04
とにかく早く帰りたい。
けれども、時送りをできる魔法使いなど早々いないらしい。
頼りのドラゴンは魔力が足りないと言っている上に、手掛かりが無いから無理だと断言している、
「手詰まりだ・・・」
ぼそりと呟いた言葉に、ピィ、とスノウが反応する。
そうだね、と同意しているものの、彼女も師匠がどうなってしまったのかは気になるようだ。
「ため息ついている暇があったら、こっちに来て手伝え」
「はいはい」
何かと不機嫌に突っかかってくるリュルザに、私は適当に返事をする。
そういえば、ドラゴンは龍語を話すはずではないのだろうか?
低い声で唸るようにとは言え、すらすらと人語を操る緑色の鱗の持ち主を私は凝視する。
それが不快だったのか、じとりと睨まれた。
「何か用か」
「用って言うか、リュルザは龍語をしゃべらないの?」
身体が小さいから、きっと子供なのだろうと判断した私は敬語を抜いて話しかける。
それすらも勘に触ったのか、リュルザが年齢に言及してきた。
「これでも、50年は生きてるからな。お前より年上だぞ」
「それって、ドラゴンの年でしょ。人間で言ったらどれくらいなの?」
「・・・16、7くらいじゃないか?」
「それなら、私と同じくらいの年じゃない」
そう言って笑えば、勝手にしろとばかりにリュルザはそっぽを向く。
年が近いと分かっただけで、随分と親近感が湧くものだ。
同い年の唯一の友達がティロだけだったので、交友の幅が広がるのは嬉しい。
目の前に積んである薬草を手にとって、それを煎じながら私は話を戻した。
「それで、龍語は?」
「お前たち人間に理解できない言葉でしゃべっても仕方ないだろう」
「あー、そっか。人語は勉強したの?」
「勉強しないで話せる奴がいると思うのか?」
いちいち嫌味だなぁ、と思うと同時に、どうしても師匠が頭にちらつく。
けれども、深く考えてしまえば、恐ろしい事実に気がついてしまいそうで、私はその想像から目を逸らした。
「いないけどさ。じゃぁ、師匠も誰かに龍語を習ったのかな?」
「師匠?」
「うん。私の師匠。魔法を教えてくれてて、それで、私をここに送った人」
「とんだ師匠もいたものだな。弟子をどことも分からん時代に送るとは」
「違うの。殺されそうになった私を助けるために、そうしたの。でも、師匠も魔力を奪われて・・・」
そこまで言って、私は黙り込む。
以前、祭壇で魔力を吸われて真っ青になったまま倒れていた師匠を思い出す。
今頃、アイリスと師匠はどうなっているのだろうか。
もしかして、身体を奪われてしまったのだろうか?
「さっさと手を動かせ」
「うん」
気まずくなったのか、リュルザがそう私に促す。
不安を紛らわせるために言われた通り、一心不乱に手を動かした。
「魔法は得意なのか?」
「ううん。魔法薬とか作る方が得意。そういうリュルザは、炎魔法とか得意そうだよね」
「見かけで判断するな」
ぴしり、と長い尻尾がしなり、地面を打つ。
「人間と一緒で、ドラゴンにも魔法の得手不得手がある」
「え、じゃぁ、リュルザは炎魔法は得意じゃないの?」
「使える。けれども、僕の一番得意な魔法は、時魔法だ」
「時魔法・・・。ねぇ、時送りって・・・」
「何度も同じことを言わせるな。無理だ」
先回りして否定されて、私は肩を落とす。
けれども、逆に考えれば、リュルザの魔力が増えて、且つ、手がかりさえあれば、元の時代に戻れるということだろうか?
「リュルザー」
そこに、ふらりとアルノーさんがやってくる。
私は薬草を煎じていた手を止めると、そちらを振り返った。
「アリーセが呼んでるよ」
「分かった」
リュルザはパタパタと羽を揺らして、飛んで行く。
私がそれを見送っていると、アルノーさんは手元にある薬草の入った乳鉢を覗きこんで歓声を上げた。
「リザ、煎じるの上手だね」
「あ、はい。師匠の手伝いをよくしていたので・・・」
「師匠?」
そう問われて、私はアルノーさんに自分が魔法を教わっていたことを告げる。
アルノーさんは興味深そうに私を眺めてから、びしりと胸元を指さした。
何事かと思って、私は驚いて後ずさる。
「それ。それも、リザの師匠がくれたもの?」
「それって・・・?」
「ほら、胸元にあるやつ」
「あぁ・・・」
私はそう言って、ペンダントを取り出す。
深緑色の石が日差しを受けてキラリと光った。
「そうです。師匠が私にプレゼントしてくれたんです」
「それさぁ・・・」
言い淀んでから、アルノーさんは首を横に振る。
「ま、いいや。未来のことは興味ないし。それ、リュルザに見せないようにね」
「どうしてですか?」
「魔石だからさ。食べられちゃうよ?」
そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべたアルノーさんに、私はペンダントをしっかりと胸元にしまいこむ。
何かしら魔法に関する道具だとは思っていたけれど、魔石だったのか。
以前、エーデルさんは、師匠と私を引き合わせるもの、と言っていた気がしたのだけれども。
どういった効力があるのか、さっぱり分からない。
「絶対に見せません」
「うん、そうしてあげて。あと、アリーセとエーデルはそれに気づいてると思うよ。それがあったから、時送りのこと信じてくれたんだろうし。君の師匠には十分に感謝してあげてね」
「はぁ・・・」
アルノーさんが何を言いたいのか、いまいち理解できない。
どうして、このペンダントがあると、時送りを信じることになるのだろうか?
首を傾げている私を余所に、アルノーさんはへらりと笑みを浮かべただけで、何も教えてはくれなかった。




