第118話「面談」
「えーっと、その、」
言葉に詰まるデニーロ教師。
それも当然だろう。
それなりに教員勤務歴が長いとはいえ、まさか保護者が3人も来るというは初めてのケースであり。
またその3人が異常に異様に〝本気〟の面構えをしているのだから。
相手はまさに一瞬の隙を見せれば首を狩られんばかりの勢いなのだ。
「わたし、アリシア君の担任を務めるデニーロと申します」
「「「…………」」」
「今回はわざわざご足労頂き……その、よ、よろしくお願いいたします」
無駄にとまでは言わないが、ペコペコと頭を下げる。
「「「よろしく!」」」
はたや保護者たちは意気揚々と挨拶を返す。
デニーロ先生はその声の大きさにビックリしたのか、瞬間だけ肩をビクンと震わせた。
自分と彼らは血は繋がっていないし、保護者ではいないし、道理は通っていないし。
ここまで大きい態度を取れる理由が俺にが分からないのだが。
それでも老紳士と自称姉の2人の表情には一点の曇りも陰りも見受けられない。
……根本の部分として、やはり神経が図太いのだろう。
「で、ではまず成績に関してですが――」
デニーロ先生も、普段生徒と接する時とは違い口調が改まっている。
当然のことながら(こんな3人の)保護者には敬語で接するようだ。
そして本題とばかりに机の中から、紙媒体のランク評価表(成績表)を見開きながら。
「クレス・アリシア君。学科および実技科目、全て優秀で――」
「うおおおおおおおおおおおおおお。グッジョブだぞクレス!」
「まぁクレスなら当然の結果。わざわざ褒める必要もありませんが、結果を出すべくして出したことは素晴らしいことです」
「流石だネー。ここに来なかった皆にも高らかと報告だできそうだヨ」
「あのぉ……」
「「「やったねクレス!」」」
肝心の部分を聞けたら否や、先生の話を遮って歓声を上げる3名。
彼らは年齢的に十分大人であるが、この話の聞かなさっぷりは子供と呼んでも過言じゃない。
この大人の本気の喜びように、デニーロ先生もタジタジだ。普通に困惑している。
「……あの皆さん、まだデニーロ先生が話の途中なので」
「あ、すまないすまない! しっかり聞こうな!」
「そうですよ2人とも。まったく大人げない」
「静粛にだね。マキナちゃんだって喜んで――ああ、なんでもないヨ。だから殺気を抑えてくれたまエ」
なんかもう……ダメだな、これ。
3人はかろうじて真の正体を明かさないものの、理解はしていたものの言動に難がありすぎる。
保護者役がエルメスさんただ1人であったのなら、もっとマシな状況になっていたと思う。
しかし危険な薬品を2種類投じれば、必然的に化学反応を起こし、本来マトモ側であった彼でさえ脅威と変わってしまう。
いっそ懇願に懇願を重ねるなり、もしくは実力行使をしてでも彼らがここに来るのを阻止すべきだったのではないだろうか?
これは自問自答に見えて、本当は現実逃避だ。
長々と独唱をし、相方のいない会話を黙々と内で続ける。
「――ちなみに実技とは具体的になにをする? 魔王退治とかか?」
「――あのそれは、」
「――バカなことを言わないでくださいアルカ。課題でやるのはせいぜいドラゴン退治程度だと簡単に予想ができるでしょうに」
「――いやドラゴンってそれも、」
「――こらこら2人とも、この都市の近くに魔王もドラゴンもいるわけないだろウ? きっと盗賊や闇組織の壊滅ぐらいサ」
「――…………」
やめて先生。
そんな視線を俺に向けないでくれ。
泥船ではない立派な助け船を出したって、すぐに沈没させられてしまうんだ。
「で、では、生活面についての話を――」
「「「生活面!」」」
「あ、はい」
意を決して口を開くと、聞いていない風であった3人は見事にシンクロを決める。
成績以上に、生活面でそんなに気になるような事があったかなと勘ぐるが――
「まさかクレスがイジメられて――」
「いません」
俺は即座に否定する。
そして代わりに言いたい。
むしろあなたたちが来たせいで、今後イジメられる可能性があるくらいだと(主に男たちからの嫉妬で)。
だがまぁ……そんなことが伝わるわけもないか。
「生活面も時たま、ちょーっとした問題は起こしますが」
「……なにか起こしましたっけ?」
「先生はな、あの時のことを絶対に忘れないぞ」
「もはや恨まれているレベル!?」
「さて冗談ではない冗談はよして」
「それじゃあやっぱり恨んでいるんじゃないですか!」
全く身に覚えが……ない。
その後は『普段は優等生としてすごしていますよ』と当たり障りのない事を先生は口にした。
保護者の面名は『当然だよな』とウンウン頷いている。
――が、
「ただ、問題行動とは別で。時々なんかこう……不審な動きは見せるよね」
「不審な行動、ですか?」
もう面談も終盤ということで、先生も良いか悪いかは置いておいて、会話がいつもの距離感に戻りつつある。
俺は彼のその言葉につい聞き返してしまった。
「いやさ、勇者たちの――特にハルカゼさんの近くによくいるなって気がしてね」
……なるほど。
思いのほかこの教師はしっかりしているなと感じていたが、その感想はよくクラスを見ているという証拠であった。
やはり半年以上監視をしていれば、それなりにひっかかる部分も発露する。
(だが切り抜けるのはたやすい。平然と『少し気になっているんですよね』とでも言葉を返せば――)
異性として意識している。
これで万事解決なのだが。
「「「…………」」」
あれだけ騒いでいたのに、それを聞いた途端に急に黙りこむ3人。
おいおいなんでだよ!
それじゃあまるで、俺が良からぬことをしているみたいなムードになるじゃないか!
「あの皆さん」
「え、あぁ、不審ね、不審。不審ってどういう意味の言葉だったか、私はバカで忘れてしまったなぁ……」
「不審と言われて不信という単語を連想しました。これでもワタシは宗教家でして、その同音異義語だっただけに自動的に脳が理解を拒否しました」
「誰がどう疑おうと、我々はクレス君を信じるだけだヨ」
――は?
「ちょっとちょっと! そのリアクションは結構誤解を招きますよ!?」
つい立ち上がって猛抗議をしてしまう。
言い訳があまりに下手すぎるんじゃないだろうか。
デニーロ先生も少し瞳に疑心を宿し始めているし。
「先生、違うんです。僕はただ勇者たちのことが気になっていただけなんです」
「気になるねぇ。そりゃあ異世界人だし」
「そうですそうです。しかも女性陣はどちらも美少女……俗っぽいことを言ってしまって申し訳ないですけど、これでも自分も健全な10代ですし」
興味故に、それを恥ずかしさで出されない故に。
少しばかり不審な動きをしてしまった、だから不信を抱くのは間違いである。
もはや都合が良いと言えるまでに3人は沈黙してくれたので、ここから先の会話は自分1人でできたので楽だった。
……楽だった? ただの尻拭いだろうに。
「――お手数をお掛けしました。これで面談は終了となります」
デニーロ先生が立ち上がり、俺たちも起立する。
アウラさんとマキナさんは暗い表情から一転、『やりきった!』と言わんばかりの表情に。
俺からすれば『やってくれたな!』とツッコミたいところだ。
「もう聞いているとは思いますが、文化祭でうちのクラスは――」
「演劇だったかナ?」
「ええ、そうです」
知っているのはエルメスさんだけ。
アウラさんとマキナさんは初耳だろう。へーと声を漏らす。
最後の挨拶として、デニーロ先生はそんな軽い気持ちでこの話をしたということは分かる。
だが彼は俺がまだ言っていない、あえて言わなかったことをこぼしてしまった。
「是非観に来てください。なんと言っても、主役はアリシアですから」
どうも、東雲です。
ちょっと遅れました、すいません……。
最近『プロメア』というアニメ映画のPV第2弾が公開されました。
制作会社は『トリガー』で、中島かずき×今石洋之の黄金タッグです。
音楽も澤野弘之さんと、期待は大の大ですね。
ボクは以前にも話したことがあるのですが、この先生たちの作るアニメが大好きでして。
グレンラガンしかり、キルラキルしかり。
キャラクターやストーリーの熱さもさることながら、王道構造を構築しつつ、言葉遊びをふんだんに使ってくる。既存のフレームを踏まえながらもオリジナリティ爆発という感じで釘付けにされます。
しかし今回のヴィラン側のリーダー、名前はリオ君と言いましたか。
彼がまた素晴らしい美少年で……べ、べべ、別に、やましい気持ちなんてこれっぽちも抱いていませんよ!? ホントです! 信じてください!
ほ、放映は春だそうで、色々な意味で楽しみな作品です!!