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悪役令嬢と呼ばれた四姉妹はどうにも納得がいかないようです  作者: ゆうひかんな


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22/24

悪役令嬢と呼ばれた四姉妹の華麗なる復讐


 エルザがユーザ・ロ・バルディアス皇国にやってきて三年。

 来た当時はこんな未来を欠片も予想していなかったわ。

 エルザは隣に立つレナルド様と視線を合わせて、ふふっと笑う。


 一年が過ぎたところでレナルド様と婚約した。届出を提出する前にマストリーク公爵家へご挨拶に伺ったときには、二度も婚約破棄された娘と嫌みの一つも言われるかと思ったら全然そんなことはなかったわ。ご両親はなんでも私のことを外交の場で度々目にしていたそうで、色々大変だったねと逆に労わるような言葉までいただいたくらいだ。


「あの日のことは今でも覚えているわ。レナルドが交流会から帰ってくるなり『結婚したい人がいる』と言ってね。釣書を大至急送ってくれって言うのよ。そんなに急がなくてもと言ったのに『素晴らしいご令嬢を誰にもとられたくない』ですって! この子のあんな必死な顔は、あのときがはじめてだったわ」

「母上、それをエルザに言わなくても……」

「微笑ましい話だもの。いいじゃないの」


 公爵夫人が笑い声をたてた。それから夫であるマストリーク公爵閣下もまた笑いを堪えた顔でうなずくと、レナルド様は顔を真っ赤にして下を向いた。すごいわ、あのレナルド様が完全に子供扱いだ。

 そして最後に、公爵閣下はこう言った。


「困ったことがあったら、レナルドだけでなく私達にも相談してくれ。我々は家族になるのだから」


 私にも、ようやく私だけの家族ができた。

 新たな家族ができたこの日のことを、エルザはきっと忘れないだろう。

 そして今日、ついに結婚式当日を迎える――――。


 「さすがに三回目の婚約破棄はなさそうね」


 控室を出て付き添いのシシルに手を引かれながら、エルザはほっと息を吐いた。思わず口から出てしまった呟きを拾って、一瞬足を止めたシシルが苦笑いを浮かべる。


「イヤだ、まさかこの期に及んでマリッジブルーとか言わないでよ? 言っておくけれどね、あのレナルド様がエルザの手を離すなんてことは万に一つもないから安心しなさいな」

「そうよね、緊張しすぎておかしなことを言ったわ」

「あのレナルド様に限って絶対ないから。ないない、絶対ない。むしろ結婚したら簡単には離してもらえないだろうから、そっちの覚悟しておいたほうがいいわよ?」


 彼女の視線の先には大聖堂に繋がる大きな扉があった。そしてその扉の前には、エルザの愛する人が待っている。彼が身にまとうのは金糸と銀糸で華やかな刺繍が施された雪のように白い儀礼服だった。優美で堂々とした立ち姿にエルザは頬を赤らめる。誰よりも白が似合う彼は感嘆のため息をこぼして、シシルから受け取ったエルザの指先に軽く唇を寄せた。

 

「きれいだ。君はいつでも私の想像を軽やかに超えてくるね」

「ありがとうございます」

「でも女神のように美しい君を他人の目に触れさせるのはイヤだな。このまま家に帰ろう?」

「ええと、それはちょっと……」


 そんな懇願するような目で見られても困る。

 エルザはレナルド様の胸元に手を添えると困った顔で微笑んだ。


「今日のために準備をしたのです。お父様やお母様も楽しみにされていらっしゃいましたし行きましょう。ね?」

「その顔……しょうがない。この手は絶対に離してはいけないよ?」

「ほらね、言ったでしょう!」

 

 背後に立つシシルのからかうような言葉が痛い。このむずがゆいような空気はどうしたらいいの? 頬を赤くしたエルザの隣で、レナルド様はくすりと笑う。


「どう、緊張は解けた?」

「わかってやったのですか? それはまあ解けましたけど、今度は逆に恥ずかしいです!」

「怒った顔もかわいらしいね。さっそく招待客に自慢しよう」

「もう、さっきと言っていることが違うじゃないですか!」


 完全に真っ赤になったエルザの顔の横で、耐えきれなかったシシルが笑い出す。


「そういう痴話喧嘩は、あとで二人きりになってからにしてちょうだい? 見てるほうが恥ずかしいから」

「そんなつもりでは……! な、納得いきませんわ!」

「あら、もっと話し合いが必要みたいですよ。レナルド様?」

「それは大変だ。式が終わったあとなら、いくらでも時間があるからそのときにね」


 二人の時間は、これからもずっと続いていく。

 甘やかに微笑んでレナルド様はエルザに手を差し出した。


「じゃあ、行こうか」


 こんなふうにレナルド様が差し出す手は、エルザにとっていついかなるときも特別だ。エルザがラングレア王国を捨てた日、彼の手をとったときからこうなる未来は決まっていたのかもしれない。逃げる手段のつもりが罠に捕まったようなものだ。でも、それを嫌だと思わない時点でエルザもしっかり深みにはまっている。


「いつかの約束を果たしたい。これからもあなたを幸せにする手伝いをさせてもらえませんか?」


 この愛を守るためなら、悪役だって務めてみせる。覚悟を示すようにエルザはほんの少しだけ強く彼の手を握り返した。そんなエルザの手を握り、視線が重なって、レナルドはようやく幸せを噛み締める。彼女の隣に並ぶ日を、どれだけ夢見たことか。

 凛と佇む彼女の想像を越えた美しさに一瞬息が止まる。白のドレスをまとった彼女は冬の女王のようだ。冴えた気品、厳粛な雪の軍勢を従える女神のような風格に誰もが自然と首を垂れるだろう。

 彼女の真価は美しいだけでなく、優しいだけではないところ。醜く厳しい現実を知っても勇敢に戦い続けた彼女だけが、唯一レナルドを理解してくれた。

 囲い込んで、捕まえて、このまま囚われてしまえばいいのに。手を添えればエルザの頬が薔薇色に染まった。このふわりと上がる温度が、彼女の愛がある証だとレナルドだけは知っている。


「準備は調いました、ご入場を」


 司祭が、儀式の始まりを厳かに告げる。ステンドグラス越しに燦々と降り注ぐ祝福の光を浴びながら、エルザはウェディングドレスの裾をひるがえした。するとドレスの裾を飾る真っ白なレースが一層輝きを増して、光輝くような美しさに誰もが感嘆のため息をこぼした。

 エルザの身を飾るこのドレスも装飾品も、さまざまな人の愛にあふれている。この日のためにと、自分が好きなものばかりを選んだ。そうできることがエルザにとってうれしいし、何よりも幸せだ。

 

「レナルド様。私は愛されるばかりでなく、愛を返せるような人になることを誓いますわ」

「私は君が隣にいるという奇跡に感謝を。いついかなるときも、君を愛している」


 扉が開く前、ちょっとだけ背伸びをしてエルザは彼の頬へと軽やかに口づけた。


 愛する人に、わかりやすく愛を伝えるのはとても大切なことだ。

 仲睦まじい二人の目の前で、大聖堂に繋がる扉が音を立てて開かれた。


―――――


 歓声が上がり、祝福の鐘が鳴り響く。


 今、目の前にある由緒正しき教会では盛大に結婚式が執り行われていた。そして教会から少し離れた場所にあるカフェの二階席で三人の淑女がテーブルを囲み、三者三様の表情を浮かべている。


「やはり納得いきませんわ」

「あら、なにが?」

「こんな近くにいるのです。もう少しなんとか近づくことはできなかったのでしょうか?」


 離れてはいるけれど、お祝いの花が飾られたバルコニーからは教会の正面玄関がよく見える。そういう意味では特等席とも呼べるこの場所で、テーブルをはさんで座る彼女達の耳には階下の喧騒と往来の人々の賑やかな笑い声が途切れることなく響いていた。


「しょうがないわよ。本来なら入国すら許されなかったところを、ルークとセオドア様がマストリーク公爵家と話をつけてくださったのですもの。ベルジェット商会の商談に同行という表向きの理由だけで入国を許可されたこと自体が奇跡のようなものよ」

「だからって、用意された席が二階席では遠すぎます……」

「遠目ではあるけれどエルザの姿と式の進行は見守ることができるわ。法に抵触しないだろう、ぎりぎりの範囲で用意してくださったのだもの。厚意に感謝しても文句を言ってはいけないわ。あなたの目指す淑女としては、あまり好ましくない態度ではなくて?」

「そう、……そうでしたわ。私は約束したのです」


 ぐっとこぶしを握りしめた少女は、膨らませていた薔薇色の頬をようやく引っ込めた。まだ淑女と呼ぶには幼い印象の彼女のドレスは瞳の色に合わせた水色。ふんだんに使われた白のレースとカチューシャ風のヘッドドレスが相まって可憐な印象だ。


「たしかに距離があるように感じるけれど、ルークの用意したこのオペラグラスがあれば離れた場所からでも問題なく見えるはずよ」


 他国では祝福の意味を持つという朱赤のドレスを身につけた妖艶な美女が持ち手のついた小ぶりの双眼鏡を二人の前で軽く掲げる。この商品はベルジェット商会経由でブレンダが手に入れたもので、別の国ではオペラグラスとも呼ばれていた。女性の使うものだけに蝶や花といった華やかな装飾がついている。

 

「本当、よく見えて驚いたわ! 式が終わると同時に花嫁はあの扉を潜って姿を現すでしょうから、チャンスは逃さないようにしないとね!」

「そう考えると、人垣に邪魔されない二階席は最高ですわ!」

「あらまあ、ずいぶんと変わり身が早いのではなくて?」


 三人の中で、一番歳上の女性がおっとりと笑う。吊り目がちの気の強そうな顔をしているが、物言いはおだやかでどちらかというと大人の女性としての余裕と貫禄を醸し出している。彼女のドレスは紺色、色味は控えめだけれど複雑な模様を描いたの金糸の刺繍が品のよい華やかさを添えていた。


「それにしても……とうとうエルザが結婚するのね。なんだか感慨深いものがあるわ」

「いろいろなことがありましたけれど、最終的にはこれでよかった気がします」


 そう、彼女達こそラングレア王国で有名な現カレンデュラ公爵家の()()()だ。彼女達は失ってしまった大切な家族の結婚を遠目から祝福するために、あわただしい日常の合間を縫って今日この場に集まった。

 

 賑やかな会話が途切れて、ふっと沈黙がおりる。三姉妹の脳裏をよぎったのは等しく自国の混乱ぶりだった。


 エルザがいなくなったあとのラングレア王国は混迷を極めており、特に四年前に起きた客車の事故の真相が明らかになったことで王家の名誉は取り返しのつかないところまで落ちている。新たに王となった王太子は、元凶のひとりでもある王妃の責任を追及して、なんとか権威を取り戻そうと必死になっているが、信頼とは失われるのは早いが取り戻すことは難しい。王国は政治だけでなく経済も停滞しており、このままでは側妃の後ろ盾である皇国に頼らざるを得なくなる日も、そう遠くはないかもしれない。


 そして四年前の真相は、庶民にも衝撃を以て受け止められた。なぜなら自分達が悪意を持って悪役令嬢と揶揄したエルザが、実は自分達を助けるために身を粉にして働いた聖女のような存在であったと知らされたからだ。今、カレンデュラ家には貴賤に関係なく謝罪のために訪れる人々が絶えない。だが謝罪に訪れた彼らが知らされたのはエルザが国を捨てて出て行ってしまったという取り返しのつかない事実だった。

 やがて国政だけでなく庶民の生活にも支障が出始めると、人々は焦りはじめた。おかしい、こんなはずではなかったのに。不幸の始まりがエルザ・カレンデュラ嬢を手放したからだと思い込んだ人々によって、ついにはカレンデュラ家へ彼女の身分と身柄を取り戻すよう要望書や嘆願書が送り付けられるようになった。


 自分達が、あれだけエルザを軽んじたというのに恥ずかしくはないのかしら? 


 なんと愚かな。いまさら惜しまれたとしても国籍法に基づいて国を捨てたエルザを取り戻すことは筆頭公爵家の力を使っても無理だとわかっているでしょうに。シェリー達は、世間が手のひらを返す様をただ呆れて見ているだけで何もする気はなかった。誰が何の目的で彼女達を悪役令嬢と呼んだのか。真実が明らかになった今は、もう誰も彼女達を悪役令嬢とは呼ばない。


「本当にいまさらですわよね!」

「ええ。それに自分達は困っているようですけれど私達は困っていないもの」

「洒落や酔狂だけでカレンデュラ家の娘は悪役令嬢と呼ばれてきたわけじゃないわ」


 望まずして呼ばれたシェリーですら、今はそう思える。もしこのままラングレア王家が皇国の傀儡となったとしても、カレンデュラ公爵家は筆頭公爵家として容易に切り捨てられないだけの実績を積んでいた。世の中、綺麗事ばかりでは上手く回らないことだってあるのだ。そんなときに悪役令嬢と呼ばれた彼女達だからこそ使えるさまざまな手段があった。

 ラングレア王国の人間がそのことに気がついたときには、もう遅い。最後に生き残るのは私達なのだと、悪役令嬢は扇子の内側でほくそ笑んだ。


「だからね、大丈夫よ。安心してお嫁に行きなさいな」


 彼女達の目の前でわっと歓声があがって、つられるように視線が教会へと向いた。表立って祝福できなくとも、こうして陰ながら見守ることはできる。これだって清く正しいだけでは手に入らなかった手段と機会なのだ。


「エルザお姉さま、お一人で心細くないでしょうか?」

「ふふ、平気じゃない? だって今は心強い支えとなるような人が隣にいるのだもの」


 孤独に戦い続けた彼女はもう一人ではない。そのことが姉妹にとって一番うれしいことだった。


「まさかあのとき迎えにいらしたマストリーク公爵家のご子息とエルザお姉さまが結婚するなんて思いもしませんでしたわ!」

「あら、私はあるかもしれないと思っていたわよ。だってかの方のエルザ姉様を見る視線はいつも甘く蕩けていたもの。それにさりげなく姉様に皇国語で寄り添う言葉をかけていたし、労わるような仕草にも深い愛を感じたわ!」

「まあー、いつのまにかそんなことがあったのですね! 詳しく聞きたいです!」

「そうなの? それは私も聞きたいわ!」


 扇の内側で、悪役令嬢の悪だくみならぬ恋バナに花が咲く。彼女達が公の場で見かけたマストリーク公爵子息は柔らかな物腰の美男子で、終始崩れることのなかった微笑みと礼儀正しい態度が印象的だった。だが彼女達の婚約者によると、敵とみなせば容赦しない苛烈な一面も持ち合わせるという。

 そしてあの灰青の瞳が狙った獲物は囲い込んだら離さないらしい。つまりエルザは囲い込まれて捕まった、ということか。……まあ、国を跨いで捕まえにくるほど好きならしょうがないわね。三姉妹はマストリーク公爵子息の献身的な態度で納得することにした。とはいえ、幸せにしなかったらただじゃおかない。そのときは悪役の名にかけて何がなんでも奪い返してやる。


「あっ、扉が開きましたわ!」


 一際高く歓声があがると同時に正面玄関の扉が大きく開かれた。参列者によってまかれた色鮮やかな花びらが幾重にも重なって花婿と花嫁の頭上に降り注ぐ。三人はレンズ越しに花嫁の姿を食い入るように見つめている。

 そしてはっきりとドレス姿が見えたとき、ブレンダが息を止めた。やがて見開いた彼女の目元が涙でうるむ。


「どうしたの、ブレンダ?」

「あのウェディングドレスは……私のデザインしたものですわ」

「まあ、道理でよく似合うこと!」


 エルザ姉様の美しい髪と首筋のラインが際立つようにと、襟ぐりは品位を損なわない程度まで広くとった。洗練された印象のスレンダーラインに華やかさを加える裾のレース。レースには絹糸で細やかな刺繍を重ねていくのだ。すると白一色でも色の深みが増して、陽の光があたるたびにドレスがより一層輝いて見える。


 見間違えるわけはない。エルザの旅行鞄に忍ばせたデザイン帳に、ブレンダが自らが描いたものだ。流行の型ではないけれど、ウェディングドレスならば古典的なデザインも好まれる。もしかしたら、いつか着てもらえるかもしれないと思って一番似合う型にこだわって何度も書き直した。


「姉様、選んでくださったのですね」


 エルザの体型に合わせて、ほんの少し手直しされていたけれど、自分が思い描いたイメージと寸分違わぬ仕上がりにブレンダの目から涙がこぼれ落ちた。ブレンダの震える肩をシェリーは優しくなでる。


 エルザ姉様は私が描いたものだと気づいてくれたのね。


「あっ!」

「クレア、あなたまで叫んでどうしたの」

「エルザお姉さまの髪飾りはブルースターですわ! 私の差し上げた本の栞はブルースターの柄にしましたの! さすがお姉さまですわ、贈り物の意匠にまで気がついてくださったのね!」


 クレアは満足げに微笑んだ。だってエルザお姉さまはあのお花が大好きでしたもの。ブルースターの花言葉は信じあう心。離れていてもずっとそばにいるというクレアの願いを込めたのだった。そして誰よりも賢く聡明な姉は、こうして離れた場所でも目に見えるかたちでクレアの心に寄り添ってくれる。


「さすが私の敬愛するお姉さまですわね。やり返す手口に品位がありますわ!」


 悪役令嬢である前に、誇り高き公爵令嬢となりなさい。これはエルザと交わしたクレアだけの約束だ。国の思惑により不当に貶められたエルザは、今や王国では悲劇の公爵令嬢と呼ばれている。彼女の妹であるクレアの周囲は恩恵にあずかろうとする者や足を引っ張ろうと画策する者達であふれていた。これからは公爵令嬢として、そういう人間を見極めなくてはならない。クレアはたくらむような悪い表情を浮かべて、ふふっと笑った。

 何事も()()()()()やり過ぎなければいいのでしょう? ちゃんとわかっておりますわ。

 

 エルザは言葉にできなくても、共に悪役令嬢と呼ばれた同胞のことを忘れてはいなかった。食い入るように見つめている姉妹の視線の先で幸せそうに笑っている。


「エルザお姉さまのあんなふうに笑う顔をはじめて見ましたわ」

「それだけ幸せなのでしょうね。名残り惜しいけれど、あの笑顔を覚えておきましょう」


 やがて花婿がエルザに何事かを囁くと、彼女の体を軽々と抱き上げて階段を降りていく。突然の出来事に驚く花嫁の姿は離れた場所にいる三姉妹からもよく見える。予定にはなかったのだろう、頬を赤らめたエルザが少々あわてた様子で彼の胸元を軽く叩いているのが見えた。


「エルザでもあわてることはあるのね!」

「あれは完璧にあしらわれて納得いかないと抗議しているお顔ですわ!」

「完全無欠なエルザ姉様に甘えられる相手ができたなんて、まさしく奇跡ね」


 バルコニーに三姉妹の軽やかな笑い声が響いた。そして花婿は階段を降りたところでエルザを下ろすと、そのまま抱き寄せて花嫁に口づける。周囲から、わっと囃し立てる声があがった。あまりにも人目を憚らない溺愛ぶりにブレンダは言葉を失い、クレアは真っ赤になって顔を伏せた。ただシェリーだけは、うれしそうに笑ってうなずく。人前でも堂々と溺愛する花婿の姿は、彼女の言葉がエルザを通じて正しく届いたという証だ。


「目には見えずとも愛することは愛だろう。でも、わかりやすく愛することもまた愛なのだと思うわ」


 たくさんの人の心に、愛があることを刻んで。かつて悪役令嬢と呼ばれたあなたが、これほどまでに深く愛される存在であることを見せつけてやるのです。どこか意地悪く歪んだ笑みを浮かべたシェリーと、遠く離れて交わるはずのないエルザの視線が一瞬だけ交差する。


 愚か者は置き去りにして悪役令嬢は幸せになるの。

 それこそが悪役令嬢と呼ばれた私達による復讐なのだ。



これで本編は完結です。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。今回はじめて完結させてから投稿したのですが、これはこれでなかなか難しいものですね。何度も挫けそうになりました。番外のような構想はあるのですが、いつ追加するかは未定です。

※二話だけ追加しました。2/21と22に一話ずつ公開します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の最後で姉妹愛に目から汗が…。 [一言] 面白かったです!
[良い点] 作者様の作品はどれも世界観•魅力的なキャラクター等々設定がしっかりされているし、上品かつ幸せ仕様なので安心して楽しめます。話の途中ハラハラもしますが、展開がスピーディなので、かえって続きが…
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