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訓練開始! 上編

お久しぶりです!


一ヶ月振り、ですかね……?


やっと新しい話に入ったと言うことで、ガリガリ書いてたら物凄く長くなりました……

いつも通り、前置きが長いだけですが……


では、どうぞ!

朝、いつものように目が覚めた私は起き上がると、机の上にはフクロウ姿の黄竜がいた。


「何かあった?」


「いや、なんという事もない。ただ、メイド達が何回か巡回に来ていたな。華梨花達が良く眠れているかどうか、確かめに来ていたのだろう。」


予想外の返答が来たために、私は固まった。


「……え?メイドさん?」


「あぁ。多分、ミスリルに頼まれたのではなく、自主的にしていたのだろうな。」


「ふーん。ここは、あったかいんだね。」


あったかい、と言うより優しいと言うべきか。

私はベットから降り、黄竜に近づいてから少し話をしてから、大きく伸びをし、私は軽く眼が覚めるように準備運動する。


「うん、別に変わらないね。」


マナが溢れている世界に来てしまったのだから、何か支障があるかもしれないと思っていたのだが、それも無かったので、私は拍子抜けした。

それから顔を洗い、昨日の内にメイドさんが用意してくれていた服に着替える。


「さて、今日はこれからの行動について話し合うだったね。」


「ん?そうなのか?」


「そうだよ。……話して無かったね。」


そう言えば、黄竜を召喚する前にその話をしたのだったと思い出しながら、私は苦笑した。


「まぁ、別にいいさ。」


「そういや、どうしてミスリル王について知ってたの?」


「私が誰だと思っている?」


……成る程ね。

黄竜のその言葉だけで、何をしたのか理解した私は頷く。


「空間を通じて情報収集したんだね。」


「そうだ。」


黄竜や四神は前にも言ったように、空間を司る。

この夜の間にあちこちから空間を通じて情報収集したのだろう。

なんだかんだと話をしていれば、部屋の扉が叩かれ、メイドさんが入ってきた。


「おはようございます、ソエギ様。」


「おはようございます。」


入った瞬間礼儀正しい挨拶をされたため、私は反射的に挨拶仕返してしまった。

……別に悪い事ではないのだろうが。


「朝食の準備が出来たのですが、昨日のようにヒョウドウ様の部屋で食べられますか?」


「うーん……いいや。ここで食べる。」


朝ぐらいは静かに一人で食べたい。


「ソエギ様はどこか大人びてらっしゃいますね。」


「そう?私は別にそうは思わないけど。」


こう言うのは慣れている。一人でも別に大丈夫だけど、今は人がいないと、一人だと寂しいと言う事を私は知っている。


「いえ、酷い意味で言ったのではありません。ここに召喚された時も冷静に物事を対処していたように見えたと、アリア様が言っておりましたので、つい。」


「そんな事ないよ。これでも内心焦ってたんだから。」


「そうなのですか?」


「うん。」


焦りの仕方が違うかもしれなかったけど。

私の場合は、異世界に来てしまったけど、どうやったら元の世界に戻られるのだろうか?帰れなかったらどうしよう、っていう意味の焦りだ。

二人の場合は、知らない世界に来てしまった。やっていけるのだろうか?という意味の焦り。……焦りと言うよりも、心配の方が大きいかもしれないが。


そんなこんなと考えていれば、メイドさんはいつの間にか食事の準備を済ませてしまったようで、一時間後にまた来ますと言って、部屋から出ようとしていた。


「あっ、ちょっと待って!」


「はい、なんでしょう?」


「あ、えっと……あなたの名前は?」


折角会ったのに、名前を知らないなんて味気ない。文字が読めるようになれば、いくらでも分かるようにはなるだろうが、それまでには結構な時間がかかると思われる。

それはなんだか嫌で、私はメイドさんにそう聞いた。


「え?それはこの名札に……。」


「言葉は通じるんだけど、私達にその文字は読めないの。」


「……あぁ、アリア様が言っておりました。私の名前は、ハウアと言います。」


何らかの文字が書かれてる名札に視線を向けながら、少し困惑していたメイドさんもといハウアさんは、私の説明に納得したようで、名前を教えてくれた。


「ハウア……うん、可愛い名前だね。」


暗めの灰色の瞳に燻んだ様な黄金色の髪。そんな髪を低めの位置で一つに括っている姿は、名前ととても合っているように思えた。


「ありがとうございます……。」


言われなれていないのか、恥ずかしげに笑うハウア。


「……そういや、ハウアって何歳なの?」


背丈的に私と同じ歳ぐらいに感じたので、最初から敬語では無くタメ口で話していたわけだが、年上だとしたら何となく悪い気がしたので、聞いてみた。


「私ですか?私は、多分百は越えてるかと……。」


「……ぇ?」


予想外の返答。

私はパンを口に放り込もうとしていた手を止めて、ハウアをじっと見る。


「冗談?」


「違います。私は混血種ですけど、エルフなんですよ。」


「……えるふ?」


何なのだろうか?

私はからかわれているのでは?

普通の人間に、百歳越えの……しかも少女の姿をした者がいれば、それは絶対に化け物だと思う。


……いやまて、ここは異世界、そんな事もあり得るのでは?


「エルフをご存知無いのですか?ヒョウドウ様、アサギリ様は知っていたようですが。何やら、小説によく出ていたとか。」


「小説?……なるほどね、そういう事。私はそう言うの読んだこと無いから知らない。」


多分、高校生や中学生やらがよく読んでいる小説の事かと私は納得して、頷いてからハウアにそう答えた。


「そうなのですか……。」


「えるふって言うのは、何なの?人種みたいな?」


姿形は私達と変わらないハウアを見ながら、私は首を傾げる。


「エルフって言うのは……そうですね。人種、と言っていただいても間違いではありません。ですが、生きる寿命や場所が違います。エルフは基本、森の方で暮らしながら三百歳〜六百歳まで生きる事が多いですね。」


本当に長寿の場合は、八百歳とかにいったりしますけどね、と補足しながらハウアは、興味ありげに見ている私を見て、苦笑しながらそう言った。


「そんなんだ。森の方に住んでるのに、どうしてここで働いてるの?」


「さっき言った通り、私は混血種です。……エルフと人間の。」


「それがどうしたの?」


私も言って仕舞えば、魔術師と非魔術師の間に生まれた子だ。通常は、その間に生まれれば魔力の少ないはずなのだが、何故か私の場合はそうではなかった。


「……あぁ、そういう事。」


「分かりましたか。」


きっとハウアと私は同じ境遇なのであるのかもしれない。


「追い出された?」


「まぁ、私達と村人達との折り合いが悪くなったから、逃げてきたと言った方がいいですかね。」


純血を保つもの達は、例外を除いて混血種を嫌う。何故そういった思想が出来たのかはよく分からないが、魔術師の場合は純血の魔術師よりも弱くなるからだと母がそう言っていた。

多分、いや一部の例外を除いて殆どの混血種は力が劣る。この世界でもきっとそうなのだろう。


「私の母は人間で、父がエルフ。その間に生まれたのが私。エルフ達は母が村にいる事を嫌がっていたのです。それに加えて混血種の私がいれば、余計に……エルフはプライドが高過ぎるんです。」


「だから、ここに?」


「そう、ですね。」


ここは私のような者でも受け入れられるんです、と小さく呟いたハウア。きっと私に言ったつもりでは無かったのだろうが、私にははっきりと聞こえた。


「……。」


「あ、私ったら。食事中なのに、暗い話をしてしまいましたね。」


「いや、私が最初に話を振ったんだし、大丈夫。」


なんとも言うことが出来なくて私は黙ってしまえば、ハウアは申し訳なさそうにそう言う。

私は慌ててハウアが悪くない事を主張してから、真っ直ぐにハウア見つめた。


「どうしましたか?」


「良かったらさ、二人よりも先にここの文字について教えておいてもらえないかな?」


「……え?」


何を言い出すのかと不思議そうに私を見てくるハウア。


まぁ、その反応は当たり前かとなんとも言えない気持ちになりながら私は苦笑する。


「私は、勇者じゃないんだ。」


「それは、アリア様から聞いていますが……?」


「きっとね。私は二人の足手まといになる。」


魔術を見せられない……つまり私には使ってはいけないという縛りがある。それに加えて、魔術、魔法にはどちらかを使っていれば、もう片方はほとんど使えない。使う事が出来ないと言ってもいい程に。

この状態であれば、私は絶対に二人の足手まといになるだろう。


「しかし、まだそうと決まった訳ではーー」


「私はね?二人について行く事に決めてるんだ。」


「……魔王の元へ行く旅に、ですか?」


ハウアはあり得ないとでも言いたいかのように目を見開いた。

巻き込まれた私は、二人が帰ってくるまでここにいるとでも思っていたのだろう。


「うん。そうだよ。」


「そんな!勇者様方のように専用の武器も持たれていないのに、ついて行こうと言うのですか!」


「うん。……だからね?私は二人よりも早く行動して何が出来るかを知りたいんだ。」


「……。」


会ってまだ一日も立っていないというのに、私を心配してくれるハウア。

その気持ちがありがた過ぎて、私はクスリと笑ってしまった。


「どうして?」


「ん?」


「どうして、そんなにも……ソエギ様は二人に。」


私の様子に困惑している様子のハウアは、そう呟いた。


「私はね。二人に救われた人間なんだ。」


「どう、いう?」


「私は、人との付き合いが嫌いなんだ。もっと私が小さかった時は、話しかけてくる周りの子たちを睨みつけるぐらいに。」


人間不信だったと言っても過言では無かった。

母は歪んだ愛ではあったが、私を〝湊人の子ども〟として育ててくれた。

けれども、私の力は大き過ぎた。〝白銀〟として私自身の存在は隠していたわけだが、その身長から、声の質からして子どもだと分かった魔術師達は化け物だと私を蔑んでいたわけだ。


他の魔術師達の危険をいち早くに察知し、助けていたのにもかかわらず、だ。


人間は理不尽である。理不尽故に、人は多く傷つく。

今から思えば、私はその傷が多過ぎたのだと思う。


「でもね。雹堂と結衣のお陰で変わったんだ。」


「 ……。」


やんわりとハウアにそう言えば、困ったような顔でハウアはたじろいだ。


「私……私はソエギ様のような事になった事はありません。ですがーー」


「もうね、決めたんだ。」


私ははっきりとハウアの目を見ながら、言った。


「……凄い、ですね。ソエギ様は強いです。」


「そんな事はないよ。」


「芯があるんです。誰もが持っているようなものでは無くて、もっと柔軟で硬い。」


「なんか、表し方が矛盾してるよ?」


私には芯なんてない。あったとしても、風化した岩のようなものだ。触ればすぐに崩れて砂になるような。


「それもそうですね。」


ハウアは苦笑した。

それによって先ほどまで重たかった空気が一気に軽くなり、私は食事を再開する。


「……それで、引き受けてくれるのくれないの?」


「何がでしょうか?」


「この世界の文字について。」


結構話が逸れてしまっていたせいか、ハウアはそうでしたねと頷いてから、思案顔になる。


「教える事は出来ますが、しかし……。」


「しかし?」


「時間帯が狭まってしまいます。私の労働時間の空きを見つけて、しなければならなくなるので。」


そうだった。ハウアはメイドなのだった。

こんな広い城であれば、他にもたくさんいるだろうがそれでも、やらなければならない事は沢山あるのだろう。


「忙しかったら、私は無理に教えて欲しいとは言わないよ?」


多分、今後の予定にはきちんとした言葉の学習については入ってくるだろうから、その時に誰よりも早く思えればいい話。

だが、無理矢理に頭にねじ込めば、抜けていく語句も増えるだろう。私は天才では無いのだから。


「いえ、やらせてください!」


「え?」


「私、誰かに頼られる事なんて今まで殆どと言っていいほどに無かったんです。」


突然ハウアは、私に詰め寄りながらそう言い切った。

だからこそ、私がそれを望んでいるのなら、手伝いたい。


言葉だけでなく、その声質、瞳、仕草からその気持ちが伝わってきた。それがまた私には嬉しくて、微笑んだ。


「ありがとう。」


その言葉を言えば、ハウアは安心したように良かった、と呟く。


「……じゃあ、時間はどうするの?」


「いつも空いている時間は、早朝の五時から七時と夜の十一時から十二時で、あとはその日によって変わってきます。」


本当はもっと休む時間もあるのですが、思いっきり時間が取れるのはこの時間帯だけです、とハウア。


「その時間、何時もは何を?」


「小説を読んだり、武器の手入れをしたりしてますね。」


「武器?」


メイドなのに、武器なんて使うのだろうか?

私は不思議に思い首を傾げた。


「あぁ、この頃少しずつ何ですけど治安が悪くなってきていると言うのと、私がエルフの里にいた時の日課でして……。」


「成る程ね。」


治安が悪くなっているのは何となく察していた。

敵方が攻めてきているのに、戦いが起こらないわけが無い。それに合わせて若い人達も駆り出され、人手が減る。そうなると、自然に治安は悪くなっていく。


しかしそんな中であっても、そこまでの被害が出ていないというのは、ミスリルさんの人望、それから政治方針が成し得ることなのだろう。

一国の王は自分の事だけでは成り立っていかない。民の言葉に耳を傾け、意見を聞き、それを取り入れた形で政治を進める。

言うだけでは簡単だが、やる事は難しい事この上ない。

ミスリルさんの凄さを感じながらも、私は頷いた。


「……じゃあ、朝の方に頼んでもいいかな?」


「分かりました。」


まぁそんなこんなで、長く話しをしながらも私は朝食を食べ終え、ハウアはそれを片付けて笑顔で出て行ってしまった。


「嬉しそうだったなぁ。」


「まぁ、頼られるのはありがたい事だからな。」


「うん。」


しみじみとハウアの笑顔を思い出しながらも言えば、黄竜は机から私の肩に移り、そう言った。


「じゃあ、一旦雹堂と結衣の所に行きますか。」


「そうだな。」


黄竜が頷いたのを横目に見ながら、私は廊下に一旦出た。


「あっ、華梨花!」


「おはよう、結衣、雹堂。」


丁度その時に二人も廊下に出ていたようで、結衣が私に声を掛けてくる。


「もうっ!なんで、朝食の時陰絇の部屋に行かなかったの?」


「うーん、私は朝は一人で食べたい派なんだよ。」


一緒に食べたら、賑やかで楽しいのにと結衣は少し不満そうにしていたが、私がそう答えると、華梨花らしいと言いながら何度か頷いた。


「どこが私らしいの?」


「全部。」


「へ?」


結衣の返答に、私はどうしたらいいか分からずに首を傾げれば、結衣の私から見ての左隣にいた雹堂が、苦笑しながらに言った。


「マイペースな所とか、周りにとらわれない感じが、だよね。」


「そうそう!ナイス陰絇!」


二人の間で納得し合うのはいいのだけれど、私は一方的に話が進んでいるのもあるが、勝手に私のイメージが物凄いことになっているのを知って、じと目で二人を見た。


「ごめんごめん。」


それに気付いた陰絇は咄嗟に謝ってきたので、結衣は苦笑し、私はため息をついた。

本当に、こんな所に来ても何も変わらない。

しみじみとそう思う。だからこそだろうか、私達は頑張れるんだとそう強く思える。


「ん?どうしたの?そんなににやけて。」


いつの間にか私は強い希望の言葉にのせられて、にやけていたようで、雹堂にらしくないとそう言われた。


「どうしてだろうね。こんなところに来ても、私達はこんなに笑えていつも通りで……。」


「だって、それはーー」


「三人揃ってるからだもん!」


雹堂の言葉に続けて結衣がそう答える。


「……うん。」


予想通りの返答。

私はそれが嬉しくて、二人に向けてはにかんだ。


「主よ。そろそろ行かないか?メイドが待っているぞ?」


黄竜の言葉ではっと気が付いたが、いつの間にか、片付けを終わらせて戻ってきていたハウアが所在無さげに、私達の近くにそっと立っていた。


「あ、ごめんなさい。」


私が謝る前に雹堂が申し訳なさそうに謝った。


「あ、いえ、こちらこそすみません。その、えっとーー」


「こら、陰絇。ここは日本じゃないんだから、急に謝られると困るじゃん。言うなら、すみませんの方でしょ、そこは。」


「言われてみれば……。」


急に謝られてわたわたするハウアを不思議そうに雹堂は見ていたが、結衣に注意されて、そうだった、そうだったと何度か頷いてから、案内よろしくお願いしますと頼む。


「は、はい。」


まだなんとも言えない表情ではあったが、ハウアは頷いてこちらですと言いながら歩き始めた。


* * *


案内されたのは、昨日の謁見の間とは違い、広さはそれの半分ほどの椅子や机が置かれた、城にしては質素な感じのする部屋だった。


それでも、普通のどこにでもある家のリビングよりも一回り二回りも広く、色とりどりの花が生けられている花瓶があちこちに置かれているが。


「よく来たな。もう少し休ませてはやりたかったのだが、私の方も色々とやる事があって忙しくてな。」


入ってすぐ、部屋の中を見回していれば、ミスリルさんがそう言った。


「いえ、気になさらないでください。王であるのならば、それも仕方のない事だと……。」


「それに、私達は早起きには慣れているので、どうって事もないですよ。」


「結衣、それはちょっと違うんじゃないかな?」


「えっ⁉︎」


少し的の外れた返答をする結衣に、雹堂は苦笑しながら注意すれば、結衣は驚いたように声を上げてから、またやってしまったとうな垂れた。


「あはは……。」


なんとも言えない結衣の通常運転に、私は苦笑してからミスリルさんの方へ向いた。


「そう言ってくれるとありがたい。」


「まぁ、これが二人の性格なので。」


「それは、華梨花もでしょ?」


先ほどまで表情を硬くしていたものの、ミスリルさんは笑いながらもそう言った。その言葉に頷いてから私が言うと、結衣に不満そうな声で言いながら私を小突いてくる。


「どこが?」


「いや、まぁ……どこか常識がずれてるところがあるからさ。」


「そうなの?」


「……えっと。今まで言われて来なかったの?」


うーん……。


あぁ、でもそういや、黒萩になんか言われた気がする。


ーー華梨花、お前は魔術師としての知識、能力は十分だが、少し世の中からずれている。ちょっとは外にもっと目線を剥けろ。


とか何とか言ってたなぁ……。


「もう少し世の中に目を向けろ、と言われたことはあるね。」


「お、おぉ……。はっきり言う人なんだね、その人。」


少しの間考えてからそう答えれば、結衣はなんとも言えない顔で、苦笑しながらそう返す。


「ふむ。二人とも、話を進めても……?」


「あ、ごめんなさい。」


「すみません。」


ミスリルさんは目を細めながらそっと笑い、私達の話を一旦休止させてから、椅子に座るように勧め、机の上にあったカップに口をつけた。


「あの……それは?」


雹堂が椅子に座ってからミスリルさんの持っているカップに目をやりながら、そう聞いた。


「ん?これか?……これは、リスルール茶だな。今、勇者様方の茶も用意してもらっているところだ。」


「あ、ありがとうございます。……ところで、リスルールとは?」


先に飲んでしまって悪いなと言いながらも、そう説明してくれたものの、よく分からない単語があったために、雹堂は聞き返した。


「そちらの世界にはないのか?」


「ええ。」


「なるほど。リスルールとは、花の名前だ。色は、そうだな……薄紫色の花で、体の調子を良くする効果があるらしい。リスルール茶は、そのリスルールの花びらをドライフラワーとまではいかないが、生乾きの状態まで乾かしたものを湯に浸けたものの事を言う。」


ミスリルさんの説明に示し合わせたかのように、メイドさんが私達の前にカップを置いて行く。


カップの中身は、菫色を少し薄めたような色の茶が入っている。


きっと花びらの色そのままが出てきたのだろう。


好奇心が高まり、私は早速カップを手に取り、匂いを嗅いでみれば、百合のような甘い香りがすっと鼻を通って行く。


ふと視線を感じて横をみれば、右隣にいる雹堂と雹堂そのまた右にいる結衣が私の方をじっと見ていた。


「な、なに?」


「いや、どんな匂いなのかなと……?」


二人の顔が物凄く真剣そうな顔つきなので、私はどもりながらも聞けば、雹堂が少し首を傾げながらも答える。


私はどこの実験体ですか?


いや、まぁ結局は誰かがそれをしなくちゃいけないわけだけれどね?


心の中で愚痴りながらも、私は百合みたいな匂いがすると答えて、一口飲んでみた。


淡い甘さを含んだ不思議な味。少し酸味もあり、蜂蜜を加えたレモンティーのような感じだと言えば、分かりやすいだろうか。


「……美味しい。」


「じゃあ、俺ももらおう。」


「私も。」


私のぼそりと呟いた一言を聞いて、雹堂と結衣は顔を見合わせてから、カップに口をつけた。


「うわぁ!美味しい!」


「うん、本当だね。」


私達の感想を聞いて、ミスリルさんとリスルール茶を配ってくれたメイドさんが安心したように息をついた。


「……さて、本題に入ろうか。」


「そうですね。」


ミスリルさんの言葉に、雹堂と結衣はまだリスルール茶を飲んでいたようなので、私が頷いた。


「うむ。前置きが長くなってしまったが、今日から三人ともにはこの世界の言葉と軽く歴史を学んでもらう。」


ミスリルさんの言葉に私達は同時に頷く。


「それに加えて、同時進行で剣術や魔法についても同様にやっていってもらう事になる。……最初は体力や精神面の事も考えて、量は少なくしているが、それでもきついようであればすぐに言ってくれ。」


「分かりました。では、今日からという事でしたが、日程はどうなっているのでしょうか?」


申し訳ないといった風な顔で、そう言ったミスリルさんに雹堂が代表して了承し、一番気になるところを聞いた。


「今から話そう。今日に関しては、この世界、国の歴史はせずに、文字の練習の方から始めてもらう。これは午前中にやってもらう事になるだろうから、この後すぐに案内してもらってくれ。それから、もう一つの方では昼食を食べ少し時間を取ってからになる。昼食は各自の部屋で食べてもいいが、言っておいてくれれば私やアリア達の食べている広間でも食べる事が出来る。……まぁ、その話はまた後にしておこう。……昼からのものは、主に魔法について学んでもらう事になる。剣術や武術に関しては今回は時間は大幅に縮めてあるから、安心してくれ。」


「……慣れるまではこの日程でいくのですか?」


「そうなるな。」


雹堂は説明を聞いてから少し考え込み、そう聞けばミスリルさんは頷いた。


私に関しても同じものでいいんだろうか?


そんな疑問は出てくるが、今聞くわけにも行かず、私はミスリルさんの顔を見る。


「了解しました。では昼に関しては、親睦を深めると言う事で広間の方で食べる事にします。……いいよね?」


「いいよ。私もそう言おうと思ってたし。」


「……華梨花は?」


「ん?私?私は……二人に任せるよ。」


「じゃあ、そういう事で。」


投げやりなのはいつもの事。いらない事を口にして、話をややこしくするのは嫌いだから、結局この形になってしまうのだ。


雹堂もそれを分かってくれているようなので、慣れたように話を進める。


何年の付き合いだと思っているのだ。結衣と雹堂とまではいかないだろうけど、私と雹堂は互いの性格をよく分かっているのだ。


「分かった。何度もすまないが昼食が出来次第、メイドにまた案内してもらってくれ。」


「はい。」


「では、今日の所はここまでという事にして、私は先にお暇させていただく。」


そろそろ仕事に手をつけなければと、苦笑しながらこの部屋から出て行くミスリルさん。忙しいながらも、私達の事を心配してくれてるんだなぁとしみじみと思いながら、私はミスリルさんの出て行った扉から目を離し、雹堂へと視線を向けた。


「さて、リスルール茶を飲み終えたら、早速案内してもらって文字の練習を始めるか。」


「そうだね。」


私の視線に気づいた雹堂はカップを持ち直し、そう言う。それに合わせて結衣も頷き、ゆっくりとカップを傾けてお茶を飲み干し、机の上に置いた。


なんだかんだと言いながら、二人は楽しみなのかそわそわしている。


「そんなに楽しみなの?」


「そりゃもう。」


「楽しみに決まってるじゃん。」


何処かで示し合わせたかのように、交互に私の質問に答える二人。


本当に仲がいいなぁ……。


先ほどの話を聞いていたのだろう、メイドさんが近づいてきて案内しますと言い、先ほど入っていた扉を開けてくれた。


ハウアは私達を案内すると、他に仕事があるからとどこかに行ってしまったために、今回は名前を知らないメイドさんだ。


「ここの部屋の位置とか諸々覚えておかないといけないね。」


「それは言えてる。」


「まぁ、それは後々ね?」


雹堂があちこちに目をやりながらそう呟くと、結衣が同意して頷く。


それは正論ではあるが、今はそれよりもここに慣れるのとを優先させなければならないので、私は二人にそう言った。


……毎日練習とかで歩いていれば覚えるだろうし。


それでも、この城は一段と広いようなので、大変かもしれないが。


「分かってるって。」


二人も当然それを分かっていたようで、結衣が右の握り拳を胸を張りながらどんと叩きながらそう言う。


「そう言えば、誰が文字について教えてくれるのかな?」


「アリア様ですよ。」


「……え?」


「『国の意向とはいえ呼び出したのは私ですから、そこは私が責任持ってやらせていただきます。』とおっしゃっておりました。」


結衣の元気な反応に、雹堂は苦笑しながらもそう言えばと呟けば、それに素早く反応したメイドさんが、答えてくれた。


私達よりも年下であるだろうに、こんなにも責任を感じてここまでやってくれるなんて……。


なんだか申し訳なくなりながらも、文字に関しては早目にやっておかないと、これからに色々と支障をきたす。


この世界では、私は身寄りの無い肩身の狭い存在である。


結局はアリアやミスリルさん、ハウア等なのメイドさん達にも頼らなくてはなら無いのだ。


「……改めて、ここは違う世界なんだなって感じたよ。」


「うん、そうだね。俺達には今、血の繋がった存在もい無いし……。」


「それでも、私達は変わら無いでしょ?」


「……うん。」


「俺達なら、きっと大丈夫……。」


寂しげにつぶやく結衣に、雹堂が同意した上で、頼り無さげに小さく笑う。


精神が弱ってきてるのか、らしく無い二人にどう声を掛けたらいいのかわからず、私は結局そう言う事しか出来なくて、歯痒さにそっと手を握りしめた。


どうしようも無いな。


私だけ、ここに来るように出来ていれば……。


そんな事考えたってそれは後の祭りなのに、それでも何度も後悔してしまう。二人は勇者だ。そう納得してしまうほどの、志、優しさを持ち合わせている。


だからこそ、私は二人のやる事を背負って、全てを終わらせてしまう事なんて出来やしないのだ。


ーー私には、二人を支える事しか出来ない。


その事実が私の目の前に突きつけられる。


私が魔術師である事を開かせたらいいのだが、それをすれば二人の身が危うくなる。絶対に、私の正体がばれた途端、もし二人がその事を知っていれば、殺されてしまう事は確実と言っても過言では無いだろう。


「華梨花、うだうだと悩んでいる場合では無いだろう。前を見ろ。振り返るな。目を閉じるな。耳を塞ぐな。私はここにいる。」


「うん、うん。……ありがとう。」


私も相当参っているみたいだな。


「いや、いいんだ。こうなってしまっては、悩んでしまう気持ちも分からないでも無い。だが、考え込んでしまうのは、華梨花の悪い癖だ。」


「……ここに来てから、無理に私の事を主って呼んでたけど、戻したんだ。」


「うむ。 さっきのは焦ったからというのもあるが、単に面倒になってきた事もあるな。」


相当厳しい顔つきをしていたのだろう。黄竜が慌てて、声を掛けてくれたのかと、黄竜に申し訳ない気持ちになりながらも、私はもう一度礼を言った。


私も人の事言えないなぁ……。


「出来るだけ怪しまれないようにしておこうと思っていたのだが……。」


「でも、雹堂や結衣には聞こえてないみたいだよ?」


悩み事をしていたのもあって、私はメイドさんや雹堂、結衣から少し離れた所を歩いていたのと、三人はこれから向かう所についての話をしていたので、聞こえてないだろう。


「なら、大丈夫か。」


「そんなにこだわらなくてもいいのに。」


「いや、だがなぁ……。」


「華梨花?何やってるの?」


私と黄竜が話しているのに気付いた結衣が、私に声を掛けてくる。


まだ、黄竜は悩んでいたようだったが、これ以上進んでいる話に置いていかれてはなるまいと、私は何でもないと笑顔で答えながら小走りで三人に追い掛けた。


誤字、脱字、感想等あれば、コメントよろしくお願いします。

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