15
「シオンさん、シオンさん」
「なんや?」
「もし良かったら、今日、夕飯食べて行きます?」
「ほんまに?!リザちゃんの手料理食べさせてくれるん?!」
「来るな」
ぴしゃり、と師匠が会話をぶった切るけれど、シオンさんはどこ吹く風。
ばしばしと私の背中を叩きながら喜びを表現している。
「いやー、呪われた甲斐あったわー!」
「シオンさん大げさ・・・」
「いやいや、女の子の手料理食べれる機会なんて、滅多にあらへんもん」
にっこにこと笑っているシオンさんに対して、師匠の眉間にはぐっと皺が寄っている。
あぁ、いつもの不機嫌モードに入るパターンだ。
「師匠、別にいいじゃないですか。ご飯作るの私だし」
「そういう問題じゃない」
「それに、たまにはゆっくり、シオンさんのお話し聞きたいです」
アリーセさんのこととか、アリーセさんのこととか、アリーセさんのこととか。
心の中で3回呟いて師匠に伝わらないかな、と思ってみるけれど、当たり前のようにそれは伝わらない。
一層不機嫌になって師匠はそっぽを向いただけだった。
「俺の話聞きたいんか?」
「はい。えっと、師匠とどこで知り合ったとか・・・ていうか、私、シオンさんと師匠の関係がいまいち良く分からないんですけど」
シオンさんは目をぱちくりさせると、小さく肩を揺らして笑う。
「関係言うてもな。俺のいた孤児院の先輩が旦那ってだけやで」
「え?孤児院?」
初耳だ。
師匠が孤児院出身だなんて。
「なんや、旦那話しとらへんの?まぁ、一緒に育った訳ちゃうから、たまに孤児院の様子見に来た旦那の顔見かける程度の知り合いだったんやけどな」
「へぇー。じゃぁ、師匠はそこで育ったんですね」
「たぶんなー。アリーセも死にかけてたところ助けた、とだけしか教えてくれへんから、俺も詳しくは知らんのやけど」
アリーセ、という単語に私の耳はぴくりと反応する。
アリーセさんは、師匠の命の恩人なのだろうか・・・?
非常に気になる。
そして、今だ、今が訊くチャンス!
「あの、アリー・・・」
「シオン、あまりリザにべらべら話すな」
前を歩いて無言を決め込んでいた師匠が突如として振り返って話を遮る。
どうして!どうして、いつも勇気を出して、口にした時に遮るかな!
「なんで?別にやましいことあらへんやろ?」
「本当に、お前のおしゃべりは昔から変わらないな」
「そら、しゃべってなんぼの商売しとるからな。この業界では口と金がモノを言うんやで」
けらけらと笑うシオンさん。
そして、上手く話題を逸らした師匠。
残念ながら、入り込む余地がない。
「そや。せっかくやし、手紙出すんやのうて孤児院遊びに行こう思うねんけど。迷惑やろか?」
「大丈夫だろう。アリーセも顔を見せた方が喜ぶ。昨日会ったばかりだが、誰よりもお前を心配していたぞ」
「えぇー?昨日会うてきたんか?」
「お前も魔法が使えれば、一日で着くのにな」
「使えへんものは、しゃぁないやん。せやかて、魔法はからっきしやけど、その分武術のセンスに長けとるねんで。旦那にだって負けんへんわ」
「お前の得意分野なんか、僕には関係ない話だ」
「なんや、つれないなぁ。まぁ、ほんなら、明日出発するわ」
そして、なぜかシオンさんは明日孤児院に出発することに決まってるし。
話に入り込めなくて、疎外感がピークに達しそうだ。
その時、師匠がふと足を止めて私の鼻を摘んで来た。
「ふぁっ?!」
完全にぼーっと歩いてたので、不意打ちを食らった形になる。
間抜けな声が出てしまった。
シオンさんもいるのに・・・!
「ぼーっとしてると転ぶぞ」
「もう!何するんですか、急に!」
「注意してやっただけだろ」
「口で言ってくれれば分かります!」
隣ではシオンさんがこれを聞いて笑っている。
うわぁ、穴があったら入りたい。
「仲ええなぁ」
「シオンさん、違います。私が一方的にいじめられてるんです」
「まぁまぁ。そう言いなや」
「だって・・・!」
「2人が仲良うしとるようで安心したわ。昔、旦那が小かったリザちゃんを連れて来たときは誘拐でもしたんちゃうやろな、て思ってたんやで」
「その話、詳しく!」
「旦那なぁ、あの頃は今よりもっと傍若無人で・・・」
「シオン!」
これは、帰ったらシオンさんのために腕によりを掛けて料理をふるまわなければ!
そして、師匠に何とか口を挟まれないようにしないとね!




