どうか、どうか。
「いっっつ……」
あたしはまたこの街に来ていて、そして、今日は曲がり角で自転車とぶつかっていた。尻餅をついているあたしに、自転車に乗っていた人が手を差し伸べた。
「ごめん!うわー」
聞き覚えのある声にあたしはその人の顔をみた。
「明希じゃん」
「いやー、まさか角からかれんが飛び出してくるとは思わなかったわ。てか、ここで何してんの?」
あたしは差し出された手を振り払って自分で立ち上がった。あたしは、あの日桜ちゃんに会ってから、毎日のようにこの街で途中下車し、明希と偶然会うことを狙っていた。まあ、家まで押しかけてもよかったんだけど……。
「あたしがいつ飛び出したっていうの? 飛び出してきたのは明希じゃん。あたし、あんたに一言言いたいことがあるんだよ、ちょうどよかった。はい、こっち来てください」
毎日歩いて、歩き慣れた道をあたしはずかずかと進んだ。後ろから黙って付いてくる明希の自転車の音が聞こえる。
あたしは公園のベンチに座って、続いて明希も座った。
「なんだよ」
「あんた、桜ちゃんになんも伝えてないらしいじゃないの」
その一言を聞いて、明希は居心地悪そうにした。
「明希、言ったじゃん、ちゃんと気持ち伝えるために別れるって。本当に好きなのは桜ちゃんだって言ったのに。しかも、あんた、新しい彼女いるんだって?呆れるわ」
「……だよ」
聞き取れない。そんなに小さい声で言っても聞き取れない。
「はっきりいえば?」
「だから、本当に大切だから、伝えたくないんだよ!」
は、意味わからん。
「俺は!桜ちゃんを大切に思ってるから、やっぱり伝えないことにした!かれんには悪いけど、もう一生伝えない!気分悪いから帰る!」
「あんた、最低だ」
自転車に乗って帰っていく明希の背中につぶやいた。
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俺は、伝えないことに決めた。いいんだよ。大切にしたいから。
俺はお父さんみたいになると思う。じいちゃんもそういった。だから会社は継がせないって。
俺も将来、お父さんみたいに本当は好きなはずの人を傷つけてボロボロにしてしまうかもしれない。俺はそんなお父さんを見てきたし、それで辛そうにしているお母さんもみた。
そうなりたくなくて俺は関西弁で話すのをやめた。でもそれだけじゃやっぱりこの遺伝子は変わらないと思った。奏にも言われてしまった。
お母さんも俺と2人だと怯える。俺の顔はそれほどお父さんに似ているのか。それとも俺の中に眠っているそういう性質を見抜いているのか。
俺は大切な人を傷つけたくない。だから、初めから大切な人と一緒にいなければいいんだ。桜ちゃんともし付き合って、そうなったらきっと桜ちゃんは傷ついてしまう。
そうなる前に、どうか、嫌いになってほしい。俺がもし思いを告げても、桜ちゃんははっきり嫌だと言えるようになってほしい。そうなってから、俺は好きだと伝えたい。そうしたら、俺が傷つくだけで済むんだ。振られるのは俺だから。
どうか、どうか、桜ちゃんが俺を嫌って、傷つかずに幸せになれますように。




