40話 落花流水
→→→→→ずっとナンクゥーターン
ワシャワシャワシャ!!
ガササッガササッ!!
時々ぶくぶくと泡も吹きますね。
マリー湖の湖面から無限に涌いてくるザリガニ型モンスター『サロマイーター』。掴まったり水中で戦ったりしない限り特に強いモンスターでもないのですが、とにかく無限涌きです。
依頼人である湖畔のマリー村の住人、蛙人間のワーフロッグ族の人達も、簡単に木を組んだだけの即席の砦から、必死でクロスボウや水魔法の『ポルト』で応戦しているのですが、数が多過ぎ。
数ヶ月前、どうもマリー村の住人の知らぬ内にマリー湖でなんらかの大型のモンスターが死んだらしく、その栄養満点な死骸を元々適正な個体数で自生していたサロマイーター達が爆食し、一気に繁殖!
通常ではあり得ない速度で成長し増えまくり、数に任せて村近くに多重に張ってある魔除けの杭による境界を喰い破って村を襲うようになっていました。いわゆる『スタンピード対策クエスト』ですね。
ギムリーの冒険者ギルドは、C級冒険者を集め対策に乗り出しました。結構遠いですし、ギムリーの町はマリー村と親しいワケでもないのですが、このマリー湖はギムリー周辺の川といくつか繋がってるので放置すると大変なことになっちゃいますので···
「第一防衛線放棄! 下がれ下がれ!!」
お、防壁を立てた第一防衛線が突破されましたね。
集められたC級冒険者はボク達を含め20名程。C級20名なら作戦を練って頑張れば下位のドラゴンや巨人族も倒せますが、そこはスタンピード。数の暴力です。
物量はマリー村の住人総出で補い、ここまでの冒険者勢は各所で指示や工作を担当しています。
ヒロシとノッコは高価な『飛行絨毯』をギルドから借りて他の決戦要員のメンバーと投擲等で援護しつつ上空待機。
ボルッカは砦から全体を見ているテレパシーが使える冒険者と組んで『拡声のワンド』を手に素早く動き回って指示が伝わってないとこに指示出し係。全体をテレパシーで情報管理するのはC級では無理ですから。
カズネは事前の即席砦&防壁作りで器用なムートの念力を重宝がられて、徹夜でマジックポーション漬けでコキ使われ今はダウン中です···
「第二防衛線放棄! 下がれ下がれ!!」
もう第二防衛線抜かれましたか。
全体の段取りとしては、まず湖畔のよき所に3重の防壁と砦を作る。そこがキルゾーンになります。次にサロマイーターが好む『フェロモン液』とフェロモン香』で誘い込む。
と同時に観測班が密かに水中でサロマイーターの動き、残数、メインターゲット『マザーサロマイーター』の動向をチェックする。
そして、最終フェーズに備えます。
スタンピードは種や状況によりますが8割は仕留め、マザー個体を片付ける必要があります。
甘くないクエストなのです···
と、離れた湖の端から光魔法の『ルクレ』の光が立ち上りました。
「8割陸に上がった! マザー個体も来るぞ!!」
最後の第三防衛線もだいぶ喰い付かれてますが、いよいよボク達の班の仕事ですね。
砦の上でボクはマリー村の精霊使い5名と応援に来てくれたロヴミィ教官とで『喚び出された水の精霊ウンディーネの集合体』を水触媒の『ブルージェム』7個を使って制御し、その水の力を高めていました。
「ロヴミィ教官、村の皆さん、下の人達はもう限界ですし、ボク的には抑えてるの限界なので、そろそろアタックしませんか? 合図もありましたし」
「よし、ナンクゥー。お前が発動基点となるのだ」
「なんでぇー??」
ロヴミィ教官のムチャ振りです。心臓がタムタムしてきますっ。
「我々もこれ程力を蓄えさせたウンディーネを扱ったことはない。お願いできるなら任せたい」
村の精霊使いの人達〜っ。
「土と植物の精霊が使えるなら水とも相性は悪くない。やってみな」
「教官は極端です」
「今回は水の底に沈めてないだろ?」
「···」
はい、諦めました。
「わかりました。やってみましょう」
精霊使い班、一致団結。ウンディーネの集合体と同調を高めます。
「幻惑の、落花流水」
ザフッと、津波のような霧がサロマイーター達を覆い尽くします。
超高出力の霧の幻術です。ただの幻ではなく、五感と短期記憶の錯乱を含み、なにより強制力と規模が圧倒的です。
知性は低いですが、これだけの数に掛けるとなるとこのパワーでも単純な主旨の幻術となります。
『餌がなくなった。他の同族に食べられる前に食べなくちゃ』
です。サロマイーターは飢餓状態になると共喰いしますからね。
ガリガリガリガリガリガリッッッ!!!!
サロマイーター達は猛烈に喰い合い、あっという間に自滅してゆきます。
通常個体はこんなもんでしょう。以外とブルージェムが3個残り、他の使役者と連結使用だったからか? ボクもまだ倒れる程じゃないですね。確かにウンディーネと相性悪くないかも? です。
マジックポーションはこくこく飲んどきます。
「んぐ、上手くゆきましまね」
「まだだよ」
ザパァッ!! 本物の津波を起こし、通常個体群の死骸を押し流し、第三防衛線の人達も慌てて避難させつつ、マリー湖からマザーサロマイーターが現れました。即席砦を体当たりで壊せるサイズです。
早速、上空の決戦班が急降下攻撃を始めます。
「ナンクゥー、村の若手達と応援に行くんだよ。ジェムが3つ残ってる」
「言われるだろうな、とは思ってました」
諦めの境地です。ワーフロアの若手の精霊使い2人と1つずつブルージェムを持ち、1体ずつ引き寄せたウンディーネを泡形態に変化させてそれに乗り、援護に向かいます。
「今日もウチは重いでっ? どすこーい!」
ハードシェルで降下して巨大な左の挟みで受けさせるノッコ。
「ナイスっ、ノッコ!!」
ドラゴンハントで左の腕関節を狙い、左のハサミを切断するヒロシ。2人ともやりますね。精霊使いの若手2人も水の刃等で援護開始。
他の人達もそれぞれ攻撃を始めています。マザー個体は巨大で大暴れ。水を操る力もあります。
ボクは、少し工夫しましょうか?
「水メインですが、水と土で泥、泥に種子で···」
ブラウニーとドリアードの力も借り、ボクは中で泥の渦に芽吹く赤黒い種子をいくつも生み出しました。
「吸血睡蓮の、百花繚乱」
泥の渦を叩き付けると、マザー個体の体表で吸血睡蓮達が根を絡め狂い咲き凄まじい勢いで体液を奪いました。水を操れなくなるマザー個体。
「効果抜群です。ハハハ」
勝ち誇っていると、捨てられた飛行絨毯を拝借したらしいボルッカとカズネが飛来しました。
「復活! 兄の妹っ、遅れて参上!!」
「妹の知り合いもいるぜっ! 絨毯の扱いは任せろっ。飛行絨毯は鍵師のロマン!!」
これを撃ち落とそうとした痩せたハサミはヒロシとノッコが叩き折ります。
「んんんっ、ラスタっ!!!」
胸部の心臓を撃ち抜くカズネ。マザー個体は絶命し、地を揺らし、泥を盛大に跳ねて倒れてゆきました。
「完勝ですね。当分甲殻類は食べたくないです···」
下では仲間達と、ギルドの人達、そしてワーフロッグの皆さんもゲコゲコと、大喜びでした。
マリー村は湖に面していて、水陸両生種族だけに増水で水に浸かってしまいそうな所にも平気で東屋が建って居ましたが、基本的には高床式です。
黴や虫の対策に、灰や薬液を使った黒い塗料を多用していて独特のニオイがする空間です。
「はい、契約」
スプリングワンドでちょこんと触れ、一緒に戦ったウンディーネと契約し、簡素な水の人形の姿から花の装飾のある姿に変えました。
「土、木、水の力が合わされば今回のような技も使える。あの来訪者達を助けながらしっかり修行するのだ。ナンクゥー」
気付けにイモリの黒焼きを齧ってるロヴミィ教官。今は宴の最中でした。仲間達も騒ぎの中にいます。
「今では、世界が広がった気がしています」
「よきことよきこと。さ、サロマイーターの姿焼きがあるよ?」
「いらないでーす」
「むむ?」
ボクは湖畔の特産フルーツのアイス等を狙って、仲間達の輪に戻ってゆきました。




