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第四十六夜 摩天楼の崩落。

 メテオラは350階の空疎な部屋で、様々な調度品に囲まれながら揺り椅子に座って物想いに耽っていた。

 調度品の周りには、おもちゃ箱をひっくり返したような玩具が無造作に散らばっている。メテオラの好みだ。


 六年前の事か。七年前の事か。余り性格に記憶していない。

 彼には何名もの友人がいた。

 アルレッキーノのボスになってから、部下の顔をマトモに覚える事は無かったが、当時の友人達の顔と想い出は鮮明に覚えている。

 

 ストリートで駆け回っていた頃、仲間の一人が壁にスプレーで落書きをして回っていた。それが自分達の印だった。子供の中で出来るあらゆる悪さをしたと思う。ただ、女を襲ったり、強い薬物には手を出さなかった。みな、家に問題を抱えている者が多かったし、そもそも、家の無いホームレスも何名かいた。


 ある日、アルレッキーノの縄張りにスプレーの印を付けてから、組織の構成員から狙われるようになった。メテオラは自身の異能に目覚めつつあったので、組織の者達を異能で返り討ちにした。メテオラは事実上の少年ギャングのボスであったが、別の友人が顔役のようなものをしていた。メテオラは気まぐれで、面倒臭がりな性格だったので、揉め事の対処こそ解決させるものの、他の少年チームなどとの話し合いや交渉みたいなものは極めて嫌いだった。


 夜も深く暮れた頃だったと思う。

 メテオラの前に、少年ギャング団の顔役をしていた少年の死体が転がっていた。

 場所は裏路地にある橋の下だった。

 メテオラは彼を殺害した者を探した。

 相応の報復をしてやろうと決めた。


 我々の仲間にならないかね?

 君だけは、どうも特別なようだ。


 スーツの男だった。

 聞くと、アルレッキーノの幹部の一人であり、ボスであるザルモンド直々の命令でのスカウトなのだと言う。スーツの男は部下達に囲まれており、彼らは銃器を手にしていた。

 そして、沢山の死体が転がっている。

 少年ギャング団の仲間達だった。


 メテオラは眼の前が真っ赤になった。

 スーツの男が何か言っていたが、その男の首はメテオラの能力によって跳ね飛ばされた。空間を移動させる能力によって刃物を転移させて、男の首を刻んで飛ばしたのだった。

 そして、その場にいる男の部下達も皆殺しにした。


 そのままその足で、メテオラはアルレッキーノの本部まで乗り込んでいった。

 そして、ボスであるザルモンドを殺害した。

 後に自分の命運が、どのようになるのかは、この時は何も知らずに…………。



 メテオラは揺り椅子に揺れながら、うつらうつらと眠っていた。

 ドアが開かれる。

 200階の先にあるエレベーターは、そのまま、349階まで続いている。後は階段を登れば、最上階のこの部屋に辿り着く仕様になっている。


「来たな。どうだった、連中は?」

 メテオラは入ってきた二人に訊ねた。


「ああ。クソ共は、焼いても灰にしようとしても死なねぇーよ。だから、仕方なく振り払ってきた」

 グリーン・ドレスは淡々と言う。隣にはシンディもいた。


「だろーなぁ。そういう“異能力”なんだろ。アルレッキーノの最初のボスのものだったのか。それとも、代々続く、ボスの誰かの能力だったのか、俺はまるで知らねぇーけどな」

 メテオラは相変わらず、気怠い顔をしながら道化の帽子を脱ぎ捨てた。


「処でよぉー。階段の途中にあった、歴代のボスの遺影? 気に入らないから、焼いて回ったぜ?」

 グリーン・ドレスは指先から、蝋燭のように火を灯す。


「それはそれは、とても良い事をしてくれたなぁー」

 メテオラは立ち上がった。


 シンディは周りに無数の蝶を生んでいく。


「貴方はいい。メテオラ、テメェ―と決着を付けたい」

「そうだな。そちらのお嬢ちゃんには、俺達の見届け役になってくれねぇーかな」


 グリーン・ドレスも、メテオラも、何処か穏やかな表情をしていた。

 二人の顔は晴れやかだった。

 利権。立場。マフィア達の抗争。その他の権謀術数。

 そういったものを取っ払って、純粋無垢に自分達の“どちらが強いのか?”という雌雄を決したい。

 ドレスとメテオラの二人は、楽しそうに笑い、相手を認めていた。

 自分達はどれだけ強いのか?

 駆け引き無しで、力を試してみたい。

 それは強者同士の純粋な気持ちだった。

 だからこそ、部外者である亡霊達は二人にとって極めて不愉快だった。


「私は、見届け役ですか?」

 シンディは訊ねる。


「重要だ。幸運な事に、俺とグリーン・ドレスは、どっちも範囲の広い高威力の破壊力を持つ異能を使える。“このバベルの塔のような巨大高層ビルを焼き討ち出来る程”のな“。連中の残した遺産。それも、負の遺産が解体され、燃やされる光景の証人になって欲しい。重要だぜ? 一つの組織が終わるんだ」


 部屋中にある調度品や玩具が、ポルターガイストのように宙を舞う。

 グリーン・ドレスは炎の翼を生やしていた。右手には炎の剣を生み出している。

 室内が高温に包まれていく。


「いくぜ。イカれ道化師。今度こそ、私の『マグナカルタ』が上だってのを証明する!」

「アタマのいかれた口の悪い女よぉー。俺の『黒い森のさくらんぼ酒ケーキ』の前でもう一度、跪けっ!」


 グリーン・ドレスは炎を放つ。

 メテオラも自身の空間解体の能力を放っていた。

 部屋中の調度品が宙を舞い、そして、空間に固定されて、まるで部屋全体が一つの鏡となって割れたような景色となる。


 グリーン・ドレスもメテオラも、全力を出そうとしていた。

 シンディは、二人の見届け役だった。


 階下から、亡霊達が姿を現す。

 どうやら、二人の雌雄を決する戦いを好ましく思っていないみたいだった。

 多分、これはお互いを認め合った者同士の神聖な決闘なのだろう。

 下劣に金ばかりを追い求めた死人達には、分からない感情なのだろう。

 シンディは二人の邪魔をしたくない為に、蝶の群れを回せて亡霊を足止めした。


 グリーン・ドレスが炎の刃を振り回していく。

 メテオラが空間の断裂を行う。

 部屋全体が一瞬して、崩壊していった。

 シンディは二人から信頼されている。

 シンディは巻き込まれても死なないだろう、と。

 だから、シンディは二人の邪魔をしないように、亡霊達を掻い潜って下の階へと逃げた。

 二人の戦いの邪魔をしたくはない。


 もう。

 シンディは二人の決着を見ずに、立ち去る事に決めていた。


 亡霊達はドレスとメテオラに覆い被さろうとするが、ことごとく彼らの能力によって弾き飛ばされていく。完全に空気のように、二人は亡霊達を無視して、互いに自身の能力をぶつけ合い始めていた。最初はジャブ程度に、そしてどんどん攻撃は熾烈になっていく。


 シンディがエレベーターで下の階に向かう頃には、爆音、何かが切断される音が響き渡っていた。こちらまで硝煙の炎による高濃度の二酸化炭素が伝わっていく。


 そして。

 その日、アルレッキーノの本部である巨大摩天楼は倒壊し、崩落する。

 従業員、構成員、客の死傷者、負傷者は数知れず。

 この国始まって以来の大惨事と化していた。

 巨大摩天楼は、燃やされ、蹂躙され、粉砕され、爆撃され、切り刻まれ、侵入者防止の為に豪風を発生させている装置も破壊され、あらゆる賭博用の遊具も破壊された。金庫の中身は燃やされ炭と化していた。

 ビルは所々が倒壊したが、暴風雨に晒された巨木のように残骸は残っていた。


 奇妙な事に、ビルの外にいた一般人には誰一人として死傷者はいなかった。だが、この摩天楼内には政治家や大富豪の人間も数多く集まっていたので、政治的打撃、経済的打撃は必須なものだった。人命のみならず、ヴァンピーロという国の資金源でもあった為に国が傾く事になり、更に、マフィアから利潤を得ていた他の国にも経済的な打撃を与える事になった。


 だが、この未曾有のテロを起こした者の正体は分からなかった。

 ボスである、メテオラも姿を消した。

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