08
私は思った。
これは、もしかして、師匠を見返す・・・ごほん、師匠の役に立つチャンスなのではないかと。
「足りない」
「カルシウムがですか?師匠いつもカリカリしてますもんね。牛乳飲みます?」
「残念ながら、足りないのは君の頭だったようだな」
「もういいです。牛乳、私1人で飲みますから」
私の気が長いのは、きっとカルシウムを沢山とってるからに違いない。
ごくごく、とコップに注いだ牛乳を一気飲みしている間も、師匠は難しい顔で悩んでいる。
何やら、時折、月光鳥の羽が…満月…いや、他のもので代用…などと独り言が聞こえて来る。
独り言は年取った証拠ですよ、とか言ったら、また嫌味が飛んで来るだろうから言わないけど。
そういえば、師匠は私が小さい頃から同じ姿のままだ。全然老けない。一体何歳なのだろう?
「リザ」
「何ですか?」
「ちょっと、森に材料を取りに行って来る。遅くなると思うから、留守番しててくれ」
「はーい」
という、会話をしたのが昨日の昼。
あれから24時間経ったけれど、師匠は帰って来ない。
本当なら、師匠が帰って来ないことを心配するべきなんだろうけど、あの師匠だからな。
並大抵のことでは、死んだりしないと思う。
というか、私は師匠がお腹に穴が開いたまま魔物と戦ってる場面を見た事がある。
それでも、ぴんぴんしていた。
そりゃ、あの時は師匠が死んじゃうのではないかと思って、泣きまくったし、死なないでー!って言いながら、思いっきり抱きついたけど。
あんな仰天体験をした後じゃぁ、心配も薄れるってもの。
「森に行くって言ってたっけ」
私は魔法が上手く扱えないから、森の浅いところまでしか行った事がない。
いくら私でも、さすがに師匠が心配だからと言って自分の身も顧みず森に飛び込んだりはしない。というか、そこまで馬鹿じゃない。
それでも、気にならないと言えば嘘になるので、私は外に出て小鳥さんがいないか探してみる。
あ、見つけた。これまた、綺麗な幸せの青い鳥だこと。
この子は、いつも見かける鳥さんだ。
「鳥さん、鳥さん。」
私が話しかけると、小鳥は不思議そうに首を傾げてこちらを見上げる。
「あのね、お願いがあるのだけど、聞いてもらえるかな?」
「ピピッ?」
ぱたぱた、と私の周りをその子は飛び回る。
そっと手を出せば、小鳥はそこに乗った。
「もし良かったら、私の師匠がどこにいるか探して来て欲しいの。いつもこの辺にいるなら分かるかな?深緑の髪に、金色の目の・・・」
そこまで言うと、小鳥は了承した、とでも言うように一声鳴いて飛んで行く。
本当に言葉が伝わっているのか定かではないけれど。
きっと、見つけたら、帰って来て知らせてくれるだろう。
師匠ってば、私がこうやって鳥や動物と話してるといっつも馬鹿にするんだから。
『君は独り言が多いな。虚しいと思わないのか?』
とか何とか言っちゃって。
これ、本当にあの子が師匠見つけて来て、一緒に行ったら、少しは私のこと認めてくれるんじゃない?
昔、私がこの力は魔法じゃないか。って聞いたら、動物と話すような魔法は存在しないって一刀両断された恨み、今晴らしてやるんだから。
「さーて、お洗濯でもしますか!」
この時、私は本当に暢気だったのだと思う。
師匠なら何があっても絶対に大丈夫だと、根拠も無く安心していたのだ。




