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第三十二夜 コミッション最強の男、アルレッキーノのメテオラ 2


 先程、グリーン・ドレスの放った『カラミティ・ボム』と『ブレイズ・サークル』の炎の中から、メテオラは無傷で現れる。

 何故か、まるで透明な膜でも出来ているかのように、メテオラの周りから炎や熱風が遮断されていた。さながら、炎の渦の中に、メテオラと彼の周辺だけが、切り絵のように嵌めこまれているかのようだった。


 …………、グリーン・ドレスには、何が起こったのか、まるで理解が出来なかった。


「あー、もう面倒臭ぇせ」

 メテオラは、悪魔の角のような形の道化師の帽子を投げ捨てる。


「おい。何やってんだ? ヤケになったのか? 御自分が道化モノの雑魚だってのによー。チンピラがっ!」

 グリーン・ドレスは挑発する。


「ああぁ、本当に面倒臭ぇな。ポロックのアジトに潜入した時も、この格好は取らなかったんだがなあー。……もっとも、……奴の場合は俺の力の全貌が一方的にバレるってリスクがあったからなあぁー。グリーン・ドレス、テメェの能力は此方側が全部、知っているぜ。俺が全力で相手してやるよ」


 メテオラは次々と装飾品を投げ捨てていく。

 彼は身に纏っていた衣装をすっぽり投げ捨てた。Tシャツにショート・パンツといったラフな格好だ。最後に彼はメイクも落とし始める。


「おい、クソ女。この俺は自分の能力『黒い森のさくらんぼ酒ケーキ』をマトモにコントロール出来ねぇんだよ。だから、かなり東側の海の向こう側の大陸の呪術を用いてだな。道化の衣装に力を封じる文様って奴が描き込まれている」


 街の辺り一面の建物が、まるでサイコロ・ステーキのようにバラバラに分解されていく。それなのにも関わらず、バラバラにされた建物の破片は落下せずに宙に浮かんでいた。


 グリーン・ドレスは…………。

 …………、背中に汗と悪寒が走り去っていた。


 ラトゥーラ達との戦いで、どれ程、強敵に出会った事だろうか……。

 此処までの強さを持っていたのは、マイヤーレ本部の入り口で待ち構えていたレスターと…………、あるいは眼の前の男はそれ以上の実力者…………。


 ビルの一本が……、さらさらと消滅していく。


 グリーン・ドレスは、……本能的に、それを避けていた。

 彼女は、後ろに飛ぶ。

 彼女がいた、半径数十メートルの場所は…………。


 何か、とてつもない、何かが、通過したようにくり抜かれ、地面も建造物も消えて無くなっていた。


「駄目だな…………。加減が出来ない………。ふふっ、ははっ、ははははっ、はははははっはははははっ」

 メテオラは笑い続けていた。


「ヴァシーレの奴がよー。この俺を間抜けだの、雑魚だの、拘束されてやがるのに、喚き散らすんだよー。ったくよぉー」

 

 近くにあった鉄塔の上半分が消えてなくなる。

 まるで、蝋燭の一部を切り取って、そこに置いたように、鉄塔の上半分が近くの公園の上に置かれていた。


 天空には、建造物の残骸が次々と浮かび上がっていき、奇妙なシャンデリアを作り出している。


「あ、あなた、テ、テメェ、何やってやがるぅうぅ!?」

「あははあー。種も仕掛けも御座いませんぜー。ふふっ」

 メテオラは冷徹な瞳で言う。


「何、ちょっと、この辺り一帯の空間を好きなように弄っているんだよ。加減が出来ねぇ、大雑把な能力だよなあ? ……だが、威力だけはあるぜ」

 メテオラは両手を広げて、宙に浮かび上がる。


 グリーン・ドレスはシンプルに考えた。


『アルレッキーノ』のボス、殺人道化師メテオラ。


 空間をバラバラにしていようが、何をしていようが、シンプルに火達磨にしてしまえば、何も問題無いんじゃないのか? だが、先程、カラミティ・ボムは防がれた。空間を断絶させられたのだろう。攻撃は通らない、が。


 彼女はシンプルに考える。

 もっと、威力の高い炎があればいい、と。


「赤い天使グリーン・ドレス。テメェの考えている事は分かるぜ。俺もシンプルだからな」

「はっ。テメェがシンプルだあぁ? 手品で周りを騙すピエロが何言ってやがるんだ? あなたはピエロとしての才能もねぇんじゃねーのか。ピエロなら、ピエロらしく、やってろよ。嘘付き野郎」

 グリーン・ドレスは炎を波状にして、辺りに散らしていく。


「ピエロの才能が無ぇか。確かにそうかもな」

 メテオラは唇を三日月にして歪める。


 グリーン・ドレスは、背筋に汗が流れる。

 無数の怜悧な殺意。


 それは、全方向からの攻撃だった。


 さながら、ショット・ガンのように、銃弾の速度で何も無い空間から大量のナイフが、グリーン・ドレスに向かって投げ放たれる。


「俺はアルレッキーノのボス、殺人道化師メテオラ。六大利権、コミッション最強の男と言われている」

 音も、衝撃波も無く。ただ、辺り一面の建物が分解されてバラバラになる、という状況が引き起こっている。


 グリーン・ドレスの肉体に、次々と、ナイフが突き刺さっていく。

 彼女は、苦痛で思わず地面に倒れた。


「…………、おい、テメェとレスター、どっちが強い。ああ…………?」

「レスターは剣の達人としての強さらしぃーな。単純な能力自体の威力なら、奴から、俺の方が上って言われているぜ。…………、“能力は大雑把、駆け引きは下手。知略戦は駄目。だが、純粋な戦闘能力においては私よりも貴方の方が強い”だとさ」

 そう言って、メテオラは落ちている帽子を拾って被る。


「おいおい。ピエロキャラってのは、トリッキーな戦い方をするって聞いているんだがなあ。バットマンのジョーカーとかそうだろ?」

「ジョーカーか。ああ、そうだな。俺はピエロになれねぇから、そういう伊達をしたがるのかもな」


 圧倒的。

 メテオラの強さは、凶悪無比極まりないと言って良かった。特に、直接的に敵を燃やして倒すグリーン・ドレスにとっては、能力の相性も悪い、とさえ言っていい。


「そろそろ。静かに休んで、黙って付いてきて貰う事に承諾して欲しいんだけどなあぁ? おい?」

「誰がテメェなんかの言う事を聞くかって話だよ。あああっー」

 彼女は身体中に刺さったナイフを引き抜きながら話す。

 少しも、闘争の気を緩めるつもりは、ドレスには無かった。


 ……テメェに攻撃が辿り着けねぇってんならよぉー、テメェの攻撃の軌道を探るしかないんじゃあねぇのかあ?


 グリーン・ドレスは腹からサーチ・アイを生み出す。

 それによって、メテオラのいる場所を探り出す。


 場所は把握出来る。

 位置は彼女から見て、11時の方向。

 眼の前には立っているメテオラは、どういうわけか、幻覚か、何かのように、そこに実体が無い…………。

 グリーン・ドレスは立ち上がって、メテオラに人差し指を向ける。

 さながら、右手を拳銃のような形にしていた。


「『バルカン・ショット』ッ!」

 グリーン・ドレスの右手の指先から、眼の前のメテオラに撃ち込まれるべき炎の弾丸が生まれる。それはメテオラに届く事なく、途中で消滅していった。


「無理だなあぁ。俺にそんな攻撃は届かないなあ」

 グリーン・ドレスは、なおも、メテオラに炎の弾丸を撃ち続ける。

 なおも、メテオラには当たらない。


「無駄だっつーってんだろっ!」

 メテオラは叫ぶ。


「はっ。どうかしらね?」

 メテオラの背後で。

 爆発音がした。


 駐車していたダンプカーが勢いよく爆発したのだった。


「俺を狙って撃ったわけじゃあないってか? だが、そんな事に何の意味がある?」

 メテオラは一瞬だけ、後ろを振り返る。


 グリーン・ドレスはその隙を逃さず、次々と、辺り一帯にある車を爆破炎上させていく。

 彼女は炎のエネルギーを浴びて、さながら火の化身のように変わっていた。彼女は空高くに舞い上がっている。


 メテオラはすぐに反撃を行おうとする。

 グリーン・ドレスは、反撃の行う前に行動を起こすつもりだった。


 辺り一面に炎の弾丸が、雨あられとなって、降り注がれていく。


 メテオラは右肩に、炎の弾丸がかすった事に気が付く。

 空間をバラバラにして断絶させているが、この世界から彼は存在しなくなったわけではない。ただ、空間の位置をルービック・キューブのように入れ替えているだけで、メテオラは確かにこの世界に実体として存在するのだ。異世界から攻撃しているわけでは無い。故に、辺り一帯を爆撃すれば、いつかは彼に攻撃が命中する。


「奥の手だが。余り、私は使いたくねぇえ。ウォーター・ハウスからも、警告されている。だが、仮装大会よおぉー。テメェに勝つ手段が、これしか無いってーのなら、この一撃で勝負を決めるぜぇ」

 グリーン・ドレスは禍々しい炎の化身と化していた。


 メテオラは何か、奇妙な感覚に気が付く。

 

 …………、寒い。

 辺り一帯が、急速に冷却されている。


 熱。

 グリーン・ドレスは辺り一帯から、急速に熱のエネルギーを奪っているのだ。

 空を見れば、真昼で、太陽が燦々と輝いている。


 メテオラはこの能力の概要に気が付く。

 おそらくは、太陽のエネルギーを利用して攻撃してきているのか? ……いや、今からその攻撃に移ろうとしているのか? 確か、炎の天使グリーン・ドレスは、夜や闇の時間帯よりも、真昼の方が、つねに太陽や地面の地熱を吸収出来る為に、より万全な状態だった筈だ。


 メテオラは禍々しく熱の力によって、変形、あるいは変身していくグリーン・ドレスの姿を見上げていた。


「もう、テメェを倒す手段は、これしか無いんだから、これを使わせて貰うぜ。さっき私の技は全部、防がれたからなっ! だが、こんだけやれば、テメェもタダでは済まねぇだろ? 徹底的にやってやるぜっ!」


 まるで、神話の赤いドラゴンだった。

 メテオラは…………。


 彼女のその姿に、……恐怖していた。

 おそらく、ウォーター・ハウスが隣にいれば、彼女のその技を止めていた筈だ。普段から、使う事に警告を与えているのかもしれない。


 ……この女、それを使ったら、テメェ自身がタダでは済まねぇんじゃあねぇのか?


 メテオラは全力で、自身の能力を防御に使おうと考える、が……。


「遅いぜ。既に、準備は整った。テメェにこの私の超能力、最強の奥義を受けて貰うぜ。じゃあな、行くぜ。『ドラゴン・タイラント』ッ!」


 次の瞬間。

 まるで、一都市が核ミサイルでも落としたかのような状況になった。

 おそらく、メテオラが住民達を予め避難させておいたから、彼女もこの技を使う事に踏み切ったのだろう。


 バラバラに組み替えた空間の隙間を掻い潜って、彼女の熱の塊は辺り一帯に広がっていった。焦土。そうとしか形容出来ない状況が、辺り一帯に広がっていった。建物も、公園も、街路樹も、何もかもが、瓦礫に、炭へと変わっていく。


 メテオラは、気付けば、自身の身体の所々に火傷を負っている事に気付く。

 バリアのように空間を何重にも歪める事によって、彼女のカラミティ・ボムによる炎の塊でも、ブレイズ・サークルによる炎の渦巻きでも、傷一つ負わなかったのにも関わらずだ。……だが、熱風が歪ませ、組み替えた空間の隙間に入り込んで、メテオラにダメージを与えたのだった。


 辺り一面は業火によって、包まれている。

 次は、……何処から攻撃が来る?

 メテオラは全方向を見渡して、気付いた。


 炎に包まれた一角で。


 気を失って倒れている、グリーン・ドレスの姿を見つけた。

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