旅路の途中
シェルスがラスティナを保護した翌朝になっても、レコスが戻らない。
シェルスは通信魔術を使用するが全く応答が無い。
(レコス……? どうしたの……まさか……)
活性化した魔物に襲われ、身動きが取れないのではないか、と考えたシェルスはレコスを探すために探索の魔術を起動する。ナハトにいざというときの為に触媒を貰っていた。しかし……
(港町の周辺……一日で移動できる範囲を探索しても気配すら掴めないなんて……まさか……)
シェルスは最悪のケースを想定する。探索に掛からない、それは探索外に居るか、死んでいるかのどちらかだった。シェルスは居てもたっても居られず探しに行こうとするが……
「シェルス」
ステアが街医者の家から酒場まで戻ってきていた。ラスティナと手を繋いで……
「ステア……と……」
ラスティナはシェルスにスカートをつまんでお辞儀する。どこぞの貴族のように……
「騎士様……、危ない所を助けて頂き感謝いたします……私はラスティナ・クレンベールと申します。マシルの魔術師の一人でございます……」
丁寧なあいさつに思わず、シェルスもお辞儀しながら答えてしまう。しかしそれどころでは無い、レコスが危ないかもしれないのだ。
「おおよその状況は分かっております。先程の魔術は探索ですね。少し触媒をお借りしても、よろしいでしょうか……私も多少ならば、お手伝いできると思います。」
そのままラスティナも探索の魔術を起動する。その範囲はシェルスが行った触媒による探索範囲を裕に超える、倍以上の範囲を探索し……触媒に残された先程のシェルスが行った同じ条件、つまりレコスの気配を探る。
「レコス様と思われる気配を探知いたしました。ここから北西……ローレンスを越え……ほぼ西の辺境、ウォールグ大森林の辺りだと思われます」
それを聞いたシェルスは驚愕する。ほぼレインセルの国土をそのままを探索したというのかと。そしてレコスは西の辺境にいる。ここから移動するのにドラゴンで何日飛べば着くのか分からないほど遠い所に。
「レコスは……無事なのね?!」
シェルスはラスティナに近寄りながら鬼気迫った声で尋ねる……それをステアが不安な目でシェルスを見つめていた。
「はい、ご無事です……しかし負傷なさっています。周りに魔物、魔人の気配はありませんが……」
シェルスは悩む……このまま騎士団の到着を待つべきか。ナハトとガリス、モールスも戻ってこない。そしてレコスの危機を知るのは自分達しか居ないと。ここからスコルアまで通信魔術も遠すぎて使えない。
「な、なぁ……あの姉ちゃん……どうしたんだよ、いなくなっちまったのか?」
やっと事態に追いついたステアがシェルスに尋ねる……シェルスは頷きながら……
「とりあえず……私はローレンスに向かってドラゴンを調達して西の辺境へ向かいます……貴方達はここで騎士団が来るのを……」
「お、おい! ちょっとまてよ! お前一人で助けに行くつもりかよ!」
頷くシェルスを見て、ステアは歯を食いしばり……
「私も行く……これでも盗賊の中では腕利きとか言われてたんだ、足手まといにはならねえ!」
先日、ナハトに言われた言葉をシェルスは思いだす、足手まといだと一言いわれた時の事を。
「分かったわ……でも……危険な目には……」
「なら私も行きましょう、これでもマシルではナハト様の次に危険だと言われてましたから……戦力にはなると思います」
ラスティナが冗談を含めて言い放つ。シェルスは確かに心強いが……と思うが、ナハトの次に危険……という言葉に苦笑いしながら……
「街の人に騎士団への伝言を頼んできます。ステア、貴方は準備を……ラスティナは……」
「ステアを手伝いますわ。」
そう言って二人で酒場へと入っていく。シェルスは騎士団と最初に会話するであろう街の代表へ騎士団の伝言を頼む。自分達はローレンスを越えて西の辺境へと騎士を助けに行くと。ナハトとガリス、モールスも戻ってきてない事も伝えて欲しいと伝言を頼んだ。
(レコス……私の判断は間違っていますか……? 貴方を助けに行くことは……間違っていませんよね……)
シェルスはレコスの事を思い行動している。それが騎士としてどうなのか……と思うが、自分の生みの母親の事を思いだす
(イリーナだったら……間違いなく迷わない……あの人はめんどくさがりやだけど……自分の思った事は即行動するはず……)
剣を握り、今一度騎士の誓いを刻む。必ず守ると。レコスも、ステアも、ラスティナも……どんな事があっても自分が守ると、シェルスは自らの騎士道へ誓った。
ステアとラスティナが酒場の店長に数日分の食料を分けて貰い、荷物を纏めて準備を終えていた。ステアはシェルスが購入した服の中で一番動きやすそうな短パンに、漁夫がきるようなシャツを着て、そのうえに武器を仕込んだコートを着ていた。その姿を見てシェルスは
(いかにも盗賊っぽい……ローレンスに入る時には着替えさせないと……)
ローレンスは度々祭りを開催し、種族、人種を問わず受け入れているが、その代り盗賊などは徹底的に排除していた。もし元盗賊とバレれば……首を跳ねられる可能性すらある。
「シェルス様。守護霊はお持ちですか?」
ラスティナが尋ねる、シェルスは首を振り……
「あいにく私の守護霊は移動には不向きですから……。もし宜しければ、ローレンスで守護霊を仕入れましょう。お金ならば私も多少持参しております」
「分かったわ、とりあえずローレンスで……守護霊を手に入れて移動手段を取り入れましょう」
ラスティナとステアは頷き、そのまま3人は港町を後にする。あらかじめ港町で頼んでおいた馬車に乗せてもらい、ローレンスへと向かった。
「なぁ、ラスティナ……その……手……いつまで繋いでるんだ……?」
ラスティナとステアは仲睦まじい姉妹の様に手を繋いでいる……
「安心しますので……まるで妹がそばに居るようです……ステアはお姉さんですね」
ニコニコ笑いながら対応するラスティナにステアは何も言えず……そのまま手をつなぎ続けていた。その様子を正面から見ていたシェルスは……
(姉妹みたい……混ざりたい……)
と、いつかのレコスのような事を思っていた。
馬車でローレンスに向かうには数日かかる。その途中の村々で休憩しながら向かうのだが……もう日没近くになっており、シェルス一行は最初の村で宿を取ることにした。その村の入り口に違う馬車が停まっている。
「ん? なぁ、シェルス……あの馬車……なんかおかしくねぇか?」
今日の宿を取ろうとするシェルスに、ステアが尋ねる。
「何が……? ただの馬車に見えるけど……」
「荷が下ろされてねぇ……いくら人の少ない村だからって……無人で荷物置いておくか?」
それもそうだ、とシェルスも思うが……
「まさか……奴隷商ではありませんか? レインセルでは禁止されていますが……」
ラスティナの言葉にステアが怪訝な顔をする……もしそうだったら……殺してやると、コートの中に手を忍ばせる。
「任せて」
と、シェルスがステアの手を押さえ、馬車に近づくと……
「あぁ! お待ちを! 騎士様!」
一人の男が村の中央から走り寄ってくる
「どうかしましたか? 私の馬車に……何か不審な物でも?」
まだ何も言ってないのに、この態度……とシェルスは怪しいと思いながら……
「荷を改めさせて貰えますか? 私はスコルア、騎士団長直属の連隊騎士の一人です」
「と、とは申されましても……何分、私共商人は荷の機密を重んじてまして……何かの拍子に自分の荷が何であるかが漏れてしまえば……商売も成り立たなくなることも……」
「そちらの不利益につながるような事はしません。荷についても、他言無用と約束しましょう」
「し、しかし……」
なんだ、この商人は……ますます怪しい……とシェルスが怪訝な顔をしていると……
「おいおい、騎士様よ、いくら連隊の騎士だからって踏み込みすぎじゃねえのか?」
この商人の護衛と思われる男が近づいてくる。大斧を持った大男、体中には戦いでついた傷跡が残ってはいるが……
(どの傷も古傷ではない……この男……ハッタリで傷を付けているだけだ)
「踏み込み過ぎとは……私はただ、荷を改めさせてほしいとお願いしているだけです」
「それが、踏み込みすぎだっつってんだよ! おい、姉さんよ、商売のジャマするなら痛い目みるぜ」
連隊の騎士に喧嘩を売る、その時点でこの男は大した使い手では無い、と……
ゴキャ!
男はそのまま倒れる。白目をむきながら失神する。サリス仕込みの鉄拳が大男の顎を打ち抜いた。
「え? お、おい?」
訳も分からず商人は男と騎士を交互に見る。
「申し訳ありません、荷を改めさせて頂いてよろしいですか?」
「いや、あの……だから……」
シェルスは剣を抜く。自分で感じていた、私が短気なのは母親譲りだと。
「何も出てこなければ、私の剣でも鎧でも差し上げます。連隊騎士の武具なら高く売れるでしょう?」
いいながらシェルスは荷台に飛び乗り、荷の箱の蓋をこじ開ける、商人が騒いでいるのを尻目に箱の中身の野菜や果物を取り除くと……子供の顔が見える……今にも泣きそうな……
「どういう事ですか? この子は貴方の息子さんですか?」
「ぁ、はい! かくれんぼが……大好きな息子でして……」
「たすけて……」
箱の中の子供が涙を流しながら騎士に助けを求めていた。
シェルスは子供の声を聴き歯を食いしばる。
「レインセルでは……奴隷商が極刑だとご存知ないのですか……?」
「いや、あの……だから……その……」
奴隷商は懐からナイフを取り出し、たどたどしい足取りでシェルスに襲い掛かるが……
シェルスは片手で剣を振り折ろし、奴隷商の腕を切り落とす。なんの躊躇いも無く。
「ひ、ぎゃあああ! な、な……」
四つん這いで逃げる奴隷商の頭を掴み、引き寄せ、耳元で呟く
「私の両親も奴隷でした……貴方のような方に売られて……両親は辛い目にあいました」
奴隷商が最後に聞いた言葉だった。




