アイツ
「で、アイツいねぇの?」
「アイツじゃ分からない。名前で言え。」
「へぇ〜、結構噂になってるんだぜ?それを分かった上で言ってんのか?」
緊張した空気とは裏腹に、煎餅を食べたり、お茶を飲んだりしている。
「…分かった上で言っている。」
「大変だなぁ…、お前も、アイツも。アイツは一生?いいや、アレが無くならない限り逃れられない。お前はアイツが居るから、逃れようと思わない。」
「…神恵内さん。」
「へぇーへぇー、分かった。まぁ、黙ってても俺は構わないけど、俺以外は黙ってねぇよ。まぁ、今回の件がアイツの耳に入ったら、どーなるか楽しみだ。」
歯舞に諌められ、不貞腐れた様に振舞いながら、煎餅を食べる。神恵内の後ろに控えて居る部下たちは少し焦っていた。
((この馬鹿!何煽ってんだよ⁈いつもの事だけど、相手を考えろ!!!))
神恵内の部下と反対の位置に居る信の部下も内心ヒヤヒヤしていた。
((っぇえ〜、何煽ってんねん⁈信さん煽るなや‼︎))
静かになった部屋は外から聞こえてくる愛らしい鳥の鳴き声。一部の地域で"はなすい"や"はなつゆ"と呼ばれたりするメジロだ。普段であれば鑑賞していたかもしれないが、雰囲気が雰囲気なため誰もそこまで頭が回らない。1分1秒が長く感じ、冷や汗が流れる。
「…そうだな。」
「?何だよー、その反応はよー…。」
「いや、別に。…ただ」
「ただ?」
「お前は相変わらず余計なことしかしない男だなと思っただけだ。」
「なんだと⁈ムキー‼︎」
「ちょっ、神恵内さん‼︎」
机に片足をのせて、指差して子供のような罵倒をする神恵内を抑える歯舞たち。
「お前なんて、不器用じゃん‼︎あとさ、……えーと、あー、仏頂面‼︎………。」
「止めろよな、身内の恥ずかしいところ見られて、俺らがツライ。」
「あっ裏切ったな〜!?」
「どうどう落ち着け。口論し合ったらお前が負けるから、もうやめようぜ。惨めだから。」
「俺は馬か⁈つーか、お前ら全員狐の味方するのかよ〜⁈」
語彙力が皆無、すぐにケンカを売る、机に足を乗っける、など擁護できない。これで擁護しても論破されるだけだ。
「…べっつに〜、いいもんだー!遊んでくるー‼︎歯舞のバカー!!!!」
「意味がわかりません。って、あっこら!…すみません。」
「…相変わらず大変だな。」
「すみません、ですがそれをいわれると…。」
「…そういえばもう1人ああいうのがいたな。すまんな悪気はない。」
不貞腐れて急に外へと振り向き、ドタドタと出て行く神恵内に恥ずかしそうに俯く歯舞にまだまだ子供らしいと思う。




