機嫌を直してくださいよ
「おー! リザちゃんに旦那! よー来たなー! なんや、リザちゃん。今日は、えらいかわええ服着とるなぁ!」
「ありがとうございます! シオンさん、元気でしたか?」
「そりゃもう、元気百倍やで! リザちゃんは、そこの旦那に虐められてへんか?」
「そりゃぁ、もう毎日のようにいじ――」
「リザ?」
「ま、毎日のように優しくして貰ってます……」
後ろで不機嫌オーラ全開の師匠がいるにも関わらず、シオンさんはにこにこしながら私の背中をばしばし叩いてる。
すみません、ちょっと痛いです。
シオンさんと言えば、相変わらずのようで。長めの茶髪に、耳には沢山のピアスがあって、そりゃもうチャラチャラしてるったらありゃしない。
「そうそう、今回は旦那が喜びそうなもん、見つけて来たんやでー」
シオンさんの言葉に、師匠の眉がぴくりと動く。
「ほい、これや! 西の方にあるヴァンパイアの古城で見つけたんやけどな。ヴァンパイア族が書いた言う本!」
「え?! シオンさん、それ本当ですか!」
「ほんま、ほんま! なんや、俺にはよう分からへん文字で書いてあるさかい、内容は全然知らへんけどな」
「ていうか、それ、どうやって手に入れたんですか?」
ヴァンパイア族と和解して、貰って来たのだろうか? だとしたら、シオンさんのコミュニケーション能力を疑う。
ヴァンパイア族は、他の種族より自分たちが優れているということを誇りにしているので有名だ。人間なんかがノコノコ突っ込んで行ったら、すぐさま血を吸われて干涸びてしまうだろう。
そんな私の疑問に、シオンさんは得意げに胸を張る。
「そりゃぁなぁ、この俺の素晴らしい剣術でヴァンパイアをばっさばっさと切り倒し……」
「嘘ですよね?」
「あ、信じてへんな? 見ときぃ、今再現したるわ」
本当にこの場で剣を抜きそうなシオンさんに、今の今まで黙っていた師匠がたしなめるように言い放つ。
「こんなところで暴れるな。それで、いくらなんだ?」
「あ? 何? 買いはるん?」
師匠の言葉にあっさり席に着くシオンさんもシオンさんだ。商魂逞しいというか、なんというか。
そろばんを、ぱちぱちと弾いて、シオンさんはそれを師匠に突きつける。
「これでどうや」
「高い」
「なんや旦那、いつもまけてやっとるやん。今回くらい、素直に払うても罰はあたらんで」
「相場の三倍の額を提示するな」
「俺の苦労代や!」
いぇい! とピースするシオンさんに、師匠が呆れた表情をする。
このままだと、師匠は面倒がって相場の三倍で支払いそうな雰囲気を察した私は、スススっとシオンさんに寄った。
「シオンさん、後ほんの少しまけて貰うことって出来ませんか?」
「んー、しゃぁないなぁ、可愛いリザちゃんの頼みやったら聞いたるわ」
もともと、値段を下げてくれるつもりだったのかは知らないけれど、私の言葉ににっこりして値段を下げるシオンさん。
その様子に師匠が眉を顰める。
あ、不機嫌になった。せっかく、おまけしてくれてるのに。
「ほい。これ以上はリザちゃんがチューしてくれへんと、下げられへんで」
「え? ほっぺたとかでいいですか?」
「なんや、なんや、ほんまにしてくれるんか? 本気にしてまうでー?」
なんて会話をしてる途中、ばしっ、と突然机に叩き付けられた札束に、私とシオンさんはびっくりして師匠を見る。
金色の双眸を細めて、そりゃもう、般若の形相とでも言いましょうか。
あぁ、もう、本当に不機嫌すぎてどうしよう。これ、帰ってから私が苦労するパターンだ。あ、ちょっと涙出て来た。
「丁度だ」
「まいどありぃ!」
シオンさんは本当に師匠の不機嫌に気づいてないのか、そんなことよりもお金の方が大事なのか、札束を手に鼻歌を歌いながら枚数を数え始める。
なんだろう、シオンさん楽しいし良い人だけど、基本的にお金のことしか頭にないよね。
「リザ、帰るぞ」
にっこり笑顔で師匠に言われれば、従う他ありませんとも。
師匠は例のヴァンパイアの本を持つと、そのままシオンさんに何も言わずに外に出ようとする。シオンさんは、シオンさんで、お金に夢中だし。
「シオンさん、それじゃ、また」
「おおう? もう帰るんか?」
この人、声をかけなかったら、私たちがいなくなったのに絶対気づかなかっただろうな。私は苦笑しながら頷く。
「ちょい待ち。リザちゃんに、お土産あるんや」
「え?」
「ほい! 受け取れい!」
「わ、わ……っ!」
シオンさんは、鞄から何か取り出すと、私に向かってそれを放り投げる。
なんとかキャッチしたから良かったものの、落として壊れるものだったらどうするのだろうか。
師匠は師匠で、私の襟首引きずって外に出ようとしてるし。
「ナイスキャッチー! 毎度おおきにー!」
間の抜けた声に見送られながら、私は慌ててお礼を言う。
「ありがとうございます!」
師匠のせいでまともにシオンさんと話が出来なかったと言っても過言ではない。終盤は特に。
外に出てからも師匠が引きずるので、私は手を振り払ってからシオンさんに貰ったものを眺める。
「なんだろ、これ」
赤い宝石のようなものが埋まったペンダント。宝石の中には、うっすらと薔薇の模様が入っているように見える。
初めて見た。綺麗ではなく、美しい、という言葉が似合うようなアクセサリーだ。
トレジャーハンターになれば、こういうものを沢山手に入れられるのかな?と、思うとちょっと羨ましい職業かもしれない。
「見てください、師匠! なんかすごいペンダント!」
「そうか」
「うわー、今度シオンさんにお礼しなくちゃ」
「しなくていい」
「もう、師匠! 機嫌を直してくださいよ! だいたい、珍しい本も手に入れたのに、どうしてそんな不機嫌なんですか?」
私の問いに、師匠はふん、と鼻を鳴らしただけで答えない。一体、何が気に入らないんだか。
私は師匠にど突かれながらも、帰り道でペンダントを見てはシオンさんに何のお礼をしようかと考えた。




