第2話 失われた記憶
ここはどこだろう?
どう考えても家じゃないな。
ベッドから体を起こそうとした瞬間、脇腹にズキッと痛みが走った。
……そうだ。サッカーの練習試合で――
俺は神谷蓮、清栄高校の一年生。
小学生のころからサッカーひとすじ。
昨日は新チームになって初めての練習試合だった。
相手選手とぶつかって、救急車で運ばれて――
肋骨にヒビ、頭も打ってたから、こうして、病院のベッドにいるんだった。
病室の窓から、朝の光が斜めに差し込んでる。
あの夢――
俺は窓の外を見つめながら、夢のことを思い出していた。
おじいちゃんと将棋を指してた、あの頃。
思い出そうとすると、記憶が霧の向こうに消える。
そして、母さんの涙とあの言葉。
蓮は窓の外の青空を見つめながら――
しばらくその記憶を探したが、どうしても見つからなかった。
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二週間後、退院の日。
「――蓮、――蓮ってば!」
病院からの帰りの車の助手席で、ボーッとしてたら母さんに呼ばれた。
「あ、ごめん。なに?」
「もう。何か考えごとしてたの? お母さん、蓮を家に送ったらそのまま仕事に行くけど、あとで、おばあちゃんの家に顔見せてきなさい。心配してたから」
「……うん」
普段なら「えー?」とか言うところだけど、今日は素直に頷いた。
俺の中に、何かが引っかかってる。
夢の中で見た将棋盤。
おじいちゃんとの記憶と、母さんの涙。
その答えの手がかりを探したかった。
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おばあちゃんの家は、俺の家から徒歩五分。
「おばあちゃん!」
「まあ! 蓮じゃない。今日、退院だったのね」
台所から祖母の千景が顔を出す。エプロン姿で、何か料理してたらしい。
「無事退院できたよ。急に来ちゃってごめん」
「何言ってるの。いつでも大歓迎よ」
「……あのさ、おばあちゃん」
少し迷ってから、口を開いた。
「……おじいちゃんの部屋、見てもいい?」
千景の動きが、一瞬止まった。
「え? いいけど……どうしたの?」
「夢で見たんだ。おじいちゃんと将棋してる夢」
千景は驚いたように目を見開き、それからフッと笑った。
「そう……。好きに見ておいで」




