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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第九部 五章「願い星」
272/280

「その身が覚えている熱」

 無意識から急に意識が戻る感覚。

 虚無の様な空間から時はなられ、クロトはハッとする。

 

 ――何が起きた?

 ――今どうなっている?

 ――俺は何をしていた?


 一瞬の間。その刹那が切り取られたような、そんな違和感。

 しかし、眼前には咆哮と共に迫りくる竜の姿が。

 そうだ。炎蛇の炎が押し負け、今は敗北へのカウントダウンがゼロになる瞬間なのだと。

 不死の身でもわかる。この敗北を刻まれ決着がつけば、それは死と同等となる。

 世界が終わり、魔女の望む何者もいない世界と成り果ててしまうやもしれない。

 ……が。それに抗いたくも、どうすればよいのかと頭を回転させる。

 ニーズヘッグも魔力の限界がある。今はそれが燃え尽き、もう一度撃つことすら敵わない。クロトの体力すらも、もはや風前の灯火。今立って打開策を考えようとする事すらなんとかできているくらいだ。

 殺意と【怒り】に支配された空間。鋭く冷たい空気が冷えてゆく身を痛めてゆく。

 だが、あと一歩なのだという勝利への灯火を捨てきる事もできない。

 あと一撃。……あと、たったの一撃。

 炎蛇の炎ほどの、目の前の竜をのみこむほどの力がもう一度使えれば…………。


 ――…………


 なんとか気を失わぬ様、手は強く銃を握り直す。

 その時、違和感にクロトは自分の手を見下ろした。

 恐怖心も吹き飛ぶような光景が視界に飛び込み、クロトは両目をそっと見開く。

 違和感を感じたのは……魔銃を持つ右手ではなく。空虚とあったはずの…………左手。

 クロトの左手には、あるはずもないものが存在している。

 

 ――魔銃だ……。

 

 クロトは自分の両手を見直す。

 どちらも魔銃で、重みも、握り心地も。手に馴染む殺しの数を並べてきた感触すらも。嘘偽りのない、クロトが愛用している魔銃が左手にも握られていた。

 困惑と、目の前の窮地に襲われつつ。ふと、脳に囁かれたものが鮮明に聞き取らた。




『――()()の使い方は、……我々よりも、貴方が一番よく知っているはずです』




 まるで、そう言い聞かされてきたかのように、透明な声は不思議とこの時は容易く受け入れられた。

 ここで脳内に突き付けられたのは、ふたつの選択。


 ――このまま死ぬか。

 ――できる事で抗うか。


 答えはひとつしかない。

 クロトは左手の魔銃を強く握り返し、その銃口を竜の喉奥にへと向けた。抗う意志に魔銃は応え、炎を纏う。既にガス欠状態の右手の魔銃。にも関わらず、左手の魔銃にはまだ余力を残している。使い果たした力が戻ってきたとでもいうのか……。

 ……いや、そうではない。

 そんな違和感を得ながらも、頭は無意識にその炎を引き出そうとする。

 

 思い出せ。炎蛇の炎の熱を。

 思い出せ。その身で経験してきた、その熱の燃え上がりを。

 その炎を扱う時の負担を。重みを。身を焦がす灼熱を。


 手が覚えている。焼ける熱を。

 体が覚えている。炎にくべる己の力を。

 

 つい数秒前に経験した感覚を。それを頭と体が認識した時には、それを撃つ準備が整っていた。

 

 ニーズヘッグの応答などない。

 まるで、その身が経験したものが形となって存在し、再現しようとしている。

 本来あるべき下準備もない。必要なのは、その魔銃に対する知識。そして、これまで得てきた経験という情報の塊のみ。


 これは使い果たした力を取り戻したのではない。

 ――()()()()()()()()


 銃口に展開された円法陣は紅く光を増し、再び空気を焼く熱を放出。

 それと同時に、クロトは歯を食いしばり己の残っている力の全てをその炎にへと注ぎ込む。既に立つだけの力ですら、それすら失うほど。死の寸前すらとも思える冷たい身を炎の熱で補う。

 

 そして、声をあげる。

 喉を焼く様に。死しても構わないと言い聞かせる様に。

 心が叫ぶ。


 ――ここで負けるくらいなら、……死ぬ気で抗って死ねぇッ!!!


 


「――――ッ。――――――【焼き……砕けぇええええ】!!!!!」




 指先が、トリガーを引く。

 我武者羅に。どんな結果になるかすらわからずとも。

 敗北に抗う意志に魔銃が応え、業火の炎蛇を再び顕現。咆哮と共に水晶の竜の喉を食い破り、その牙で砕き、業火で焼き尽くし進む。

 狙いは【怒り】の凝縮された塊の、その奥。

 空間を赤くし、火花と炎に煽られた魔女は目を見開きたたずむ。

 

 それを業火は瞬時に呑み込み、辺り一面を炎で満たした。

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