れたほうがいいと思いますよ」
「えっ……ここってそんなに……確かに賑やかだけど……」
シェルスは二人を守るように周りに気を張りながら前方を歩いている
「ローレンスは基本的に貴族や高官が取り仕切っている街ではありません、3つの大きな商家がこの街を取り仕切っているんです。なので様々な物がこの街には並んでいますよ」
「3つって……喧嘩しそうだな……」
ステアはラスティナの説明に感想を述べながら……
「ある意味常にしていますね、なにせ商人ですから……グランステアード家に、アルベイン家、それにカルスター家ですね。それぞれが得意とする分野で日夜、客の取り合いですね。祭りが多い、と言うのは単純に人を取り入れる為でもありますが……優れた人材を探す為の場でもあるようです」
「ふ、ふーん……?」
ステアは半分、右から左に流れているが……シェルスは、アルベイン家という名前が耳に残る……
(アルベイン……たしかイリーナを捨てたマーケルの貴族じゃ……)
「で? 守護霊っていうのは……どこで買えるんだ?」
「カルスター家のお店ですね、魔工を得意とする家柄で、たしかスコルアにも分家の店が……私のローブもそこで買いましたけど……」
「マコウ……って、なんだ?」
ラスティナはニコニコしながら手を繋ぎ
「ステアは年齢的にはお姉さんですが……まるで私の妹ですね、教えがいがあります」
二人のやり取りを聞いているシェルスは再び混ざりたい……と思いつつ
「そうですね、マコウというのは簡単に言えば魔術の道具を作る事です。通信魔術や探索魔術といった簡単な魔術の触媒を作ったり……守護霊を呼び出す刺青や角笛、剣なども作っていますね」
「へ、へー……そ、そうなんだ……」
ステアは生返事しつつ……
「ちなみにグランステアード家は武具です、たしかステアも持ってましたよね、ハンドアクスでしたっけ……アルベイン家は他の2つに比べて比較的、新しい家柄ですが旗から衣服、皮細工から錬金まで……結構手広くやっていますね。」
「あの斧は盗んだものだけど……結構いいものだったんだなー……」
ラスティナが笑いながら、ステアの手を思いっきり握る
「痛っ! なにすんだよっ」
「お仕置きです、盗むなんて今度しちゃダメですよ」
「し、しねえよ……もう……」
シェルスは二人の会話を聞きながら、気になっていた。アルベイン、偶然だろうかと。イリーナを捨てたマーケルの貴族。その貴族がなぜレインセルのローレンスに店を構えているのかと。
「ねえ、ラスティナ。アルベイン家って新しいって言ってたけど……具体的には、どのくらい前からローレンスに店を構えてるの?」
「そうですね、たしかここ10年の間だったと聞いています。最初の頃は旗を中心に売り込んでいたようですね。ジュールのお抱えになるまで、そこまで有名では無かったですが……」
(アルベイン家がジュールのお抱え……? そんな事、初めて聞いた……)
「な、なぁ、ジュールってなんだ?」
質問するステアの顔を二人が見つめる
「な、なんだよ……」
「とりあえず、宿屋に入って勉強会ですね。クランベール家のご令嬢ですからね」
ラスティナは何処か楽し気に言い放った。




