02
アルノーさんは孤児院の扉を些か乱暴な仕草で、ばん、と大きな音を立てて開く。
白塗りの壁に、赤い屋根の平たい家。
私が知っている建物と寸分違わず同じ形をしているが、壁面を覆っているツタは存在しない。
「アリーセ!お客さんだよー!」
「はいはーい!」
奥から聞き慣れたアリーセさんの声がする。
ぱたぱたと走りながら現れたアリーセさんは、私を視界に捉えると小首を傾げた。
そして、私も彼女が透けていないことに絶句する。
「どちら様?」
「え、あの、アリーセさん、ですよね?」
「そうですけど?」
きょとん、としてアリーセさんは小首を傾げる。
もしかして、アイリスなのかもしれないと緊張したが、その仕草は彼女とはとても似つかない。
間違いなく、アリーセさんのものだ。
「えっと、私、リザっていうんですけど・・・」
「ご用件は?」
親しみの欠片もない対応に、私は戸惑って言葉を飲み込む。
初対面の時は、あんなにフレンドリーにしてくれたのに、どうして今はこんなにも事務的な口調なのだろうか?
アルノーさんがいることから、もしかして、とは思っていたけれど、今対面しているアリーセさんが私を知らない素振りを見せ、そして、以前、初対面だったにも関わらず私のことを良く知っている様子だったことから1つの可能性を考える。
「用件、というか、その、私、現状を把握したくて…」
「どういうことかしら?」
「自分でも、何が起きたかさっぱり分からないんです」
ありのままを伝えれば、アリーセさんは困ったようにアルノーさんとリュルザと呼ばれていたドラゴンに視線を向ける。
もう少し、何を伝えるのか纏めておくべきだった、と私は後悔した。
「僕は何も知らない。アルノーが勝手に連れていた」
「オレも知らないよ?だって、彼女、突然現れたんだもん」
「あなたたちが知らないんじゃ、どうにもならないじゃない」
呆れた視線を投げるアリーセさんに、リュルザはうるさいとばかりにそっぽを向き、アルノーさんは気にした様子も無く、にこにこと笑っていた。
「エーデル!ちょっと来て!」
アリーセさんがそう後ろに呼びかけると、腕いっぱいにおもちゃを抱えた、いつもと変わらぬ姿のエーデルさんがひょっこり現れる。
どうしたの、と言いかけて、彼は私に目を留めた。
「新入りの子?にしては、大きいね」
「違うのよ、アルノーとリュルザが連れてきたんだけど・・・。突然現れたとか言っていて」
「さすがのオレにもこの子がどうやって現れたのかさっぱり。魔法の仕業だとは思うんだけどね」
アルノーさんが肩を竦めると、エーデルさんは眉を潜めた。
「アルノーが分からないとなると、難しいね。リュルザは?何か知らないの?」
「そういえば、こいつに会う前に時魔法の気配がしたが・・・」
パタパタ、と翼を上下に動かして飛んでいたリュルザが、金色の目でじっとこちらを見つめてくる。
どことなく、既視感を抱くその色に、そわそわした。
スノウも同じだったのか、もぞもぞと頭の上で落ち着かない様子だ。
「とにかく、本人も良く分かってない様子だったんだけど、アリーセとエーデルの名前を知っていたから連れてきちゃった」
「・・・とりあえず、中に入りましょうか」
アリーセさんは嘆息して、中へと私達を招き入れる。
アルノーさんは、お昼ご飯何かな?とリュルザに振って、知らん。と一蹴されていた。
エーデルさんは訝しむように私を見ている割には、朗らかな笑みを浮かべていて真意が分からない。
その視線が胸元に隠れているペンダントに注がれているような気がして、気まずかった。
「ピィ」
「私も分からないよ・・・」
どうなってるの?と聞いてくるスノウに、私が聞きたいくらいだ、と内心でため息を吐いた。




