表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
料理の巨匠、ダンジョンで魔物メシを提供する ~危険地帯で屋台を開いた結果、冒険者の胃袋を掴んでしまいました~  作者: 絢乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/37

037 ペルノーラ・フロッグのペルシヤード③

 ペルシヤードは、手持ちの食材と調味料だけで十分作れる。

 そこで俺は、クレアとミャオの帰還を待つことなく調理を始めた。


「さて、まずは量産に入る前に一人前の試作といこうか」


 俺が宣言すると、アリスが小走りで隣にやってきた。

 興味深そうに手元を覗き込んでくる。


「まずは下処理からだ」


 ボウルに水と塩、それから白ワインビネガーを入れる。


「魔肉を洗うわけですわね!」


「洗うというよりは、臭み抜きと下味を含ませる工程だ。一般的なカエルは味こそ淡白だが特有のクセがある。ソミュール……つまり塩水処理でそれを抜きつつ、身を引き締めるんだ。だが――」


 俺は説明しながら、切り分け済みの肉をまな板に並べた。

 ペルノーラ・フロッグは後肢が異常に発達している。

 太い部位をそのまま焼けば、表面だけ先に固まって中が遅れてしまう。


「――その前に形を整える」


 肉の最厚部に、5ミリほどの浅い切れ込みを何本か入れておく。

 狙いは火入れを均一にすることだ。

 これを怠ると、表面は焼けているのに中心は生焼け、という失敗作になりかねない。


「シュウジさんの調理は、いつ見ても繊細で美しいですわ!」


「料理人が一番格好良く見えるのは調理中だからな」


 俺は切れ込みを入れ終えた肉を、塩水に沈めた。

 このまま10分ほど放置する。


「そろそろだな」


 塩水から肉を取り出し、流水でさっと流す。


「アリス、ここからが大事な工程だ」


 俺は肉の表面についた水分を拭き取った。


「キッチンペーパーを惜しげもなく使って……すごい徹底ぶりですわね」


「水分が残っていると、焼くときに油が跳ねるし、何より香ばしく仕上がらない。衣も剥がれやすくなるからな」


「ここでどれだけ徹底するかが、最終的な結果に大きく影響するわけですわね」


「そういうことだ」


 アリスが感心したように頷く。

 下準備を終えたところで、いよいよ火入れに移る。


「ようやく、こいつの出番だ」


 俺は昨夜仕込んだエスカルゴバターを取り出した。


「出ましたわね! シュウジさんを寝不足に陥らせた禁断のバター!」


「いや、俺が寝不足に陥ったのはお前が原因だ」


 フライパンを弱火にかけ、エスカルゴバターを溶かす。


「いい匂いですわ……! これだけでパンが何個も食べられそうです」


「こいつは衣用だけどな」


「衣用?」


「パン粉を加えて炒めるのに使う」


 溶けたバターがふつふつと泡立ち、ニンニクの食欲をそそる香りが立ち上る。

 そこに乾燥パン粉を投入し、焦がさないように木べらで混ぜ続けた。


「パン粉がバターを吸い、次第に美しい黄金色へと変わっていきますわ!」


「これが今回の肝になる。パットンの料理にもあったんじゃないか?」


「たしかに、パットンさんも作っていた記憶がありますわ!」


「だろうな」


 こうして、香ばしい〈香草パン粉〉が完成した。

 これを一度バットに取り出し、冷ましてカリカリの状態にしておく。


「次は別のフライパンを中火で熱し、太白(たいはく)ごま油を馴染ませる」


 解説しながら作業を進める。


「頃合いを見計らい、薄力粉を薄くまぶした巨大カエルの後肢を投入する」


 ここで気をつけたいのは、厚い側――切れ込みを入れた側――から、きっちり熱を当てることだ。


 ジュワアアアアッ!


 心地よい調理音がセーフティゾーンに響き渡る。

 同時に、肉の焼ける匂いが一気に広がった。

 周囲の冒険者たちが、たまらず鼻をひくつかせた。


「うわ、なんだこの匂い!」


「めっちゃ美味そう……!」


「本当にカエルを調理しているのか!?」


「別の魔肉なんじゃねぇの!?」


 俺は冒険者たちの視線を感じながら、慎重に火入れを進めた。

 片面をこんがりと焼き固め、裏返す。


「シュウジさん、後肢から先に焼いていることには理由があるのですの?」


「もちろん。他の部位に比べて火の通りが悪いから先に入れたんだ」


「なるほど、火の通りやすさで判断するわけですね」


 太い後肢に火が通ってきたのを見計らい、時間差で他の肉も加える。

 今回使う肉は後肢も含めて二種類しかなく、もう一種類は背肉だ。


「どちらもいい感じに焼けてきた。さあ、仕上げだ!」


 火を弱め、エスカルゴバターを追加で入れた。

 バターが溶けて泡となり、肉全体に絡みつく。


「ここから何をするか、わかるよな?」


「アロゼですわ!」


 俺は「ご名答」と笑い、溶けたバターをスプーンですくって回しかけた。

 フランス料理の代表的なこの技法は、実に素晴らしい。

 芳醇な香りを、肉の繊維一本一本にまで染み込ませてくれる。


「わたくし、アロゼをしているときのシュウジさんが一番好きですわ!」


「画になるからな、アロゼは」


 喋りながらも集中力は切らさない。

 焦がさない範囲で、香りが最高潮に立ち上るのを見極めて火を止めた。

 素早く肉を取り出し、先ほど作った〈香草パン粉〉のバットへ放り込む。

 肉汁とバターを纏った表面に、サクサクのパン粉をたっぷりとまぶした。


「よし! 〈ペルノーラ・フロッグのペルシヤード〉の完成だ!」


 皿に盛り付け、彩りのパセリを散らし、最後にくし切りのレモンを添える。

 黄金色の衣を纏ったそれは、我ながら芸術的だと思える一皿になっていた。


「わぁー! すごく美味しそうですわ!」


「なんだよ、この香り! たまんねぇ!」


「マジでペルノーラ・フロッグなのか!? マジのマジなのか!?」


「信じらんねぇ!」


 冒険者たちが歓声を上げる。


「見た目は悪くないが、問題は味だ」


 魔物料理はここからが怖い。

 完璧な調理でも、素材と合っていなければ不味くなる。

 実際、過去には何度も失敗してきた。

 こればかりは食べてみるまでわからない。


「絶対に美味しいですわ!」


「そうであることを祈るぜ!」


 俺は試作分をナイフで切り分け、二枚の小皿に取り分けた。

 片方をアリスに差し出す。

 もう一方は自分用だ。


「毒見がてら……いざ、実食!」


 俺たちは同時にフォークを口に運んだ。

 目を閉じ、舌に意識を集中させながら咀嚼する。


「うん! うまい!」


 大成功だ。

 サクッとした衣の歯ごたえとともに、弾力のある肉がほどける。

 淡白なカエルの身に、濃厚なバターとニンニクのパンチ、そしてパセリの爽やかな風味が完璧に融合していた。


「うまい、どころではありませんわ! サクサクの衣を噛み締めた瞬間、濃厚なバターの香りが口いっぱいに広がって、たまりません! そのうえ、お肉は鶏肉よりもプリプリとジューシーで、噛むたびに旨味が溢れてくる! レモンの酸味が後味を引き締めてくれるので、これならいくらでも食べられますわ!」


 アリスが大興奮でまくし立てる。

 それを聞いた冒険者たちが、我慢の限界を超えて吠えた。


「うおおおおおおおおおっ!」


「シュウジ、俺にも作ってくれ!」


「早く食わせろ! シュウジ!」


「俺も食いたい! いくら出せば食えるんだ!?」


 面白いことに、冒険者たちは綺麗に整列していた。

 どれだけぎゃーぎゃー訴えても、決して列を乱すことはない。

 一秒でも早くありつくために必要なことを心得ているのだ。


「価格は……そうだな、4,000円にするか。本体価格2,000円に、ここまでの危険手当2,000円ってところだ」


 かなり雑な値決めだ。

 ただ、真剣に考えても同じような価格設定になるだろう。

 危険手当を破格にしているからだ。


 それは冒険者たちも理解していた。


「中層でこんな料理が食えるなら、4,000円なんて安すぎるぜ!」


「違いない! シュウジの料理はいつも絶品だしな!」


 今回もまた、異を唱える者は一人もいなかった。


「大将ー、アリスー! 戻ったにゃー……って、もう営業を始めているにゃ!?」


 ミャオとクレアが帰ってきた。

 魔物や野草がぷかぷか浮きながら、クレアを追尾している。

 エルフにしか使えない高度な魔法の一種だろう。


「シュウジの調理を見逃してしまったか」


 クレアが残念そうに言った。


「安心しろ、まだ試作が終わったばかりだ。これから本格的に売り出す。調理ならこれからいくらでも見られるさ」


「ということは、上手にできたにゃ!?」


 ミャオが鼻をひくつかせながら駆け寄ってくる。


「おう! 今回の看板メニューは〈ペルノーラ・フロッグのペルシヤード~エスカルゴバター仕立て~〉だ!」


「なんだかオシャレにゃー! 響きだけで美味しそうにゃ!」


「私も食べてみたい」


 クレアも興味津々の様子だ。


「まかないでたっぷりと作ってやるから楽しみにしてな! まずは目の前の客を捌くぞ!」


「「おー!」」


 アリスとミャオが元気よく拳を突き上げる。

 クレアも静かに頷いた。


 こうして、本日の営業が幕を開けた。


本一冊分(約10万文字)を執筆したため、いったん終了です!


続きの執筆につきましては、

旺盛な需要や商業化が見込める場合に行う予定です♪


「もっと読みたい」という読者様は、

ブックマークに残しておいてもらえると幸いです。


また、お楽しみいただけた読者様は、

下の星(★★★★★)で評価していただけないでしょうか。

皆様の評価が執筆のモチベーションになっています。


それでは、ここまでのご愛読ありがとうございました。

よろしければ他の作品も読んでやってください♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ