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009 英雄将軍

009


「おお! よく来たな。エンシェントエルフよ! その知恵ぜひともこのガーレスに役立てよ!」


「ガーレス様、これでわが軍の士気は天井知らずです。さらに噂が広がれば益々将軍の周りに勇士が集まってきますぞ」


「ふははは! 勝ったな。また私の勇名が轟いてしまうな! ふはははは!」



 おお……。こういうタイプの英雄だったか。まあ実力があるということだろうな。



 エステルの隣の町に、アルフヒルド王国の英雄、ガーレス将軍の本営があった。

 商人の屋敷のようだ。


 アウレーリアが要塞からそれらしき規模の軍隊を探索し転移、エンシェントエルフの一行として討伐軍への参加を申し出た。



「よし。フォルトナータ様と侍女の方は本営の借り上げた宿へ案内せよ。小僧は農民徴兵部隊のテントへ送れ」


 ガーレスの副官の小太りの男が兵士へ指示を出す。


「ジークは私の従者ですが?」


「エンシェントエルフ様の従者ともなれば、実力者でしょう。前線を支えていただきたい」



 こいつちょっとアウレーリアを見る目がやらしいな。変なこと考えてないだろうな。

 

『…………』


 よしよし。我慢だぞアウレーリア。俺は英雄が率いる軍の実力を見たいのだ。

 しばらくは危険がない限りはどのような状況でも受け入れるという手筈だ。


 大森林から出て、初めて人間の世界に触れるフォルトの社会勉強にもなる。



 想定していたパターンとしては残念な方向だが、まあいい。下から見上げるほうが軍の全容を理解しやすいこともある。


 それに俺の身体は魔素によって常人の五十倍に強化されているから、下働きでも最前線でも何も危険はない。



(通信も、転送転移もあるのだから、俺達に物理的な距離など関係ないだろ? フォルトを頼むぞ)


(それは承知していますが……不愉快なものは不愉快です!)




 アウレーリアは優秀で頼れる最高の相棒だが、俺も一人になりたい時もある。

 まあモニターはされているだろうが、こういう時間もあっていい。



「……よし、ここのテントだ。面倒を起こすんじゃないぞ。上長の命令には従え。でなければどうなってもしらんぞ。おい、新入りだ。後は任せたぞ」


「へ、へえ!」


 返事をした男はくたびれた農夫だ。農民徴兵部隊と言ってたな。



「お世話になります。ジークといいます」


「トーマスだぁ。兄ちゃんえらいところへ来ちまったな。ここはオメらが夢を見てるようないいところではないだよ」


 ああ、エステルの町の若者も……畑をやっても儲からないから、軍に入って一旗揚げる! なんて息巻いてたな。

 まあ、そんな立身出世の夢物語、成功者は何千分の一だ。


「オラらは行軍の先頭で、遭遇したモンスターの露払いだぁ。逃げる奴は見つかったら殺されるでよ」



 思ってた以上の捨て石だった。


「新入りが来てくれるのはありがたいだぁ。大勢で囲めば生き残る確率は上がるからなぁ。……後ろの兵隊の目に留まれば、もうちっとまともな部隊に引き立てられるだで。伍長のオラももうちっとだ」


「頑張りましょう」


「明日の日の出まで休んでていいだ。陽が昇ったら片づけて進むでよ」


「食事や……装備はどうなります?」


「今日の配給はもう終わっちまったよ。武器も一緒に森で取ってくるといいだ。兵隊に許可を取らねと逃亡と見なされるから気をつけるべ」



 飯抜き、武器も自力調達。扱いは最悪だ。テントも小さいボロに許容人数オーバーの雑魚寝。


 本隊はアルフヒルド王国の正規軍だろうが、ここの農民兵たちはヴィルジニアの逃散農民か。

 隣国だからってマジでやりたい放題だな。これ完全に敵対行為だろ。


 邪竜討伐のためとは言え、ノーと言えないヴィルジニアの王も王だな。






「……なんかいい匂いがするだで」



「おはようございますトーマス伍長。食事の用意ができてますよ」


「なっ! なんじゃあ!? これ猪鍋(ししなべ)かあ!? いくつあるんよ!?」


「伍長! すごいですぜこりゃあ!」



 夜が明けたばかりの農民兵のテントはどこも大騒ぎだ。


 全く、面倒だからって配給は夕方一度とはあんまりだ。

 腹が減っては戦はできぬだろう、ガーレスよ。



「エンシェントエルフのフォルトナータ様からの施しだってよ! 全部のテントに行き渡ってるってんだから豪気だねえ!」


「なんてこった。エルフ様ぁ。ありがたやあ……」


「あ、伍長。エルフ様の顔をつぶすわけにはいきませんから、出発は食事が終わってからでいいそうです。ゆっくりいただきましょう」



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