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銃声2

「……え?」


 胸元が真っ赤だ。


 久世は反射的に手を離した。


 一歩下がる。


 男は動かない。


「…………」


 机を見る。


 手には、さっきの小道具の拳銃を持ったまま。


 もう一度、男を見る。


「いやいや……」


 そのまま部屋を出た。


 早足で廊下を進む。


 途中でスタッフとすれ違った。


「お疲れさまです」


「……おう」


 足は止めない。


 階段を下りる。


 建物を出る。


 そのまま敷地の奥へ向かった。


 明かりが遠ざかる。


 スタッフの声も聞こえなくなる。


 さらに奥まで歩く。


 周囲に人の姿はない。


「…………」


 久世は手に持った拳銃を見る。


 今日、撮影で使った。


「小道具だろ……」


 周囲をもう一度確認する。


 誰もいない。


 久世は何もない方へ銃口を向けた。


 引き金を引く。


 乾いた音。


「…………」


 何も起きない。


 もう一度。


 乾いた音が響く。


 それだけだった。


 久世は拳銃を見る。


「……なんだよ」


 息を吐いた。


「やっぱりおもちゃじゃん」


 少しだけ肩から力が抜ける。


 そうだ。


 当たり前だ。


 撮影用の小道具だ。


 人を撃てるわけがない。


「…………」


 だったら。


 あの血は何だ。


 少しして。


 来た道を戻り始めた。


     *


 建物ではまだ撤収が続いていた。


 機材を運ぶスタッフが行き来している。


 久世はその間を抜けた。


 さっきの部屋へ向かう。


 扉は開いたままだった。


 中を見る。


「…………」


 誰もいない。


「……は?」


 部屋に入る。


 床を見る。


 さっきまで男が倒れていた場所。


 何もない。


「おい」


 誰もいない。


 床には、小さなカメラだけが転がっていた。


「…………」


 久世は廊下へ出た。


 近くで機材を運んでいたスタッフを呼び止める。


「ちょっと」


「はい?」


「ここにいた小道具の二人、見た?」


「ああ」


「見た?」


「さっき帰りましたよ」


 久世が止まる。


「二人とも?」


「はい」


「……普通に?」


 スタッフが少し考えた。


「いや、片方は具合悪そうでしたけど」


「具合?」


「もう一人が支えてました」


 久世は黙った。


「病院行くって言ってましたよ」


「病院?」


「体調悪くなったみたいで」


「…………」


 久世が部屋を見る。


「それだけ?」


「え?」


「何か言ってなかった?」


「いや。体調悪いから病院行くって」


「…………」


「どうかしました?」


「いや」


 久世は首を振った。


「何でもない」


 スタッフは少し不思議そうな顔をしたが、そのまま作業へ戻った。


 久世は一人で残った。


「病院……」


 口に出す。


「…………」


 息を吐く。


 久世は額を押さえた。


 自分でも気づかないうちに、身体に力が入っていた。


 病院へ行った。


 体調不良。


 それだけ。


「…………」


 だったら。


 あれは何だった。


 胸元。


 あの赤。


 久世は自分の手を見る。


 それから拳銃を見る。


 撃ったのは背中だ。


 赤く染まっていたのは胸だった


 しかも小道具。


 関係ない。


 関係あるはずがない。


「……そうだろ」


 誰に言うでもなく呟いた。


     *


「おーい」


 声がした。


 久世が振り返る。


 三上だった。


 片手にコンビニの袋を持っている。


「何びっくりしてんの?」


「別に」


「遅いから見に来た」


 三上が袋から缶コーヒーを取り出す。


「ほら」


「……ありがと」


 久世が受け取る。


 三上が顔を見る。


「何かあった?」


「何で」


「顔」


「眠いだけ」


「そりゃ二時だからな」


 三上は特に気にした様子もなく、もう一本を開けた。


「小道具の双子、片方具合悪くなったらしいぞ」


 久世の手が止まる。


「……聞いた」


「病院だって」


「うん」


「夜中まで仕事させるからだな」


 三上がコーヒーを飲む。


「そうだな」


「帰るぞ」


 三上が言った。


「うん」


 二人で歩き出す。


 数歩進んだところで。


 久世が止まった。


「どうした?」


「いや」


 振り返る。


 さっきの部屋。


 扉が開いている。


 床に。


 小さなカメラが残っていた。


 三上も見る。


「あれ、誰かの忘れ物?」


「多分」


「持ってく?」


「俺が持っとくよ」


「じゃ頼むわ」


 三上は先に歩いていく。


 久世は部屋へ戻った。


 床に転がっていたカメラを拾う。


 手のひらに収まるほどの、小さなカメラ。


 昨日。


 三上を驚かせた動画を見せていたものと、よく似ていた。


「…………」


 久世は電源を入れなかった。


 そのままポケットに入れた。


「久世ー」


「今行く」


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