38話 怪鳥モー・ショボー 後編
→→→→→兄ターン
なにも魔法なんて使ってないからそれなりに不自然だが、俺とボルッカは示し合わせたようにマジックポーションを飲んだ。お互いだいぶ消耗してる。
俺は名探偵じゃない。そもそもネオ山梨のモンスターに人間の理屈は当てはまらないだろう。
だったらそれなりのやり方がある。
俺とボルッカは『魔力を目に集め』村民の体温の変化を確認していた。『他に方法なさげになったら、俺は男の村民。ボルッカは女の村民の体温鑑定をする』とそれだけは宿で申し合わせていた。
教会前の騒動で、個人差はあるが興奮した人は体温が上がり血の気が引いた人は下がってる。一連のそれなりのやり取りで『人間なら普通に状況通りの反応をしている』だが『2人だけ、リアクションはしても体温が一定の者』がいた。
おそらく俺やボルッカの脳を喰って学習すればそれにも対応してくるだろう。だから、ここで俺達は負けられない。
概ね当たりを付けていた2人ではある。モー・ショボーの資料と少し乖離はあるが、『不可能な振る舞い』とい資料も確かなかったはず。
「···村長さんと息子さん。先程の襲撃の際、なにをされてました?」
全員静まり返った。
「はい? 私は疲れてしまって暖炉の前でうたた寝を。息子は一連の騒動で乱れた村費の再調整を計算していました。私達は疑われているのですか? モー・ショボーは女に化けるモンスターでしょう。それに噂の踊り子は1人だった」
「先程襲われた2人の内、お兄さんは元自警団員。弟さんも近々入団する予定で村の兵法道場に通っていたようです。モー・ショボーは嘴で頭部に攻撃するモンスターです反撃した痕跡も無い。『1体で2人とも一撃で仕留められる』でしょうか?」
「しかしそれでは2人暮らしの者のほとんどが容疑者では?」
もう一息!
「俺と仲間のフェザーフットの彼はずっと、魔力鑑定で村民の体温を測っていました。あなた達2人だけ、あれだけ騒ぎになったのにまるで平温でした。勿論、村長とその補佐をしてらっしゃる立場もあって平常心を心掛けられたのかもしれません」
押せ! ヒロシ! 回れっ、俺の滑舌っ!
「どうでしょう。仲間にドリアードを使って植物の針を出せる者がいます。それを聖水に浸して、2人暮らしの村民全員の腕に刺させてもらえませんか? 少しチクっとするくらいで酒で消毒して普通の軟膏を塗るだけで手当てできるくらいです。まずは試しに」
「必要、ない。あ〜あーあーアーアー、無駄な、活動。ここで、そんなに、狩る、必要、なかった。お前、人間の、脳の、刺激、気に入り、過ぎた」
村長の息子は皮が溶けたようになりだしっ、村民達は悲鳴を上げ、あるいは武器を構えた。
「自警団は非戦闘員を庇ってくれよっ、こっちは手一杯だ!」
ボルッカの呼び掛けで自警団は動きだし、仲間達も戦闘態勢を取った。
「···体温は知らなかった。学習した。いや、まず、どこが、不自然だった? 茶菓子か? お茶か? 会話に不自然なことがあったか?」
息子だった方は完全に異様に目嘴の大きい歪な鳥のモンスターの姿に変わっていたが、村長の方は皮が溶けたように『脱ぐ』と美しい踊り子に変わり、続けて様々な女達の姿を変えた。
「最初は古いのを捨てるのを忘れただけ、それが有利だと気付いて、色々な女の皮を集めた。お前達の好きな言葉、臭い、酒、交尾の仕方」
また拘束されてるよろず屋が派手に嘔吐した。南無三···
最後に通常のモー・ショボーの2倍はありそうな本性を表すと、おもむろに口からひしゃげた修道士の指輪を1つ吐き出した。
「私達ノ誘惑ノ力モこれデ効カナイイノダロウ? 前ニ私ヲ殺シニ来タ者ガ付ケテイタ。殺スノニ何きろモ追イ掛ケテ、何度モ頭ヲツツイテ、脳ヲ喰ッテ、理解シタ。オ前達ヲ喰ウニハ、工夫ガ必要。工夫ニハ、新シイ脳ヲ食ベルコトガ必要。クェックェクェクェッッッ!!!!」
コイツ、やっぱ今倒しとかないとヤバぇなっ!! 俺はショートグレイブの替わりに買った穂先と石突き周りをしっかり鋼鉄で補強した『ハンタースピア』を旋回させてから構えたっ。
→→→→→妹ターン
2体の場合の役割分担大体決まってるっ。私、ノッコは弱そうな方!
「ラスタ!!」
私は5発の無属性弾を通常サイズの方のモー・ショボーの真上で激しく旋回させた。コイツ、速い魔物みたい。普通に撃っても当たらないだろうし、まずは自由に飛び回るのを威嚇するっ。
モー・ショボー小は速攻で私に突進しようとして、そこにノッコがハードシェルで突っ込んだけど躱された。ノッコは振り向き様にウォーハンマーを投げ付けたけど、左の翼を少し掠っただけで村の建物を1つ粉砕した。悲鳴を上げる村民の方々。
「「「おい〜っ??」」」
倒したらチャラだよね? 少しは動きは鈍ったモー・ショボー小はあくまで私に向かってきたけど、頭上の無属性弾5発を叩き落として誘導し、ウィッチウィップで右の翼を打って、ムートの念力で自分を操つり緊急回避!
勢い余ったモー・ショボー小は自警団の一部に突っ込んで吹っ飛ばし、翼の損耗で地面でジタバタした。そこへ再び、大盾も捨てたノッコが突進!
「グーは速いでっ?!」
嘴を突きをフックパンチで払い、そこから殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴るッッッ!!!!
「クゥゲェエエ······ッッッ」
モー・ショボー小はモザイク掛けなきゃ、な感じにされて倒された。しゃっ。
でももう一仕事!
モー・ショボー大の方のヒロ兄達はなんか凄いことになってたっ。
モー・ショボー大の上空からの大雑把な狙いで村民の人達も危ない『鋼の羽根』の連打をナンクゥーがブラウニーの『石の盾』で防ぎ、屋根に登ったボルッカの癇癪の実のパチンコ攻撃で支援を受けたヒロ兄がエアステップで、高速飛行しながら攻撃するモー・ショボー大に追い縋っていた。
「カズネ、援護や! ウチ投擲するわ」
「うんっ。···て、ちょっと待ったぁっ!」
「なんや??」
壊れた建材とか拾い出したノッコの両拳がさっきのファイトでデロデロになってるっ〜!!
私はまず、その応急処置だけでも済ますことにしたよっ。
「ラチが明かないですね。···ボルッカ!」
察したボルッカが複数の『光り玉』にスィッチを入れ、夜空に投げ付けた。
弾ける閃光っ! モー・ショボー大が怯んだ。了解しているヒロ兄は目を庇って防いでる。さらに、
「針山の、花天月地」
聖水を宙に撒いてからそれを射抜くようにブラウニーに無数のたぶん金属針を撃ち出させるナンクゥー! いくらかはモー・ショボー大に当たり、着弾箇所を浄化の青白い炎で焼かれるっ。
「クェッッ?!」
一気に間合いを詰めるヒロ兄。応急処置を終え、私とノッコも走るっ。
「ヒロシ・コメットの初動改めっ、『ホップリング』スキルだ!」
中近距離くらいで相手の進行方向に大きなエアステップの魔力リングを発生させて弾くヒロ兄! そこにボルッカの癇癪の実、私のエルの炎、ノッコの投擲で命中っ! モー・ショボー大を大きく怯ませた。最後は、
ドォオオッッ!!!
真上から真下へ跳ねたヒロ兄が、穂先を中心に魔力を集めるのに合わせて持て手や腕なんかにエアステップリングを張って緩衝をしながら、モー・ショボーの胸部に渾身の一撃を叩き付けっ、真下に落下させて集めた魔力を炸裂させた!!
モー・ショボー大の身体に風穴を空け、穂先でエアステップして地面に空けた大穴から飛び出してくるヒロ兄。
「完成するとこれ『ドラゴンハント』スキル、ていうんだってさ」
完勝!! 村民達の歓声が上がった。
···それから、霊木の灰とナンクゥーのドリアードを使って『葬送の冥花』を咲かせて、怪鳥に取り込まれた犠牲者達の鎮魂に当たった。
「慰めの、百花繚乱」
宙に咲いた淡く発光する半透明の巨大花は輝く花粉を振り撒き、モー・ショボー達の身体から犠牲者達の魂を引き戻し、夜空に送った。
翌日。ヨス村を私達は出発した。事後処理はギルドと衛兵と教会の仕事。
銀毛種の馬車に揺られながら、私達は言葉少なだった。というか私以外は疲れて眠ってる。
と私はふと嫌な感じがして、車窓を見上げた。質の悪いガラス戸の向こうの曇り空の遥か上空に、いる! 7体もっ。幼体らしいモー・ショボー達っ。
「皆、起きて!! 空っ」
「なんだカズネ。うぉっ? 繁殖してたのかっ」
「被ってた皮はアレだが、ツガイだったのかもしれねぇな。ギルドに報告だぞ?」
「鳥ですし、向こうから来ないと退治し難いですね」
「でもモー・ショボーて焼いたら美味しいんやで?」
「「「食べてたの??!!!」」」
恐るべし、オーガ族っ。
疲れ果てた私達は、とにかくギムリーへと帰っていったよ···




