05
「いいですか、絶対に触れちゃいけませんよ!」
「そない心配せぇへんでも、大丈夫やて」
カラカラ笑うシオンさん。
私はシオンさんの実力を知らないから、その様子にすごく不安になる。
どれだけガーディアンの特徴について話しても、この通り微塵も気をつける気ががないようだ。
「ダメだと思ったら、すぐに祭壇の外に出てくださいね」
「リザちゃんは、心配性やなぁ」
シオンさんはへらっと笑うと、腰に下げている2対の剣を抜く。
普通の剣より短いそれは、まるでおもちゃのように見えた。
・・・不安すぎる。
「まぁまぁ、リザちゃんは外で見とったらええから」
シオンさんはそう言うと、躊躇うことなく石の祭壇にひらり、と飛び乗る。
師匠とは違う種類の身のこなし方だな、って思ったり。
師匠もそれなりに動きは良い方だと思うけれど、所詮魔法使い。
どちらかと言うと、戦うときはあまり動かずに呪文に頼ることが多い。
一方、シオンさんは今の動きを見るに軽業師に近いような動きをするみたい。
「お、来よったな」
シオンさんが構えて待っていると、あの時のように黒い蒸気が祭壇から吹き出す。
そして、まだ昼間だというのに、まるで、そこだけ夜を引き連れて来たかのように辺りを暗く染め上げた。
黒い蒸気は段々と形を成し、人形となった中心部に魔法陣が浮かぶ。
「よっしゃ、リザちゃん、俺の勇姿をしっかり見とってやー!」
言いながら、早速突っ込んで行くシオンさんに、私は焦って叫ぶ。
「シオンさん!だから!触れちゃダメです!飲み込まれますよ!」
「おっと、せやった」
あははーと笑いながら、後一歩で触れる、という距離からシオンさんは飛び退く。
私が忠告していたことは、どうやら全て右から左へと抜けていたらしい。
それにしても、あんなに勢いよく突っ込んで行ったのに、よく後ろに飛び退けたものだ。
「んー、ほんなら、これは使われへんな」
シオンさんは両手に持っていた剣をしまうと、鞄から丸いものを取り出す。
「んー、色から推測するに闇系やろか?これ効かへんかったら、退散するしかないわー。リザちゃん、ちょいと目ぇつぶっといてーな」
「え?」
言うが早いが、シオンさんは手に持っていたものを投げる。
それは、あのガーディアンに飲み込まれるかと思ったが、手前で落ち、鋭い光を放った。
「わっ・・・!」
ピピッ!とスノウの声がして、私の服の中に潜り込んだのを感じる。
私は私で、あまりの眩しさに思わず顔を腕で覆ってしまった。
キィィィィン、と耳をつんざくような音が鳴り響き、それから、静寂が訪れる。
そろそろと顔を上げてみると、石の祭壇の上には、にこにこと笑っているシオンさんだけが立っていた。
「え?あれ?ガーディアンは?」
「んー?倒したで?」
「へ?!」
あの師匠が苦戦した敵を、こんなにもあっさりと?!
驚きで口をぱくぱくさせている私に、シオンさんは続ける。
「せやけど、ごっさ魔力持ってかれたわー。閃光弾持ってなかったら倒せへんかったやろな、これ」
かん、とシオンさんが蹴ったのは拳大の石。
ころころと転がって私の目の前に落ちたそれは、魔法陣が刻まれている。
誰かが、これに魔力を込めてガーディアンとして使っていたそれは、今ではもうただの石ころに成り果てている。
「師匠は倒せなかったのに・・・」
「なんや?旦那は倒せへんかったのか?」
「はい」
「まぁ、魔力に頼ってはる人やからな。俺みたいに道具持ってない人間にはきついんちゃうか?ここの祭壇、他人の魔力を吸い上げるなんて、えぐいのなんのって。まぁ、ガーディアンを闇属性にしといたんが祟ったな。影なら閃光弾で消滅させることができんねん」
んー、とシオンさんは口に手を当てて首を傾げる。
「しかしまぁ、ようできとるガーディアンやな。それ、しばらくしたら復活するで」
「え、復活するんですか?!」
「おそらくなー、祭壇で吸い上げた魔力を、そのガーディアンに再利用すんねん。旦那の魔力吸い上げとるんやったら、次はかなり強力なのが出て来るんちゃうか?」
シオンさんの言葉に、私の腕にぞわっと鳥肌が立つ。
慌てて石から離れると、シオンさんの側に寄る。
「ははっ、そんな怖がらへんでも、すぐに復活はせぇへんから」
「ほ、ほんとですか?!」
「ほんまほんま。それにな、これくらい強いガーディアンがおる遺跡にはお宝が、ようさんあんねんで」
「お宝が・・・沢山・・・」
「断言はできへんけどな」
シオンさんは、つま先でとんとん、と祭壇を叩く。
「俺はこれから、入り口探して中に入るけど、リザちゃんはどないする?」
「え?」
「俺と一緒に来るか?」
興味がない、訳ではない。
けれど、私が行ったところでシオンさんの足手まといになるのが目に見えている。
邪魔するのは、申し訳ない。
「えと、私は、その、邪魔になると思うんで」
「邪魔?」
「自分の身も自分で守れないくらい、魔法使えないんで・・・」
あぁ、口にしてみて、本当に情けないと思う。
もうちょっと、攻撃呪文の1つや2つ特技があれば、こんな惨めな思いしなくても済んだのに。
シオンさんはひょい、と祭壇から飛び降りると私の目の前に立つ。
そして、目線を会わせるように屈んだ。
「なぁー、リザちゃん」
「はい?」
「そないなこと気にせんとき。俺が守ったるから、行きたいなら、一緒に行こうや」
な?とシオンさんはにっこり笑って私の手を取る。
師匠なら絶対『お前みたいな足手まといはついて来るな』って言う場面!
何も考えずに頷いた私に、シオンさんは満足したように笑みを浮かべる。
いつもいつもお金のことばっかりだし、ちゃらちゃらしてるけど!
今のシオンさん最高にかっこいい!




