09
わからない。
わからない、わからない。
自分がいる今が現実なのか。
それとも、さっきまでいた場所が現実なのか。
「し、師匠 ・・・私・・・」
身体が震える。
焦りと不安で呼吸が乱れる。
どっと背中や顔に冷や汗が吹き出してきて、体温がどんどんと下がって行くような気がする。
「リザ、落ち着くんだ」
師匠は私をベッドに座らせると、自分も隣に座り、ぎゅっと抱きしめてくれる。
私も師匠の服をキツく握りしめて、師匠の胸に顔を埋めた。
怖くて仕方が無い。
師匠にしがみつくようにしていないと、自分が崩れてしまいそうだ。
私を助けてくれた師匠が本物なのか。
私と両親を助けてくれた師匠が本物なのか。
「わかんない・・・わかんないよぉ、師匠・・・」
私が涙声でそう零せば、師匠が抱きしめる力を強くしてくれる。
その温かさは、以前、ママが私を抱きしめてくれたときの温もりに似ていた。
「安心しろ。僕が側に居るから。君には辛いかもしれないが、悪夢の原因もすぐに取り除いてあげよう」
「違うの、悪夢じゃないの、師匠。とっても幸せな夢なの。夢なんだけど、匂いも時間の流れも全部本物みたいなの」
そうだ。
あの世界は本物のようだった。
いや、本物だった。
もしかして、こっちが夢なのだろうか?
本当は、パパもママも生きているのに、死んでしまった未来の悪夢を見ている?
「こっちが・・・夢?」
そう呟いた私に、師匠は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「しっかりしろ、現実はこっちだ。君が見ていたものはまやかしに過ぎない」
師匠の胸に埋めていた顔を上げる。
そのとき、ふと、窓を何かが横切ったのが視界に入り、私はそちらに目を向けた。
そこには、いつだったか、どちらの世界だったか・・・もしかしたら、一緒に行ったハーブ採りの行きだったか、帰りだったか。
師匠と一緒に見たふわふわした光が無数に浮かんでいる。
「綺麗・・・」
不思議と、以前感じた不気味さは無かった。
色とりどりのその光が、私にはとても魅力的に見える。
どうして、あの時はあの光が不気味だと思ったのだろう?
「リザ、何を見ている?」
「師匠、ほら、あの光。魂の残骸」
「ここにいるのまで見えるのか?」
「あれって、あんなに綺麗なものでしたっけ・・・」
「やめろ。あれを見てはいけない。綺麗に見えるのは、君の魂がきっと死に魅了されているからだ」
師匠は私が外を見ないように、頭をぐっと肩口に押さえつける。
もっと見たかったのに、と零したら、師匠の手に力が篭った。
「リザ、いい子だから、目を閉じてゆっくり呼吸をするんだ」
「どうして?」
「もう一度、君は夢を見ないといけない」
「眠るの?」
「そうだ。今起きたばかりだけれど、もう一度眠るんだ」
私は師匠の言う通りに、深く息を吸う。
師匠の肩に顔を埋めて呼吸をしているはずなのに、あの甘くて爽やかな匂いはしなかった。
やっぱり、こっちが夢の世界なのかもしれない。
「夢の中で眠るなんて、変なの」
「・・・そうだな、変だな」
「おやすみ、師匠」
「おやすみ、リザ」
起きたばかりで、また眠るなんて。
夢の世界は何でもアリなのだろう。
「リザ、君にあの時の現実をもう一度見せないといけない日が来るとは・・・」
眠りにつく間際、師匠がぽつりとそう零したのが聞こえたけれど、返答する前に、私の意識は遠のいた。




