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反省 ver.オリバー

いつものように、アリーチェが執務室にやってきた。


「私、結婚がきまったのですか」


いつものように仮眠室でくつろいでいたオリバーは耳を疑った。

――今更!?

すでに一年、結婚準備をしてきたはずだ。

「……言ってなかったか?」

「聞いてませんね」

「聞いたことを、お前が覚えてない可能性は……」

「結婚の話を?」

「うん……いや、すまなかった」

そんな簡単に済ませていいはずがない。花嫁が、結婚することを知らなかった?

オリバーは転がっていたベッドから起き上がり、出て行こうと服を整えた。

「で、お相手はどなたです?」

相手が分からないほどなんて。オリバーの頭の中が特大の鐘が鳴り響いて頭に言葉が入ってこない。

「決まっているだろう?」

「隣国の第二王子でしょうか?」

「違う」

「アランダ国の王太子様でしょうか?」

「違う。どうしてその方が出てくる」

「結婚の申し込みを受けたので、ごり押ししてきたかと」

「聞いてないぞ」

――私だって聞いていない!しかも、外国の人間ばかり出てくる。

リーチェは外国に嫁ぎたいのか?

有り得ない。オリバーだってしていない結婚の申し込みを、他の誰がしたというのだ。

イライラと怒りが溜まって、そう考えた時……嫉妬の中に、自己嫌悪が生まれる。

そう、していない。

オリバーは、本人に結婚の申し込みをしていないのだ。

彼女は、オリバーの名前を出しても、嬉しそうな声もない。

「婚約はなくなったのかと思っておりました」

「なぜだっ!?」


――なぜだっ!?


目の前が暗くなった。あれだけ逢瀬を繰り返していたのに。※一方的に。

そうして、アリーチェから語られる自分の行動に眩暈がする。

自分の行動には、全て理由があった。

納得して、それが良いと判断して行っていた。

――が。

全くアリーチェに説明していなかった。


「……あれ、言ってなかったか?」

「聞いてませんね」

一番伝えてくれていると思っていたライラー伯爵さえも、当人に伝えていない。

オリバーがどんな気持ちでいるかなんて、伝わるはずがない。

「王太子殿下は嫌いじゃないよなっ!?」

ライラー伯爵は、オリバーがここに居るかどうかを、気にしなくなっていた。どちらかというと忘れがちだ。休憩を終えて戻ろうと顔を出すと、ぎょっとした顔でオリバーを見ることがしょっちゅうある。彼は忘れっぽい。

多分、今、ようやくここにオリバーがいる事実を思い出したに違いない。


「そうではなく、結婚相手として、好ましいよなと聞いている」

ライラー伯爵の言葉に、全身が緊張する。

アリーチェの戸惑うような雰囲気が伝わってくる。それにどんな意味があるのかを問うような。

ライラー伯爵は、オリバーに気を遣って、娘に首肯させようとしている。

オリバーは有難く、彼女の言葉を受け取ろうと――

「私に選択肢があるとすれば、ですが……彼、トト様がいいですわ」

泣きそうだった。

自分としては、優秀だし、顔はいいし、憧れに似た気持ちがあって、嬉しいと言われてもおかしくない相手だと思う。

しかも、話を振られたトトという文官の気の抜けた受け答え。

アリーチェに好ましいと言われておきながら、その返事!覚えておこうと思う。

しかも、さらに話を良く良く聞けば、誰でもいいような物言い。

それだというのに、オリバーは嫌だと言うのか?

眉間にしわが寄るのが分かる。

普段からあまり表情を動かさないように気を付けているが、我慢できなかった。

自分の愚かしさに笑みがこぼれる。一人で突っ走って、相手に何も伝えていないなど、何て愚鈍な人間だ。


「興味深い話をしている」


思った以上に低い声が出た。

アリーチェの目が丸くなって、オリバーを見つめている。

正面から目を見たことは、茶会の日以来だと気が付いた。

「あなたの婚約者は私だ」

だけど、今更、結婚を無かったことにはできない。

国の動きも、予算も、それに向けて動き始めているからと言うのもある。しかし、何より、オリバーが無かったことになどしたくない。

もう、彼女が隣にいる将来を想像してしまった。それ以外の未来はない。

彼女が、オリバーを結婚相手として見ていなかったのは、彼自身の責任だ。

夜会に誘えなくても、訪問すればいい。

変なプライドに惑わされずに、直接本人に愛を伝えなければならなかった。

これは、

「婚約者の交流を持たなければならないな?」

一人頷いて、彼女を抱き上げた。

彼女に触れるのも初めてだ。

真っ赤な顔で抵抗する彼女が愛らしい。

無理強いはしたくないが、了承してもらえないならば、無理矢理することになる。

矛盾するような気持ちをかかえて、オリバーは自室へと足を向けた。

婚前交渉を持つ気はない。

今まで放っておいた男が、いきなり性的に迫るほど最低なことはしない。

ただ少し、反応が見たくて、そういうことを匂わせた。

さらに真っ赤な顔になった。

真っ青にならなかっただけいいのではないか?


あと半年。

全てを使って、彼女を口説き落とさなくてはならない。

跪いて、愛を乞おう。

愛のない政略結婚になどする気はない。


だから、まずはプロポーズをしよう。



「隣国に嫁ぐと仰られていませんでした?」

「まあ、ふふ。そんなこと言っておりませんわ」

「そう聞きましたわ!?この、うそつ……」

「ソフィア―!王太子妃、相手は王太子妃!」

「今はまだ違うでしょう!?」

「隣におられるのは、王太子、王太子!後から聞くから、しーっ」

「……(聞こえてるけどな)」

「ひーどーいぃー!くやしぃー!」

「よしよしよし!気分が悪そうだ。ソフィア、帰ろうな!」

「私がその場所にいるはずだったのにぃぃー!」

「では、両殿下、失礼いたしますー!」

「……」

「……いや、ないぞ!?疑われているのか?」

「……ちらっと見ただけです」


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― 新着の感想 ―
アリーチェ親子のキャラが好きです 淡々としてて、どこかユーモアを感じる
[良い点] 何度となく1話に立ち返り、ソフィアの名前を探しました いや2回ほど なるほどなー、楽しかった ソフィア周りが丁寧だと思いました ラストも可愛い(負け令嬢がすき) 序盤なかなか楽しかった…
[良い点] わりと酷い話(笑)…ッwwwww というかまわりの人たちみんなひどいな(笑)!!そして父が雑ゥ!! でもそういうところがいいんだろーなー。職場はホワイトな感じはします。 [一言] 自分の結…
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