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S・S・R  作者: 雪山ユウグレ
第11話 役割分担のルール
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2

 その日の夕食後、学生寮1階の共用ホールにいた修威と真奈貴のところへ舟雪がやってきた。そして開口一番、修威に向けて大声を出す。

「あんたなぁ! 郵便入れに何入れてやがるんだよ! なんだよ! こういうことかよ!」

 明らかに悔しそうにしながら地団駄を踏む彼の手には何やらピンク色の可愛らしい封筒が握られている。今はもう怒りのとばっちりを受けてくしゃくしゃになってしまったそれを見やり、真奈貴が修威に尋ねた。

「修威ちゃん、何て書いて呼び出したの」

「“拝啓 苗田舟雪様”」

「……」

「“突然お手紙を差し上げて申し訳ありません。どうしても直接会って言う勇気を出すことができなかったのです。私は入学して以来ずっと、あなたを目で追っていました。あなたの一挙手一投足が私の目を惹きつけて、どうしようもなく胸が高鳴りました。どうか私にチャンスをください。あなたが来てくださるなら、きっと私は勇気を出してあなたに伝えられると思うのです。夕食の後、寮のホールで待っています。かしこ”」

「無駄に丁寧だね」

「俺頑張った」

 修威はそう言って胸を張るが、当然ながら怒りの収まらない舟雪が食って掛かる。

「なんの悪戯だよ! 大体用があるなら普通に呼び出せ、普通に! メールとかいくらでもできんだろうが!」

「だって俺、お前のメアド知らねぇし」

「教えてなかったー!?」

「聞く必要もねぇと思ってたしなぁ」

 ホールのソファの上で足を組み、ゆったりと背もたれに身体を預けながら言う修威。舟雪は怒りに用いるエネルギーも最早底をついたのか、がくりと項垂れてその隣に腰を下ろした。それから思い出したようにポケットの中から紫色をした携帯電話を取り出す。

「頼むからアドレス交換してくれ。もう二度とこんな目に遭いたくねぇ」

「おー。つうかお前、今時こんな呼び出しの手紙を真に受けるかぁ? 純情ー」

「何とでも言え……怪しいと思わなかったわけじゃねぇんだよ。思わなかったわけねぇけど、けど……っ」

 けれどももしかしたら。そんな淡い期待に胸を膨らませてやってきた舟雪少年の儚い望みは先程木端微塵に打ち砕かれたわけである。修威は自分の携帯電話を取り出して舟雪のメールアドレスと電話番号をアドレス帳に登録しつつ、まぁまぁとおざなりな調子で彼をなだめにかかる。

「ちょっとした遊び心ってやつだ」

「ああそうかよ。……はぁ、あんたもああいうまともな文章書けるんだな」

「ラブレターとしてまともかどうかは微妙なところだと思うぞ。一挙手一投足とか言う女子いねぇだろ、多分」

「そんな細かいこと知らねぇよ」

 項垂れる舟雪に修威は「ほい」と紫色の携帯電話を返す。やり取りを眺めていた真奈貴がふうと息を吐きながら呟く。

「引っ掛けた修威ちゃんが悪いのははっきりしているけど、こんなわざとらしい手紙に引っ掛かった苗田くんも今時珍しいくらい初心なんだね」

「あんたまで追い討ちかけてくんじゃねぇえ!」

 こうして今日も舟雪はいじられ、叫ぶ羽目になるのだった。それはさておき、修威は何もただの悪戯で舟雪をホールまで呼び出したわけではない。手紙の内容の後半は満更嘘八百というわけでもなかったのである。修威がそう告げると舟雪は思い切り疑わしそうに眉をひそめる。

「はぁ? 嘘じゃねぇって、どの辺が」

「俺にチャンスをくれ。お前に頼みがある」

 はぁ? と舟雪はまたも盛大に顔をしかめた。


 修威のいう“頼み”とはこうである。次の課外授業の折に舟雪にも共に戦ってほしい。そして4階への階段を守る巨木人を修威と真奈貴、そして舟雪の3人の力を合わせることで倒して先に進もう。さらにそのための具体的な作戦会議をしたいから付き合ってくれ、と。つまり3人でそれぞれ役割分担をしてあの巨木人を倒そうという話だった。

 それを聞いた舟雪はとりあえず内容そのものには納得した様子で頷いてみせる。

「あんたもあれには苦戦してんだな」

「お前は? ほら、この間俺を空間ごと切り取ってパズルみたいに動かしたろ。あんな感じで木人を階段の前から動かすとかできねぇか?」

 避難訓練で獣と戦ったときのことを例に挙げて言う修威に、舟雪は苦い顔で首を振る。

「あの木人は元からあそこに“配置”されたもんだから、プレイヤーが動かせるようにはなってねぇんだよ」

「えーと、どういう意味だ」

「ゲームしてて目の前の家が邪魔だからってどかせられないのと一緒」

「結局、ボスは倒さにゃ進めないってことか」

「そういうこと。で、実際オレも1人であれをどうにかできる気がしねぇ。だからあんたの提案には乗る」

 舟雪はきっぱりとそう言って真面目な顔で修威と真奈貴を見る。修威はへぇ、と含み笑いをし、真奈貴は少しだけ眉尻を下げながら舟雪に尋ねる。

「いいの? 修威ちゃんの提案なんだよ」

「真奈貴ちゃん、それどういう意味?」

明園(あけぞの)の提案だろうと、内容がまともなら乗るよ。ああ、いくら明園の提案でも」

「おいこらワンコてめぇ」

「ワンコって呼ぶな! けどよ、大丈夫なのか?」

 そこで舟雪はひとつの懸念を示す。それは課外授業におけるルールについての心配だった。

「3人がかりで階段の番人を倒したとして、それってクリアとみなされんのか? 止めを刺した奴だけにクリアの認定が下りるんじゃ割に合わねぇぞ」

「そこは大丈夫だって。七山先輩が言ってた」

 修威は少しばかりくたびれた笑顔を浮かべながら言って、舟雪を安心させる。そもそも今日の放課後に梶野が修威にくれたアドバイスというのがこの3人で階段の番人に挑むという策だったのだ。1年生には説明されていないことだが、課外授業は何も単独での戦果を挙げることを目的としたものではない。あくまで魔法の実践的訓練として、いかに自分の魔法の特性を理解し、それを実際に役立てるかを学ぶための授業なのだ。自分の魔法と相性のいい他の誰かと協力して課題をクリアすることについては何の制約もない。ただ、1年生に敢えて役割分担を伴う共同作戦についての説明をしないのはその可能性に生徒自らが気付いて取り組むように仕向けるためなのだという。

「先輩が言うには、先生に“こういう作戦って駄目なんすか”って聞けば“いいよ”って教えてくれる。そういうもんなんだと」

「へーえ、結構ずるいこと考えてんだな、先生らも」

「それをちゃっかり教えてくれる七山先輩の方がずるいんだけどね」

 真奈貴が言って、そっと修威に目配せをする。気付いた修威が「何?」とやや及び腰になりつつも友人に問い掛けた。別に、と真奈貴は微笑む。

「ただ、七山先輩が修威ちゃんにそれを教えてくれたってことは、修威ちゃんからも何か先輩に見返りをあげたのかなと思って」

「それは聞かないでくれ……」

 げんなりと顔を背けた修威に、どういうわけか舟雪がじろりと睨む視線を向ける。いや、ひょっとすると修威を睨んだというよりも単に内心の感情を表に出したまま修威を見ただけなのかもしれない。とにかく元々きつい顔立ちをしている舟雪の鋭い眼光が修威を射抜く。

「うおう! なんだワンコ、怖い顔して」

「ワンコって呼ぶな。なぁ、先輩に何かされたのか?」

「はい?」

「見返りって、なんかヤバいもん要求されたりとかしてねぇだろうな。金か?」

「……いや、七山先輩そういうあくどいことはしないよ」

 おそらく金銭で見返りを得ようなどとは梶野に限って絶対に考えないだろう。彼はある意味で数字をとても神聖視している。数字で数えられるものに対して彼は非常に敏感で、だからこそ滅多なことではそれを取り引きの材料になどしないように思える。

「金じゃないし、何か取られたわけでもねぇから。苗田、あの人そういう類の人間じゃねぇよ」

 にゃはは、と笑う修威はそれでもどこか腑抜けていて、舟雪はますます顔を険しくする。彼の顔つきだけでなくその顔色までもが変わってきた様子を見かねてか、真奈貴が助け船を出した。

「修威ちゃん、それで、何て呼んだら教えてくれたの?」

「……は? 呼ぶ?」

「あー、“梶野の兄貴”で勘弁してもらった」

「は? 兄貴?」

「あれ、そんな感じでよかったんだ。私はてっきり“梶野お兄ちゃん”って可愛らしく呼んであげたのかと思ったよ」

「お、お兄ちゃん?」

「誰が呼ぶか! ったく、なんであの人はしつこく兄呼ばわりされたがるんだ……」

「おい何の話だ」

 そういう趣味なんじゃないの、と真奈貴が笑う。ロリコンなのかシスコンなのか、と修威が嫌そうに呟く。2人の会話に必死でついていこうとしている舟雪が、結局ついていけずに「訳分かんねぇよ!」と叫んだが、2人は敢えて取り合わない。かくして今日も話を聞いてもらえない舟雪のツッコミだけが虚しく響き渡るのだった。

執筆日2014/12/25

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