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第五十六夜 港町の決戦。警視総監コルトラとの戦い。

 港町へと近付いてくる大量の影があった。

 その影達はみな武装していた。


 本来は死刑台に上がる筈の囚人達が大量に解き放たれたのだった。

 彼らは軍人では無い為に、彼らに課せられた命令は“好き勝手な暴動”だった。

 

 コルトラは港町にて、かつてマイヤーレが縄張りにしていた地域をマークする事にした。解き放たれた囚人はそこを好き勝手にしても構わない。

 まるで彼らは不死の軍団であるかのようだった。


 手に手に、剣や斧。ナイフや拳銃。爆弾を手にしている者もいた。

 彼らの瞳は略奪の欲望に満ちていた。


「ひひぃ。くくっ。まずは女だ。若い女を襲う……ムショの中では、男ばかり相手していたからな」

「ききぃ。俺は相手をさせられていた…………。晴れて自由の身だ。今度は俺が遊ばせて貰う…………」

 眼に邪悪な光を宿した者達が、行進を続けていた。


 彼らは民家に向かうと見えない壁に阻まれる。


「なんだ?」

「一体?」


 一瞬にして、身体がバラバラになる。

 身体がバラバラになっても、なお、生きていた。


 そこからだった。

 天空から、まるで打ち上げ花火のように炎の雨が降り注いでいた。


 空は焼け爛れ、燃え盛り、真っ赤な翼を生やした天使がいた。


「民家の防衛はメテオラだなぁー。てめぇらクソにたかる蛆共は、私が全部、燃やし尽くしてやる」


 炎の天使。グリーン・ドレス。

 気狂い道化師。メテオラ。


 たった二人の異能者によって、数百名単位で解き放たれた囚人達の軍団は瞬く間に叩き潰されていった。囚人達は軍隊並みの足並みなど揃えられる筈もなく、先陣が叩き潰されると、後続は次々と逃げまどっていく。グリーン・ドレスは容赦無く、彼らを見つけ次第、火だるまへと変えていく。


 なんとか路地裏へと逃げ込む囚人は、大量の蝶に阻まれて逃げ場を失っていた。


 囚人の中に、衝撃波を放ちメテオラの空間の断絶をすり抜ける攻撃を行う者がいた。


 ポロックの支配したTV局にて生き残った、コルトラの腹心の部下である牛頭の仮面を付けた男、ヴァンベルトだった。牛頭は巨大なチェーンソーを振り回していた。


「正直な話。『オルガン』。ポロックの二番煎じだぜぇ。だから対策は立てやすかった」

 メテオラは衝撃波を放つ、牛頭から逃げ続ける。……相性が悪い。


 だが今のメテオラには仲間がいた。

 牛頭の顔に大量の蝶が舞っていく。

 視界を奪われたヴァンベルトは、炎の刃にて胸を切り裂かれ、更に炎の渦に包まれて全身が炭化し、絶命していった。


「コルトラ。逃げるな。俺は此処だ。此処にいるぜっ!」

 メテオラは中指を立てて叫ぶ。


「関節を折る事も出来ず。肉体は鋼よりも固いんだってなっ!」

 メテオラは叫ぶ。

 

 コルトラは離れた場所から、双眼鏡で戦局を見ていた。


「どいつも、こいつも役立たず共が」

 彼は口から葉巻を投げ捨てる。

 ビルの頂上付近だった。

 コルトラは悠然と、燃え盛る港町を見ていた。


「奴らを始末する戦力を新しく立て直さないとなぁ。せめてあのクソガキ……メテオラだけでも始末出来る能力者を探さないとなっ」

 コルトラは苛立ちながら、地面に落ちた葉巻を踏み付けていた。


 まるで流星のように、炎の天使はコルトラの前に降り立つ。


「ヴァシーレの野郎から聞いたよ…………。テメェの能力の概要はよおぉ」

 グリーン・ドレスは非情な顔をしていた。


 コルトラは一瞬、命乞いを考えそうになった。

 若い頃はそうして、死線を、修羅場を掻い潜ってきた。

 だが。この年になると、この立場になると、そういったものは通じないのも分かっていた。


 コルトラは覚悟を決める。


「いいだろう。炎の天使、ワシの手で自ら撃ち殺してやろうっ!」

 コルトラは両腕をガトリング・ガンへと変形させていく。


「いいぜぇ。脂ぎったシロアリのようなクソ野郎。けどなぁ。勝負は一瞬で決めてやるよ」

 グリーン・ドレスは両手に炎を刃を手にしていた。


 コルトラの両腕のガトリング・ガンが火を噴いていた。

 グリーン・ドレスは瞬時に動きを見切って、弾丸全てを避けていた。


「炎の渦に閉じ篭りなっ! 『ブレイズ・サークル』ッ!」


 グリーン・ドレスの炎の刃が変形して、コルトラの全身を炎が蛇のようにのたうち回っていく。コルトラは炎に包まれていく。


「金属は高温と接すると溶解するんだぜ? テメェの能力を知った時に、私のこれは効くんじゃねぇかって考えたよ。効くだろ? なあああああああっ!」

 コルトラは炎に包まれながら、弾丸を飛ばし続けていた。

 金属化した皮膚も、肉も、骨も、おびただしい火炎によって、どろどろに溶け崩れていく。グリーン・ドレスの肘に弾丸がかする。血が噴き出る。コルトラの攻撃は、ドレスを倒すのに充分な威力があった。グリーン・ドレスは太腿にも孔を開けられる。


 グリーン・ドレスは。


 炎に包まれたコルトラの全身をビルから蹴り落とす。


 コルトラはそれでもなお、悪あがきで右腕をスナイパー・ライフルへと変えて、ドレスの右肩を撃ち抜いていた。グリーン・ドレスは左手の指先を拳銃のような形にする。


「『バルカン・ショット』ッ!」

 指先から炎の弾丸が落下していく、コルトラへと売り込まれていく。

 そのまま。ドレスは右腕から別の技の放った。

 巨大な炎のボール。


「『カラミティ・ボム』ッ!」

 ちょうど地面に激突したコルトラの全身が爆破炎上していく。


 グリーン・ドレスの脇腹が大きくえぐられる。

 炎の翼で飛んでいたグリーン・ドレスは予想外のダメージを与えられ、地面へと落下していく。


 未だ燃え盛る炎に包まれながら、なおも、金属の男は生きているみたいだった。


「おい。…………。おかしいだろ……聞いてない……。あのハゲデブ脂親父。強いだろ…………。なあメテオラ。……ヴァシーレ…………。あいつ、何で死なねぇんだよ…………?」

 グリーン・ドレスは地面に倒れうずくまっていた。

 地面に激突してしまった為に、更に全身を打撲してしまっている。骨も何か所か折れたかもしれない。悪い事に傷を治癒出来るウォーター・ハウスは別の国に行ってしまっている。


「残念だったな。このワシは…………。くくっ、貴様らガキ共と違って長く生きているのよ。どれだけ死を覚悟してきた事か……。ボロ雑巾のように若い頃は這いずり回ったな……。偉い奴の靴の裏だって舐めた。ワシを、甘く、見過ぎ、だ…………」

 コルトラは炎に包まれながら、変形した銃器の腕をグリーン・ドレスの頭部へと向けていた。


「グッバイだ……。クソ女。脳漿をまき散らして、死、に、な…………」


 後は『ドラゴン・タイラント』が残されている。

 周辺一帯を爆破炎上させる特大火力。

 火力が最大値の時は小型核ミサイル並みの威力が出る。

 グリーン・ドレスはその技を放っていたが。

 …………。受けたダメージによって、火力が途切れ、まともに放つ事は無かった。

 辺り一帯は炎に包まれていくが、コルトラはなおも平然となっていた。

 両眼は焦点が合っていない。

 眼球をぐるぐる動かしながら涎も垂らしている。

 無惨にも機械化した肋骨や、頭蓋骨を晒していた。

 だが、コルトラの右腕の銃口の先だけは、ドレスの脳天に向けられていた。

 ドレスは眼を閉じる。

 無様だ。

 此処までやって、敵が死ななかった事は記憶にあっただろうか…………。

 不死身の警視総監…………。

 それが、コルトラという金属人間だった。

 ドレスの脳天に、今にも銃口の引き金が引かれようとした、その時だった。


 グリーン・ドレスにトドメを刺そうとしたコルトラの腕が吹き飛ぶ。


 更に、コルトラの首が、胴が、バラバラになっていく。


 空間の断絶…………。


 メテオラの能力。


「俺は生き物の空間をバラしても、殺せねぇからよぉ。直接、別の攻撃で仕留めるしかないんだよな」

 コルトラの心臓は剥き出しだった。

 

 メテオラは懐から刃物を取り出して、コルトラの心臓を狙う。

 メテオラの刃物を持った右手は止められた。


「なんだよ? おい、何で邪魔するんだよ?」

 シンディだった。

 シンディは力いっぱいに、メテオラの右手を止める。


「ダメです。メテオラさんは、もうマフィアじゃないんですからっ!」

 シンディは真摯な顔でメテオラを見ていた。

 ゆっくりと、メテオラの手首からナイフが落ちる。

 シンディはそのナイフを手にして。


 コルトラの剥き出しの心臓を突き刺す。


「汚れ仕事は……私だって出来ますからっ!」

 シンディは何度も何度も、コルトラの心臓を刺し続けていた。

 やがて、空中に浮かんだコルトラは口から大量に吐血して、そのまま絶命する。


 後にはメテオラの能力が解除され、全身がくっ付き…………そして、どろどろに身体の半分が溶解したコルトラの死体が転がっていた。


 シンディは大きく息を吸って、吐く。


「これで、人を殺すのは二人目です…………。マイヤーレのボスと…………この男…………」

 シンディはそう言って地面に倒れる。

「………………。やっぱり全然、慣れないですね…………人、殺し、なんて…………」

「ああ…………。そうだな、そうだよな……」

 メテオラは頷いて、そのまま気絶したシンディをかつぐ。

 グリーン・ドレスの方にも近寄る。

「立てそうか?」

「…………。なんとかな、っと。畜生が。なんで、よりによって、こんな時にウォーター・ハウスがいねぇ。私は奴が帰るまで、何日も激痛に耐えなきゃいけねぇえってのか」

「生きる痛みだろ」

 メテオラは飄々と返す。

「はあ。格好よく、それっぽく言うんじゃねぇよっ!」

 グリーン・ドレスはびきびきと眉間に皺を寄せて腹を立てる。


 そして。

 港町の防衛戦は終わった。

 

「そう言えば、ラトゥーラの奴。何処に行きやがったんだ?」

 グリーン・ドレスは布切れで簡易的に傷口を止血しながら、メテオラに訊ねる。


「あいつか? そう言えば見ないな。ヴァシーレと話がしたいと言っていたが…………」

「じゃあ…………。ヴァシーレと行動しているな……。あいつら何、考えてやがるんだっ」

 メテオラもグリーン・ドレスも二人揃って、首を傾げた。

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