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ある夏の  作者: ミツキ
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サマースクール

当時、私は情報科学を専攻する大学院生だった。


私の所属していた大学院では、毎年夏にサマースクールというイベントを開催している。


「地域貢献を通して学生の責任感やコミュニケーション能力を育成するため」、学生ボランティアが小中学生に数日かけてちょっとした工作を教えるというよくあるイベントだ。



大学院入学と同時に恋人と別れた私の夏は見事なまでに何の予定もなく、あるのは研究くらいのものだったから、暇を持て余した私は募集期間がとっくに過ぎたサマースクールのボランティア募集メールに返信をしたのだった。


---


「ミツキも参加するんだね。さっきメールで参加者名簿回ってきてたよ」


学食で一人味噌ラーメンをすすっていると、タオがニコニコしながらやってきた。


「ああ、サマースクールのこと?うん、まあ研究行き詰ってるしね。この間の論文読んだ?私の研究ともろかぶりだよ…」


「読んだ読んだ。確かにかぶってたねえ。ハハハ。でもテーマ変えるのはもったいないよ。ミツキのやってる研究面白いし。あの論文は確かにテーマはかぶってるけど、あれって他分野ではあるけどグッドウィルの手法と本質的に同じだから新規性は薄いよね。それにあの会社じゃないとできない手法じゃん。お金をぶち込めばそりゃ精度は上がるよっていうか。ミツキの手法はデータが少なくても適用可能だし、それにさあ…」


タオは味噌汁をかきこみながらすらすらと私の研究の優位性について述べていく。こいつ私より私の研究に詳しいんじゃないか。


---


タオはすごいやつだ。飛び級で大学院に入学してきたので年は私より一つ下だ。

人当たりがよく、ずば抜けて勤勉で教授すら感心する論理的な思考と視野の広さがある。


まだ大学院に入学して数か月だというのに、すでに主著のジャーナルが出ることが決まっている。

彼に会って初めて私は学部時代まで井の中の蛙を謳歌していたのだということに気づかされた。


---


「サマースクールっていくつかコースがあるじゃん。僕はゲーム開発コースのチューターすることになったよ。ミツキは?」


「私はWebサイトを作るコースだね。HTMLとか書くやつ」


「ええ~HTMLって!懐かしいなあ、久しく書いてないや。けどミツキだったらゲーム開発コースとか希望しそうだけど」


食膳を下げながら大げさに笑う。


「そうなんだよねえ、そのコースは希望してたんだけど人が足りなかったらしくて」


「まあWebサイト作るコースって一番経験のない層が対象っぽいから普段と全然違って新鮮でいいんじゃない?」


タオの話にそうなんだよねと相槌を打ちながら研究室へ向かう。


正直なところWebサイト制作のコースのチューターとなったことで、サマースクールへの参加が面倒だと思う気持ちがないでもない。

ゲーム開発は面白そうだったし、コースの参加者はそれなりにプログラミング経験のある子どもたちだろう。成果物発表は盛り上がるに違いない。

一方でWebサイト制作のコースは全くの未経験の子どもたちがやってくるだろうから、成果物発表は単色のぎらついたページを何枚も見る羽目になるだろう。


(とにかくこれで数日は研究から目をそらせる。この終わりの見えない作業からは)


私はため息をつきながらディスプレイに向かってキーボードを叩き始めた。


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