52話 後の始末
→→→→→兄ターン
疲れてるのに、思ったより衛兵団とギルド側が揉めてうんざりだったが、カトウは冒険者ギルドのリラキア支部で一先ず預かることになった。
最終的にはこの国のギルド本部に送られるらしい。チート来訪者専用の監獄があるとか···
カトウを護送する形で飛行絨毯で俺達もリラキアに戻り、モルテマ坊っちゃんの回復とボルッカの両手のダメージの治療を行うことになった。
と言っても、坊っちゃんに関しては坊っちゃんや棺にギルドから支給された竜の血ポーション1本にハイマジックポーション5本、血液剤どっさり、ブラックジェム3個を入れて混ぜ、そこに坊っちゃんの頭を、ポ〜イっ、と放り込むだけだったが。
翌日の夕方。
ボルッカはまだ両手が痺れ、坊っちゃんは「眠いのだ···」と連発して棺から出てこないが、取り敢えずリラキア支部から呼び出された俺達は、ベルトで蓋を固定した坊っちゃんの棺をノッコに担いでもらい、支部に向かった。
「ご案内します。しかし、弱った欠片とはいえ機神を倒すとは! C級の仕事ではありませんよ?」
黒兎のルシーは感心しきりだ。
「いや袋叩きで、モルテマ坊っちゃんが状況作ってくれたから」
「というか私達、『新手の凄い試作ゴーレム?』みたいな感じだったし」
ちなみにカトウの雇用主のような立場だった機神教団はそれらしいのが俺達が落とした拠点近くで目撃されたが、直接ちょっかいを掛けてくることはなかったようだ。
「···ルシー。他の2つの拠点は今、どんな感じだよ?」
器用さ命の鍵師だけに両手に痺れが残ってるのはかなりストレスらしいボルッカ。表情は冴えない。
「ゴーレム拠点は結局、今日の午前まで掛かって4次攻撃まですることになったようですが、壊滅させられたようです! 飛竜部隊の手配ができていなかったら大変なことになっていたでしょうね」
制空権、てヤツか。
「居住拠点はあっさり制圧後、特に問題ありません。カトウは自分がどれ程危うい立場か、わかっていなかったようですね」
「カトウは今、どんな感じなん?」
「自分の知ってる犯罪情報等を洗いざらい吐いて、技術協力もほのめかして少しでも上手い落とし所を探ろうとしてます。擦れっ枯らしですよ」
呆れた様子のルシー。ノッコは噛み合いそうにない小悪党に、もう困惑していた。
俺達はカトウに面会することになっている。
「あまりいいことにならないでしょう。帰りにウドゥーンでも食べましょう」
ノッコの腕に触れて、先回りして慰めるナンクゥー。
「うん! ウチ、ウドゥーン好きっ」
少しは気を取り直してくれたようだ。
「···吾輩は話すことないから、出ないぞ? 面倒な」
棺の中から坊っちゃんのボヤきも聴こえた。
ギルドの牢獄フロアに入るとミノベさんが廊下で待っていた。平服だと完全に『背景』みたいな人だ···
「やぁ、大活躍だったね。坊ちゃまのお世話も堂に入ってる。ふふ」
「いや、ミノベさん。坊っちゃん御両親のとこ戻らなくていいんッスか?」
「昨日もギルドに預けられるのヤダって、付いてきちゃって」
「カズネ。吾輩ヤダとか、そんな可愛く言ってないぞ?」
「雰囲気雰囲気」
「坊ちゃまは本来の手勢を失われてビリアファミリーの秘匿領には戻り難いところだからね」
ま、本妻さんとか、その子供達もいるんだろな···
「とにかく。カトウがお待ちかねだ。一応確認しておくけど、争乱期の品は持っていないね? 力は封じているが、スプーン1つでも命取りだと思った方がいい」
「うッス」
「では、こちらでーす」
俺達はミノベさんとは廊下で別れ、ルシーに続いて牢獄を進んでいった。
→→→→→妹ターン
囚人服のカトウは思ったより若かった。20歳くらいに見える。整ってる方だと思うけど、不健康そうで、なによりこんな猜疑心の強さがそのまま顔に出てる人見たことなかったよ。
両手はほぼミイラ化したままで、手錠の代わりに強い魔力の布の手枷が付けられてる。首にはチートを封じる強力な魔力の首輪が付けられてた。
「チッ。あの時の雑魚どもか。勘違いするな? 機神の欠片は不完全品だ。まぁ元々あんなイカれた物を完成まで仕上げて納品するつもりはなかったがな。クソカルトどもがっ」
全方位、トゲトゲしてるな〜。ウニみたいな人。
「···能力的に地球に帰れそうだけど、帰らなかったんッスね」
「黙れ! 小僧っ! 来訪者か? 無能力のカスだな。しかし日本でぬくぬくと育った口だろう? 精神の軟弱者めっ! このクソ世界で野垂れ死ね!!」
口、悪〜っ。口喧嘩弱い選手権でそこそこ上位取れそうなヒロ兄が秒で会話諦めたよっ。
ナンクゥー至っては話す前から一歩下がって棄権したしっ。
「攻撃ばっかしやな、弱虫!」
ノッコ、正論で行っちゃうの??
「なんだと? 脳筋種族めっ。物理的に倒した上で倫理的優位を気取る偽善者が! どうせ程度の低い世界で牛か馬のような暮らしをしていて、たまたま現れたお人好しの来訪者に寄生して内心でコソコソ思っていた『善人の幻想』の自己実現をしているだけだろう? 貴様は気持ちよくなれる暴力の裏付けを欲していただけだ。一方的に殴れる免罪符を求めていた。真に邪悪とは貴様のような愚鈍で欲深な家畜のごとき輩のことだ!!!」
ヒィーッッッ、どうしてノッコにそこまで言えるの〜?? ほぼ100%自分が悪いのに???
「この世界で友達になれるかもしれへん子らが怖かったんやろ? 羨ましかったんやろ! 腕伸び夫はあんたみたい人でも友達なれたかもしれへんかったんやっ。チキュウでも1人ぽっちやったんやろ!! アホーーーっ!!!」
半泣きで叫ぶノッコ! ···スッと、カトウの顔色が青ざめるのがわかった。
私は全力で間に入ったっ。チキュウ時代を煽るのよくないと思うっっ。
「よーし! ディベートみたいになってくるとよくないよね? なんか宮沢賢治がそんなこと言ってなかったっけ? ははは」
「カトウ。ヤケを起こさずギルドと交渉するんだな。元の世界に戻らないにしても、もっとマシな暮らしがあるはずだぜ? どこまで許されるかは知らないがよ」
「···失せろチビ、たくさんだ。私はお前達に敗れたワケではない。その担がれてる死に損ないにもだ。クソゲーの攻略をミスった。それだけだ。それだけだ···」
カトウは俯き、それ以上の会話を拒否した。私達は引き上げることにした。
それからギルドと衛兵署で報酬の手続きなんかを済ませ、ガタガタな装備を整え、リラキアのギルドが用意した宿が使えるのが明日までだから、帰り支度も整えてると、またギルドから知らせが来た。
翌日の朝、なんだかんだで、奮発して購入した中古の飛行絨毯で、私達はカトウの居住拠点に向かった。
「あれ? 結構、癒やし系?」
「別荘だな。家探し済みだが」
念入りに魔除けと秘匿の結界で覆われたカトウの居住拠点は、地球的には古風な造りだけど軽井沢の別荘を3つくらい繋げた感じだった。
衛兵団に建物は踏み荒らされ、金目の物は没収され、家事や警備のゴーレムは全て破壊されていたが、元の趣味のいい開放的な造りの面影は朝陽の中で見て取れた。
ギルドの人間がいくらかまだいた。もう回収する物もないけど、一応1つのルートでそれなりの所まで極めた来訪者の最後の暮らしを見るか? と誘われて来ていた。
「荒らされる前は、菜園や花壇等も念入りに整えていたようですね。あれだけ神経質な人間です、心を整えたかったんでしょう」
荒れた花壇を見詰めるナンクゥー。
「吾輩、小者の暮らし等知らないのである。くぁ、眠っ」
日傘を手に棺から上半身を出していた坊っちゃんはまた棺に戻って蓋を閉めちゃった。
「トイトイゴーレムや···」
衛兵団に砕かれた家事ゴーレムの中にはトイトイゴーレムもいる。
ノッコはその破片の小さな手を大きな手で拾い上げてた。




