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1歩 世界

世界が輝いていた。


青く澄み渡った空。

青空の向こうに見える月。

空に浮く島から降り注ぐ水流。

空に溶けていく水飛沫にかかる虹の橋。

大きな翼を持った鳥?のシルエットが綺麗。

わたしの瞳に映るすべての事象がキラキラと瞬いて光り輝いている。

まるで祝福に包まれているみたい。


なんて美しいんだろう。

「あー」


心奪われる光景に感動のため息が漏れ出ていた。


でも待って。

空に島が浮いてる?

あの鳥?の翼が大きすぎない?

翼が六つもあるし。

なんだかわたしの方を向いて慌てているような?


自分の見ているものが信じられなくて目を擦りたい気分になったけど上手く手が動かせない。


空に浮いてる島と鳥?がどんどん離れていく。

頬に感じる強い風。

短い髪がばさばさと勢いよくはためいてる。


あれ? なんで?

どういうことかな?

もしかして? 落ちてる?

わたしは夢でも見てるのかな?


空から女の子が落ちてきて出会った少年と大冒険に出る。そんな素敵な夢でも見れたらいいなあ。

なんて思ってる余裕はなかった。


心の中はわけが分からなくなっていて手足をバタバタとさせて暴れたいところだったけど動かない。わたしの体は柔らかい布できっちりくるまれているみたいだった。なんの勢いでバランスが狂ったのか、くるんと180度回転して地上が見えた。


うわあ。すっごい景色。なにも障害物のないパノラマが素晴らしい。地平線が少しだけ丸く見える。空のあちこちに島々が浮いている。よく分からない生き物がわたしの位置より低い場所を飛んでいた。


あれはなんだろう?


でっかくて細長い翼のある蛇?みたいな生き物と魚とトカゲを足したみたいな生き物が空を飛んでいる。巨大な蛇?が長い体をよじるようにふるわせると、何本もの鋭い歯牙をのぞかせる顎が魚トカゲ?の前側半分を喰いちぎった。そして後ろ側半分もバクバクと喰いちぎって飲み込んでいく。


なにあの生き物? 恐ろしい見た目と凶暴に捕食をする場面に心臓がドキドキする。

わ、わたしはどんな夢を見てるの?

もしかして怖い夢を見てるの? 心の底から湧き上がる恐怖心を抑えながらおっかなびっくり視線を巡らしてみる。


遠くの方には、とてもとても大きな樹木が陽炎のようにゆらめいて見える。わさわさと枝葉が伸びていて立派。見た感じ一本だけあるんだけど、おっきいなんてもんじゃない。ほかの樹々にくらべて巨大すぎる。まるで宇宙に届くようにも感じるほど。


眼下には深い緑色がどこまでも広がっていた。これまたとんでもない広さの大森林。大森林の中を蛇行するように流れる大河。そして、これまた幅がとんでもない大瀑布にはとてつもない水量が流れ続けてる。


ていうか、風圧で目が痛い。涙がぽろぽろこぼれて、ほっぺたがぶるんぶるんする。

あんまり辛いからと体に力を入れたら、またまたくるんと180度回転した。今度は空が見える。ぐんぐんどんどん落ちてるわけだけど。


さっき目にした、大きな翼を持った鳥?がわたし目掛けて急降下してくる。その目はまるで獲物を狙うような目をしていて。ついさっき、あの鳥?はとっても慌てる仕草を見せていたよね?


もしかしてわたしはあの鳥?に捕まっていて? うっかり落とされて? 取り戻そうと追いかけられてる?

予想が大当たりしたのか、鱗がついた鳥?の足、鋭い鉤爪がわたしの目前に迫ってくる勢いだった。


わたしってもしかして雛鳥のごはんだったりするの!?

「あー!?」


叫んだ瞬間。不意に感じた殺気に目線をずらすと? さっきの細長い翼のある蛇?と目が合った。いつの間にそんなところにきたの!?


ぎらつく食欲が心の奥底に突き刺さる感じがした。

もうやだよー!

「ふわー!」


殺気とか食欲とかって極限状態になると肌に感じるものなんだな。と思いながら短い?生涯の終わりを悟ったその時。

わたしの目をえぐらんばかりだった鉤爪が空を切る。わたしを捕まえようとしていた鳥?に蛇?が体当たりをする勢いで咬みついたからだ。そのまま錐揉みするように落下したかと思ったら激しい争いを繰り広げている。お互いに鉤爪を体に食い込ませて血を流している。


ええ!? 蛇?が激しく燃える炎を吹いた!? 鳥?が羽ばたくと逆巻く風が渦を描いて見えた!?

巨大怪獣が激突する映画でも見てるみたいだった。趣味じゃないからそんなお話は見たことないけど。


こんなの夢に決まってるよね? 怖いよ……なんで夢を見ると怖いものばかりが多いんだろう。夢を見るならもっと素敵な夢が見れたらいいのに。たとえば花やぬいぐるみに囲まれてお茶をしたり大好きなスイーツを食べたり。


地面に激突する前に夢から覚めてくれないかな? こういうのはあれだよね? ヒュン。て、落ちる感覚の次の瞬間にはがばっとお布団から起き上がるものだよね? それで汗がびっしょりになってたりして、夢でよかったと心底安心するんだけど。


わたしの目の前で繰り広げられる恐ろしい激闘に耐えながら、夢の終わりを心待ちに待ってみる。


目が覚めない!?

明らか落ちてるよね!?

どんだけ高度が高いの!?

わたし、まだ死にたくないよー!


いやああああああああああああ!


声にならない叫び声をあげるわたしに向かって。我れ先にと獲物であるわたしを追いかける鳥?と蛇?。


小競り合いしながら交互にわたしに咬みつこうとするんじゃなーい!

「あー!」


なんて叫んだらまた回転した。


ちょっと待って!? 地面がだいぶ近づいてない!?

あと何秒で激突するの!? 夢なら覚めて!?

痛いのやだ! やだやだやだやだやだやだ!

ぶつかるぅぅぅ!


ふと気づく。

爽やかなそよ風にたなびく銀色の長い巻き髪。わたしを見上げる金色の瞳が、まるで太陽の光に輝く黄玉トパーズのようだった。


時が止まったような感覚。

その女性はわたしに視線を向けながらぶつぶつとなにかを唱えているようだった。麗らかな言の葉が紡がれた刹那、女性を中心に空気が軽くなるような気配を感じた。


ふわり。


まるでたんぽぽの綿毛に包まれたような浮遊感の後、たおやかな白い腕にわたしの体が抱擁される。


なんて優しく抱いてくれるんだろう。抱き寄せられる時に全身が見えた。足首まで伸びる銀髪。白い肌。わたしを抱く女性のなんと美しいこと。見た感じの年齢からすると女性という言い方でいいかとは思ったけど、美少女と言ってあり余る容姿。男子でも女子でも振り返る絶世の美少女。そんな風に感じた。


じっくり女性を観察する。

輝く金眼に長いまつ毛。銀色の髪がさらりと麗しい。頭上には立派なもふもふの耳が付いていて……。


んん? 耳? 獣の耳だ!

犬か、狼か。分からないけどワイルドな感じがするからきっと狼。そういえば全身が見えたとき、腰の後ろにふんわりとした長いしっぽが見えていた!

服装はというと、胸と腰に毛皮を巻いてるだけのように見えるワイルドなもの。一応縫製されていてカッコよくは見えるけど、びりびりに破れていてぼろぼろもいいところ。綺麗なドレスでも着せてあげたい。そしたらお姫様みたいに絶対に似合うと思う。


とりあえずお礼を言いたくなった。


助けてくれてありがとうございます。

「あー」


感謝の言葉を述べてにっこりと微笑んだら、女性の顔が驚いたように見える。

あ。わたしを見下ろす女性の頭上に鳥?と蛇?が落ちてくる。ううん、襲ってくる。


危ないよ!

「あー!」


わたしが声をあげる暇もないくらいの瞬間。女性が目線を上げて鳥?と蛇?を睨みつけると、不思議なほどその巨体がぴたりと宙空で止まった。

ほどなくして我れ先にと、競うようにもんどり打つように逃げていく。

その表情は分からないけど必死な形相だったのかな?


「お前……名は?」


わたしを見つめ直す女性の声が涼やかで耳心地がいい。


ん? なんて言ったの?

とりあえず自己紹介しといた方がいいよね?

わたしの名前は……

あれ? なんだっけ?

「あー?」


「アー? どこ……からきた?」


この女性の話す言葉がたどたどしく感じる。まるで久しぶりに言葉を話すような雰囲気。

そんなことよりも大きな問題があった。外国語だ。さっぱりなんて言ってるか分からない。


わたし、日本人です。英語は苦手だったし日本語しかできないよ。

「やー」


「アー? ヤー? 名か? いや……まだ、言葉を話すこと……できないか」


やっぱりさっぱり分からない。

ていうか? わたしもしゃべれてなくない?

さっきから、あーしか言えてないよね?

大体にして女性に抱かれてる感覚がおかしい。まるで自分が小さくなったような。


ふと、ふくよかな女性の象徴に目を奪われた。おっきいなあ。これだけおっきいと女子同士でもぽむぽむと弾力を確かめたくなってしまう。わたしには慎ましい弾力しかなかったし。

きつめに巻かれていた柔らかい布からズボッと手を伸ばして、うっかりふくよかな胸をペチペチと叩いていた。


「ん? 乳が欲しい……のか? わしは……出ないぞ?」


女性が胸を押さえて揉んでる。言葉は分からないけど、おっぱい欲しがってると思われたような? やだなあ。わたし、赤ちゃんじゃないんだから。と、思ったわたしの瞳に自分の手が映る。

わあ。ぷくぷくとした小さな手が可愛らしい。赤ちゃんの手だあ。


赤ちゃん!?

抱かれた感触。手の大きさに形。わたし、赤ちゃんになってる? やっぱり夢でも見てるのかな? そうじゃなかったらこんなことあり得ない。


「深い……森の中で赤子か……どこから攫われてきた? わしはどう……したらいい?」


女性の瞳がとても心配そうにしている。わたしのことをなにかしら気遣ってくれてる?


「ルピナス……の花に感謝しろ。開けた群生地に偶然……いたから気づけた」


辺りの風景を見せようとしたのか、女性がわたしを抱え直した。わたしと女性を中心に綺麗な花が咲き誇って囲んでいる。藤の花を逆さまにしたようなたくさんの花が大地を隠している。この花の群生地を取り囲む樹々はとても背が高くて、森の中にいたら上空はそれほど見えないってことなのかな?


区切れたところだけルピナスって聞こえた。それならわたしの好きな花だ。花言葉は……なんだっけ? 忘れたけど、とても素敵な光景に目を奪われていた。


「ふふ。あんな恐ろ……しい目に遭って、よく無邪……気に笑うものだ」


わたしを見つめる女性の瞳が安らいでいるようだった。女性がわたしを片手に抱え直す。


「帰ろう」


うぎゃ!?

牙の生えた猪のような牛のような生き物の顔がわたしのすぐ目の前に現れた。

地面に置かれていた大きな獣を女性が肩に担いだからだ。


力持ち!?

こんなに美少女なのに!?


一面に咲くルピナスの花を後にして深そうな森へと入っていく。森からは鳥や獣の鳴き声、遠巻きにこちらを覗くような視線を感じた。


女性がさくさくと歩みを進めるたびに木漏れ日が頬とまぶたを通り過ぎてゆく。

まるで現実味のない状況なのに感覚はリアル。


異世界にでもきてしまったの?

それともゲーム? 本の中?


一向に覚める気配のない夢。

それどころかなんだか眠くなってきたよ。

ねえ。もしかしてこれって現実ですか?

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