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28歩 変装

「やれやれだ。一時の強い感情だけで認められるなら簡単なもんだ。そもそもこいつらは部外者。やはり認められない」


ツンツン黒毛とふた縛り赤毛に目配せしながら笑ってるし。

グレイの言いたいことは分かる。

後になって心変わりすることなんてあるから。強い思いをずっと持ち続けるのはしんどいこともある。


「ルプスもそうだがここにいる仲間は必ず成し遂げたい思いを抱えてる。そういう奴しか仲間にはできん」


グレイが頑なに認めてくれようとしない。

そうなんだよね。わたしは復讐したい思いがあることを支部長であるおじさんに話した。そのうちなんとかして見せると、ヴァイゼ孤児院でいっぱいがんばった。

だから特別レッスンに声をかけられた。そうして死の契約を交わして仲間になってる。そんな覚悟をこの瞬間に見せるなんて無理。

これ以上言ってもダメかも知れない。だけどあきらめたくない。


「グレイ。ルプスは!」


「うらたちは必ずしも仲間にしてほしいわけじゃない。取り引きしてくれないかい」


狐人クウコをお姫様抱っこしたままの龍人ロンがすぐ近くまできていた。鬼人オルコと土の妖精美少女もその後ろにいる。


「取り引きだと?」


誰が相手でもビシッと指を差すポーズは止めないあたり心が強いよね?

狐人クウコがビクッとして龍人ロンの胸に顔を隠してる。


「話はみんなで聞いてました」

「なんだお前らもか。それで?」


「うらたちは家に帰りたい。いまうらたちがいるこの都はフォルテと言うと聞きました。だけどフォルテなんて聞いたこともない。ここがどこかも分からない。帰り道さえ分からない。うらたちは孤児も同然になってしまった」


鬼人オルコも土の妖精美少女も同じ意見なのか無言のまま。龍人ロンにこの場を任せているみたい。


「だからどうした」


「うらたちは人族の中で生きていくのも、この都から逃げ出すのも無理だから助けて欲しい。代わりにできることを手伝おうと思ってるんじゃないかい。つまり、仲間にして欲しい」


「はん。仲間ときたか。仲間にするにしても信頼がないと無理だ。ここにいる奴らは時間をかけて仲間にできると判断されている。そもそもお前たちがどんな奴らかってことも知らん。標的に仕込まれた内通者じゃないと証明できるか?」


狐人クウコは飼われていたと言っていた。でも内通者ならわざわざそんなことを自分から言わないよね?


「できないね。だけどそこにいるルプスとは短い時間だけど信頼関係を少しは築けていると思うんじゃないかい?」


龍人ロンがわたしの瞳を見つめていた。

わたしを心の底から頼ってる。そんな風に感じる。

そうだね。短くてもみんなで必死だった思いで繋がっていたよね。


「グレイ。悪……い子たちじゃないよ。古代遺跡から脱出でき……たのはみんなの協力のおかげだし。それに……嘘は言ってないと思う」


「嘘ってルプスなあ。そんなの分からないだろ?」

「そん……なことない」


トゥリックからもらった妖精の加護。精神感応。

子どものころに比べるとあまり伝わってこなくなってるんだよね。だけど、強い感情が動いたとき、なんとなく分かることがある。

でもこれこそ証明できないけど。


「ふう。孤児ねえ。ま、俺たちの領分ではあるけどな」


おじさんや裏ギルド<プラント>のファミリーは孤児を見つけてはヴァイゼ孤児院に連れてきてる。だけど亜人は見たことがない。


「俺も孤児であることに違いない」

「あたしもね」


ツンツン黒毛とふた縛り赤毛がみんなに同情的な顔をしている。二人も過去にはいろいろあったのかも知れない。きっとある。


「おじさんに聞……いてみて欲しい」


おじさんは裏ギルド<プラント>辺境の城塞都市フォルテ支部の長。一番偉い人でわたしを拾って裏ギルドに入れた人。きっと力になってくれる。


「ラズさんか。どうするかなあ?」


ニヤニヤ笑ってる。グレイったら意地悪。これ以上、どうやって説得したらいいか分かんないよ。

不満を思いっきり顔に出してやる。

ふん!


「わっはっは。ルプス。お前なんて顔してんだ!?」


密やかに大声で笑ってるし。腹立つ。


「ねえグレイ。そろそろいいんじゃない? 想定内のことでもあるし」

「ん? そうだな。とりあえず戻るとするか」


想定内? あれ? ふた縛り赤毛の言葉であっさり意見を変えた。突然どうしたの?


「とはいえ。この人数をアジトに連れていくのは骨が折れるな」


わたしが疑問に思ったことを口にするヒマもなかった。みんなを保護する話になったからまあいいか。


「亜人の姿も衣装も派手すぎて夜中とはいえ目立つに違いない」


ツンツン黒毛の言う通り。

長い耳。獣の耳としっぽ。鬼のつの。鱗の肌。小さすぎる見た目。その上、オークションで見栄えがするように鮮やかに着飾ってる。

誰かの目に映れば確実に噂になるし、夜番の警備兵や、騎士団に見つかったら騒ぎになりそう。


一緒に行動してた限り5人は隠密スキルなんて持ってないしね。真夜中とは言っても耳長ウィンの音を操る妖精魔法だけじゃ心許ないし。土の妖精美少女の妖精魔法は街中では目立つかも知れない。


「まあね。そこはほら。そのためにあたしがここにいるんだし。この蝶のフェイスが操る創造魔法の出番でしょ。夜の蝶々たちを美しく彩るあたしの化粧術を見せてあげるわ」


ゆるゆるの黒装束をふぁさりと一枚めくるとたくさんの化粧道具が並んでる。

夜の蝶々?


「え? ヴィペラ……ママ?」

「こら。普通に名前を言ったらダメでしょ?」

「ご……めんなさい」

「ふふ。潜入するアーヤちゃんのためにクラブのママがメイクを教えるっておかしいと思わなかった?」


思わなかった。

笑みを浮かべる表情がクラブ<クラウン>のママだった。

いつもはキラキラとした蝶々のようなドレスをまとっていて気づかなかった。胸元が大きく開いてるのは一緒だけど。それに化粧が全然違うから別人みたいに印象が違う。

お店では妖艶な美女なのにここでは少しやんちゃに感じる美少女になってる。


「ルプスは耳としっぽを外すよ。髪も金色に戻しておこうね。ほかの子たちも一列に並んで」


「え! ルプスって狼の獣人じゃないの!?」

「うん。騙……してごめん。変装してたの」


驚く耳長ウィンの涙が落ち着いてる。よかった。


「クウコさん。降りてくれるかい?」

「……はい」


龍人ロンの優しいお願いに了承する狐人クウコがお姫様抱っこから解放された。ずっと抱きかかえていたもんね。

蝶のフェイス、ヴィペラママが横に整列したわたしと5人を順々に眺めていく。


「さすが裏オークション。きっちり仕上がってる。だいぶ汗をかいたろうに乱れてない。ん? あんた綺麗だねー。うちのお店で働いてもらいたいとこだよ」


みんなしっかり化粧をされていた。狐人クウコが上から下までたっぷり値踏みされるような視線にたじろいでる。


「うん。プランが決まった。衣装を出して」


ツンツン黒毛が手荷物を広げると衣装が何着か畳んであった。


「一気にいくよ。素顔の想いを隠せ 心よ華やげ 我が手で光る夜の蝶々」


歌うように舞うように唱えられる魔法の呪文。旋律が魔力となって、魔力が視覚化されて夜の空に羽が舞う。化粧道具に蝶々の羽が生まれて舞い上がる。


わたしと5人の顔と髪に次々と化粧道具が飛んでくる。気持ちいいくらいに優しくお化粧が輝いていく。

みんなの着ている豪華な衣装が妖精魔法の蝶々たちに脱がされて新しい衣装が着せられていく。

そして。新しいお化粧が施された。あっという間だった。


「きゃは! あたしのお店で働かせたい!」

「うは。いい感じに変装できてるな」

「……違いない」


3人ともわたしたちを見て感心してる。ツンツン黒毛の色黒の肌が赤くなってるし。

6人とも創造魔法で変身したんだね?

みんながみんなすごいことになってた。


「ロン様が……素敵な女性になってらっしゃいます……」

「え!?」


狐人クウコの言う通り、龍人ロンが長身の麗人になってる。夜のお店で働くようなドレスを着て。

すっごい美人。緑の鱗も隠れてる。


「わあ。オルコのつのもないみたいに見えるね」

「え!? 僕のつのがない!」


鬼人族のつのが上手に髪で隠れてる。その上、出っぱって見えない。耳長ウィンも狐人クウコも別人になっていた。


「なんであたしだけ男になってるの! おかしいの!」


土の妖精美少女がプンスコしてる。可愛い美少女がどこにでもいる男の子になってた。


「あんたは背が低すぎるからね。誰かの子どもってことにしましょ」

「ひどいの! あたしが一番美人だったの!」


クラブ<クラウン>で働いているときと同じ雰囲気になって、ケラケラ笑う蝶のフェイス、つまりヴィペラママの言葉に納得してない土の妖精美少女がもっともっとプンスコしてる。


「ルプス。お前、元々美人だけどさらに綺麗になったな」


グレイがわたしをすっごい見てる。

え? わたしが美人? そんなことないと思うけど?

え? そんなこと言われるとうれしいんだけど?


「ほら。鏡でも見る?」


蝶のフェイス、ヴィペラママに手鏡を渡された。


「ほらな。綺麗な美人だろ」

「嘘。綺麗。可愛い。えへへ。うふふ。やだなあ。グレイったら」


こんな格好でそんなこと言われて照れ照れ真っ赤になってしまう。


「お前。もっと普段からそうやって笑ってればいいのにな。その方がずっと魅力的だ。笑顔の伝道者の俺が言うんだから間違いない!」


最高に爽やかな笑顔でとっても変なポーズでビシッと指を差されたし。

どういう? それはともかく一つだけ疑問に思うことがあった。


「もしかして……みんなを助ける計……画もあったの? グレイ?」


「想定の範囲でな。あくまで標的の暗殺が第一。万一、亜人を確保できるようなことがあった場合に備えていただけだ」


「そう……なんだ。でもありがと。グレイ。偉いから、なで……なでしてあげる。頭を下げて」

「なでなでだと!」


わたしは小さいから背伸びをして手を上げた。グレイはかなり背が高いから全然届かない。

ちょこんとおっきい体が屈んだ。笑顔が爆発してる。

頭の下半分だけ刈り込まれた長い灰色髪。短いところをゾリゾリしてから頭をポンポンした。


「うは。なでなでされた!」


わたしもセーリオになでなでされてうれしかったし。褒めるときや感謝をするときはなでなで。


「子どもに違いない」

「グレイ。あんた、幼女にそんなことされて喜ぶの。幼女趣味があったとはね」


ツンツン黒毛と蝶のフェイス、ヴィペラママが呆れた顔してる。

幼女趣味って言われたルレイル先生がうれしい笑顔を浮かべたまま嫌そうな顔してる。器用。


「ない! 幼女って言うけどちょっと背が高くなってるしな!」

「背が? ど……うやって?」


「ああ。あたしの創造魔法はただ化粧を施すだけじゃないのよ。幻覚の効果もあるの。まあ。元々ある身長を大きく変えたりはできないけどね」


「ふーん。便……利だね?」


「そろそろここから離れた方がいいに違いない」


脱いだ衣装をしまいながら催促するツンツン黒毛。


「そりゃそうだね。さあ。あんたたちは立派な夜の蝶々になったんだ。これなら堂々と街の中を歩けるってなもんさ! クラブ<クラウン>に出勤と行くよ!」

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