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14.セリア(5)

 何が起きたと言うのか。何がどうなってこうなったのか、サッパリ理解も把握も出来ない。

 ダンチクが呪文を唱えたら純白の壁が生えてきて、その壁は見渡す限り途切れることなく続いている。

 何を言っておるのか分からんと思うが、わっちも何を言っているのか分からぬ。この状況を言葉にすることはなんとも難しい。

 ……という夢を見たのじゃ! と言えればなんと幸せだったであろうか。

 頭が目の前の状況を拒絶している。

「……なんじゃ、これは……」

 呆然と、なんの意味もないことを呟いた。

 ダンチクが呪文を唱えた。これはいい。

 わっちもダンチクも普通に無詠唱で魔法を扱っているが、本来魔法を使うには詠唱が必要。それをふわっと無詠唱をしているダンチクが異常なわけで、そのダンチクが詠唱したのだから、ある程度の効果は推して知るべし。

 よもやここまでの規模だとは思わなんだが。

 その呪文は非常に長いものであった。

 長い呪文は威力を底上げし、安定して使用できるものになる。とはいえ、どんなに普通は二節三節程度のもの。どんなに長くなろうとも五節あれば十分事足りる。さらに長くしようと思えば、それは個人の魔法ではなく儀式として数十人単位で用いる魔法になるだろう。

 さて、ダンチクの唱えた詠唱じゃが、まさかの二十節。聞いたことのない言葉であったので、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 もうね、阿呆かと。

 そんな長さの詠唱を個人で唱え、そしてその長さ以上の効果を個人で発揮するとか、まったくさっぱりこれっぽっちも意味が分からん。

「俺の一世一代の、一発限りの全力」

 なんだそのやりきった、スッキリしたって笑顔は。

「わっちはこんな事をしでかすような出鱈目な存在と喧嘩しておったのか……」

 理不尽。無茶苦茶。破天荒。色々と言い表す言葉はあろうが、天地創造にも等しい御技。

 わっちを止めると言っていたが、その気になれば直ぐにでも殺せていたに違いない。

 魔王を少し上回るどころではない。わっちなど足元にも及ばなかったのだ。

 つまりなんだ? わっちは手加減されていたのか?

 いや、それはないだろうと頭を振った。戦闘中のダンチクは間違いなく全力だった。奥の手を隠していたのは事実だが、あれほどの威力の魔法を戦闘中に使うなど、中々難しいだろう。

「ま、二度と使えないからどうでもいいんだけどね」

 考えていると、ダンチクがそんな事を言う。

 どういうことじゃ? そういえば先ほども一発限りの全力と言っていたが、それは保有魔力を全て使うから全力という意味ではないのか?

 わっちの疑問に答えるように、ダンチクが答える。

「もう二度とさっきみたいな長ったらしい呪文の、むやみやたらに効果の高い魔法は使えない」

 二度と使えない。

 それはどういうことか。

 ダンチクの起こした事象に回っていなかった頭を必死に使って、言葉の意味を考える。

 そういえば、わっちは先ほど長い詠唱はどうすると考えていたか。

 ……儀式魔法。

 複数人で魔力を高めながら、物や陣を媒介にして、個人では不可能な規模の魔法を発現させる。

 ……物や陣を媒介に。

 魔法の効果を高めるために、あるいは魔法を発現させるために、何かを失うのは儀式魔法の基本である。

 果たしてダンチクは触媒となるものを容易していただろうか。

 わっちはずっと見ていたが、そんな様子は見当たらなかった。

 では、何を媒介にしたのだろうか。

 触媒や魔方陣の強度が足りなかった時に失われるもの……。

 そんなもの、術者の魔力と生命力に決まっている。

 わっちと戦っていたときにダンチクは魔力弾を絶えず放ってきた。あれだけでも相当な魔力量が必要なはず。もしもそれが使えなくなっていたら……。

 希望的観測で言えば、あの最高に意味が分からない魔法を使う分の魔力だけがなくなったと考えられるが、それはあまりにも都合のいい解釈だ。

 もしかしたら寿命がいくらか減っているのかもしれない。

 思わず拳を強く握る。

「スマヌ!」

 そして己に出来る全力で頭を下げた。

「本来ならダンチクに頼らずに解決すべき問題……。そのような多大な代償を払うことなど……」

 元々は魔族と人間の問題であり、ダンチクの言葉が正しければ、彼はこの世界の人間ではない。ダンチクが代償を払う必要などないはずなのに、誰に命令されるでもなく、このような魔法を使い、問題を解決してくれた。そして本来使えていたはずの力を失ってしまった。

 果たしてその力があればどれだけの事が出来ただろうか。世界を手中に納めることすら出来たのではないか。

 何故ダンチクがそこまでして魔族を助けてくれたのか、わっちには分からない。

 だからこそ余計に、己の無力さが口惜しい。

 こうして頭を下げているのも、ただの自己満足に過ぎない。わっちが頭を下げた程度で払える代償ではない。

 力を失ってしまったダンチクのこれからを思い、視界が滲んだ。

 謝罪など幾らでもしよう。けれど、それだけでいいのだろうか。こういう時になんと言ったら良いのか、わっちは知らないが、少なくとも謝罪だけで終わらせてはいけないと思う。

「わっちら魔族を救ってくれた事に……礼を言う」

 目頭に溜まった雫が、赤茶けた地面に跡を残した。

 それと同時に、ポン、ポンと頭に軽く触れられた。

「別に、何か大切なものが無くなったわけでもなし。構わないよ」

 その言葉に、何故か頭がかっと熱くなって。

 下げた頭を上げ、目尻から雫を散らしてダンチクの胸倉を掴み、

「無くなっておるだろうが! ダンチクの力が!」

 少し驚いたような顔。

 指を緩めれば、とても優しい顔に変わる。

 急に恥ずかしくなり、そのまま胸に頭を預け、ダンチクの服で涙を拭った。

 自分でも何を言って、何をしているのかが分からない。

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 頭の中が回っている。

 申し訳なくて、ありがたくて、なんでもないように言うダンチクに怒って、涙が出てきて、頭に置かれた手が心地良い。

 戦闘中でもないのに、感情が揺さぶられすぎている。ダンチクと話していると、調子が狂う。

 使わないものは無いものと同じだとダンチクが言う。

 それは違う。使わなくても、有ると無いでは大きく違う。

「セリア」

 名を呼ばれ、大げさなほどに肩が揺れた。

「俺は俺のやりたいようにした。それだけ。俺は君を止めたかった。それだけ。それが出来るように力を貰って、それを終えたから力を手放した。それだけ」

 ゴシゴシと頭を撫でられ、小さく溜息を吐かれたのが分かった。

 後頭部に腕が回され、頭を抱き抱えられた。ダンチクの体温がよりハッキリと感じられる。

 ぐるぐるぐる。

 頭の中は変わらず回り続けている。

 情けなくて情けなくて、鼻を啜った。

 阿呆め。

 考え無しのど阿呆め。

 この世界の『普通』を知らぬ、無知者め。

 ――ダンチクめ。

 英雄にもなれる力を手放した痴れ者め。

 ――スマヌな。

 わっちの事を何も知らぬ、異世界の人間め。

 ――それから、

 わっちの事などお構い無しに、容赦なく檻を砕いた無礼者め。

 ――ありがとう。

 彼は謝罪なんて求めていないし、たぶん感謝だって求めていない。それが役目だったのだと笑うだろう。

 容易に想像出来て、それが妙に恥ずかしくて。

「セリア」

 再び、跳ねた。

 どこが?

 肩か? それとも。

「可愛い女の子は笑顔が一番ってね。だから、ほら、顔を上げて」

 む、無理じゃ。少なくとも今は駄目じゃ。どんな顔をしているか分かったものではない。それをこの男に見られるのだけは駄目じゃ。

 頭に回されていた腕が解かれ、指が両頬に添えられた。

 ちょ、な、何をするこの無礼者め。

 力をこめるでない痴れ者め。

 こんなわっ……わらわの顔を見ようなどとは、ダンチクめ。

 強制的に、顔を上げさせられ、むにっと、頬を上に持ち上げられて……。

「ほら、可愛い」

 わらわ……わっちの仮面は、早々に砕け散った。





 まったく、ダンチクには調子を崩されっぱなしじゃ。ダンチクに会ってからというもの、今までまるで動かなかった表情が百面相もかくや、動きっぱなしである。嬉しい変化ではあろうが、何故こんな事になっているのか。

 しばらく顔のマッサージをして表情を落ち着かせていると、「さて、セリア」とダンチクから声が掛かった。

 名前を呼ばれるとムズムズする。不思議じゃ。「なんじゃ」と返事をすると、ダンチクはわっちを倒した事を再度確認してきた。

 異論は無い。わっちはダンチクに負けた。気絶が一瞬だったとしても、戦闘中に意識を手放したのならば死んでいても可笑しくない。今わっちが生きているのはダンチクの「殺さない」という考えのお陰と言えよう。

「なら、一つだけ頼みを聞いてほしい」

「頼み? 何を頼むかは知らんが、ダンチクの言うことであれば、可能な限り融通しよう」

 果たして頼みとはなんなのか。他ならぬダンチクのことである。よほど理不尽な事以外は叶えてやりたい。

 そういえばわっちはダンチクが何故ここにいるのかもよく知らぬ。わっちを倒すためとは言っていたが、何がどうなってそんな事になったのかは知らぬのだ。

 そこを無視したとしても、ダンチクの素性は相変わらず分からん。異世界の人間らしいが、とても狩りを生業にしている男とは思えん。ならば肉体労働以外の職かと思ったが、それだとわっちの攻撃を前にした動きと判断能力は異常の一言。

 本当に意味が分から――

「セリア、俺を君の傍に置いてほしい」

「――んなっ!?」

 い、今こやつはなんと言った!?

 傍に置いてほしいと言ったか!?

 そ、それはつまり、わっちと番にならぬかとそういう話か!?

 番になって死ぬまで傍で愛し合おうとそういうことか!?

 そんな雰囲気欠片も無かったではないか。いや、確かに何度かダンチクから邪な視線は感じていたが……そう考えると、つまり、そういうことなのか!?

 い、いやぁ困った。わっちの魅力がダンチクを骨抜きにしてしまったのか。流石は美の魔王とも言われるわっちなのじゃ。言われた事ないけど。

 しかし、ダンチクの望みがわっちだとは……。いや、考えてみればダンチクのこの強さ。わっちと同じように対等な者が居なかったのやも知れぬ。となれば、わっちとダンチクが対等の存在となれば……。

 なるほどだから番か。夫婦は対等であろうよ。

 わっちとしても望むところ……いやいやいやいや、わっちが望んでいるのではなく、ダンチクがこれほどまでに望んでいるのだから、叶えてやる事も吝かではないというか。うむ、うむうむ。そう、これはわっちとしても対等な者が生まれる好条件。

 考えてみれば魔王ともなれば跡継ぎの問題もあるじゃろう。ダンチクは魔族ではないが、実力主義の魔族からすれば反対されることはないはず。

 あぁでもそうすると魔王と言う仕事はなんとも邪魔に……いやいやいやいや、何を考えておるのじゃ。まだまだやることが山積みなのじゃ。そんな、こう、ねぇ?

 いやしかし、仕事の合間とか夜とか、その辺りだったら別に、魔王がどうとか関係ない、一組の夫婦なのであって、ううむ、つまりそう、対等となるのじゃろうか。だから、その、……ね?

 あぁ、考えが纏まらん。じゃが兎にも角にもダンチクには何かしら返事をせねば!

「よ、よきゃ、よかろう!」

 口が回らず、少しどもってしまった。

 おのれダンチクめ。

「そのかわり」

 ええい、だがわっちの隣は安くないぞ! たくさんたくさん抱きしめて、いや、そうではなく、扱き使ってみせよう!

 条件を突きつけてやろうと、茹だった頭のまま、ダンチクに指を突きつける。

 口を開こうとして、止まる。

「……ダンチク?」

「どした?」

「い、いや……なぜお主は……」

 あんなに熱を持っていた頭が急激に冷えていく。

「半透明になっておるのじゃ?」

 魔力的揺らぎなどほとんど感じない。

 ダンチクはそこに居る。なのに、どこか遠い。そこに居るのに、居ない。

「あぁ、なるほど」

 ダンチクは一人で納得していた。

 何を、納得しておる。

 なんとなく、これから起こるであろうことを予想する。勿論、そんなこと起こってほしくはないのだが。

 予想が異なれば良し。もしも予想通りであれば……

「セリアを驚かせないよう、ゆっくりとってわけか。ラオネってば、粋な事するじゃないか」

 ラオネ。誰じゃ。そいつは。

 そいつか。わっちから対等となる者を引き離そうとするのは。

「ダンチク、何がどうなっておる。説明せよ」

 声をかすませながら、ダンチクを問いただす。

 ダンチクは知っているのか。自分がどうなるのか。知っていたのか。

 ならば何故。

「つまり、これでお別れだってことさ」

 先ほどの願いはなんだったのか。

「俺は依頼主の元に戻るってこと」

 それとも、それこそがダンチクの望みだったのか。

 わっちの傍に置いてくれと。そいつではなく、わっちの傍にと。

 ならばわっちは……妾は……

「ダンチク……」

 ふざけるな。

「じゃあな」

 ダンチクが手を振る。

 ふざけるでない。

 ダンチク、お前もじゃ。

 魔王に助けを求めたのであれば、もっと頼れ。

 妾が、その程度の事、出来ないと思うか。

「――嫌じゃ!!」

 腕を伸ばす。

 ほんの僅かに魔力が揺らぐ。

 ダンチクがどんどん薄くなり。

 妾の手は空を切り。

 彼は消えた。

 ……

 ……だが。

「……掴んだっ!」

 唐突な空間転移はこれで何度目だ。妾が何度も同じような手を食らうと思うたか。

「依頼主とやら。そして、ダンチクよ」

 知らぬのならば、教えてやろう。

 妾は強欲なのじゃ。欲しい物は手に入れる。紆余曲折あろうが、最終的には必ず。

 魔王には、それだけの強欲さと傲慢さが必要なのじゃ。

「じゃからな、決して逃がさぬ」

 細い細い、魔力の残滓。

 そこに己の魔力を混ぜ込み、逆探知。引っ張ると切れてしまいそうな細い糸を補強し、ダンチクを絡めとる。

「妾は、諦めが悪い」

 多分、きっと。

 今まで諦めだらけの人生であったが、これだけは諦められん。欲も何もない人生であったが、今だけでも業突く張りにならなければならん。

 妾は正しく、魔王となる。

 なんとしても、ダンチクを助け出す。

「知らんかったか。あぁ、知らぬじゃろうとも。この世界の者ではないのじゃから当然じゃ」

 クイッ、クイッと、魔力を引っ張る。まだ弱い。これでは駄目だ。もっと強化して強化して、細くて弱い糸を集めて圧縮して。

 クイッ。

 先ほどよりも感触がある。いける。何時間掛かるかは分からぬが、確かに繋がっている。

「わっちが……妾が、目をつけたのじゃ……」

 これほどまでに強烈な思い、今まで知らなかった。教えてくれたのはお主じゃ。ダンチク。

「簡単に逃げられると思うなよ」

 諦められると思うか。知らなかったころに戻れると思うか。

「我は魔王」

 歴代の魔王の中でもっとも魔力が大きく、扱いに長けた、魔王セリア・シュレリア・アラゴネゼ。

 故に、逃がさぬ。

 魔王からは、逃げられぬ。

 もしもダンチクが来ないと言うのなら、これを抉じ開けて妾が向かおう。かなり無茶をすることになる。

 出来れば自主的に来てほしい。でないと……。

 だから、ダンチク。

 ――

 良いか、ダンチク。自主的に来い。

 でないと。

 命の保障は、しかねるぞ。

 不敵に笑い、魔力の糸を思い切り引っ張った。

 空間が揺らぎ、妾の魔力が回収される。

 そして、そこから。

「成り行き任せで命の心配されてたまるか!」

「ダンチク!」

 戻ってきた。いや、連れ帰した。

 これ以上無く対等で、出鱈目で、馬鹿で、狂おしいほど愛おしい、

 ゴンッ!

 ダンチクの頭が白い壁にぶち当たり、白目を剥いて気絶した。

「……どうにも締まらぬのじゃ。……じゃが、まぁ」

 したたかに打ち付けた頭を一撫でして。

「おかえり。我が愛しの君」

 男の額に、そっと唇を落とした。









おわり


普段弾幕ゲーなんてやらない、むしろ何じゃこれふざけんな無理じゃ!ってなる人間が不意に弾幕物を書きたくなった結果がこれだよ!!

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