03
「後は頼んだぞ」
「はい。師匠、気を付けてくださいね!」
「リザもね」
そう言葉を交わした後、師匠はトランクに乗って空を飛んで行った。
スノウが追いかけるようにして後をついて飛んで行ったけれども、すぐに戻って来て私の頭の上に収まる。
あの空飛ぶ魔法って確か、反重力魔法と風魔法の複合魔法だったっけ。
風魔法は別にしても、反重力魔法は使うのがとても難しい。
なんでも、万有引力という世界の理に反する法則を生み出す魔法だかららしい。
失敗すれば、重力でぺしゃんこになることもあるのだ。
今思い返せば、石の祭壇から逃げる際師匠が使ったあの魔法はかなり難しい魔法だったはず。
だから、師匠も弱った身体では無言詠唱で発動させることができなかったのだろう。
空を飛ぶ時と言えば、箒に魔法を掛けるのが鉄板だけど、ぶっちゃければ、自分が座れるくらいの大きさならトランクでも、ギターでも、椅子でもなんでもいい。
まぁ、椅子に座って飛ぶ魔法使いとか見た事ないけど。
それ以前に、師匠しか魔法使いを知らないんだけどね。
ちなみに、箒がメジャーなのは、一番バランスが取りやすいからだ。
初心者は絶対に箒から入門する。
「さて、一週間どうしようね、スノウ」
師匠がいない日は、大抵、家で本を読んでるか、庭いじりをしているか、ごろごろしてるかの私だけれど、一週間もそれをやるほど馬鹿ではない。
せっかくなので、1人で街に散策でも行こうかと思ったり。
もちろん、お金は一週間分の食費と予備費を貰っている。
食費を押さえれば、新しい服とか買えるかも。
師匠と一緒だと、ゆっくり見れないから良い機会かもしれない。
「スノウも、一緒にお買い物行く?」
私が頭上向かって訊ねれば、ピィと元気よく返事が返ってくる。
どうやら、一緒に行くらしい。
「じゃ、準備するから、ちょっと待っててね」
私は部屋に戻ると、街へ出かけるために着替える。
やっぱり、外へ出るときはオシャレしなくちゃね!
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街へ下りると、やっぱり賑わいが違う。
森の側に住んでるせいか、魔物や動物の鳴き声、森のざわめきに慣れてしまったけれど、人がいるとこんなにもガヤガヤしているものなんだ。
頭の上に青い鳥を乗せて歩いている私は幾分目立つようで、特に小さい子の目を惹いてしまうようだ。
さっきから、すれ違う子供達が2度は振り返って私を見ている。
同年代っぽい女の子からは、かわいー、とくすくす笑う声が聞こえて来る。
う、うぅ・・・ちょっと怖い。
普段、接する人間と言えば、全く気を使うことのない師匠だけなので、知らない人が沢山いる中に入ると気後れする。
うーん、私、人見知り激しい方なのかな。
比べる対象が師匠しかいない分、自分の立ち位置が若干分からない。
まぁ、人ごみとか嫌いじゃないから・・・大丈夫かな。
「あんれー?リザちゃん、今日は旦那と一緒ちゃうんか?」
急に肩にぽん、と手を置かれて思わず身体が跳ねた。
この変な訛りで、姿を見るまでもなく誰だか分かる。
シオンさんに違いない。
「シオンさんこそ、また商品探しの旅に出たんじゃないんですか?」
振り返れば、予想通り。
明るい茶髪に沢山のピアス。
緑色の目がにこりと笑って細められる。
「んー、それがな・・・お?リザちゃん、頭の上のそれ、なんや?」
「スノウのことですか?」
「幸せを運ぶ青い鳥・・・月光鳥ちゃうかそれ!」
「正解です!この前、友達になったんですよ」
「珍しいなー。月光鳥ってめちゃめちゃレアな魔物やねんで」
触ろうとシオンさんが手を伸ばすと、スノウは警戒するようにピピピっと鳴く。
どうやら、初めて会うシオンさんのことが怖いみたいだ。
そんなスノウの様子に、シオンさんは苦笑を浮かべる。
「スノウ言うんか?なんでリザちゃんには懐いとるん?」
「うーん、なんか、言葉が通じるみたいで」
「ほんまかいな、それ」
シオンさんはカラカラ笑うと、そうや、と言葉を続ける。
「今な、丁度、旦那の家行こうと思ってたとこなんや」
「師匠に用事ですか?」
「せや」
「あ、残念ですけど、師匠なら今日から一週間くらい家空けてますよ」
「あちゃー!入れ違いになってもうたんかい!」
シオンさんは大げさに額に手を当てると、困ったような顔をする。
そういえば、ペンダントのお礼もしてないし、何か私で役に立てることがあればいいんだけど。
「あ、あのっ!私に出来ることなら、何でもしますよ!」
「んあー?ダメもとで訊くけど、リザちゃん、森の中にある遺跡の場所知っとるか?」
「遺跡?」
「なんや、月がよう見える石の祭壇みたいな場所らしいんやけど。そこにお宝が眠っとるいう情報貰ってな」
・・・もしかして、あのガーディアンのいる遺跡のこと?
「私、知ってるかもしれないです」
「ほんまに?!あんな、もし出来るなら、そこに案内して欲しいんやけど・・・お願いできる?」
「もちろんです!あ、もしかしたら、私が知ってるのと違う場所かもしれませんけど」
「ええよ、ええよ!全然、構へんから!ちょびっとでも可能性のある場所に足を運ぶ、それがトレジャーハンターや!」
シオンさんはカラカラ笑うと、私の背中をばしばし叩く。
スノウがそれにびっくりしたのか、頭の上でピィと力無く鳴いた。
こうして、私とシオンさんの小さな冒険が始まる。




