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7歩 おしゃれ

「がっふふー」

トゥリックー! みんなー! 遊びにきたよー!


ルプスお母さまの話が終わる前に駆け出していた。わたしの声を聞きつけてあちらこちらから飛び出してくる妖精たち。

花や植物、水や土、光る石や鉱物などなど。いろんな素材の衣装を身にまとっている。

出迎えの笑顔がとってもうれしい。


「アーヤー。なにしにきたのー?」

「一緒に木の実で遊ぼー」

「相変わらずチビだな! きゃはは!」

「髪がボサボサ! ちゃんとしなきゃダメだよ!」

「ごはんいっぱい食べてるかあ?」

「あ! ビリビリスだ! それどうするの!」

「えー。ヤマブドウとかグミの実を食べようよー」


元気いっぱいの妖精たちにあっという間に囲まれた。全身にまとわりついているから、わたしは妖精団子みたいになってると思う。


「がふがふがふ!」

苦しいよー! 息ができないよー!


顔にまでくっついてくるんだもん。ぶるぶるっと体を震わせて、水を弾くみたいにみんなを飛ばしていく。狼と同じ、こんな仕草も当たり前にできる。


「あははははー!」


妖精たちはそれでもめげずにわたしのまわりを飛び回ってキラキラの鱗粉を振り撒いていた。


「がふがふ言ってる!」

「もっとお話ししよー」

「お話しじゃなくて遊ぶの!」

「追いかけっこがいい!」

「妖精魔法で遊ぼうよ!」

「お化粧が先だよ!」

「早く早く!」

「アーヤはなにがいい?」

「ほら! お返事して!」


次から次にまくしたてられて飛び回られてぐるぐる目が回る。この子たちはほんとによくしゃべるから狼語じゃ間に合わないんだよね。


「がるぅ」

ルプスお母さまー。おしゃべりしてもいい?


おねだりするように甘えた声で聞いてみる。


「わふん」

しょうがないな。前にも言った通り、妖精郷の中だけだぞ。


「やった! みん……ないっぱいお話ししよう……ね!」


ルプスお母さまは妖精郷の中でだけ人であることを許してくれる。

二本足で立ち上がってみんなの小さな手を人差し指でちょんちょんと触っていく。握手みたいなもの?


そんでもって妖精たちが好き勝手にぺちゃくちゃと話し始めた。

内容は変わらない。わたしとなにをするかというもの。全員が早口で言うから聞き取れないし、もうほんとにぐるぐると目が回りそうだけどがんばってお返事する。

そんな中、たった一人ぷるぷると体を小刻みに震わせている妖精がいた。


「アーヤを綺麗にするのー!」


とってもとても怒鳴り声をあげてる。それはもう妖精郷全部に響き渡るくらい。小さい体なのにね。

妖精たちが青ざめてヒョーっとした顔をしている。わたし耳元だったから頭がキンキンする。


叫んだのはクッカ。

カーネーションのようなフリルのワンピースがとても似合っていて、ふわふわの髪にアナベルの花かんむりがとても可愛い。

妖精郷一番のおしゃれさんで怒らせると一番怖い子。


「みんな手伝って! アーヤ、行こ!」


鼻の頭を両手でつかまれて引っ張られていく。


わたしが座れるくらいのキノコに誘われたからちょこんとおしりを乗せる。わたしの重みでぽよんと跳ね返る弾力がおもしろい。

ほのかに灯るスズランプの光が淡くわたしを照らしてる。


「女の子なんだからもっと綺麗にしないと王子様に好きになってもらえないよ!」

「天宙世界樹の雫で綺麗にしよう!」

「綿毛で顔をふいたげる!」

「毛皮も着替えて!」

「髪もつるつるにするよ!」

「お花をいっぱい持ってきたよー」

「これこれ! 光る石もつけて!」


「王子様に会……うことなんてないと思うけど? 王子……様なんてよく知ってるね?」


森の中で暮らしてるだけの妖精がなんでそんなこと知ってるんだろう?


「ワタシたちは噂がとっても好き!」

「森の外からいろんな話が風にのって飛んでくるよ!」

「そうそう! 外の妖精から聞いたりするんだよね!」

「ねー!」


妖精たちが羽をぱたぱたさせながらキラキラと鱗粉を振り撒いてる。鱗粉が体にかかると気持ちいい。

雫のスプレーを顔と髪に吹きかけられて綿毛のタオル?でふわふわぽんぽんされる。櫛みたいな葉っぱで髪をとかされる。


わたしが見えなくなるくらいに妖精たちに囲まれて服も着替えさせられた。狼耳のかぶりものも取られてしまう。

ボサボサだった金色の髪がときほぐされて、するりと艶めいていく。


「できた! ほらこっちきて!」


またまた鼻の頭を両手でつかまれて引っ張られていく。

葉っぱが生い茂る緑の中に水が流れている。それはまるで水のカーテンのようになっていて鏡の役割をしていた。

わたしの青い瞳に全身が映されている。


透けるように白く肌触りのいいドレス。

首には植物のツルでできた首飾りに不思議な輝きを放つ石がぶら下がってる。耳には花の飾り。

地面まで届くほどの金色の髪はあちこち編み込みをされていて、色とりどりの花々と光る石が散りばめられていた。


自分の姿を見て息を飲む。ふるふると体が震える。


「可愛い! と……っても可愛い!」


体をくの字にして両手を胸に抱えて超絶叫んでいた。

や。自分で自分をそこまで可愛いって評価するのはどうかと思う。だけど、この姿になって初めてこんなに着飾ったんだもの。感動しちゃった。


お姫様というよりは神話にでも出てきそうな幼い女神様のような雰囲気? いつもごわごわの毛皮にボサボサ頭だから自分がこんなだとは想像もしていなかった。

ルプスお母さまが毛づくろいしてくれるけど、すぐ乱れちゃうんだよね。


狼として生きているけどわたしだって女の子。やっぱり可愛いものが好き。


「嘘……な……んてことだ」


わたしの背後で声を震わしていたのは、人の姿に狼の耳としっぽを生やしたルプスお母さまだった。

すっごい久しぶりに人の姿になってる。

わたしと同じようにドレスアップされてる。違うのは銀色の髪と豊かな肢体が艶めかしいこと。変身したんだね。


「わあ! ルプスお母さまも可……愛い!」


手を叩いて声を上げた。ぴょんぴょんしながらルプスお母さまを中心に四つん這いで駆け回る。


「アーヤ!? せっかくおめかししたのにダメだよ!?」


クッカが悲鳴をあげてた。

だけど、ルプスお母さまからはなんの反応も返ってこないで、ただただわたしを凝視してる。目がとってもキラキラしていて、息は大丈夫?ってくらいに口を押さえてる。


「どう……したの? ルプスお母さま?」

「わ……わしのアーヤが天……使! 可愛い! 可愛いぞ! い……っそ食べてしまいた……い!」


ぎゅぎゅっと抱きしめられた。じゅるりと音がしたのはよだれをすすったの? 少し冷や汗が出る。


「わし……の娘。奇跡の子。愛し……てる」

「うん。アーヤも……だよ」


こんなに喜んでくれるなんてうれしいなあ。

だけど人の姿になるとやっぱり話し方がたどたどしい。ルプスお母さまほどじゃないけどわたしも上手く話せなかったりする。


「あれ? ルプスお母さま、まだ髪がボ……サボサだよ?」

「そうなんだよ! ルプスったらアーヤの姿を見た途端にそわそわして駆け出したんだよ!」


ルプスお母さまのお世話をしていた妖精が飛んできた。

あはー。うれしい。待ってられなくてきてくれたんだ。


「しょうがない……なあ! アーヤが綺……麗にしてあげるね!」


ルプスお母さまをきのこ椅子に座らせて綺麗な長い銀髪をくるくる編み込み始めた。妖精が持ってきてくれた花飾りを髪に差し込んでいく。


「うん。可愛い。完成!」


人の姿のときは無表情なルプスお母さまが目いっぱいもじもじ照れ照れしてる。こういうところは女の子だね。


「んー。ちょっ……と待て」


待ての言葉で硬直するルプスお母さま。犬かな?


「もうちょっとこう……デコっておかないと」


さらにお花を盛り付けておいた。それはもう盛り盛りに。


「うん。デコは……神!」

「わしは神は信……じてないぞ。こんな姿は都にいたと……きぶりだ」


都? 人の街にいたことがあるのかな?


「あ! アーヤとルプスがいる! なんでこっちにいるんだよ! 洞窟に行ったのにいないから探したんだぞ!」


わたしの頭の上でトゥリックが顔を真っ赤にして怒ってる。


「って、アーヤ!? うわあ。変われば変わるもんだな」


感心して驚いているような呆れたような顔をして、ふよふよと浮きながらわたしをまじまじと見つめてる。


「えへへ。そんなに……見られると恥ずかしいな」


内股になってもじもじとしてしまう。


「うん。アーヤ、可愛いよ!」


こんな格好で可愛いなんて言われて照れ照れ真っ赤になってしまう。


「えへへ! うふふ! やだなあ! トゥリックったら!」

「うわあっ!?」


あんまりにも正直な褒め言葉に全身でくねくね舞い上がって、トゥリックの全身をつかんで上下にぶんぶん振ってた。


「やめ!? こら!?」

「あ。ごめん!」


目を回してるトゥリックから手を離したら、ふらふらぱたぱたと飛んでいる。


「で。なんでいるんだ? 毎日毎日往復してるんだから、こっちくるときくらい教えろよな!」


そうだよね。決して近くはないわたしたちのお家と妖精郷だもん。プンスコ怒るのも当たり前だよね。ぶんぶん振り回したせいもあるかもだけど。


「ごめ……んねトゥリック。毛皮の服を新しくして欲しくて急にく……ることになったの」


「あー。小さくてボロボロだったもんな? それなら裁縫が得意なやつが作ってくれるから。新しい毛皮持ってきたか?」

「うん! ルプスお母さまが持ってるよ!」


「それならワタシがお裁縫する!」


はいはいはい! と両手をいっぱいにあげて大興奮のクッカ。


「クッカ……はダ……メだ」


それに対して冷たいくらいに無表情のルプスお母さまがすぐに断ってる。


「なんで!?」


この世の終わりと思えるくらいに残念そうな顔をしてるし。そこまでがっかりしなくてもいいと思うよ?


「狼に可愛いはいら……ない。前と同じように獣のま……まにしてほしい」


やっぱり。そう言うと思った。

いくら可愛くしても毎日の野生の生活でどうせすぐにボロボロになっちゃうしね。

わたしも可愛いのが汚れていくのは嫌だし、そっけない毛皮の方が生活はたしかにしやすい。

野生の狼に可愛いなんてものはいらないんだ。


「ちぇー。アーヤ、せっかく可愛いのに。磨けばサンサンホタルのおしりみたいに光るのに。もっとおしゃれすればいいのに。宝の持ち腐れだよ。もったいないよ。国家の損失だよ。つーんだ」


おしり? そこまで? そんな言葉も風にのってくるのかな? すっかり拗ねちゃった。


「あはは。あ……りがとねクッカ。アーヤ、可愛くしても……らってうれしいよ! 妖精郷にいる間はずっとこの格好でい……るね!」

「うん!」


わたしの言葉で機嫌を直したクッカが可愛い。ほっぺたすりすりしてくる。


「それはいいけどさ。せっかく天宙世界樹の雫を運んだんだから飲め!」


トゥリックが花びらの水筒を差し出して蓋を開けると水の塊がぷるんと輝いてる。


「飲む!」


唇をムニっと差し出したら、花びらの水筒を傾けて注いでくれた。ぽたりと口の中に潤いが吸い込まれていく。

うはあ。おいしい。幸せ。

言葉にならない幸福感を無言で噛み締める。自分で自分の肩を抱き寄せるほどに感動する。頭がふるふるする。

そんな様子を見ていた妖精たちが黙っていなかった。


「ワタシもあげる!」

「オレのも!」

「こっちのがおいしいよ!」

「これなんか辛くてうまいぞ!」

「酸っぱい方がいいよね!」

「それなら苦いの!」

「全部飲んで!」


「ええ!? 辛いのと……か苦いのは嫌だよ!?」


戸惑うわたしの口の中に次々注がれる雫の一滴一滴がどれもこれもおいしい。全部ちゃんとおいしすぎて感動のあまり涙が止まらない。

ていうか、体がおかしくなりそうなくらい熱くて熱くて。ええ? なにこれ?


「赤……子のときからずっと。こ……んなに飲んだやつは誰……もいないだろうな」


ルプスお母さまが呆れた顔してる。トゥリックに出会ったその日から毎日欠かさず飲んでるんだよね。


『にぎやかなことは良い。わらわも楽しいぞ』


妖精郷にこだまするような声がする。

美しく透き通るようなこの声は……妖精女王様だ。

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