こそこそお出かけ準備
師匠が、なんか、こそこそしている気がする。
口数がいつもより少ない。そして、お出かけ用の荷物を準備している。
その様子に、私はピンときた。
「師匠〜」
背後から近づいて声をかければ、師匠がさも面倒そうに振り返る。
「……なんだ?」
「もしかして、シオンさんのところに行くん――」
「行かない」
被せられた答えに、私は確信した。
「私も一緒に行くから、ちょっと待っててください!」
師匠に否定する暇を与えずに、私はダッシュで自室に向かう。
シオンさんは、たまに街に来る商売人だ。他人には愛想のいい師匠が本性を見せているくらいに、付き合いは長い人らしい。
本人曰く、本職はトレジャーハンターで、世界各国をまわって貴重品を集めて来ては、各地で売り捌いているようだ。
師匠が持っている本だって、シオンさんから買ったものが多い。古文書なんて、普通の本屋じゃ手に入らないもの。
なんだか、私は彼に気に入ってもらっているらしく、お願いするともの凄く高い品物でも結構値下げをしてくれるのだ。
にこにこと人好きのする笑みを浮かべて、変な訛りでしゃべるシオンさんを思い浮かべて私はちょっと浮き足立つ。
普段、師匠としか話をしないから、他の人と話ができるのは、それだけで楽しい。ましてや、シオンさんてば、ちゃんと私のこと女の子扱いしてくれるから、更に嬉しい。
師匠なんか、こき使える弟子くらいにしか思ってないもんね!
「なに着て行こうかな〜」
自室のタンスを漁り、淡いブルーのワンピースを取り出す。そえれから、白いレースに縁取られたカーディガンを合わせ、つっかけのように履き潰した靴からブーツへと履き替える。
さっと櫛を髪に通して、薄めに化粧をすれば出来上がり!
たまのお出かけだし、出来る時にオシャレしなくちゃ!
「師匠! お待たせです!」
今、まさに外に出ようとドアに手を掛けた師匠の背中に飛びつく。この様子だと、何も言わずに置いていこうとしていたに違いない!
「先に行くなんて、ひどくないですか?!」
「重い。降りろ」
師匠はべしりと、雑に私の手を叩く。仕方がないので、背中から降りてあげた。
「シオンさんに会うときは、いっつも置いていこうとするんですから」
横に並んで歩きながら呟けば、師匠がじろりとこちらを睨む。
「 ……どうして着飾ってるんだ?」
「え、だってそりゃ、人に会うんですから」
「会う必要はない」
「私は会いたいのになぁ」
「……家に帰るか?」
「帰りません! 絶対に帰りません!」
強くそう主張しておく。少しでも弱気に出れば、本気で家に帰されるに違いない。
さっさと話題を変えてしまおうと、私は師匠に適当に話を振る。
「今日も本を買うんですか?」
「シオンが何か見つけたなら、買うだろうな」
「前に探してる本があるって言ってましたけど、まだ見つからないんですか?」
「全然だな」
師匠の金色の双眸が、まっすぐ前を向いた。
「今更、見つかるとも思っていないよ」
「ふーん?」
一体、何の本なんだろう? 何回聞いても師匠は教えてくれない。
まぁ、師匠が秘密主義なのは今に始まったことでもないし。
私はそれ以上、深く踏み入るのはやめておいた。




