010 農民徴兵部隊躍進
ここから三人称に変更します。
010
ドガラドガラと地響きを立てて巨体のトロルの群れが草原を駆けてくる。
「来たぞッ!! シールド構え!!」
「踏ん張るだよォ!」
ジークの号令に応えるようにトーマス伍長が農民歩兵を鼓舞する。
「おおおおっ!!!!」
ドゴドゴドドドゴオオオン!!
落雷のような轟音とともに横列のラージシールドが、倍はあろう高さの肉の津波を押しとどめる。
「よおし! ブッ叩けッ!!」
盾と盾の間で大上段に構えられていた多数の長柄の戦斧が一斉にトロルの頭蓋を叩き割る。
まさか止められると思っていなかった後続のトロルは、肉の障害物となった仲間に激突して大混乱に陥った。
「左右の盾は回り込んで押さえるだよ! 立たせたらダメだあ」
密集してドミノ倒し状態の敵を囲んでその頭をモグラ叩きだ。
三メートル近い柄の鋼の斧がピコピコハンマーのように軽々と振り下ろされる。
(……アウレーリアよ)
(はい)
(竜の肉というのはムチャクチャな代物だな。一体どういう理屈なんだ?)
(お、おそらくこれも肉に含まれていた魔素が作用していると思われます)
邪竜討伐に加わったジークフリートが組み込まれたのは、その被害にあった逃散農民で構成された捨て石の歩兵部隊だった。
竜の巣を目指すにあたって、ガーレス将軍の率いる本隊の露払いとして遭遇するモンスターを退治する役目がある。
しかし腹を空かせて行軍もままならないようでは仕事にならない。
そう思ったジークは丁度手元にあった大量の肉と、近隣の町村から野菜を集めて彼らに朝食のスープを振る舞ってみたところ、食事をした農民達に変化が現れた。
痩せ枯れて疲れていた身体に活力が漲り、訓練を積んだ本営の兵士達の三倍近い身体能力を発揮したのだ。
あまりの変わりように驚いたジークはアウレーリアに指示し、彼らの装備を一式揃えてしまった。
おかげで遭遇した巨体のモンスターの群れを相手にもこの戦いぶりだ。
(まだ素材はたくさんありますので分析はお任せください)
「ジーク様! やべえのがおいでなすっただぁ!」
(距離約一キロ、農民達がトロルと呼称する個体。その大型が接近しています)
(おっと。倍のデカさがあるじゃないか。あれはさすがに彼らでも危ないな!)
(お気をつけください)
「ああ! 任せろトーマス! 俺がぶっ殺してやるッ!!」
(ジ、ジーク様。そのような品の無い物言いはお控えください!)
(……腕力が物を言う野戦など何十年ぶりだろうか。ブリッジでモニターを眺めて指示を出すだけの戦闘の何倍も血沸き肉躍る! それはもう文字通りに!)
「何? 農民どもが速度を上げた?」
「は、はい。あのエルフの従者の小僧が指揮を執っているようです」
ジーク達の後方を少し離れて進軍する本隊。
小太りの副官が馬を寄せ、同じく馬上のガーレス将軍に報告する。
「バカな。予定ではそろそろ大型モンスターの生息地だぞ。気でも違ったか」
「ええ、我々討伐軍本隊と連携して進む手筈でしたが」
「ちっ。これだから考えなしの無能は。さっさと呼び戻せ。同じ死ぬのなら我々の役に立ってもらわねば困る」
さらに別の伝令兵が慌てた様子で近づいてきた。
「斥候部隊より報告! 前方にトロルの死骸多数!」
「言わんことではない。兵に陣を組ませろ。エルフも呼んで……死骸だと?」
「は! 百近いトロルと大型のボス個体が死んでおります」
「農民どもは?」
「おりません。我が方は死体の一つもありません」
「何だと!? どういうことだ?」
「ジーク様、本隊と離れすぎだぁよ。さすがにオラらだけじゃあのドラゴンは無理だべ!」
「案ずるな、出てきたら俺が倒す。といってもここが巣なのだろう? おらんではないか」
ジーク達は遭遇するモンスターを蹴散らしながら岩山を登り、火口部にある竜の巣へとたどり着いた。
「ジーク様は見てねえからそんなことが言えるんでさ。クソでっけえっすよ」
トーマスと同じ隊の男がジークに意見する。
彼は以前の竜討伐に失敗して壊滅したヴィルジニア軍にも同行していたため、巣に関する知識を持っていた。今回も部隊のここまでの道案内を務めている。
「エサでも探しに出てるだなや」
(うむ。この山は小さいが休火山か。火口部に寝床を設えているようだ)
(この広さなら、竜は二頭だけのようですね。巣が上空から確認できない洞窟などであれば他の個体も存在するかと思いましたが)
(つまらんな)
「ドラゴンが戻ってくる前に降りてガーレス様の本隊と合流するだよ。ここは狭いから麓の平地がやりやすいだ」
「よし。もうここには用はない。ガーレス将軍のところまで戻るか」




